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連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー

GIGA MUSIC独占先行配信!個性的な歌声が詰まった「平山三紀ベスト・ヒット・アルバム」を聴く

公開日 2016/07/21 14:00 大橋伸太郎
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ハイレゾ化で平山みきの声が生々しい鮮度を得てくっきりと浮かび上がる

7月21日にGIGA MUSICからハイレゾ配信がスタートするのは「The Best of Miki Hirayama 平山三紀ベスト・ヒット・アルバム」。LPとして製作され、2007年に5曲を追加してCD発売された日本コロムビア時代のコンピレーションアルバムで、96kHz/24bitにリマスタしての配信開始だ。

ここまで紹介してきたコンテンツ(庄野真代、いしだあゆみ、アン・ルイス、ヒデとロザンナ)はどれもリミックス? と思えるほど44kHzと96kHzの差が大きかった。具体的にはバックの楽器の定位まで変わっていたのに対し、今回の平山みきはCD発売が2007年と近年であるため音質がよく、CDとハイレゾの差が比較的小さい。しかし、ハイレゾの改善効果は歴然と存在する。それは主に、平山みきの声の解像力だ。

平山みきの強く個性的な声をレコードにどう活かすか当時の録音ディレクターが細心の配慮を払ったらしく、マイクアレンジやレベル調整、リバーブやフィルターの掛け方、ミキシングバランス等、各曲毎に工夫が見られる。今回96kHz/24bitハイレゾ化で音作りの奥に平山みきの声が生々しい鮮度を得てくっきりと浮かび上がる。もちろん、ハイレゾ化に当たり、細心のノイズシェービング技術で楽曲全体のノイズフロアが下がり、立体的で深い奥行きの音場が生まれたこともボーカルの存在感アップに貢献している。

CD版は楽音にどこか突っ張った印象があるのに対し、ハイレゾは硬さ・粗さが消えしなやかになった。周波数バランス上もフラットになり自然な広がり感と奥行きが生まれている。それでは代表曲を選んでCD44kHzとハイレゾ96kHzを比較してみよう。

トラック1「月曜日は泣かない」


アップテンポロック調の’70年代らしいキャッチーな曲。ハイレゾ化と最新のノイズシェービングで格段にクリアになり音場が解れた。金管の歪みが消え、楽器が引き立つ。ステレオフォニックな広がりが生まれ、平山みきのボーカルの解像感が躍進した。同時に楽器群のバランスが変わった印象。CD版はリズム楽器(ベース、ドラムス)がバランス上前面に出て荒々しい迫力があり、こっちが好きな人もいるかも。

トラック3「真夏の出来事」


最大のヒット曲。声の個性が一番引き立ってセクシーでチャーミング。どれだけ才能に恵まれていても歌手は結局楽曲との出会いなのだ。ハイレゾ化で音場が解れ楽器一つ一つの音色が明瞭に。楽器の編成に特徴がありビブラフォンに加え三味線、あるいはそれを模したエレキギターのオブリガートが入るが、ハイレゾでくっきり浮かび上がった結果はたと気付いたことがある。この音作りはビーチボーイズの名盤「ペットサウンズ」の「駄目な僕」に似ているのだ。平山みきは筒見京平の秘蔵っ子だ。サウンド(編曲)面でも力の入れ方が違っていたのだ。

トラック4「ノアの方舟」


これも大ヒットした。メランコリックなマイナー→ポジティブなメジャーの転調が印象的で、アレンジ面も欧州ポップスを思わせる伸びやかな曲。メジャーに転調した後はカンタービレを効かせ持ち前の強い声帯と豊かな声量が全開、エディット・ピアフやミレイユ・マチューといったシャンソン歌手を彷彿させる。ハイレゾは力強い声がセンター領域高めの定位にくっきり表情豊かに浮かび上がり聞き惚れる。歌謡曲のパンクのようでいて平山みきは実は正統派シンガーなのだ。

トラック5「フレンズ」


日本コロムビア時代の代表曲の一つ。1970年代のノンシャランな気分を映したラグタイムフレーバーの楽しい曲。平山みきの少し「モタれる」タメを効かせたリズム感とノリのよさが典型的に発揮された曲。ハイレゾはシンコペーションがくっきりしノリのよさが際立ち、帯域が広がりベースが量感を増し、トロンボーンやコーラスの音色のくもりが消えてステレオフォニックな広がりを増した。

トラック6「ビューティフル・ヨコハマ」


ブラスを始め楽器が鮮明になり音量バランスがハイレゾは向上、音場に広がりが出てストリングスの歪みが消えLR間に自然に広がる。平山みきのボーカルがCDに比べやや低く定位、シャウトの力強さを増して和製R&Bらしい地に脚の着いたふてぶてしい(でもどこか可愛い)重量感。

トラック7「マジック・ロード(さすらいの天使)」


オリジナル版(いしだあゆみ)が歌の主人公(奔放に生きる風来坊の男)の背にそっと手を置くように見守る母性的包容力を感じさせたのに対し、平山版は背中をドンと押される感じで苦笑。しかし、ボーカル改善効果は非常に大きい。帯域も拡大、ベースが正確・均一に音程を刻む。バンドの他に、金管を含むオーケストラ、ピアノ、フルート、女声コーラスと編成が大きいことも特徴で各楽器から歪みが消え、ドラマティックな人間讃歌のスケール感が一回り増した。

トラック17「銀河のはてに」


らしからぬ正調歌謡曲。そのせいかリバーブ多めで平山の個性的な声とリズム感が抑え気味で「キレイな声」。ハイレゾはボーカルがやや高くゆったりと定位。ストリングスも歪みが消え倍音の艶。

トラック18「私の場合は…」


これもオーソドックスな歌謡曲だが、リズム感とフレージングの才能を活かした平山みき独自の「こぶし」が聞き物だ。天性の音程のよさに舌を巻く。ハイレゾはバランス上ボーカルの存在感が豊かさを増している。声がきれいなリバーブを纏ってCDに比べ高く定位、平山みきの歌の巧さに聞き惚れる。

トラック19「恋のダウン・タウン」


アップテンポのノリノリのロックンロール調。日本人歌手離れしたリズム感と強い声が最大に発揮され、水を得た魚のよう。絶妙のフレージングの強弱、ドライブ感がハイレゾはベールを剥いだように間近に迫り、思わずニンマリさせられる。

  ◇  ◇  


ハイレゾで聴き直して強く印象付けられたのは、平山みきの歌い口の幅の広さだ。最初から歌の巧い歌手は多いが進歩成熟していくことが本物の歌手の条件だ。次第に表現の幅を広げ「マジック・ロード(さすらいの天使)」やここに収録されていないが「絆」(1979)のようなスケールの大きいバラードまで、強烈な個性を歌の普遍性へ転換した希有な歌手と言っていい。

平山みきは’80年代に近田晴夫ら新たなパートナーを得て、独自の世界観を表現するパフォーマー、アルバムアーティストへ進化し、現在も旺盛に活動を続けているが作曲面のパートナーはやはり筒美京平だ。平山みきの魅力は今回ハイレゾ化された「The Best of Miki Hirayama 平山三紀ベスト・ヒット・アルバム」に詰まっているといっていい。「ヘンテコな声」の和製R&B歌手とだけ思っていた方はぜひ本作を聴いてほしい。

最後に平山みきの一ファンとしてご本人に一言。旺盛に歌手活動を続けているのは嬉しいが、最近のあなたはビジュアル面に傾斜し過ぎていませんか? キッチュでビザール(奇矯)、エキセントリックなのはあくまで演出、ハイカラで垢抜けた都会性と「女性らしさ」が本当のあなたのはず。何よりあなたは抜群に歌が巧くていまも強い声に翳りがない。

’80年代からずっと纏っているエキセントリックな意匠はさらりと脱ぎ捨てて次のあなたに進化、そう、シャンソンの名歌手のようにシックなモノトーンで名曲の数々をじっくりと聴衆に歌い聞かせてくれませんか? それができる数少ない「本物の歌手」があなたなのですから。



<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:OPPO「BDP-105D JAPAN LIMITED」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802 Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」

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