ユーザーに一番近い視点を持つのが、ホームシアターの現場に携わるインストーラーだろう。また彼らはメーカーとの強いパイプを持ち、ユーザーのニーズや意見を情報としてメーカーに伝えるといった使命も担っている。SR9600の誕生の背景には、そんなインストーラーからの提案が色濃く息づいている。ここでは、本誌でおなじみの著名インストーラー4人に集まっていただき、SR9600の使い勝手のよさ、これからのホームシアターには何が必要かなど多岐に渡り語っていただいた
株式会社マランツ
コンシューマーマーケティング営業本部 営業推進グループ課長
古澤稔也氏
編集部 まず、実際に製品を試聴されての印象はいかがですか?

大塚 メリハリがあり、透明感もあっていいですね。解像度も高いので、派手な映画の音でも決してうるさくならないですね。

大和田 音の拡がりや奥行き感がよく出ていますね。マランツらしい音。私は以前のモデルであるPS9200が非常に好きだったんですね。それは、先ほど大塚さんがおっしゃったように、音を大きくしてもうるさくならなかったからなんです。その音の流れを汲んで、さらに磨きがかかったという印象ですね。

古澤 情報の量がしっかり出ていればいくら大きい音で聞いても、うるさくはならないと基本的には思っています。というのは生の演奏会、特にオーケストラやビッグバンドではかなり大きな音で演奏されているはずですが、決してうるさくは聞こえませんよね。オーディオという再生装置の中で、情報が欠落していくとどうしても音が尖ってきてしまう。ですから、どれだけ情報をもらさず出すかに注力しました。

編集部 その辺り具体的にはどのような技術の裏付けがありますか?

古澤 プリアンプ部の充実がまず挙げられます。昨年発売したプリメインアンプの技術をさらに押し進めて、入力された情報をプリアンプ部で損なうことなく、パワーアンプをしっかりドライブするというコンセプトです。

新井 カーペンターズのSACDマルチを聴いたのですが、よかったですね。今までAVアンプでマルチチャンネルのオーディオソフトを聴いて、いい音だったという記憶があまりないんです。大きな音で聴きましたが、音の分離もよくて、私もうるさいという印象は全くありませんでしたね。B&Wの新シリーズとの組み合わせもよさそうですね。

石橋 今までのマランツのアンプの印象は映画の高域の輪郭をしっかり再現するといったものでした。それが今回、基本的な音の傾向は変わっていないようですが、さらに質が高まったという感じです。音の表現に深みが加わったような。デザイン的にも、センターのジャイロを始め好きなアンプですね。大きさといい、見た目といい、高級感もありますね。

古澤 アンプの大きさに関しては一般的なオーディオラックに収まるように設計しています。それでいてコンパクトにし過ぎると、内部でこもった音になってしまいます。さっきおっしゃっていただいた、音の拡がりを再現するには、ある程度の筐体サイズが必要になります。

編集部 設置性の高さやインストールのしやすさと高音質化が見事にバランスしているわけですね。

SR9600を囲むカリスマインストーラーたち。筐体のサイズも一般的なラックに納まるように設計されているからインストーラーにとってもフレンドリーだ
大和田 石橋さんも言われたようにフロントパネルのジャイロはデザイン性と操作性が両立したものですね。

大塚 どっしり構えたデザイン、マランツのハイエンドアンプらしいデザインを評価しています。

新井 奇をてらっていないから、ぱっと見てすぐに操作できそうなイメージを持ちました。特に、前面パネルのディスプレイのみで、細かいセットアップができるのがインストーラーにとっても嬉しいですね。
「コンポーネント出力が2系統あるのをまず評価したい」と大塚氏(右)。石橋氏は「IRレシーバー、IRエミッター、それにRC-5での安定感あるマクロシステムが組めるのが嬉しい」という
「セレクターなしでコンポーネント映像を2系統出せるのはありがたい」と新井氏(左)。また大和田氏が感心するのは「IRエミッター出力がAVアンプ本体に内蔵されていること」
各インストーラーが口を揃えて評価した2系統のコンポーネント映像出力端子(クリックで拡大)
多彩な外部機器コントロール端子。RS232C、DC OUT、エミッターOUT、IRレシーバーIN、RC-5端子など、コントロールセンターとしての機能が充実。もはやAVアンプという名称では表現できない次元に達している(クリックで拡大)
大塚 コンポーネント出力が2系統あることをまず評価したいです。一つはプラズマテレビに、もう一つはプロジェクターに、と2つのディスプレイをインストールすることが多くなっていますから。他のアンプだと、1系統しかなかったり、2系統あってもつなぐと画質が劣化したり、それで現状では、分配機を別に設置しなくてはなりません。それが1システムで両方に配線できるのはいいですね。当店ではほとんどのお客様がディスプレイとプロジェクターをインストールされますから。

新井 これは便利ですね。実はセレクターは不安定な部分があって、画がおかしくなったとよくお客様に呼び出されることもあるくらいですから(笑)。

石橋 そうですね。私も先日お客様の所に行きましたら、セレクターに猫が乗っかっていましてね(笑)。

大塚 それとFM・AMチューナーが2系統あるのも嬉しいですね。マルチルームで音楽配信した場合、別々の部屋で違った番組が楽しめます。家庭の奥様たちも家事をしながらFMを流しっぱなしにしたいというニーズは確かにあります。

石橋 当店の場合、マランツのシステムリモコンRC9500のマクロ機能を活用し、ワンボタンで機器の一連の操作を行うという方法をお薦めしています。その場合、実際にはリモコンからの赤外線がスクリーンやプロジェクターに届かない場合も、部屋の環境によってはあります。しかし、このアンプにはIRレシーバーを接続できる端子が装備されていますからIRレシーバー、IRエミッターを介してマクロの動作を確実に行うことができますね。i.LINKの搭載も使い勝手という点で非常にありがたいことです。またRC−5端子の活用もチャレンジしてみたいですね。

古澤 IRレシーバーから受けた動作信号をIRエミッターを使って各機器に送信します。さらにマランツの機器同士であれば、このRC−5端子を使うことによって、イン/アウトというデイジーチェーンで、DVDプレーヤーやプロジェクターを一つの系統としてつなげることができます。マルチルームを想定した規格ですから、少々引き回しても大丈夫です。

大和田 IRエミッター出力がAVアンプに内蔵されていることに大きな意味があります。今までは、専用の機器のパーツを組み合わせてオプションとして展開しなくてはいけませんでした。それが搭載されて、非常にスマートに納まるというのはお客様にとってもインストーラーにとっても嬉しいことではないでしょうか。

編集部 なるほど。マランツがユーザーの立場にいかに近いところで製品を企画していったかがよくわかるお話ばかりでした。今回はどうもありがとうございました。
SR9600を核としたホームシアターのトータルソリューション。同社のシステムリモコンRC9500から発信された制御信号はIRレシーバーで受信。信号はSR9600を通りIRエミッターを介してそれぞれ機器に送られる。またRC-5端子を介し、マランツ製品同士をつなぎ、一括してコントロールすることも可能。さらにDCトリガーも4系統装備。B&WのダイポールスピーカーはDCトリガー端子を装備しており、THX仕様で映画を楽しみたい際には、ダイポールに、SACDマルチの音楽ソフトを楽しみたいときにはモノポールにとリモコンから操作できる。またDCトリガー端子を装備した電動カーテンの開け閉めも遠隔操作が可能だ
通販からカスタムインストールまで幅広く展開するおなじみアバック。昨年秋、ヒルトンホテルの地下に誕生した「グランドアバック新宿店」では、3つのシアタールームを用意。
映画館を思わせる本格シアターからライトなリビングシアターまで、様々なニーズにマッチするシアターを具体的に展開する。マランツ製のアンプのみならず、シアター用リモコンを早くから手がけてきた石橋氏。そんな実績に基づいて、このアンプをどう評するか
同社の前身である店舗「ドロップアウト」時代から、常に来るべき時代を読み、斬新な展開をしてきたライフスタイルの大塚氏。最近ではスクリーンやスピーカー、機器などを収納家具にビルドインし、リビングに違和感なく溶け込むオリジナルのAVボードを展開。
さらにプロジェクターをスタイリッシュに、かつ圧迫感なく覆うカバーの製作など、大塚氏のアイデアがカタチとなってシアターを彩る。座談会でも鋭い発言が期待できる
 
大阪日本橋の老舗シマムセンが展開する、ホームシアターに特化した提案型ショップ。シアター機器のみならず、インテリアや照明など、現在のホームシアターにはなくてはならない空間計画を得意とする。
ナニワの喧噪の中にあって、木訥とした新井氏のキャラクターには、ほっとさせられることしばしばだが、そこは全国でも腕利きのインストーラーと認められている氏。優しげな発言の中にきらりとシアターへの情熱が見え隠れする
ホームシアターを核として、建築、インテリア、照明、ホームコントロールシステムなど、住空間全体をプロデュースする広島市のリンクスタイルズ。同店には、ホームシアター視聴室のみならずラボやショールーム、カフェまで併設。
それらのすべてがリンクスタイルズの目指すシアターソリューションを標榜している。33歳の大和田氏を始め、同社は若いスタッフで構成されている。これからのシアターシーンを牽引していくパワーに今後も期待したい