連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー
GIGA MUSIC独占先行配信!「エッセンシャル・ベスト 布施 明」不変のビューティフルボイスをハイレゾで聴く
ハイレゾバージョン全曲を通じての印象
「エッセンシャル・ベスト 布施 明」収録の全14曲をCDの44.125kHz/16bitとハイレゾ配信の96kHz/24bitの両方で聴いた。2007年のCDリリース時に、デジタル多重録音でバックが生のストリングス、オーケストラからポリフォニックデジタルシンセイザーに代わった。時代の変化を反映してサウンド構築面で低音楽器の縦のラインが強調されていることも特徴。
楽曲の印象が変わっても、布施 明の歌声は1960年代、'70年代から何ら変わらない。アレンジ、録音、ミキシングまで布施 明の声の魅力に徹底的にフォーカスしたワンマンショー的アルバムだ。新アレンジに布施 明の不変のビューティフルボイスがどう馴染んでいるかの整合感がアルバムの印象を左右するが、バックのシンセサイザーの和声にデジタル臭さが感じられしばしば歪み、荒れ、雑味、平板さを感じさせる。CD44.125kHzで顕著だ。
それに対し広大な音空間を与えられたハイレゾリマスターは、音場が解れてシンセサイザーの響きがきめ細やかに落ち着き、布施 明の美声を対比的に引き立てている。それでは全15曲から9曲を選んで配信開始されたばかりのハイレゾリマスターとCD44.125kHz/16bitを比較して聴いてみよう。
トラック01「シクラメンのかほり」
イントロのシンセの和音の響きがハイレゾの解像度で大幅に改善。この曲は凛とした瑞々しい情感が生命。響きが歪むと演奏が仇になり、誰もが知る名曲が台無しだ。布施の声も広大な音空間を与えられ表現のニュアンスを増しくっきりとした輪郭で凛として浮かび上がる。
トラック02「積木の部屋」
日本映画のマインドや視点がハリウッド映画よりヨーロッパ映画に近いように、歌謡曲は曲調においてアメリカのポピュラー音楽よりシャンソンやカンツォーネと共通する面が多い。1974年のヒット(なかにし礼、有馬三恵子作詞、川口 真作曲)だが、6/8拍子の哀愁を湛えたバラードの本曲はまるでユーロヴィジョンやサンレモ音楽祭の優勝曲を思わせる。(歌詞は四畳半的だが…)ポピュラー歌手・布施 明の「濃さ」が最も発揮された曲だ。
メジャーに転調するサビがまるっきりカンツォーネ。ここからラストまでのドラマティックな盛り上げが聞き物でハイレゾは広大な音空間に布施の輪郭の立ったボーカルが孤愁を湛えてくっきり浮かび上がり涙、涙。ボーカルと対位法的に歌うベースも弾力感を増し深々と沈み歌、演奏共に全15曲中の白眉。
トラック03「そっとおやすみ」
キャバレーやナイトクラブのクロージング定番曲(作詞作曲クニ河内)。ここではピアノトリオ+エレキギターのカルテットをバックに歌うが、そのジャズアレンジがアメリカンにハイカラ過ぎて違和感がなくもない。別録りでなく同時録音と思しくハイレゾは空気感、臨場感があり、布施とバックの距離感が鮮明。ライブハウスの目の前で布施 明が歌っているよう。さすがに日本コロムビアだけありバックミュージシャンの演奏水準は一流。オンマイクで収録のピアノの指使いの切れと鮮度が格段に増し、エレキギターのカッティングも分解能が増し、オブリガードも存在感を増している。野暮を承知で言うとハイレゾは鮮度が高過ぎる。寝しなに聴くなら同じデジタルマスターのLPレコードで聴いてみたい気も…。
トラック04「霧の摩周湖」
布施 明の名を一躍知らしめたヒット曲だが、最も正調歌謡曲でもある。ここではカンタービレでなくこぶし。フォルテッシモでの声量と長大なブレスはさすがだ。新アレンジはストリングスからデジタルシンセに置き換わり和声にざらついた質感がある。本来は弦のボーイングの自然なテヌート(音の持続)のはずがデジタル臭いサステイン(電気的音量の保持)に変わり、最後まで減衰しないので人工臭と違和感が拭えない。加えてCD44kHzは音の肌理の粗さと歪みっぽさが耳に付く。ハイレゾは解像度アップが音の肌理の粗さを埋め、ストリングスのなめらかな質感に近づき広がり感を増し布施のボーカルを引き立てている。
トラック05「恋」
ハイレゾ化の長所の一つがビット拡張(16bit→24bit)で音の階調が増し、強弱、抑揚のきめ細かいニュアンス、自然さ、なめらかさが生まれることだ。布施 明のドラマティックな歌唱力が聞き物のこの曲でビット拡張がてきめんに威力を発揮、彼の胸郭のふくらみ、鍛えられた強い声帯がありありと描写される。音場の広がりも豊かで雑味を感じさせたシンセのバックもハイレゾで改善、布施のボーカルをカラフルに包み込む。
トラック06「愛は不死鳥」
布施 明は声域が広く高い声域で声量が落ちない。ドラマティックなバラードのこの曲は題名を連呼するクライマックスのハイトーン(エフェクトを使って一人二重唱的効果を出している)が感涙モノだが、ハイレゾで帯域の余裕が生まれ、CD44kHzの制約から解き放たれ水を得た魚のように伸び伸びと歌い上げる。
トラック07「君は薔薇より美しい」
化粧品会社の競争華やかりし時代のCFソング。1980年代を間近にした脳天気な根明かさが懐かしい。布施 明に珍しいリズムを強調したアップテンポ曲。歌詞同様に「君は変わった。」イメージチェンジを図ったのかも。フレージングの美しさとふくらみと艶のある美声こそ布施 明だ。女性好感度や話題性はともかく布施 明とこの曲はミスマッチ。しかも再録ではオリジナルよりテンポアップ、声もやや荒れて上ずっている。というわけでCD版は???だったが、その分、ハイレゾリマスターに当り頑張った印象。
バックの演奏が格段に解れエレキギターのカッティングが美しい。ハイレゾの広大な空間を与えられ演奏が広がりとスケールを増し、CD44kHzで音のひしめき合う窮屈さから抜け出した。布施のボーカルも実在感を増し音場の中心に安定して定位、若き女性のまぶしい開花を見つめる中年男性の包容力。
トラック10「愛の園」
この連載で繰り返し書いてきたが、日本コロムビアのバックミュージシャンの演奏の上手さに舌を巻く。1960年代からずっと楽器や編成、演奏のテイストは変わっても歌手を完璧にサポートするばかりでなく、演奏自体に聴き応えがあり良く歌うベースやドラムス、ギター、キーボードに耳を傾けているのが楽しい。ここでもストリングスがシンセに置き換わっているが、アレンジがよく音色変化と強弱の表情に富み、シンセの平板さと無味乾燥を感じさせない。ハイレゾは帯域が広がり解像力と階調が増して演奏がさらに躍動感を増し、布施 明の抑揚豊かな歌唱を引き立てる。
トラック15「マイ・ウェイ」
本アルバム唯一の海外曲。ご承知の方が多いと思うが、フランク・シナトラ(ポール・アンカ作詞)のイメージが強いこの曲はクロード・フランソワ作曲(共作者もいる)のシャンソン(フレンチポップス)だ。欧州歌手的な布施 明のオーソドックスな発声と声量が存分に活かされ見事な出来映えだ。静かに始まる序盤は気にならないが、クライマックスになり音圧が高まるとやはり生オーケストラのふくらみのある響きが恋しくなる。ハイレゾは音空間の広大さと分解能でシンセの平板な響きを緩和、生来のポップスシンガー・布施 明の歌手人生を映した絶唱に心置きなく浸らせる。
◇ ◇
現役ばりばり、来年は古希になろうというのにこの輝くような声は一体何だ! プレイボーイの印象が強いが、節制の賜物としかいいようがない(セルフコントロールは名歌手の条件)。録音プロセスとパッケージングが進化した今だからこそ、聴きたい歌手だ。2017年3月に渋谷オーチャードホールでリサイタルも予定されているが、長いキャリアを誇るカリスマ歌手の久しぶりの登場だけにチケット争奪戦になるに違いない。
でも、考えてみよう。ハイレゾ配信でなら誰でもその歌をワンクリックダウンロードして特等席の音質で聴ける。世界中の人々よ、日本の音楽界の至宝、布施 明を今こそ聴け!
<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:ヤマハ「CD-S3000」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」
「エッセンシャル・ベスト 布施 明」収録の全14曲をCDの44.125kHz/16bitとハイレゾ配信の96kHz/24bitの両方で聴いた。2007年のCDリリース時に、デジタル多重録音でバックが生のストリングス、オーケストラからポリフォニックデジタルシンセイザーに代わった。時代の変化を反映してサウンド構築面で低音楽器の縦のラインが強調されていることも特徴。
楽曲の印象が変わっても、布施 明の歌声は1960年代、'70年代から何ら変わらない。アレンジ、録音、ミキシングまで布施 明の声の魅力に徹底的にフォーカスしたワンマンショー的アルバムだ。新アレンジに布施 明の不変のビューティフルボイスがどう馴染んでいるかの整合感がアルバムの印象を左右するが、バックのシンセサイザーの和声にデジタル臭さが感じられしばしば歪み、荒れ、雑味、平板さを感じさせる。CD44.125kHzで顕著だ。
それに対し広大な音空間を与えられたハイレゾリマスターは、音場が解れてシンセサイザーの響きがきめ細やかに落ち着き、布施 明の美声を対比的に引き立てている。それでは全15曲から9曲を選んで配信開始されたばかりのハイレゾリマスターとCD44.125kHz/16bitを比較して聴いてみよう。
トラック01「シクラメンのかほり」
イントロのシンセの和音の響きがハイレゾの解像度で大幅に改善。この曲は凛とした瑞々しい情感が生命。響きが歪むと演奏が仇になり、誰もが知る名曲が台無しだ。布施の声も広大な音空間を与えられ表現のニュアンスを増しくっきりとした輪郭で凛として浮かび上がる。
トラック02「積木の部屋」
日本映画のマインドや視点がハリウッド映画よりヨーロッパ映画に近いように、歌謡曲は曲調においてアメリカのポピュラー音楽よりシャンソンやカンツォーネと共通する面が多い。1974年のヒット(なかにし礼、有馬三恵子作詞、川口 真作曲)だが、6/8拍子の哀愁を湛えたバラードの本曲はまるでユーロヴィジョンやサンレモ音楽祭の優勝曲を思わせる。(歌詞は四畳半的だが…)ポピュラー歌手・布施 明の「濃さ」が最も発揮された曲だ。
メジャーに転調するサビがまるっきりカンツォーネ。ここからラストまでのドラマティックな盛り上げが聞き物でハイレゾは広大な音空間に布施の輪郭の立ったボーカルが孤愁を湛えてくっきり浮かび上がり涙、涙。ボーカルと対位法的に歌うベースも弾力感を増し深々と沈み歌、演奏共に全15曲中の白眉。
トラック03「そっとおやすみ」
キャバレーやナイトクラブのクロージング定番曲(作詞作曲クニ河内)。ここではピアノトリオ+エレキギターのカルテットをバックに歌うが、そのジャズアレンジがアメリカンにハイカラ過ぎて違和感がなくもない。別録りでなく同時録音と思しくハイレゾは空気感、臨場感があり、布施とバックの距離感が鮮明。ライブハウスの目の前で布施 明が歌っているよう。さすがに日本コロムビアだけありバックミュージシャンの演奏水準は一流。オンマイクで収録のピアノの指使いの切れと鮮度が格段に増し、エレキギターのカッティングも分解能が増し、オブリガードも存在感を増している。野暮を承知で言うとハイレゾは鮮度が高過ぎる。寝しなに聴くなら同じデジタルマスターのLPレコードで聴いてみたい気も…。
トラック04「霧の摩周湖」
布施 明の名を一躍知らしめたヒット曲だが、最も正調歌謡曲でもある。ここではカンタービレでなくこぶし。フォルテッシモでの声量と長大なブレスはさすがだ。新アレンジはストリングスからデジタルシンセに置き換わり和声にざらついた質感がある。本来は弦のボーイングの自然なテヌート(音の持続)のはずがデジタル臭いサステイン(電気的音量の保持)に変わり、最後まで減衰しないので人工臭と違和感が拭えない。加えてCD44kHzは音の肌理の粗さと歪みっぽさが耳に付く。ハイレゾは解像度アップが音の肌理の粗さを埋め、ストリングスのなめらかな質感に近づき広がり感を増し布施のボーカルを引き立てている。
トラック05「恋」
ハイレゾ化の長所の一つがビット拡張(16bit→24bit)で音の階調が増し、強弱、抑揚のきめ細かいニュアンス、自然さ、なめらかさが生まれることだ。布施 明のドラマティックな歌唱力が聞き物のこの曲でビット拡張がてきめんに威力を発揮、彼の胸郭のふくらみ、鍛えられた強い声帯がありありと描写される。音場の広がりも豊かで雑味を感じさせたシンセのバックもハイレゾで改善、布施のボーカルをカラフルに包み込む。
トラック06「愛は不死鳥」
布施 明は声域が広く高い声域で声量が落ちない。ドラマティックなバラードのこの曲は題名を連呼するクライマックスのハイトーン(エフェクトを使って一人二重唱的効果を出している)が感涙モノだが、ハイレゾで帯域の余裕が生まれ、CD44kHzの制約から解き放たれ水を得た魚のように伸び伸びと歌い上げる。
トラック07「君は薔薇より美しい」
化粧品会社の競争華やかりし時代のCFソング。1980年代を間近にした脳天気な根明かさが懐かしい。布施 明に珍しいリズムを強調したアップテンポ曲。歌詞同様に「君は変わった。」イメージチェンジを図ったのかも。フレージングの美しさとふくらみと艶のある美声こそ布施 明だ。女性好感度や話題性はともかく布施 明とこの曲はミスマッチ。しかも再録ではオリジナルよりテンポアップ、声もやや荒れて上ずっている。というわけでCD版は???だったが、その分、ハイレゾリマスターに当り頑張った印象。
バックの演奏が格段に解れエレキギターのカッティングが美しい。ハイレゾの広大な空間を与えられ演奏が広がりとスケールを増し、CD44kHzで音のひしめき合う窮屈さから抜け出した。布施のボーカルも実在感を増し音場の中心に安定して定位、若き女性のまぶしい開花を見つめる中年男性の包容力。
トラック10「愛の園」
この連載で繰り返し書いてきたが、日本コロムビアのバックミュージシャンの演奏の上手さに舌を巻く。1960年代からずっと楽器や編成、演奏のテイストは変わっても歌手を完璧にサポートするばかりでなく、演奏自体に聴き応えがあり良く歌うベースやドラムス、ギター、キーボードに耳を傾けているのが楽しい。ここでもストリングスがシンセに置き換わっているが、アレンジがよく音色変化と強弱の表情に富み、シンセの平板さと無味乾燥を感じさせない。ハイレゾは帯域が広がり解像力と階調が増して演奏がさらに躍動感を増し、布施 明の抑揚豊かな歌唱を引き立てる。
トラック15「マイ・ウェイ」
本アルバム唯一の海外曲。ご承知の方が多いと思うが、フランク・シナトラ(ポール・アンカ作詞)のイメージが強いこの曲はクロード・フランソワ作曲(共作者もいる)のシャンソン(フレンチポップス)だ。欧州歌手的な布施 明のオーソドックスな発声と声量が存分に活かされ見事な出来映えだ。静かに始まる序盤は気にならないが、クライマックスになり音圧が高まるとやはり生オーケストラのふくらみのある響きが恋しくなる。ハイレゾは音空間の広大さと分解能でシンセの平板な響きを緩和、生来のポップスシンガー・布施 明の歌手人生を映した絶唱に心置きなく浸らせる。
現役ばりばり、来年は古希になろうというのにこの輝くような声は一体何だ! プレイボーイの印象が強いが、節制の賜物としかいいようがない(セルフコントロールは名歌手の条件)。録音プロセスとパッケージングが進化した今だからこそ、聴きたい歌手だ。2017年3月に渋谷オーチャードホールでリサイタルも予定されているが、長いキャリアを誇るカリスマ歌手の久しぶりの登場だけにチケット争奪戦になるに違いない。
でも、考えてみよう。ハイレゾ配信でなら誰でもその歌をワンクリックダウンロードして特等席の音質で聴ける。世界中の人々よ、日本の音楽界の至宝、布施 明を今こそ聴け!
<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:ヤマハ「CD-S3000」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」