「ハード/ソフト/サービス」の三輪へ
アップルが映像・音楽など “サービス” 強化、見えてきた光明と課題
アップルの2018年10-12月期の決算内容を受け、株価が上がった。1月初旬の下方修正で明らかにしていた通り、iPhoneの売上げは前年同期比19%減と、うまくいっていない。同社にとってiPhoneは稼ぎ頭だが、買い換えが上手く進んでおらず、また中国などでは販売減少に直面している。
それにも関わらず株価が上がったのは、全体の売上が5%減にとどまり、市場予想を上回ったこと、そしてiPhone以外の分野が軒並み増収を記録したことが理由だ。
今回の決算発表から、アップルは製品分野ごとの販売台数や売上高を個別に開示することをやめた。今回発表された資料では、iPhone以外の製品やサービスを足し上げた売上は、前年比19%増となったという。またMacとウェアラブル、ホーム&アクセサリーも、合計するとこれまでの最高となった。iPadの売上も17%増えたとのことだ。
さらにサービス部門の売上はこれまでで最高の109億ドルとなり、こちらも前年比19%増という非常に良い結果だった。
このサービス分野こそ、アップルがいま、最も注力している分野だ。同社は以前から、2016年から2020年までに同分野の売上げを倍増させる計画を掲げてきたが、iPhoneの売上げ減を考えると、アップルとしては倍増と言わず、サービスでできるだけ多く稼ぎたいというのが本音だろう。
なおサービス分野には、アプリプラットフォーム、音楽配信、決済、そして今後アップルがさらに力を入れる映像配信などの各事業が含まれる。これらの事業について、現状と今後考えられる展開をまとめてみた。
●定額制音楽配信は堅調
決算発表のあとに行われたカンファレンスコールの中でティム・クック氏は、Apple Musicの会員数が5,000万を突破したことを発表した。ライバルのSpotifyは、statista社が調査したデータによると、2018年11月に8,700万人の有料登録者がいるというから、まだ開きはある。だがApple Musicがスタートしたのは2015年6月。わずか3年足らずで5,000万まで伸ばし、そのあいだのSpotifyの伸び率とも拮抗している。かなり善戦していると言って良いだろう。
さらにここに、アップル独自のヘッドホンやイヤホンと高度に統合したサービスが加わったら、さらに伸びは加速するはずだ。
●アップルはSVODのプラットフォームを目指すべき
そしてアップルは、映像配信事業のうち、オリジナルコンテンツの制作へ本格的に乗り出すことも発表した。だが、この分野は「どこまでやるか」のさじ加減が難しい。Netflixのように多額のコンテンツ制作投資を行うことも、アップルの財力があれば可能だろうが、いきなりそこまでアクセルを踏むだろうか。
量を作る財力はさておき、コンテンツの質も問題だ。とは言っても、アップルがクオリティの低いものを作ることを危惧しているわけではない。むしろ逆だ。
アップルがオリジナルコンテンツを作ったら、ハイコンテクストで良質で、おしゃれな動画が並びそうだ。一方でNetflixやAmazonで人気なのは、ゾンビを撃ち殺したり、人間同士が殺し合ったり、性愛をおもしろおかしく扱ったり、人間同士の心理的なマウント合戦を描いたりなど、俗なコンテンツが多い。そういったものをアップルが自社で作るかというとはなはだ疑問だし、個人的には作るべきでないと思う。
今後、ディズニーなど複数の会社が新たなSVODへ参入する。アップルもこの競争に正面から加わってトップを狙うより、むしろアップルは、大量のアクティブデバイスを抱えているというメリットをうまく活かして、多くのSVODに横串を挿したプラットフォームになることを目指すべきではないか。競争軸をうまくずらした方が良いと思うのだ。
アップル自身もニュースのキュレーションサービスを展開しているが、これを映像サービスに広げるようなイメージだ。各社のSVODコンテンツをアグリゲートすることができたら、ユーザーにとってもメリットとなるだろう。ただし、アップルはすでに米国で「TV」アプリを展開し、複数サービスを統合する方向を模索しているが、成功しているとは言いがたい。これを進化・発展させ、ユーザーにとって真に便利なサービスを提供して欲しいものだ。
とはいえ、Netflixのように、アップルの決済システムで取られる手数料を嫌い、いわゆる「アップル税」を回避しようという動きも少しずつ出て来ている。強いサービス事業者はかんたんにコンテンツを渡さないだろうが、中小サービスを束ねて、短期間に成長させることも可能だろう。
●App Storeは今後も安定した収益をもたらすだろう
アプリの手数料収入は、アップルに莫大な収益をもたらしているが、さきほど書いたように、一部の強いサービスが、アップル税を回避しようという動きを見せていることが少し気にかかる。
とはいえほとんどの会社にとって、App Storeをスルーすることは大きなチャレンジだ。よほどの大手でないと現実的ではなく、影響は軽微にとどまるだろう。定期的なアプリ内課金を積極的に推奨していることも売上げ増に寄与するはず。アップルは今後もApp Storeから安定的に手数料を得られそうだ。
また同社は「健康」を次のフォーカス領域に挙げている。同社製機器を組み合わせ、健康維持をアシストするようなサービスが(いまも存在するが)さらに強化されるのだろう。これはまだ詳細が明らかになっていないが、今後の発表が楽しみだ。
●「ハードとソフトとサービスの三輪」を今後も回していけるか?
ところで、同社がサービス部門を今後も拡大させていくためには、実際にそのサービスが使われるデバイスを増やすことが欠かせない。アップル製のアクティブなデバイスは、この第1四半期に14億台に達したとのことだが、これは過去、アップルがiPhoneを売りまくったからこそ実現した数字だ。今後iPhoneの販売台数が落ち続けたら、当然ながらサービス分野の売上げを伸ばすことは難しくなる。サービスに力を入れるのは良いのだが、ハードを売らなければ計画は絵に描いた餅になる。
そういったことも考えてのことか、いまアップルが行っているのが、「AirPlay 2」をサードパーティ製テレビへ開放する戦略だ。アップルはテレビを持っておらず、これで映像サービスを本格展開するのは無理だ。だからテレビメーカーと協力し、自社サービスを使える機器を必死に増やそうとしている。
昔はよく「ハードとソフトの両輪」と言ったものだが、これからのアップルは「ハードとソフトとサービスの三輪」をうまく回していかなければ、サービス分野の順調な成長に黄信号が点ることになるだろう。
それにも関わらず株価が上がったのは、全体の売上が5%減にとどまり、市場予想を上回ったこと、そしてiPhone以外の分野が軒並み増収を記録したことが理由だ。
今回の決算発表から、アップルは製品分野ごとの販売台数や売上高を個別に開示することをやめた。今回発表された資料では、iPhone以外の製品やサービスを足し上げた売上は、前年比19%増となったという。またMacとウェアラブル、ホーム&アクセサリーも、合計するとこれまでの最高となった。iPadの売上も17%増えたとのことだ。
さらにサービス部門の売上はこれまでで最高の109億ドルとなり、こちらも前年比19%増という非常に良い結果だった。
このサービス分野こそ、アップルがいま、最も注力している分野だ。同社は以前から、2016年から2020年までに同分野の売上げを倍増させる計画を掲げてきたが、iPhoneの売上げ減を考えると、アップルとしては倍増と言わず、サービスでできるだけ多く稼ぎたいというのが本音だろう。
なおサービス分野には、アプリプラットフォーム、音楽配信、決済、そして今後アップルがさらに力を入れる映像配信などの各事業が含まれる。これらの事業について、現状と今後考えられる展開をまとめてみた。
●定額制音楽配信は堅調
決算発表のあとに行われたカンファレンスコールの中でティム・クック氏は、Apple Musicの会員数が5,000万を突破したことを発表した。ライバルのSpotifyは、statista社が調査したデータによると、2018年11月に8,700万人の有料登録者がいるというから、まだ開きはある。だがApple Musicがスタートしたのは2015年6月。わずか3年足らずで5,000万まで伸ばし、そのあいだのSpotifyの伸び率とも拮抗している。かなり善戦していると言って良いだろう。
さらにここに、アップル独自のヘッドホンやイヤホンと高度に統合したサービスが加わったら、さらに伸びは加速するはずだ。
●アップルはSVODのプラットフォームを目指すべき
そしてアップルは、映像配信事業のうち、オリジナルコンテンツの制作へ本格的に乗り出すことも発表した。だが、この分野は「どこまでやるか」のさじ加減が難しい。Netflixのように多額のコンテンツ制作投資を行うことも、アップルの財力があれば可能だろうが、いきなりそこまでアクセルを踏むだろうか。
量を作る財力はさておき、コンテンツの質も問題だ。とは言っても、アップルがクオリティの低いものを作ることを危惧しているわけではない。むしろ逆だ。
アップルがオリジナルコンテンツを作ったら、ハイコンテクストで良質で、おしゃれな動画が並びそうだ。一方でNetflixやAmazonで人気なのは、ゾンビを撃ち殺したり、人間同士が殺し合ったり、性愛をおもしろおかしく扱ったり、人間同士の心理的なマウント合戦を描いたりなど、俗なコンテンツが多い。そういったものをアップルが自社で作るかというとはなはだ疑問だし、個人的には作るべきでないと思う。
今後、ディズニーなど複数の会社が新たなSVODへ参入する。アップルもこの競争に正面から加わってトップを狙うより、むしろアップルは、大量のアクティブデバイスを抱えているというメリットをうまく活かして、多くのSVODに横串を挿したプラットフォームになることを目指すべきではないか。競争軸をうまくずらした方が良いと思うのだ。
アップル自身もニュースのキュレーションサービスを展開しているが、これを映像サービスに広げるようなイメージだ。各社のSVODコンテンツをアグリゲートすることができたら、ユーザーにとってもメリットとなるだろう。ただし、アップルはすでに米国で「TV」アプリを展開し、複数サービスを統合する方向を模索しているが、成功しているとは言いがたい。これを進化・発展させ、ユーザーにとって真に便利なサービスを提供して欲しいものだ。
とはいえ、Netflixのように、アップルの決済システムで取られる手数料を嫌い、いわゆる「アップル税」を回避しようという動きも少しずつ出て来ている。強いサービス事業者はかんたんにコンテンツを渡さないだろうが、中小サービスを束ねて、短期間に成長させることも可能だろう。
●App Storeは今後も安定した収益をもたらすだろう
アプリの手数料収入は、アップルに莫大な収益をもたらしているが、さきほど書いたように、一部の強いサービスが、アップル税を回避しようという動きを見せていることが少し気にかかる。
とはいえほとんどの会社にとって、App Storeをスルーすることは大きなチャレンジだ。よほどの大手でないと現実的ではなく、影響は軽微にとどまるだろう。定期的なアプリ内課金を積極的に推奨していることも売上げ増に寄与するはず。アップルは今後もApp Storeから安定的に手数料を得られそうだ。
また同社は「健康」を次のフォーカス領域に挙げている。同社製機器を組み合わせ、健康維持をアシストするようなサービスが(いまも存在するが)さらに強化されるのだろう。これはまだ詳細が明らかになっていないが、今後の発表が楽しみだ。
●「ハードとソフトとサービスの三輪」を今後も回していけるか?
ところで、同社がサービス部門を今後も拡大させていくためには、実際にそのサービスが使われるデバイスを増やすことが欠かせない。アップル製のアクティブなデバイスは、この第1四半期に14億台に達したとのことだが、これは過去、アップルがiPhoneを売りまくったからこそ実現した数字だ。今後iPhoneの販売台数が落ち続けたら、当然ながらサービス分野の売上げを伸ばすことは難しくなる。サービスに力を入れるのは良いのだが、ハードを売らなければ計画は絵に描いた餅になる。
そういったことも考えてのことか、いまアップルが行っているのが、「AirPlay 2」をサードパーティ製テレビへ開放する戦略だ。アップルはテレビを持っておらず、これで映像サービスを本格展開するのは無理だ。だからテレビメーカーと協力し、自社サービスを使える機器を必死に増やそうとしている。
昔はよく「ハードとソフトの両輪」と言ったものだが、これからのアップルは「ハードとソフトとサービスの三輪」をうまく回していかなければ、サービス分野の順調な成長に黄信号が点ることになるだろう。