第四回目となる今回のレポートでは、レコーディング・エンジニアとしてのキャリアも持つ、オーディオ・ライターの岩井喬氏にご登場いただき、自作の管球アンプとPureAVシリーズのケーブルで再生する“ロック・ポップス系サウンド”の醍醐味を紹介していただこう。

かつては東京・六本木のサンライズ・スタジオに在籍し、レコーディング・エンジニアとしてのキャリアも築いてきた岩井氏は、独立後も知人のアルバム制作において、ボーカル録音やマスタリングを手がけるなど録音現場での仕事にも携わりながら、独自の視点を活かしたオーディオ評論に活動の場を広げている。

普段から幅広いジャンルの音楽に接している岩井氏だが、中でもエンジニア時代に多くの録音に関わってきた“ロック・ポップス”系の音楽にはこだわりがあるという。一方で管球アンプには中学生の頃から興味を持ちはじめ、やがて学生の頃から本格的な製作に取り組むようになった。現在は、製作に約5年を費やしたという、米国NATIONAL UNION社製の45真空管のヴィンテージ球を出力段に用いた、3極管シングルアンプを自宅試聴室のリファレンスに据えている。

岩井氏のオーディオシステムをご紹介しよう。先に触れた自作の管球アンプを中心に、ティアックのCDプレーヤー「VRDS-25」、B&Wのスピーカー「CDM1 Special Edition」との組み合わせをメインの再生環境としている。この他に、アカイのテープデッキ、ビクターのDATデッキ、サンスイのプリメインアンプにテクニクスのアナログプレーヤーも揃え、それぞれを再生ソースごとに使い分けている。

岩井氏自作の真空管アンプ。外観はシンプルだが、抵抗やケーブルなど、ディティールへのこだわりを随所に盛り込みながらチューンアップされてきた力作だ(写真は拡大可 プレーヤーのリファレンスはティアックの「VRDS-25」。解像感が高く、低域に締まりのある本機のサウンドが気に入っているのだという(写真は拡大可 テープデッキやDATデッキなど、ヴィンテージ機器が揃う。左上は先の45シングルアンプより2世代前に製作したという、自作3台目の管球アンプだ。スピーカーはB&Wの「CDM1 SE」を長年リファレンスとして愛用している(写真は拡大可

「私の場合は、ロック・ポップス系の音楽を心地よく楽しむため、アンプを中心に再生環境を絶えずグレードアップしてきた。はじめに“こういう音にしたい”というイメージを明確に持ちながら、そこへシステムのパフォーマンスを近づけていく過程の中で、全体をチューニングしてまとめ、理想に限りなく近いサウンドを実現できた」と岩井氏は語る。信頼の置ける再生環境を整えたことで、ケーブルをはじめとするオーディオアクセサリーの評価を行う際にも、その製品のクセなどを正確に把握することができるのだという。

岩井氏のオーディオシステムは、同時に自宅でレコーディング関連の作業を行う際のリファレンスでもある。レコーディング関連の作業時には、ローランドのデジタルMTR「VS-1880」をメインとしたシステムをアンプにつなぎ替えることにより、オーディオ試聴室が瞬時にハウスレコーディング・スタジオへと変貌する。

音の違いを確認するため、真空管は何本も買いそろえているという岩井氏。ヴィンテージでペア特性が揃い、かつ状態の良いものはなかなか手に入らないないのだという(写真は拡大可 第二種電気工事士の資格も持つ岩井氏は、自らの手で自宅の壁コンセントをオーディオグレードに変更するなど、アクセサリー選びにも徹底的にこだわっている(写真は拡大可 オーディオ機器の向かい側にはローランドのMTR「VS-1880」、ソニーのエフェクター「DPS-V55」を常設し、レコーディング関連の作業を行う際のリファレンスモニター環境も構築している(写真は拡大可

岩井氏のオーディオシステムは、「プレーヤー+アンプ+スピーカー」という、とてもシンプルな構成ゆえに、ケーブルをはじめとするオーディオ・アクセサリーの選択には大変気を配っているという。製品選びのポイントについては、「余計なカラーレーションやクセの乗りといったものが、限りなく少ないもの」を選んでいるそうだ。

今回はPureAVのラインナップから、RCAオーディオケーブルとスピーカーケーブルを岩井氏に聴いてもらうことにした。岩井氏にとっては、PureAVを長期間に渡ってテストする機会は今回が初めてだったそうだが、そのファーストインプレッションを「クセのない素直なサウンドで、とても解像感が高い」と表現している。

試聴方法はリファレンスシステムに、「スピーカーケーブルのみをつないだ場合」、「オーディオケーブルのみをつないだ場合」、加えて「両方をつないだ場合」の3パターンに分けて行った。PureAVのケーブルを聴き込んだインプレッションについては、「いずれの場合も不思議なことに同じような傾向が見られた。高域のサウンドが引き締まり、解像度が上がる。これは単線ソリッド導体の良さを活かしたスピーカーケーブルの効果によるものだろう。低域の音もモヤつき感が減り、すごくスマートになる。全体のサウンドもとても素直な印象なので、非常に聴きやすいサウンドになった」と岩井氏は語る。殊にロック・ポップス系の音楽再生については、「低域に厚みがあるが、かと言って単純に膨らんでしまうのではなく、弾力感のような固さが表現される。ロック・ポップス系の再生にも有利なケーブルであると評価できる」とコメントする。

今回はPureAVのRCAオーディオケーブルとスピーカーケーブルを岩井氏自宅のリファレンスで試聴した(写真は拡大可 アンプの背面端子部。オーディオ入力、スピーカー出力はそれぞれ1系統ずつ備える(写真は拡大可 RCAオーディオケーブルでは、高中低の各帯域にマッチしたPCOCC導体を3種類アレンジしたハイブリット構造が色づけの少ないナチュラルな音質に寄与しているようだ。端子部は24金メッキを採用する(写真は拡大可

RCAオーディオケーブルについては「ハイブリッド導体を採用したことにより、高中低域それぞれの良いところをまとめて引き出し、バランスの整ったサウンドが特長」と岩井氏は語る。システムの中にあって、ケーブルが主張しすぎるわけでもなく、コンポーネントの良いところを活かしながら、不足を補う役割を担ってくれる点についても、オーディオ・ビギナーが最初に選ぶケーブルとしても最適だと評価を付け加える。今回は岩井氏のシステムとの相性も良かったようだ。新品の状態でもキツさがなく十分に優れた再生力だが、ある程度のエージングをすればもっと滑らかな音になるだろうと岩井氏は語った。

今回は同時にレコーディングエンジニアとしての立場からも、PureAVのパフォーマンスを岩井氏に評価してもらった。オーディオ同様、レコーディング環境においても正確なサウンドの再現力がケーブルに求められると岩井氏は語る。その上で、PureAVのパフォーマンスはミュージシャンの気持ちに近い音を作り込んでいくことができ、モニタリングにも最適だと評価する。試聴ではいくつかのロック・ポップス系の定番タイトルを聴いてもらったが、「当時のエンジニアが狙ったであろう、細かなサウンドづくりが良くわかる。録音当時の空間・時間や、現場で奏でられた音までもが伝わってくるようだ」とその能力を表現する。PureAVシリーズ今後の展開について岩井氏は、楽器のプレーヤーやホームレコーディングを楽しむユーザーにもPureAVのケーブルが楽しめるよう、商品展開が広がって行けば、より面白くなるだろうと期待を込めて語った。

岩井氏宅リファレンスシステムの全景。その周囲には軽く1,000タイトルを超えるソフトがズラリと並んでいる(写真は拡大可 岩井氏が愛用するローランドのMTR「VS-1880」にPureAVのRCAオーディオケーブルを接続。録音ソースのモニタリングについてもテストを行った(写真は拡大可

私が音楽を聴く時のポリシーについて、或いは普段どんなことに気を遣いリスニングし、システムを構築しているのかを考えてみると、大前提として“好きな音楽を高品位に楽しみたい”という気持ちがある。“好きな音楽”を良い音で聴きたいがために、手持ちのシステムも常にグレードアップを重ねている。これまでにレコーディングスタジオで培ってきた経験も、私にとって音質判断の大きな基準となっている。録音される瞬間の生音とマスターレコーダーで収録された音、そしてCDになった音。それぞれを体感した結果、必然的に収録現場の音がオーディオ的にもリファレンスのサウンドとなっていった。

今回のPureAVケーブルシリーズの試聴は、岩井氏お気に入りのJOURNEY、CHICAGO、QUEENをはじめとする、ロック・ポップスの作品を中心に行った(写真は拡大可

今回PureAVのRCAオーディオケーブル、並びにスピーカーケーブルをテストする機会を与えられた。そのサウンドを確認するために、学生時代から聴き続けている『エスケイプ』(ジャーニー)、『セブンス・ワン』(TOTO)、『21』(シカゴ)といったロック・ポップスの名盤タイトルを中心に試聴を行った。私がこれらのタイトルをリファレンスとしている理由は、もちろん音楽自体が好みであるのと同時に、録音がソリッドで楽器そのものがクリアに収録されているところも大きい。作品づくりに関るプロデューサー、エンジニアについても、選択の大きなポイントとしている。ジャーニーはマイク・ストーン、TOTOはジョージ・マッセンバーグ、シカゴはロン・ネヴィソン。いずれもロック界では著名なプロデューサー、エンジニアの面々である。

今回の試聴ではスピーカーケーブルのみつないだ時と、RCAケーブルのみをつないだ時のそれぞれを試したが、音の変化はほぼ同様の傾向であった。単線導体の素直でニュートラルな音質を軸に、解像度や鮮度の優れる高域と、無駄に膨らむことのない低域が、よりロックのサウンドをソリッドに聴かせてくれる。一方で、一貫してボーカルにキツさはなく、滑らかな感触の音色を再現してくれたのには驚いた。

管球アンプと組み合わせることによって、中域のプレゼンスが高まり、試聴の際に常に注目しているギターサウンドについても細かいニュアンスが再現される。ギターアンプの前にマイクを立てて収録している様子までしっかりと描き出されている。

邦楽タイトルの再現も確認したくなり、『IX』(リンドバーグ)のサウンドも聴いてみることにした。『every little thing every precious thing』でのストリングスとバンドとの融合、さらに『君のいちばんに…』での音数が多く、作りこまれたサウンドは、PureAVの高解像な再現性により、以前気付けなかった部分までが如実に表現されている。つい楽しくなって様々なCDを聴きたくなる衝動に駆られてしまう。これが本来のオーディオの楽しさなのではないかと、改めて実感させられた。

これだけソースの音を色付けなくストレートに高いクオリティで表現してくれるケーブルが、この価格帯で登場したことはオーディオファンにとって大きな魅力であると言えよう。コストパフォーマンスが高いので、「オーディオ機器を揃えたが、どんなケーブルを組み合わせれば良いのか迷っている」という方々には、最初に選ぶケーブルとしてもお勧めできる製品である。

【取材・文】
岩井 喬(Takashi Iwai)

1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。

RCAオーディオケーブル
「PAV50300-04」(1.2m)¥8,400(税込)/「PAV50300-08」(2.4m)¥12,600(税込)

【SPEC】
●導体:PCOCC(単結晶高純度無酸素銅) ●絶縁体:高性能ポリエチレン ●シールド:2層構造 ●コネクタ:スプリットセンターピン採用8カット24メッキコネクタ
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スピーカーケーブル
「PAV53102-30」(9.1m)¥8,400(税込)/「PAV53102-100」(30.5m)¥23,625(税込)

【SPEC】
●導体:PCOCC(単結晶高純度無酸素銅
ソリッドコア

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24K金メッキスピーカー・コネクター
「PAV54004」(バナナプラグ・4個入)¥4,200(税込)/「PAV4005」(ピンタイププラグ・4個入)¥4,200(税込)/「PAV54006」(U字プラグ・4個入)¥4,725(税込)

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