デジタルオーディオに欠かせないメタ情報
【海上忍のAV注目キーワード辞典】オーディオタグ − ID3やRIFF、Vorbis Commentの違いを整理
【第24回:オーディオタグ】
■オーディオタグで最も普及しているID3タグ
ID3タグは、デジタルオーディオファイルに埋め込まれる形で利用される、音楽に関連したメタ情報のこと。曲名やアーティスト名、ロックやポップスといったジャンル名が記述され、音楽再生ソフトや各種オーディオ機器によって参照される。iPodなどのポータブルオーディオで曲を再生すると曲名やアーティスト名が表示されるのは、ほとんどの場合ID3タグによるものだ。
その仕様は規格化されているが、他のオーディオ/ビデオフォーマットのようにISOやIECといった国際標準化団体によるものではなく、Martin Nilsson氏らを中心とした集団によりまとめられている。彼らが運営するWEBサイトの名を取り、「ID3.org」と呼ばれているが、法人格の取得を必要とするほど活発な動きはない模様。実際ID3の仕様は、約7年前の2006年10月に公開されたバージョン2.4が最新版だ。
ところで、現在流通しているID3タグは大きく2つのバージョンに分類される。1つは「バージョン1系列(ID3v1.x)」で、MP3再生ソフト「Studio3」を開発したEric Kemp氏により1996年に登場した。データサイズは128バイト固定で多くの情報を記録できないうえ、文字符号化形式に関する定義がないため日本語などマルチバイト文字の扱いは不得手だが、その普及によりPCオーディオでは曲/アーティスト名の表示が当たり前のこととなった。
その後ID3タグは仕様が見直され、新たに「バージョン2系列(ID3v2.x)」が公開された。データ全体のサイズは最大256MB、項目別でも16MBと拡大され、ID3v1.xの弱点といえるデータサイズの制限は事実上なくなった。ID3v2.2ではPNGとJPEG画像をサポート(ID3v2.3では他の画像フォーマットもサポート)、アルバムアートワーク付きでオーディオファイルを配布することが可能になった。
ID3v2.xにおける最大の変更点といえば、Unicodeのサポートだろう。ID3v1.xでは、文字コードに関する明確な規定がなく、国・地域あるいはOSの種類により使う文字コードがまちまちだったため、いわゆる「文字化け」がよく見かけられた。Unicodeに統一されたID3v2.x以降は、UTF-8とUTF-16のどちらを使うかという問題はあるが、概ね「文字化け」は解消されている。
■WAVファイルでは曲名/アーティスト名が文字化けする?
当初ID3タグに対応するデバイスはPCのみだったが、ポータブルオーディオやAV機器にも採用されるようになり、いまやMP3/AACといった圧縮音源をサポートするデバイスの大半がID3タグを理解する。制定プロセスに大手企業が直接関与していないにもかかわらず、事実上の世界標準規格とみなされるまで普及したレアなケースと言っていいだろう。
いまID3タグがエンドユーザの間で話題になるとすれば、「文字化け」を起こすときくらいかもしれない。しかし、iTunesなど多くのオーディオ再生ソフトにID3編集/変換機能が装備されるようになり、エンドユーザで解決できることが多い。曲名/アーティスト名などの情報も、ソフト側がGracenoteやFreeDBなどCDDB(Compact Disc DataBase)を提供するオンラインサービスから取得し、自動的に楽曲へ追加されるので、編集作業自体が不要に近い状況にある。音楽配信サイトからダウンロードする楽曲にも、あらかじめUnicodeで文字情報を持つ(ID3v2.xの)ID3タグが付けられていることがほとんどで、こと圧縮音源に関するかぎり「文字化け」は過去の出来事となりつつある。
しかし、「文字化け」が消えたわけではない。ファイルフォーマットとしてID3タグを持つことができないPCM音源(WAV/AIFF)では、いまも化けた文字を見かけることがある。
WAVファイルには、「RIFFタグ」という文字情報を付加できる領域は存在するものの、iTunesなど対応していないオーディオ再生ソフトが少なくない。ID3タグとは異なる規格であり、記録される文字情報の符号化形式が標準化されているわけではないため、RIFFタグそのものを解釈可能なソフトでも「文字化け」を起こす可能性もある。たとえば、Audirvanaバージョン1.0では、シフトJISで符号化されたRIFFタグを含むWAVファイルを再生すると、曲名/アーティスト名は文字化けを起こしてしまう。
なお、ID3以外のオーディオタグ形式としては、FLACなどのオーディオファイルに採用される「Vorbis Comment」などが存在する。ポータブルオーディオでは必須ともいえるMP3/AACで利用されていることから、タグといえばID3タグを連想しがちだが、実際にはそれ以外のオーディオタグ形式も利用されているのだ。