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【海上忍のAV注目キーワード辞典】第1回:超近距離無線通信 − いま話題のNFC/TransferJetを知る

公開日 2012/06/07 11:05 海上 忍
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専門用語やメーカー独自用語も多いオーディオビジュアル業界。分かるようで分かりにくいAV関連の注目ワードを、ジャーナリストの海上忍氏が解説する新コーナーがスタート。第1回目は、スマートフォンなどで採用が進む「超近距離無線通信」のトレンドを徹底解説する。

◇ ◇ ◇

【第1回:超近距離無線通信(NFC/TransferJet)】

現在デジタル機器において注目されている技術のひとつが「超近距離無線通信」だ。今回は、スマートフォンなど最近発表されたデバイスを例に、超近距離通信技術のトレンドを紹介してみよう。

■近距離通信が必要な理由

一般的に近距離無線通信とは、到達距離のごく近いワイヤレス通信を指す。通信規格は複数あり、そのうちいくつかはPCやデジタル家電分野を中心にすでに普及している。スマートフォン間のデータ通信やキーボード/マウスなどに利用されているBluetooth、AV機器のリモコンに採用事例が多いRF4CE(Radio Frequency for Consumer Electronics)は、いずれも2.4GHz帯を使用する近距離無線通信の一種だ。

しかし、2.4GHz帯の周波数特性は比較的障害物に強く、見通しのいい環境であれば100m程度まで到達できるため、各種の弊害が生じる。伝送距離が長ければ、ノイズなどを原因として通信の安定性が低下したり、通信を傍受されるなどセキュリティ面に不安が生じたり、といった問題も発生する。

そこで近年注目されているのが「超近距離無線通信」。ワイヤレスでつなぐ距離が短ければ、ユーザに機器同士の“タッチ”を促すことができ、結果として通信相手を限定できる。盗聴の可能性も低くなるため、セキュリティも向上する。伝送距離が短いなりのメリットがあるのだ。

■敢えて3cmに設計された「TransferJet」

超近距離無線通信の具体的な定義は存在しないが、規格策定済かつ製品が実用段階に入っているという基準に照らすと、「TransferJet」と「NFC((Near Field Communication)」という2つのテクノロジーが浮上する。

規格名伝送距離通信速度周波数帯備考
NFC10cm程度最大424kbps13.56MHzソニーとフィリップスの共同開発により策定。非接触ICカードに採用され、価格タグの読み取りや小額決済に利用されることが多い
TransferJet3cm程度最大560Mbps 4.48GHzソニーにより策定され、現在ではTransferJetコンソーシアムにより推進される。音楽や写真、動画の転送が主な用途

NFCとTransferJetの比較


TransferJetは、ソニーが開発した4.48GHz帯を使用するワイヤレス規格。敢えて3cm程度に伝送距離を設定することで、特定の場所に置く/触れることで通信開始(離せば切断)という誰にでも理解しやすく、1対1の小型化/低コスト化が容易な構成を採用している。通信速度は最大560Mbpsと、USB 2.0の480Mbps(理論値)を上回ることもポイントだ。

現在ではCyber-shotシリーズ(デジタルカメラ)などソニー製品中心での採用だが、アイ・オー・データやパイオニアといったサードパーティーの製品にも採用実績を持つ。2012年春にはソニーと村田製作所から相次いで低消費電力のチップが発表、スマートフォンなどモバイル機器市場での普及が見込まれている。

CAPTION:2012年2月に発表されたSONYの低消費電力型TransferJet規格LSI「CXD3271GW」

■NFCの新しい使い方 − 「Galaxy S III」での活用法とは?

ソニーとフィリップス(現:NXPセミコンダクターズ)が共同開発した「NFC」は、通信に短波HF帯(13.56MHz)を利用することが特徴。通信速度は最大424kbpsと低速であり、写真などの大容量データではなく、決済情報のような少量のデータを転送する目的で使用される。

NFCはインターフェイスの規定であり、暗号化処理を伴う部分は「セキュアエレメント」と呼ばれ実装が分けられている。たとえば、SuicaやPASMO、Edyなど日本で豊富な採用実績を持つFelicaは、NFCの一形態であり、ソニーの独自方式によるセキュアエレメントだ。欧州で採用が進むMifare(マイフェア)もセキュアエレメントのひとつで、日本ではたばこ自動販売機用ICカード「Taspo」に採用されている。

NFCではセキュアエレメントをハードウェア(IC)として提供するか、SIMカードなど記録媒体上にアプリケーションとして実装するかを選択できるが、FeliCa用のセキュアエレメントは反応速度など技術的な問題からSIMカードには搭載が難しい。

先日サムスンが発表した「Galaxy S III」もNFC搭載端末だが、ハードウェアレベルで対応するのはインターフェイス部分に留まり、FelicaのICは搭載されないため、現在のところ日本で普及しているFelicaベースの「おサイフケータイ」には対応しない。


NFC搭載端末の「Galaxy S III」。NFCとWi-Fi Directの組み合わせによる高速ファイル転送「S Beam」に対応する
一方、Galaxy S IIIではAndroid Beamを拡張した「S Beam」を搭載。Android Beamは、Android 4.0(Ice Cream Sandwich)で追加されたNFCベースの通信機能で、写真などのデータを1対1で転送できるが、サムスンはこれを拡張。NFCで認証を行い無線LAN(Wi-Fi Direct)に引き継ぐことにより、300Mbpsという速度でGalaxy S III間のファイル転送が実現される。これもNFCの新しい活用法といえるだろう。

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