革新の時期が到来した
iPodは携帯ゲーム機市場も制圧する? − 迎え撃つDS/PSPはどう進化するか
野村総研は2007年、国内据え置きゲーム機の市場規模が2012年までに580万台まで縮小し、2007年の3,622万台の約16%になると予想するレポート※を発表した。
一方、エンターブレイン社の調査によれば、2008年度のゲームハードの推定販売台数はWiiが290万8342台、PS3が99万1303台、XBOX360が31万7859台。これに対して携帯ゲーム機はニンテンドーDSが402万9804台、PSPが354万3171台と、どちらも据え置きでトップを走るWiiを凌ぐ数字となっている。
販売台数では据え置きゲーム機を凌駕する携帯ゲーム機だが、この携帯ゲーム市場にあらたな新星が登場した。言わずとしれた、アップルのiPhone3G/iPod touchシリーズだ。今回はこのiPhone3G/iPod touchがゲーム機として注目される理由、そしてPSP、ニンテンドーDSの今後の新機種がどう進化するかを含め、今後の携帯ゲーム機市場を考えてみたい。
■ネットを駆け巡るPSP新機種の噂
今年11月に「PSP go」(PSP-N1000)が発売されたPSPだが、早くも来年早々に新機種が登場するという噂がある。その噂によれば、新製品の製品ナンバーは「PSP-4000」で、再びUMDドライブを搭載したものになるということだ。
PSP goの正式発表前の噂で、iPhoneを意識したタッチスクリーンと物理キーボードの2つの入力インターフェースを持つというものがあったが、実際に登場したPSP Goは物理的なキーボードのみを備えていた。筆者は、PSP-4000が本当に発売されるとしても、2つのインターフェースを搭載したものになる可能性は極めて低いと考えている。マルチタッチと物理ボタンのダブルインターフェースはコストが嵩むので価格に転嫁せざるを得ず、他機種との競争力が著しく落ちる可能性が高い。
それではPSP-4000がどのような形態になるかというと、PSP-3000のオンラインショッピング対応を強化したものになると予想するのが現実的だろう。つまりは内蔵フラッシュメモリの搭載だ。大容量のフラッシュメモリーを内蔵すれば、標準状態でもオンラインショップからソフトのダウンロード購入が利用しやすくなる。16GBを搭載するPSP goとの差別化と、価格を抑える必要性の2点から、おそらくは8GB以下が搭載されるのではないだろうか。
しかし、来年後半にはハードウェアを刷新した次世代PSPが出てくる可能性もある。現実に、イマジネーションテクノロジーズ社のGPU「PowerVR SGX543MP」の4コア版を搭載するという噂がすでにネット上を駆け巡っている。このGPUは2〜16コアまでラインナップがあり、iPhone 3GSも同シリーズの2コア版を搭載している。4コア版であれば当然、次世代PSPは現在のiPhone 3GSを越えるGPU性能を得ることができるだろう。
■ニンテンドーDSは強力な3D機能で新境地を開くか
PSP Goの後を追うように新機種「DSi LL」をリリースしたニンテンドーDSについても、来年には次世代機が登場する可能性が高い。この次世代DSでは、3D表示を強化するためにnVidiaのTegraアーキテクチャを搭載するという噂がまことしやかに囁かれている。
Tegraを採用するという情報の信頼性を高めているのは互換性だ。現在のTegraはプロセッサーとしてARM11を採用しており、DSが搭載するプロセッサーはARM9 CPUおよびARM7 CPなので、互換性の継承が難しくない。このTegraは来年にも第2世代が登場する予定だが、当然、引き続きARMプロセッサーを搭載するはずなので、互換性の保持には問題ない。さらに第2世代TegraではプロセッサーがマルチコアのCortex-A9となり、より強力な処理性能を手に入れることができる。
次世代DSの登場が来年末のクリスマス前と仮定するならば、第2世代Tegraが搭載される可能性が高い。そしてTegraを採用するのであれば、次世代DSに高度な3D表示機能が搭載されるであろうことは疑いの余地がない。今までにない3D性能を生かしたゲームが続々と投入されることだろう。
さて、ハードウェアの形態として、ニンテンドーDSは2画面にタッチパネルという独自のスタイルを採用しているが、バックワードコンパチビリティを取るためには、このスタイルを継承する必要がある。任天堂はこれまで、新機種での下位互換性保持に強くこだわってきた。このため、任天堂がまた新しいスタイルにチャレンジしようとしても、この特殊なスタイルが一つの縛りになってしまうという事も考えられる。もし、新世代DSのネイティブな環境が同じサイズのダブルディスプレイを備えたものではなくても、通常画面に加えて、タッチパネル機能を持つサブ画面を搭載することが必要になる。
しかし、DSのインターフェースが世に広く認められたからこそ、DSは高いシェアを得ることができた。この2画面+タッチパネルというフォームファクターはそのまま継承することも十分に考えられる。その上でマルチタッチ機能など、さらにタッチ機能を進化させた新たなインターフェースを取り入れるというのが現実的だろう。
筆者が新機能として採用される可能性が高いと考えているのは、3G通信機能の搭載だ。Amazonの電子ブックリーダーKindleは、この3G通信機能を搭載し、活用することで、従来の電子ブックリーダーにはなかった市場を開拓した。3G網につながりさえすれば、どこでも目的のコンテンツが入手できるという快適さは、一度体験してしまうと離れがたい。また任天堂なら、3G通信機能を単純にコンテンツのダウンロードに使うだけでなく、Wi-Fiにおける「すれちがい通信」のような、新たな遊びを提案してくれるのではないかという期待も少なからずある。
Kindleがブレークした大きな理由は、3G通信によっていつでもコンテンツを購入できるということと、ユーザーが3G通信料を負担しなくてもいいということだ。これによって、ユーザーはより気楽にKindleを使うことができるわけだ。仮定や予想で論を進めても仕方ないとは言え、仮に次世代DSが3G通信機能を搭載するとしたら、3G通信の利用コストを誰がどのように負担するかが正否を分けることになるだろう。もし3G通信対応版が登場するとしても、オプション的なものとして登場する可能性もある。
■強力なハードウェアで加速するiPhone/iPod touch
iPhoneのプロセッサーもDSと同じARM系であり、iPhone3GではARM11プロセッサー 412MHzを、3GSではCortex A8の600MHzを搭載している。単純にクロックだけでなく、キャッシュサイズやパイプラインの深さなども向上しているため、実際の体感速度はアップルの主張通り、約2倍程度高速化している。そして、3GS登場直後に発売されたiPod touchも、それぞれの世代のiPhoneと同じCPUを搭載している(iPod touchの8GBタイプを除く)。
GPUについては、iPhone3GがPowerVR MBXであるのに対して、iPhone3GSはPowerVR SGX 543の2コア版を搭載している。これはPSP-3000のGPUを軽く凌ぐ3D性能を持っており、前述したとおり、次世代PSPではこの4コア版を搭載するという噂がある。このことからも分かる通り、iPhone 3GS/iPod touchは、現時点の携帯ゲーム機と比較しても、CPU、GPUともに最強レベルと言うことができる。
iPhone/iPod touchの強みの1つは、携帯ゲーム機のハードウェア強化が数年ごとのメジャーモデルチェンジ以外ではあまり大きくないのに対して、PC並みのサイクルで毎年強化することが可能な点にある。ニンテンドーDSのように独自の「遊び方」を提案できるハードはまだ良いが、3D性能など、ハードスペックの強力さをアピールしていたPSPのような機種にとっては脅威だろうし、現時点ですでに、iPhone3GSの3D性能はPSPを追い越している。
繰り返すが、来年登場すると噂される次世代PSPが4コアのPowerVR SGX 543を搭載したとしても、iPhoneの新機種が4コアや8コアのGPUを搭載してくれば、大きなアドバンテージを保つことはできないだろう。
※「〜2012年までの国内IT主要市場の規模とトレンドを展望(1)〜」2007年12月17日 株式会社野村総合研究所
一方、エンターブレイン社の調査によれば、2008年度のゲームハードの推定販売台数はWiiが290万8342台、PS3が99万1303台、XBOX360が31万7859台。これに対して携帯ゲーム機はニンテンドーDSが402万9804台、PSPが354万3171台と、どちらも据え置きでトップを走るWiiを凌ぐ数字となっている。
販売台数では据え置きゲーム機を凌駕する携帯ゲーム機だが、この携帯ゲーム市場にあらたな新星が登場した。言わずとしれた、アップルのiPhone3G/iPod touchシリーズだ。今回はこのiPhone3G/iPod touchがゲーム機として注目される理由、そしてPSP、ニンテンドーDSの今後の新機種がどう進化するかを含め、今後の携帯ゲーム機市場を考えてみたい。
■ネットを駆け巡るPSP新機種の噂
今年11月に「PSP go」(PSP-N1000)が発売されたPSPだが、早くも来年早々に新機種が登場するという噂がある。その噂によれば、新製品の製品ナンバーは「PSP-4000」で、再びUMDドライブを搭載したものになるということだ。
PSP goの正式発表前の噂で、iPhoneを意識したタッチスクリーンと物理キーボードの2つの入力インターフェースを持つというものがあったが、実際に登場したPSP Goは物理的なキーボードのみを備えていた。筆者は、PSP-4000が本当に発売されるとしても、2つのインターフェースを搭載したものになる可能性は極めて低いと考えている。マルチタッチと物理ボタンのダブルインターフェースはコストが嵩むので価格に転嫁せざるを得ず、他機種との競争力が著しく落ちる可能性が高い。
それではPSP-4000がどのような形態になるかというと、PSP-3000のオンラインショッピング対応を強化したものになると予想するのが現実的だろう。つまりは内蔵フラッシュメモリの搭載だ。大容量のフラッシュメモリーを内蔵すれば、標準状態でもオンラインショップからソフトのダウンロード購入が利用しやすくなる。16GBを搭載するPSP goとの差別化と、価格を抑える必要性の2点から、おそらくは8GB以下が搭載されるのではないだろうか。
しかし、来年後半にはハードウェアを刷新した次世代PSPが出てくる可能性もある。現実に、イマジネーションテクノロジーズ社のGPU「PowerVR SGX543MP」の4コア版を搭載するという噂がすでにネット上を駆け巡っている。このGPUは2〜16コアまでラインナップがあり、iPhone 3GSも同シリーズの2コア版を搭載している。4コア版であれば当然、次世代PSPは現在のiPhone 3GSを越えるGPU性能を得ることができるだろう。
■ニンテンドーDSは強力な3D機能で新境地を開くか
PSP Goの後を追うように新機種「DSi LL」をリリースしたニンテンドーDSについても、来年には次世代機が登場する可能性が高い。この次世代DSでは、3D表示を強化するためにnVidiaのTegraアーキテクチャを搭載するという噂がまことしやかに囁かれている。
Tegraを採用するという情報の信頼性を高めているのは互換性だ。現在のTegraはプロセッサーとしてARM11を採用しており、DSが搭載するプロセッサーはARM9 CPUおよびARM7 CPなので、互換性の継承が難しくない。このTegraは来年にも第2世代が登場する予定だが、当然、引き続きARMプロセッサーを搭載するはずなので、互換性の保持には問題ない。さらに第2世代TegraではプロセッサーがマルチコアのCortex-A9となり、より強力な処理性能を手に入れることができる。
次世代DSの登場が来年末のクリスマス前と仮定するならば、第2世代Tegraが搭載される可能性が高い。そしてTegraを採用するのであれば、次世代DSに高度な3D表示機能が搭載されるであろうことは疑いの余地がない。今までにない3D性能を生かしたゲームが続々と投入されることだろう。
さて、ハードウェアの形態として、ニンテンドーDSは2画面にタッチパネルという独自のスタイルを採用しているが、バックワードコンパチビリティを取るためには、このスタイルを継承する必要がある。任天堂はこれまで、新機種での下位互換性保持に強くこだわってきた。このため、任天堂がまた新しいスタイルにチャレンジしようとしても、この特殊なスタイルが一つの縛りになってしまうという事も考えられる。もし、新世代DSのネイティブな環境が同じサイズのダブルディスプレイを備えたものではなくても、通常画面に加えて、タッチパネル機能を持つサブ画面を搭載することが必要になる。
しかし、DSのインターフェースが世に広く認められたからこそ、DSは高いシェアを得ることができた。この2画面+タッチパネルというフォームファクターはそのまま継承することも十分に考えられる。その上でマルチタッチ機能など、さらにタッチ機能を進化させた新たなインターフェースを取り入れるというのが現実的だろう。
筆者が新機能として採用される可能性が高いと考えているのは、3G通信機能の搭載だ。Amazonの電子ブックリーダーKindleは、この3G通信機能を搭載し、活用することで、従来の電子ブックリーダーにはなかった市場を開拓した。3G網につながりさえすれば、どこでも目的のコンテンツが入手できるという快適さは、一度体験してしまうと離れがたい。また任天堂なら、3G通信機能を単純にコンテンツのダウンロードに使うだけでなく、Wi-Fiにおける「すれちがい通信」のような、新たな遊びを提案してくれるのではないかという期待も少なからずある。
Kindleがブレークした大きな理由は、3G通信によっていつでもコンテンツを購入できるということと、ユーザーが3G通信料を負担しなくてもいいということだ。これによって、ユーザーはより気楽にKindleを使うことができるわけだ。仮定や予想で論を進めても仕方ないとは言え、仮に次世代DSが3G通信機能を搭載するとしたら、3G通信の利用コストを誰がどのように負担するかが正否を分けることになるだろう。もし3G通信対応版が登場するとしても、オプション的なものとして登場する可能性もある。
■強力なハードウェアで加速するiPhone/iPod touch
iPhoneのプロセッサーもDSと同じARM系であり、iPhone3GではARM11プロセッサー 412MHzを、3GSではCortex A8の600MHzを搭載している。単純にクロックだけでなく、キャッシュサイズやパイプラインの深さなども向上しているため、実際の体感速度はアップルの主張通り、約2倍程度高速化している。そして、3GS登場直後に発売されたiPod touchも、それぞれの世代のiPhoneと同じCPUを搭載している(iPod touchの8GBタイプを除く)。
GPUについては、iPhone3GがPowerVR MBXであるのに対して、iPhone3GSはPowerVR SGX 543の2コア版を搭載している。これはPSP-3000のGPUを軽く凌ぐ3D性能を持っており、前述したとおり、次世代PSPではこの4コア版を搭載するという噂がある。このことからも分かる通り、iPhone 3GS/iPod touchは、現時点の携帯ゲーム機と比較しても、CPU、GPUともに最強レベルと言うことができる。
iPhone/iPod touchの強みの1つは、携帯ゲーム機のハードウェア強化が数年ごとのメジャーモデルチェンジ以外ではあまり大きくないのに対して、PC並みのサイクルで毎年強化することが可能な点にある。ニンテンドーDSのように独自の「遊び方」を提案できるハードはまだ良いが、3D性能など、ハードスペックの強力さをアピールしていたPSPのような機種にとっては脅威だろうし、現時点ですでに、iPhone3GSの3D性能はPSPを追い越している。
繰り返すが、来年登場すると噂される次世代PSPが4コアのPowerVR SGX 543を搭載したとしても、iPhoneの新機種が4コアや8コアのGPUを搭載してくれば、大きなアドバンテージを保つことはできないだろう。
※「〜2012年までの国内IT主要市場の規模とトレンドを展望(1)〜」2007年12月17日 株式会社野村総合研究所