PM-11S2の音質を従来機PM-11S1と比較しながら探ってみよう。試聴は川崎のマランツ試聴室で行った。

まずはマランツのフラグシップデジタルプレーヤーSA-7S1をつないでSACDとCDを聴く。オーケストラはリファレンスレコーディングスの録音でR.コルサコフ《道化師の踊り》でスケール感やディテール再現を確認する。PM-11S1のサウンドは弦楽器の柔らかい質感と厚みのあるバランスに特徴があり、響きは上質で繊細、パーカッションの音像はフォーカスの良さよりもふくよかなタッチが印象的だが、あと一歩の鮮やかさとスピード感が欲しい気がした。

女性ボーカルはやや大きめの音像で心地よいサウンドにまとめてくる。リズム楽器はあくまでサポートに回り、前に出てくるバランスにはならないが、アップテンポの曲ではその控えめなタッチが若干気になることもある。ピアノは中高域に柔らかさがあり、ボーカルやベースの響きにきれいに溶け込んでいる。

同じソースをPM-11S2で聴いてみると、どの曲もテンポが上がったかのような爽快感があり、音がストレスなくフワッとスピーカーから放たれる感覚を味わうことができた。オーケストラは細部までクリアに解像しつつ、音色が痩せたり硬くなることはなく、それぞれの音像にコアがあり、そのまわりに空気をたっぷり含んだ余韻が漂っているというイメージ。ふくよかな柔らかさをPM-11S1からそのまま受け継ぎつつ、音の実体感と粒立ちを向上させていると感じた。トゥッティの瞬発力とスケール感には前作に比べて明らかにゆとりが生まれ、いい意味で量感が向上している。

試聴は川崎にあるマランツ試聴室で行った。製品の音決めもこの部屋で行われているという

 

女性ボーカルはリズムのアレンジの面白さに自然と耳がいくようになり、声とリズム楽器のバランスが狙い通りに聴こえてくる。その緊張感を適度に保ちながらも、全体としてはボサノバらしい軽いタッチを失わない。その絶妙なバランスの有無は非常に次元の高い領域での話だが、従来機と雰囲気の違いは確実に聴き取ることができた。

ソプラノのダニエル・ド・ニースが歌うヘンデルは、PM-11S1では音像をあと一歩引き締めたいと感じていたのだが、PM-11S2は期待通りにフォーカスがにじみなく揃って、クリアな像を結ぶようになった。弦楽器を主体としたオーケストラは、ここでは控えめなサポートにまわって声の存在感を際立たせるが、チェンバロが刻む通奏低音のリズムは逆に鮮明に浮かび上がってくる。テンポをソプラノが主導している演奏では、やはりこのバランスが正しい。必要なとき演奏にビビッドな動きが生まれるかどうか、実に微妙な違いではあるが、本質的で重要な差なのである。

 

次にアナログレコードを再生し、PM-11S1とPM-11S2のフォノイコライザーの違いを聴き比べてみよう。まずは前者のサウンドだが、これはこれで良いバランスに聴こえ、特に不満は感じない。ジェニファー・ウォーンズのボーカルは透明感が高くギターの和音には適度な温かさがあるし、ヘンデルの《メサイア》ではコーラスとオーケストラのスピード感のある応酬が心地よい緊張感を生む。

アナログレコードを次々に入れ替える山之内氏。PM-11S2のフォノイコライザーのクオリティを高く評価した

ここでPM-11S2のフォノイコライザーに切り替えると、ジェニファー・ウォーンズのアルバムではギター、ボーカル、ベースのイメージが途端に立体感を増し、それぞれの楽器の音色が生命感を帯びてきた。ヘンデルは独唱、合唱、オーケストラの奥行きが大げさでなくほぼ倍増し、一気に見通しがよくなった。その違いを一度でも体験すると、もう元には戻れなくなるという種類の音の差がはっきりと存在する。フォノイコライザーのクオリティがここまで卓越していると、それだけでアンプを買い替えたくなっても不思議ではない。