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革新の時期が到来した

iPodは携帯ゲーム機市場も制圧する? − 迎え撃つDS/PSPはどう進化するか

公開日 2009/11/20 19:35 一条真人
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■AppStoreはゲーム市場も変革するか?

さて、強力なハードウェアがあろうとも、ゲーム機である以上、一番重要なのはそのプラットフォームで遊べるゲームコンテンツであることは当然だ。

iPhone/iPod touchの登場当初は、個人的な感想としてはあまり面白いゲームが多くなかったのだが、今年に入って、エレクトロニックアーツなど大手メーカーから有名ゲームが相次いで移植、発売されるようになってきた。この流れが加速したのが、今年6月のiPhone 3GSのリリース後であることにも注目したい。ゲームメーカー各社にとっても、主流携帯ゲーム機を凌ぐハード性能と、その販売台数の多さによる潜在市場の大きさが魅力に映ったということだろう。

今年9月のiPod新モデルの発表会では、アップルがニンテンドーDSやPSPに対する「宣戦布告」とも取れる、大胆なプレゼンテーションを行った。同社幹部のフィル・シラー氏が、「PSPとニンテンドーDSは、出始めたときは確かに革新的だったが、マルチタッチユーザーインターフェースもなく、ゲームソフトが高価なので子供には手が出しづらい。またApp Storeもなく、もちろんiPod機能も備えていない」と、DSやPSPを名指しで批判したのだ。

アップル幹部のフィル・シラー氏は9月の発表会でニンテンドーDSとPSPに対するアドバンテージを主張した

アップルが提示したニンテンドーDS/PSPのゲームタイトルとiPhone/iPod touch向けゲーム/エンターテイメントタイトル数の比較

さらにシラー氏は、UBIソフト、Tapulous、gameloft、EAなど有力ソフトメーカーの幹部を次々に壇上に招き、彼らから新作ソフトを次々に紹介させた。大手ゲームソフト会社との密接な関係をアピールしたこのパフォーマンスからも、アップルのゲーム市場攻略に賭ける強い意気込みが伝わってきた。

iPhone/iPod touchではゲームもAppStoreから購入するのだが、この価格の安さにも注目したい。多くのゲームの価格は無料〜600円前後であり、一部の高いゲームでも1,200円程度に過ぎないのだ。これに対してPS Storeなどでは、新作は5,000円前後で売られているのが普通だ。UMDタイトルの価格も当然ながら高価だ。

たとえば、エレクトロニックアーツの人気レースゲーム「Need for Speed Undercover」は、AppStoreでは600円(念のため、6,000円ではない)だが、PSPのUMDタイトルは5,250円だ。また、PS Storeでは「ニード・フォー・スピード・シフト」が5,250円となっている。「NBA Live」はAppStoreで1,200円であるのに対して、PS Storeでは2,200円。PS Storeの中ではNBA Liveは抜群に安いが、これは当然、AppStoreを意識してのことだろう。それでも倍ぐらいの差があることに注目したい。もちろんハードごとに内容は異なるわけで、単純に比較はできないが、この価格設定を魅力と感じる方は多いだろう。

また、世界的にヒットしたSIMSの「The Sims3」はAppStoreでは800円だが、PS Storeではそもそもこのタイトルが存在しない。一方、AppStoreで購入できるビッグタイトルは俗に言う洋ゲーが多く、ドメスティックなタイトルはまだ相対的に少ない。ファイナルファンタジーやドラクエなどの新作を遊ぶのであれば、PSPやニンテンドーDSを選択せざるを得ない。とはいえ、ソフトの価格差が約5〜10倍とあっては、今後もユーザーが国産ゲーム機やソフトを選び続けるとは限らない。

さらに付け加えれば、iPhone/iPod touchのゲームのインターフェースはマルチタッチや加速度センサーを活かした、これまでにない個性的なゲームが多く、遊んでいて新鮮だ。

■iPhone/iPod touchは従来とは異なる市場を開拓する

見てきたように、iPhone/iPod touchはソフトの価格、販売インフラ、ハード性能などですでに高い競争力を持っている。特にiPhoneは、3G通信でどこでもソフトを入手できるという利点が大きい(大容量のコンテンツはWi-Fi接続が必須となるが)。前述のパケット通信の料金に関しても、メールや楽曲購入など、他の用途をも含めてパケット定額のなかで処理されているため、携帯ゲーム機として使う場合でも、多くのユーザーはゲームのために3G通信コストを出費している感覚が薄い。

これがKindleのような単用途のデバイスと異なるところで、仮にニンテンドーDSの次世代機が3G通信機能を搭載した場合、そのコストをどうするかという点で、DSはやや不利になるかも知れない。しかし、iPhone 3Gのユーザーは明らかにニンテンドーDSのユーザーとは層が異なる。ニンテンドーDSやPSPは小学生でもユーザーが多いが、iPhone 3Gを普通に使う小学生はあまり見ない。

これに対して3G通信機能を持たずランニングコストがかからないiPod touchは、ゲーム機としてより多くのユーザーに使われるようになってもおかしくないが、携帯ゲーム機との比較では、やや価格が高い。アップルもそのあたりを考慮して、8GBモデルでは前機種のハードウェアを使いまわし、価格を1万9,800円という携帯ゲーム機並みに抑えてきたのだろう。

従来の携帯ゲーム機ユーザーとはユーザー層が異なる印象のあるiPhone/iPod touchは、単に携帯ゲーム機のシェアを奪うだけでなく、これまでにない市場を開拓し、市場の拡大をもたらす存在になるかもしれない。

これまでの携帯ゲーム機市場は「ニンテンドーDS VS PSP」という構図で語られてきたが、今後は「iPhone/iPod touch VS 携帯ゲーム専用機」という構図に取って代わることも大いに考えられる。音楽市場に続き、携帯ゲーム機市場にも大きな革新の時期がやってきたのを感じる。

(一条真人)

筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。


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