ビデオレコーダー、次なる進化の可能性【前編】SNSが録画精度を高める?
ビデオレコーダーの販売が低調だ。理由はいくつか考えられる。まず、レコーダーとセットで買われることの多い薄型テレビの販売が不振であること。もう一つ、薄型テレビに録画機能が搭載されることが当たり前になり、専用レコーダーの存在意義が薄れていることも背景として大きいはずだ。
テレビに内蔵されている録画機能は、1〜2万円の外付けHDDをつなぐだけで録画できる簡便性と低いコストが大きな魅力。もともとはオマケ的な機能だったが、最近では機能面も進化の一途を辿り、2番組同時の長時間録画が行える製品も出てきている。BDへの保存を重視しない「録って消し」ユーザーの場合、これで十分と満足してしまうのも当たり前だ。
これから録画対応テレビの比率はますます高まるだろうから、今後、レコーダー専用機がバカ売れ状態になる未来は率直に言って想像しづらいが、専用機器ならではの機能増強を着実に行っていけば、ある程度の市場は残るはずだ。本企画では「録る」機能と「見る」機能の二つの側面から、今後のレコーダーの進化の方向性を考えてみたい。前編となる今回は録画機能について見ていく。
■全録はレコーダー進化の柱の一つ
録画機能で、専用機と非常に相性の良い機能の一つに「全録」がある。多くのチューナーと大きなストレージを内蔵するには、それなりのスペースが必要だ。CELLレグザなど、テレビに同機能を内蔵した製品もあるが、テレビがますます薄型化している昨今では、大きなスペースが取れる専用機の方が実現しやすいと言える。
全録対応機では、放送される番組をすべて録画していくのが基本的なコンセプト。実際に東芝のREGZAサーバーやバッファロー「ゼン録」がこの機能を備えているし、その嚆矢であるSpyderをご存じの方も多いだろう。予約録画という行為が必要なくなるため、これまでとは全く異なる使い勝手が実現する。
実際にはBS/CS放送を含めたすべてのチャンネルを録画することは不可能なので、好みのチャンネルや時間帯を選択することになる。これを「全録」と言ってよいのかという議論もありそうだが、それでも「多チャンネル連続自動録画」が行える意義は大きい。専用機が今後進むべき方向性の柱の一つであることは間違いない。
とは言え「全部録れなくてもいいよ、見たいものだけ確実に録れていれば十分」と考える方も多いだろう。価格面では、全録機器はチューナーやストレージなどのコストが大きいため高価になりがちだ。また機能面でも、一定の容量を超えたら上書き録画されるので、ある期間内に見たい番組に気づかなかったら、もう見ることはできなくなってしまう。オーソドックスなスタイルの録画機器の方が好ましいと考えるユーザーも、やはり多くいるはずだ。
■まだまだ改善の余地がある「おまかせ録画」
それでは、伝統的なレコーダーのスタイルを受け継ぎながら録画機能を高めるには、どのような方法があるだろうか。
録画に関わる機能で、個人的にまだ大きな改善の余地があると日々実感しているのが「おまかせ録画」だ。自宅では、おまかせ自動録画に定評のある某社製レコーダーを使っているのだが、それでも「なんで絶対に見ない番組がこんなに録れているんだ」と呆れたり、逆に「どうしてこの番組が録れていないんだ!」と腹が立ったりということが日常的にある。
こういう仕事をしているので、自動録画の設定はかなり工夫しているつもりだが、それでも精度にまだ大きな課題があると感じてしまうのだ。
たとえばサッカー番組で言うと、筆者が関心を抱いているのは、ほぼ欧州サッカーに限られる。Jリーグは全く見ないので、Jリーグ関連番組が録画された際は即座に消している。このように未見のまま削除した行為を、以降の自動録画の番組選定に活用していくだけでも、もっと録画精度が高まるだろう。こういった地道なアルゴリズム改善の余地は、まだたくさん残されているはずだ。
とは言え、おまかせ録画の精度を飛躍的に引き上げるには、いまの基本コンセプトを細かく改善しているだけでは足らず、もっと抜本的な改革を行う必要があるかもしれない。以前に比べ、ユーザーの好みは多様化の一途を辿っている。いくらおまかせ録画のジャンルを細かく設け、ユーザーの好みに合わせようとしても、自ずと限界がある。またキーワードを登録する方法にしても、新たに興味をもった事柄をその都度登録するのは非常に煩わしいし、登録キーワードの管理の手間も必要になってくる。録画マニア以外は「めんどくさくてやってられない」というのが実情だろう。
■Facebookのアクティビティを録画に活用
多様化するユーザーの好みを把握しながら、なるべく設定を簡略化しつつ的確な自動録画を行うというのは、一見矛盾しているようにも見える。だが、外部サービスの力を上手に使ったら、それが可能になるかもしれない。その方法として今回考えたのが、FacebookやTwitterなどのSNSとレコーダーを連動させる方法だ。中でもFacebookは書き込みに含まれるノイズ成分がTwitterに比べ少ない傾向があるので、自動録画とのマッチングが良さそうだと感じている。
言うまでも無く、FacebookなどのSNSには、その人の趣味嗜好が凝縮されている。SNSでのアクティビティーや書き込まれた情報は、レコーダーにとっても宝の山。Facebookアプリを使ってこれらのアクティビティーログを取得し、自動録画のための基礎データとして活用すれば、より精度の高い録画が可能になるはずだ。
たとえばテレビ番組のFacebookページに「いいね!」が押されたら、その番組を毎回録画すべきであることがすぐにわかる。また、世界的なサッカー選手、アンドレス・イニエスタのページに「いいね!」を押していたら、そのユーザーがサッカーファンで、欧州サッカーに関心があることも解析可能だろうし、彼が所属するFCバルセロナやスペイン代表の試合は洩らさず録画した方が良いとも判断できる。
ほかにも応用例はたくさん挙げられる。ラーメン関連の投稿が多かったり、他人のラーメン関連の投稿に「いいね!」を押す傾向が強いと判断したら、ラーメン関連情報が含まれるワイドショーや料理番組を積極的に録画すべきだろう。
また、特定の監督の映画に関するコメントがあったとしたら、その監督の作品や類似の作品を自動的に録画しておくと、ユーザーはきっと「気が利いてるな」と感心するはずだ。
さらに、どこか海外へ旅行に行ったことが分かったら、その旅行先の関連番組を録画すれば、見てもらえる確率は高いはずだ。このように、ちょっと考えただけでも応用例や機能のアイデアが次々に湧いてくる。
特別な設定操作が必要ないことも、ユーザーにとって大きなメリットとなるだろう。レコーダーにキーワードを覚えさせる必要も無いし、特定のジャンルを選んだ上で「このキーワードが含まれていたら除外する」などという複雑な設定を考える必要もない。いったんFacebookとの連動設定を行い、Facebookである程度の活動を行っていれば、あとは何も意識せずとも、自動的に好みの番組が録画されることになる。
一部には、Facebookの「いいね!」ボタンのほかに、「読んだ」「聴いた」「見た」ボタンが実装されるという噂もある。これが実現すればデータの解析精度が上がり、さらに個々人の趣味・嗜好に合わせた録画が行いやすくなるはずだ。
もちろん、多くのデリケートな個人情報を扱うことになるので、データの取り扱いや管理には十分な注意が必要だし、ユーザーへの事前の説明も尽くさなければならない。セキュリティに対する高い意識が必要になるだろう。
◇
かなり前だが、当コラム欄でTwitter連動テレビ/レコーダーがあったら面白いのでは、という記事を書いたことがある。テレビ画面の横にTwitterのタイムラインを表示させたら、同じ番組を見ているユーザーの感想がリアルタイムに確認できて面白いのではないか。またツイートは録画番組を視聴する際の簡易メタデータに使えるのでは、というのが主旨だった。
同じようなことを考える人は多いもので、その後、Twitterのタイムラインを追いながらテレビを見られる機器が数多く登場したし、ツイートをメタデータライクに活用する機能も、NECのテレビPCなどが実現している。
このときは「見る」行為に対してSNSを活用する可能性を提案したわけだが、個人の趣味・嗜好データの集積体であるSNSは、録画機能に対しても、そのポテンシャルを大いに発揮するはず。今後の展開に期待したい。
次回はレコーダーの「見る」機能の進化について考えていく。
テレビに内蔵されている録画機能は、1〜2万円の外付けHDDをつなぐだけで録画できる簡便性と低いコストが大きな魅力。もともとはオマケ的な機能だったが、最近では機能面も進化の一途を辿り、2番組同時の長時間録画が行える製品も出てきている。BDへの保存を重視しない「録って消し」ユーザーの場合、これで十分と満足してしまうのも当たり前だ。
これから録画対応テレビの比率はますます高まるだろうから、今後、レコーダー専用機がバカ売れ状態になる未来は率直に言って想像しづらいが、専用機器ならではの機能増強を着実に行っていけば、ある程度の市場は残るはずだ。本企画では「録る」機能と「見る」機能の二つの側面から、今後のレコーダーの進化の方向性を考えてみたい。前編となる今回は録画機能について見ていく。
■全録はレコーダー進化の柱の一つ
録画機能で、専用機と非常に相性の良い機能の一つに「全録」がある。多くのチューナーと大きなストレージを内蔵するには、それなりのスペースが必要だ。CELLレグザなど、テレビに同機能を内蔵した製品もあるが、テレビがますます薄型化している昨今では、大きなスペースが取れる専用機の方が実現しやすいと言える。
全録対応機では、放送される番組をすべて録画していくのが基本的なコンセプト。実際に東芝のREGZAサーバーやバッファロー「ゼン録」がこの機能を備えているし、その嚆矢であるSpyderをご存じの方も多いだろう。予約録画という行為が必要なくなるため、これまでとは全く異なる使い勝手が実現する。
実際にはBS/CS放送を含めたすべてのチャンネルを録画することは不可能なので、好みのチャンネルや時間帯を選択することになる。これを「全録」と言ってよいのかという議論もありそうだが、それでも「多チャンネル連続自動録画」が行える意義は大きい。専用機が今後進むべき方向性の柱の一つであることは間違いない。
とは言え「全部録れなくてもいいよ、見たいものだけ確実に録れていれば十分」と考える方も多いだろう。価格面では、全録機器はチューナーやストレージなどのコストが大きいため高価になりがちだ。また機能面でも、一定の容量を超えたら上書き録画されるので、ある期間内に見たい番組に気づかなかったら、もう見ることはできなくなってしまう。オーソドックスなスタイルの録画機器の方が好ましいと考えるユーザーも、やはり多くいるはずだ。
■まだまだ改善の余地がある「おまかせ録画」
それでは、伝統的なレコーダーのスタイルを受け継ぎながら録画機能を高めるには、どのような方法があるだろうか。
録画に関わる機能で、個人的にまだ大きな改善の余地があると日々実感しているのが「おまかせ録画」だ。自宅では、おまかせ自動録画に定評のある某社製レコーダーを使っているのだが、それでも「なんで絶対に見ない番組がこんなに録れているんだ」と呆れたり、逆に「どうしてこの番組が録れていないんだ!」と腹が立ったりということが日常的にある。
こういう仕事をしているので、自動録画の設定はかなり工夫しているつもりだが、それでも精度にまだ大きな課題があると感じてしまうのだ。
たとえばサッカー番組で言うと、筆者が関心を抱いているのは、ほぼ欧州サッカーに限られる。Jリーグは全く見ないので、Jリーグ関連番組が録画された際は即座に消している。このように未見のまま削除した行為を、以降の自動録画の番組選定に活用していくだけでも、もっと録画精度が高まるだろう。こういった地道なアルゴリズム改善の余地は、まだたくさん残されているはずだ。
とは言え、おまかせ録画の精度を飛躍的に引き上げるには、いまの基本コンセプトを細かく改善しているだけでは足らず、もっと抜本的な改革を行う必要があるかもしれない。以前に比べ、ユーザーの好みは多様化の一途を辿っている。いくらおまかせ録画のジャンルを細かく設け、ユーザーの好みに合わせようとしても、自ずと限界がある。またキーワードを登録する方法にしても、新たに興味をもった事柄をその都度登録するのは非常に煩わしいし、登録キーワードの管理の手間も必要になってくる。録画マニア以外は「めんどくさくてやってられない」というのが実情だろう。
■Facebookのアクティビティを録画に活用
多様化するユーザーの好みを把握しながら、なるべく設定を簡略化しつつ的確な自動録画を行うというのは、一見矛盾しているようにも見える。だが、外部サービスの力を上手に使ったら、それが可能になるかもしれない。その方法として今回考えたのが、FacebookやTwitterなどのSNSとレコーダーを連動させる方法だ。中でもFacebookは書き込みに含まれるノイズ成分がTwitterに比べ少ない傾向があるので、自動録画とのマッチングが良さそうだと感じている。
言うまでも無く、FacebookなどのSNSには、その人の趣味嗜好が凝縮されている。SNSでのアクティビティーや書き込まれた情報は、レコーダーにとっても宝の山。Facebookアプリを使ってこれらのアクティビティーログを取得し、自動録画のための基礎データとして活用すれば、より精度の高い録画が可能になるはずだ。
たとえばテレビ番組のFacebookページに「いいね!」が押されたら、その番組を毎回録画すべきであることがすぐにわかる。また、世界的なサッカー選手、アンドレス・イニエスタのページに「いいね!」を押していたら、そのユーザーがサッカーファンで、欧州サッカーに関心があることも解析可能だろうし、彼が所属するFCバルセロナやスペイン代表の試合は洩らさず録画した方が良いとも判断できる。
ほかにも応用例はたくさん挙げられる。ラーメン関連の投稿が多かったり、他人のラーメン関連の投稿に「いいね!」を押す傾向が強いと判断したら、ラーメン関連情報が含まれるワイドショーや料理番組を積極的に録画すべきだろう。
また、特定の監督の映画に関するコメントがあったとしたら、その監督の作品や類似の作品を自動的に録画しておくと、ユーザーはきっと「気が利いてるな」と感心するはずだ。
さらに、どこか海外へ旅行に行ったことが分かったら、その旅行先の関連番組を録画すれば、見てもらえる確率は高いはずだ。このように、ちょっと考えただけでも応用例や機能のアイデアが次々に湧いてくる。
特別な設定操作が必要ないことも、ユーザーにとって大きなメリットとなるだろう。レコーダーにキーワードを覚えさせる必要も無いし、特定のジャンルを選んだ上で「このキーワードが含まれていたら除外する」などという複雑な設定を考える必要もない。いったんFacebookとの連動設定を行い、Facebookである程度の活動を行っていれば、あとは何も意識せずとも、自動的に好みの番組が録画されることになる。
一部には、Facebookの「いいね!」ボタンのほかに、「読んだ」「聴いた」「見た」ボタンが実装されるという噂もある。これが実現すればデータの解析精度が上がり、さらに個々人の趣味・嗜好に合わせた録画が行いやすくなるはずだ。
もちろん、多くのデリケートな個人情報を扱うことになるので、データの取り扱いや管理には十分な注意が必要だし、ユーザーへの事前の説明も尽くさなければならない。セキュリティに対する高い意識が必要になるだろう。
かなり前だが、当コラム欄でTwitter連動テレビ/レコーダーがあったら面白いのでは、という記事を書いたことがある。テレビ画面の横にTwitterのタイムラインを表示させたら、同じ番組を見ているユーザーの感想がリアルタイムに確認できて面白いのではないか。またツイートは録画番組を視聴する際の簡易メタデータに使えるのでは、というのが主旨だった。
同じようなことを考える人は多いもので、その後、Twitterのタイムラインを追いながらテレビを見られる機器が数多く登場したし、ツイートをメタデータライクに活用する機能も、NECのテレビPCなどが実現している。
このときは「見る」行為に対してSNSを活用する可能性を提案したわけだが、個人の趣味・嗜好データの集積体であるSNSは、録画機能に対しても、そのポテンシャルを大いに発揮するはず。今後の展開に期待したい。
次回はレコーダーの「見る」機能の進化について考えていく。