経済貢献は約56兆円
アップルから生まれる新ハード&サービスとは? 「AppStore経済圏」調査で高まる期待
アップルは、米国時間6月22日に始まる年次開発者会議「WWDC20」の開幕に先立ち、6月16日にApp Storeのエコシステムと世界の経済活動の関係について分析した研究調査結果を発表した。その内容は、今年のWWDCで発表されるかもしれないアップルのサービスやハードウェアと関連があるのだろうか。考察してみたいと思う。
■アップルがなぜ「AppStore経済圏」について強く言及したのか
今回アップルが発表した「AppStore経済圏」に関する研究調査は、 米国の調査コンサルティング企業であるAnalysis Groupの独立系エコノミストが実施したものだ。詳しいデータはアップルのウェブサイトに公開されている。
要約すると、アップルが運営するアプリダウンロードサービスであるApp Storeから直接購入されたアイテムに加えて、その周辺で間接的に発生した経済活動の売上高も足し上げると、2019年だけで合計5,190億ドル(約56兆円)規模にも上ることがわかったというものだ。
アップルでは以前からAppStore経済圏が及ぼす影響に着目してきたが、周辺を取り巻く経済活動にまで踏み込んだ調査は行ってこなかった。その大きさが、今回初めて外部機関が実施した調査データで明らかになった格好だ。
2008年にiOSデバイスのためのアプリマーケットとしてスタートしたApp Storeは、現在iPhone、iPadをはじめ、MacにApple TV、Apple Watchユーザーにまで、多様なアプリ・サービスを広く提供するプラットフォームとして機能している。厳しい審査を経てApp Storeに公開されるアプリの数は、サービス開始から12年目を迎える現時点で数百万に到達した。
アプリそのものが生み出す利益の外側に目を向けると、例えばApp Storeからダウンロードしたアプリのユーザーがオンライン経由で衣服や家具・雑貨を購入したり、旅行やフードデリバリーのサービスを利用したり、またはデジタル化された音源や書籍を購入する時に生まれる経済効果がある。それらの総額を “控えめ” に見積もったとしても、昨年だけで約56兆円の売上げがApp Storeを中心に動いたと、Analysis Groupのエコノミストはレポートの中で報告しているのだ。
本稿はそのデータの詳細に踏み込んで、内容の正当性を分析したり、コメントを加えることを目的としていないため、その点については割愛する。代わりに年間約56兆円というAppStore経済圏がもたらすインパクトを数値化し、WWDCの開幕直前にアップルが発表した理由を読み解こう。
■経済圏拡大の鍵を握る「デベロッパー」と「大義」
ひとつは、WWDCに注目するデベロッパーの意欲を鼓舞するためだと考えられる。現在全世界に広がるアップルの開発者コミュニティの規模は2,300万人を超え、なお膨れ上がっているという。大企業から、インディペンデントとして活躍する個人デベロッパまで、様々な規模や形態があるものと想像できるが、App Storeはこれまで彼ら・彼女たちによって生み出されたアプリの「質」にこだわってきたサービスであることも評価されるべきだろう。
ともかくアップルは「AppStore経済圏」という、これまで象徴的に語られてきたエコシステムを、より具体的な数値で示すことによって、現在活躍するデベロッパーや、これから開発を志す若い学生たちに積極的な参加を呼びかけることが、今回の発表をこのタイミングで行った目的と考えられる。
あるいは、今後アップルが同様の研究調査を定期的に実施し、AppStore経済圏が向かう方向性を戦略的に導き出そうとしていることの表明として、今回の発表内容を受け止めることもできそうだ。
プレスリリースの中でアップルは、今も多くの人々に深刻なダメージを与え続けている新型コロナウイルス感染症の影響に対し、急速なパラダイムチェンジを求められている世界経済を支える基盤のひとつとして、AppStore経済圏が果たせる役割と機能について言及している。
例えばモバイルコマースやリモートワーク、フィットネスなど人々の新たな生活スタイルが、iPhoneやiPadをはじめとするデジタルデバイスを中心にかたちづくられるとき、人々が期待するアプリやサービスを、App Storeがタイムリーに発信していく重要性が示唆されている。アップルがAppStore経済圏が向かうべき航路をより慎重に設計し、持続的な航海を実現するための効果測定に力を入れていくことは大事なミッションと言える。
現在もAppStoreでは、アップルのエディターが推薦するアプリのレコメンデーションを参照できるが、この機能を、ユーザーが目的別でアプリを検索したり、使いやすく実用的なインターフェースに進化させることも有効ではないだろうか。
■深まるOS間連携。アップルのスマートグラスに寄せる期待
アップルのデバイスを横断しながら同じアプリ体験をスムーズに共有できる環境設計も、スピードアップが求められるだろう。近年「iOS/iPadOSとmacOSの連携」が、WWDCのメインテーマのひとつとして定着しつつある。だが今のところ、ユーザーインターフェースの細かい使い勝手が異なっていたり、iPadでは使えるけれどMacには対応していないというアプリやサービスもまだ多くある。デベロッパーはより柔軟でリッチな開発環境を、ユーザーはデバイスを超えたシームレスなユーザー体験を、これからのアップルに期待している。
これまではゲーミング関連のトピックスとして受け止められることが多かった、アップルによるARのフレームワーク「ARKit」も、これからはバーチャルな経済活動や音楽ライブなどイベントを支援するためのテクノロジーとして、より大きな関心の目が向けられるだろう。アップルもARKitを幅広く展開する具体的な方策を示すかもしれない。
そして、拡張現実空間における新しいユーザーインターフェースを備え他デバイスとして、もしアップルが眼鏡型のスマートグラスを構想し、本格的な開発に着手しているのであれば、多くの人々にとって朗報になるはずだ。
今回のAppStore経済圏に関するアナウンスは、アップルがWWDC20で発表を予定している、何か大きなコンセプトやテクノロジーと深く結び付いているのではないかと、筆者は注目している。
■アップルがなぜ「AppStore経済圏」について強く言及したのか
今回アップルが発表した「AppStore経済圏」に関する研究調査は、 米国の調査コンサルティング企業であるAnalysis Groupの独立系エコノミストが実施したものだ。詳しいデータはアップルのウェブサイトに公開されている。
要約すると、アップルが運営するアプリダウンロードサービスであるApp Storeから直接購入されたアイテムに加えて、その周辺で間接的に発生した経済活動の売上高も足し上げると、2019年だけで合計5,190億ドル(約56兆円)規模にも上ることがわかったというものだ。
アップルでは以前からAppStore経済圏が及ぼす影響に着目してきたが、周辺を取り巻く経済活動にまで踏み込んだ調査は行ってこなかった。その大きさが、今回初めて外部機関が実施した調査データで明らかになった格好だ。
2008年にiOSデバイスのためのアプリマーケットとしてスタートしたApp Storeは、現在iPhone、iPadをはじめ、MacにApple TV、Apple Watchユーザーにまで、多様なアプリ・サービスを広く提供するプラットフォームとして機能している。厳しい審査を経てApp Storeに公開されるアプリの数は、サービス開始から12年目を迎える現時点で数百万に到達した。
アプリそのものが生み出す利益の外側に目を向けると、例えばApp Storeからダウンロードしたアプリのユーザーがオンライン経由で衣服や家具・雑貨を購入したり、旅行やフードデリバリーのサービスを利用したり、またはデジタル化された音源や書籍を購入する時に生まれる経済効果がある。それらの総額を “控えめ” に見積もったとしても、昨年だけで約56兆円の売上げがApp Storeを中心に動いたと、Analysis Groupのエコノミストはレポートの中で報告しているのだ。
本稿はそのデータの詳細に踏み込んで、内容の正当性を分析したり、コメントを加えることを目的としていないため、その点については割愛する。代わりに年間約56兆円というAppStore経済圏がもたらすインパクトを数値化し、WWDCの開幕直前にアップルが発表した理由を読み解こう。
■経済圏拡大の鍵を握る「デベロッパー」と「大義」
ひとつは、WWDCに注目するデベロッパーの意欲を鼓舞するためだと考えられる。現在全世界に広がるアップルの開発者コミュニティの規模は2,300万人を超え、なお膨れ上がっているという。大企業から、インディペンデントとして活躍する個人デベロッパまで、様々な規模や形態があるものと想像できるが、App Storeはこれまで彼ら・彼女たちによって生み出されたアプリの「質」にこだわってきたサービスであることも評価されるべきだろう。
ともかくアップルは「AppStore経済圏」という、これまで象徴的に語られてきたエコシステムを、より具体的な数値で示すことによって、現在活躍するデベロッパーや、これから開発を志す若い学生たちに積極的な参加を呼びかけることが、今回の発表をこのタイミングで行った目的と考えられる。
あるいは、今後アップルが同様の研究調査を定期的に実施し、AppStore経済圏が向かう方向性を戦略的に導き出そうとしていることの表明として、今回の発表内容を受け止めることもできそうだ。
プレスリリースの中でアップルは、今も多くの人々に深刻なダメージを与え続けている新型コロナウイルス感染症の影響に対し、急速なパラダイムチェンジを求められている世界経済を支える基盤のひとつとして、AppStore経済圏が果たせる役割と機能について言及している。
例えばモバイルコマースやリモートワーク、フィットネスなど人々の新たな生活スタイルが、iPhoneやiPadをはじめとするデジタルデバイスを中心にかたちづくられるとき、人々が期待するアプリやサービスを、App Storeがタイムリーに発信していく重要性が示唆されている。アップルがAppStore経済圏が向かうべき航路をより慎重に設計し、持続的な航海を実現するための効果測定に力を入れていくことは大事なミッションと言える。
現在もAppStoreでは、アップルのエディターが推薦するアプリのレコメンデーションを参照できるが、この機能を、ユーザーが目的別でアプリを検索したり、使いやすく実用的なインターフェースに進化させることも有効ではないだろうか。
■深まるOS間連携。アップルのスマートグラスに寄せる期待
アップルのデバイスを横断しながら同じアプリ体験をスムーズに共有できる環境設計も、スピードアップが求められるだろう。近年「iOS/iPadOSとmacOSの連携」が、WWDCのメインテーマのひとつとして定着しつつある。だが今のところ、ユーザーインターフェースの細かい使い勝手が異なっていたり、iPadでは使えるけれどMacには対応していないというアプリやサービスもまだ多くある。デベロッパーはより柔軟でリッチな開発環境を、ユーザーはデバイスを超えたシームレスなユーザー体験を、これからのアップルに期待している。
これまではゲーミング関連のトピックスとして受け止められることが多かった、アップルによるARのフレームワーク「ARKit」も、これからはバーチャルな経済活動や音楽ライブなどイベントを支援するためのテクノロジーとして、より大きな関心の目が向けられるだろう。アップルもARKitを幅広く展開する具体的な方策を示すかもしれない。
そして、拡張現実空間における新しいユーザーインターフェースを備え他デバイスとして、もしアップルが眼鏡型のスマートグラスを構想し、本格的な開発に着手しているのであれば、多くの人々にとって朗報になるはずだ。
今回のAppStore経済圏に関するアナウンスは、アップルがWWDC20で発表を予定している、何か大きなコンセプトやテクノロジーと深く結び付いているのではないかと、筆者は注目している。