第2回のPureAV製品レポートは「サウンド編」である。今回は同社製品によるマルチチャンネル再生の究極のシアターサウンドをじっくり聴いてみたい。
試聴したケーブルのラインナップだが、まずデジタル系では同軸とTOSの光、そしてi.Linkケーブルも揃えた。デジタルケーブルはPCOCC(単結晶高純度無酸素銅)導体や4層シールド、マルチコア光ファイバーなどこだわりの技術を注入している。i.Linkケーブルは、信号ロスやデータエラーを解消した高級仕様だ。一方スピーカーケーブルは、太さの異なる3種類の導体を帯域ごとに使い分けるハイブリッドテクノロジーを用いた。PureAVではより良質なホームシアター環境の構築に最適なサブウーファー専用ケーブルもラインナップしている。これはPCOCCのソリッドコア単線導体にて、低域の量感やエネルギー密度を確保する仕様だ。
映画や音楽のマルチ再生では0.1ch分のLFE信号(ほほ120HZ以下)が重要な役目をする。ところがソフト製作などの過程で、LFEに有害なディレイを生じる事実が判明した。本来エフェクトであるはずのLFEが、時間的、位相的な遅れをきたし、メインの音を変質させていたのだ。低音が打消される、ボケる、ひいてはセリフや他の効果音までおかしくなるなどの由々しき問題である。
具体的にはLFEを拾い出すローパスフィルター(低域通過素子)が悪さをするためだ。あるデータによると、メインチャンネルに対してLFEの遅延が6ミリ秒以上もあった。ほぼ2メートルに相当する遅れである。「フェイズコントロール」は、メインとLFEとの間におきる時間のミスマッチを補正する、パイオニアの注目技術だ。
このフェイズコントロール機能は、同社のAVアンプでは「VSA-AX4AVi」や「VSA-AX2AV」をはじめ、今年の秋のニューモデルである「VSA-AX1AV」や「VSA-1016V」などに搭載されている。フェイズコントロールはアンプの本体、またはリモコンボタンの操作によってON/OFFができる。一方ソフトについても、まだ一部ではあるが対応する作品が登場してきた。今回視聴する『ハウルの動く城』はそのひとつ。そして劇場版のアニメーション映画『科学忍者隊ガッチャマン』や、音楽ではチャゲ&アスカのデビュー25周年記念DVD『two-five』、さらにはオクタヴィアレコードのSACD/DVD-Audioハイブリッド盤『マーラー交響曲第3番』やドヴォルザークの『新世界』などがある。これらのハード、ソフトにはフェイズコントロールの認証マークがつくから、簡単に見分けられるはずだ。 フェイズコントロールの詳細はこちら
『ハウルの動く城』の冒頭、列車の移動音やハウルとソフィーが空を飛ぶシーンをチェック。低音の明瞭度が上がり、全体がクリアになる。広々とした空気感や町のざわめきが眼下にハッキリと聴こえる臨場感など、すぐにわかるフェイズコントロールの動作である。
だが、決定的なのは作品の「チャプター5」。老婆となったソフィーが、巨大な城と遭遇するシーンだ。普通に聴いても迫力十分と思うのだが、ONにすると桁違いである。丘のむこうに何やら気配がした。そこからまずエア感が違い、巨大さ、スケール感が違いすぎる。城が全貌を現すとズシン、ズシンとくる重量感が何倍にも増強。壮大な低音の饗宴に加え、メカ音やきしみ、蒸気の音などあまさず描写した。ベールを剥いだような音とはこれのことだろう。セリフにも格段に生気があり通りがよい。音楽も豊かでみずみずしく、これまでに聴いたサウンドは何だったのかといいたいほど。
ベルキンのサブウーファー専用ケーブルの効果も確かで、文句なしの相乗効果を味わった次第。一旦体験すると元に戻れないフェイズコントロールだが、対応ソフトでなくてもその効果はあるそうだ。これはぜひ試すべきだろう。
以上は主に同軸デジタル接続での試聴だったが、では光ケーブルやi.Linkケーブル使用時との傾向の違いはあるのだろうか。私が試聴したところでは、いずれも高水準な再生クオリティながら、若干ニュアンスの差が感じられて興味深い。同軸は太くストレートな表現だ。バイタリティに富みスケール雄大。光ケーブルは瑞々しく細かいニュアンスの表現に勝る。さらに両方のよさを併せもつのがi.Linkだといえる。SACDマルチの音源も聴いたが、上位フォーマットらしく高情報量かつワイドレンジ。より緻密で彫りの深いサラウンド表現である。プレーヤーとAVアンプ間のケーブルを好みやソフトによって使い分けるのもよいだろう。
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