議論が活発化することを期待
オーディオ協会「ハイレゾ」定義の意義とは? 山之内 正が考察
先日、日本オーディオ協会がオーディオ機器のハイレゾ対応について一定の基準を定めて公開した(発表会レポートはこちら)。その後の当編集部の追加取材に対して、アナログ系のハイレゾ対応機器について「スペック表記が40kHz以下でも認める場合がある」とオーディオ協会がコメントした。このコメントをもとにした記事を掲載した後、オーディオ協会から「コメントは、機器に改良などを加えることによって40kHz以上をクリアしたら、ハイレゾ対応機器として認定する場合があるということ。あくまで、40kHz以上という数値をスペック上クリアしていることが『ハイレゾ対応機器』認定の条件」と、回答内容に訂正が入った(詳細はこちら)。
こうした一連の経過をふまえて、山之内 正がこの「ハイレゾ対応機器の定義」について考察。先日のJEITA、そしてオーディオ協会の定義が今後のハイレゾ普及においてどのような意味を持つか、ということについて寄稿いただいた。(編集部)
日本オーディオ協会がオーディオ機器のハイレゾ対応について一定の基準を定め、先週公開した。
同様の定義はJEITAが今年3月に発表しているが、今回はアンプやスピーカーを含む広範囲な再生機器が満たすべき条件を示すなど、より具体的な指標を盛り込んでいることが特徴だ。
一方、デジタルオーディオ製品のハイレゾ対応については、JEITAの定義と一部異なる点があり、ビット数が大きくてもサンプリング周波数が低い音源をハイレゾ対応機器から外すなど、オーディオ協会の基準の方が対象を絞り込んでいる。
さらにオーディオ協会の基準は再生機器だけでなくマイクなど録音機器にも条件を課し、再生機器についてもアンプやスピーカーなどアナログ機器の高域特性を指定するなど、ハイレゾ対応機器の条件をより具体的に定めている点に特徴がある(詳細はこちら)。
ハイレゾ音源の配信タイトルが増え、再生環境が多様化するなか、ハイレゾの基準を明確にする必要性は日に日に高まっていた。そんな要求に応える形で、ようやく基準が設けられたことには大きな意味があると思う。
その半面、定義の一部において2つの団体の基準が一致していないことからもわかるように、音質に関わるレイティングを決めることの難しさも浮き彫りになった。
ハイレゾオーディオのロゴマークを付ける条件を、既存製品へ厳格に適用するとどうなるだろうか。
スピーカーやアンプのなかには、仕様の数値だけ見ると「40kHz以上が再生可能」という条件を満たさない製品が無数に存在する。たとえば筆者が自宅で使っているB&WのSignature Diamondも再生帯域は32Hz〜33kHz(-6dB)なので、同じトゥイーターユニットを積む800シリーズも含め、いずれもハイレゾの基準を満たさないことになる。
ところが、実際にSignature Diamondでハイレゾ音源を聴いてみると、手持ちのCDに比べて音色のなめらかさや音場の見通しの良さを実感でき、そうした音質面での特徴はこれまでハイレゾ音源の再生で経験してきた実感とよく一致する。数字上はハイレゾに該当しない再生機器を組み合わせても、CDに比べた優位性を確実に聴き取れる例は枚挙にいとまがない。
私の経験に基づいた推論だが、ハイレゾ音源の音質上のメリットは超高域成分の有無だけでは決まらず、いくつかの要素が複合的に重なり合って生まれるように思われる。過渡特性、時間軸上の分解能、倍音領域での歪み特性、空間情報の再現精度などがその一例で、いずれも録音から再生まで様々なプロセスで変化したり劣化することが知られている。それらの要素のなかには広帯域化を含む周波数特性の見直しによって改善するものもあるし、データ再生のメリットが相乗効果を引き出す例もありそうだ。ハイレゾオーディオが人間の感覚にどのように作用し、音の良さを実感できるのか、これからさらに議論を深める必要があると思う。
いろいろな要素が相互に関連するとはいえ、ハイレゾオーディオを数値で定義することに意味がないわけではないと思うし、実際に録音機器や再生機器の性能を判断するうえで具体的な指標があった方がいいこともたしかだ。JEITAとオーディオ協会が示した定義についても、その数値を絶対的な基準ととらえるのではなく、目標値やガイドラインとして、柔軟に受け止める方がいいのではないだろうか。数字が一人歩きすることは避けるべきだし、演奏家や録音のプロフェッショナルにも広く意見を求める必要がある。今回の「ハイレゾ定義」をきっかけに、音質についての議論が活発化することを大いに期待したい。
ところで、これはレーベルや配信サービスなどソフト側への注文になるが、多彩なハイレゾ音源を聴いてきた経験から筆者が強く希望するのは、オリジナルのフォーマットやサンプリング周波数など、録音データを販売時に明示することを徹底して欲しいという点だ。一部の配信サイトではすでにそうしたデータを掲載しているが、説明がない状態で複数のフォーマットを並列に販売しているケースも少なくない。
ハイレゾ音源はサンプリング周波数の数字が大きい方が価値が高いと考えがちだが、それが必ずしも正しくないことは何度も経験している。ハイレゾ音源のメリットをアピールするのであれば、オリジナルの録音形式を正確に表示することも条件の一つに加えるべきだと思う。
こうした一連の経過をふまえて、山之内 正がこの「ハイレゾ対応機器の定義」について考察。先日のJEITA、そしてオーディオ協会の定義が今後のハイレゾ普及においてどのような意味を持つか、ということについて寄稿いただいた。(編集部)
日本オーディオ協会がオーディオ機器のハイレゾ対応について一定の基準を定め、先週公開した。
同様の定義はJEITAが今年3月に発表しているが、今回はアンプやスピーカーを含む広範囲な再生機器が満たすべき条件を示すなど、より具体的な指標を盛り込んでいることが特徴だ。
一方、デジタルオーディオ製品のハイレゾ対応については、JEITAの定義と一部異なる点があり、ビット数が大きくてもサンプリング周波数が低い音源をハイレゾ対応機器から外すなど、オーディオ協会の基準の方が対象を絞り込んでいる。
さらにオーディオ協会の基準は再生機器だけでなくマイクなど録音機器にも条件を課し、再生機器についてもアンプやスピーカーなどアナログ機器の高域特性を指定するなど、ハイレゾ対応機器の条件をより具体的に定めている点に特徴がある(詳細はこちら)。
ハイレゾ音源の配信タイトルが増え、再生環境が多様化するなか、ハイレゾの基準を明確にする必要性は日に日に高まっていた。そんな要求に応える形で、ようやく基準が設けられたことには大きな意味があると思う。
その半面、定義の一部において2つの団体の基準が一致していないことからもわかるように、音質に関わるレイティングを決めることの難しさも浮き彫りになった。
ハイレゾオーディオのロゴマークを付ける条件を、既存製品へ厳格に適用するとどうなるだろうか。
スピーカーやアンプのなかには、仕様の数値だけ見ると「40kHz以上が再生可能」という条件を満たさない製品が無数に存在する。たとえば筆者が自宅で使っているB&WのSignature Diamondも再生帯域は32Hz〜33kHz(-6dB)なので、同じトゥイーターユニットを積む800シリーズも含め、いずれもハイレゾの基準を満たさないことになる。
ところが、実際にSignature Diamondでハイレゾ音源を聴いてみると、手持ちのCDに比べて音色のなめらかさや音場の見通しの良さを実感でき、そうした音質面での特徴はこれまでハイレゾ音源の再生で経験してきた実感とよく一致する。数字上はハイレゾに該当しない再生機器を組み合わせても、CDに比べた優位性を確実に聴き取れる例は枚挙にいとまがない。
私の経験に基づいた推論だが、ハイレゾ音源の音質上のメリットは超高域成分の有無だけでは決まらず、いくつかの要素が複合的に重なり合って生まれるように思われる。過渡特性、時間軸上の分解能、倍音領域での歪み特性、空間情報の再現精度などがその一例で、いずれも録音から再生まで様々なプロセスで変化したり劣化することが知られている。それらの要素のなかには広帯域化を含む周波数特性の見直しによって改善するものもあるし、データ再生のメリットが相乗効果を引き出す例もありそうだ。ハイレゾオーディオが人間の感覚にどのように作用し、音の良さを実感できるのか、これからさらに議論を深める必要があると思う。
いろいろな要素が相互に関連するとはいえ、ハイレゾオーディオを数値で定義することに意味がないわけではないと思うし、実際に録音機器や再生機器の性能を判断するうえで具体的な指標があった方がいいこともたしかだ。JEITAとオーディオ協会が示した定義についても、その数値を絶対的な基準ととらえるのではなく、目標値やガイドラインとして、柔軟に受け止める方がいいのではないだろうか。数字が一人歩きすることは避けるべきだし、演奏家や録音のプロフェッショナルにも広く意見を求める必要がある。今回の「ハイレゾ定義」をきっかけに、音質についての議論が活発化することを大いに期待したい。
ところで、これはレーベルや配信サービスなどソフト側への注文になるが、多彩なハイレゾ音源を聴いてきた経験から筆者が強く希望するのは、オリジナルのフォーマットやサンプリング周波数など、録音データを販売時に明示することを徹底して欲しいという点だ。一部の配信サイトではすでにそうしたデータを掲載しているが、説明がない状態で複数のフォーマットを並列に販売しているケースも少なくない。
ハイレゾ音源はサンプリング周波数の数字が大きい方が価値が高いと考えがちだが、それが必ずしも正しくないことは何度も経験している。ハイレゾ音源のメリットをアピールするのであれば、オリジナルの録音形式を正確に表示することも条件の一つに加えるべきだと思う。