【連載】佐野正弘のITインサイト 第14回
大幅値上げで“iPhone大好き”日本人のマインドはどう変わる?
ロシアによるウクライナ侵攻以降、急加速している円安。わずか半年のうちに1ドル当たり110円台から、130円台にまで急速に円安が進んだことから、その影響は輸入が多い商品に大きく影響。食品や日用品など、さまざまな品の値上がり報道が相次いでいることは多くの人がご存知かと思うが、その影響がスマートフォンにも現れたようだ。
それを明確に示したのが2022年7月1日、アップルの「iPhone」の直販価格が突如大幅に値上がりしたこと。値上げは全機種に及び、その幅には機種によって差はあるものの、最も値上げ幅が小さい「iPhone SE(第3世代)」の64GBモデルで5,000円(5万7,800円→6万2,800円)、最も大きい「iPhone 13 Pro Max」の1TBモデルで4万円(19万4,800円→23万4,800円)と、相当な割合の値上げとなった。
この値上げが何より大きな驚きをもたらしたのは、新機種ではなく、現行のモデルが対象だったということだろう。
新製品を発売するタイミングで為替の変動を反映し、値上げまたは値下げするというケースはよくあるのだが、現行の製品を突如値上げするというのはあまり例がない。
もちろん値上げをすればそれだけ販売が落ちることから、メーカーとしても値上げは避けたいところだろうが、円安の進行があまりに急だったため、アップルも値上げに踏み切らざるを得なかったのだろう。
そしてアップルの値上げに合わせるかたちで、ここ数日にわたって携帯4社がiPhoneの値上げを相次いで発表。消費者からしてみれば、短期間の値上げでiPhoneが急速に買いづらくなってしまったのは確かだろう。
だが円安傾向が今後も続くのであれば、今回のiPhoneの値上げは序章に過ぎず、影響が本格化するのはむしろこれからであろう。言うまでもなく、今後発売されるであろうiPhone新機種のことだ。
例年通りであれば、2022年もiPhoneの新機種が秋頃に発表されると考えられるが、その頃まで現在の円安が続いていれば、例年以上にiPhoneの価格が高額になることが予想される。
しかも例年通りの周期であれば、今年はiPhoneのリニューアルが図られるタイミングでもある。そうなれば一層機能が向上する分、高額化が進む可能性が出てくる。
もちろん日本の場合、iPhoneを販売する携帯電話会社が、長期間の割賦を組んで端末を購入し、途中で返却することで残債の支払いが不要、あるいは軽減されるという、いわゆる端末購入プログラムなどによって、高額な端末を安価に購入できる仕組みが整っている。このため、携帯電話会社経由で購入することにより、消費者が新iPhoneを利用するのに負担する費用を、ある程度減らすことはできるだろう。
ただ、通信契約に伴う端末値引きは電気通信事業法で規制が行われているし、携帯各社は政府の携帯料金引き下げによって利益を大幅に減らしている一方、やはり政府から5Gの地方におけるエリア拡大に向けた投資が求められるなど、経営面で非常に難しい状況にある。
加えて、大手の一角を占めるKDDIが、2022年7月2日から数日間にわたって大規模な通信障害を起こしており、今後の賠償などを考えると、新iPhoneの値引きに回す資金をどこまで出せるのか、という懸念も出てくる。
そうしたことから、携帯電話会社の値引きだけで、円安で高くなった新iPhoneのコストを吸収するのも難しい。ただでさえ政府の端末値引き規制でスマートフォンの価格が急上昇している昨今、そこに円安が加わることで、新iPhoneは非常に買いづらくなることは間違いないだろう。
そしてこの円安トレンドが今後も続くようであれば、iPhoneを巡る消費者のマインドも大きく変わる可能性があると筆者は見ている。
日本はiPhoneのシェアが非常に高い“iPhone大国”だが、そこまでのシェアを獲得できたことには、かつて携帯電話会社同士でiPhoneの値引き販売合戦が激化したことが非常に大きく影響している。
携帯各社がiPhoneを他のスマートフォンより優遇して値引き販売し、「最も安く買えるスマートフォンがiPhone」という状況が長く続いたからこそ、iPhoneの人気が定着したわけだ。
だが政府の端末値引き規制に円安が加わり、iPhoneを安く買い続けられる環境は着実に失われつつある。それはすなわち、日本のユーザーが価格面でiPhoneを使い続けるのが難しくなりつつあることを意味しており、どこかのタイミングでiPhone離れが起きてもおかしくない時期が訪れつつあるともいえる。
むろんiPhoneは、他のスマートフォンとは違い独自のOSやアプリプラットフォームを採用しており、その満足度もかなり高いことから、iPhoneに慣れた人が他のスマートフォンに乗り換えるハードルは非常に高い。だがiPhoneが購入できないほど高額化してしまえば、そうも言っていられなくなるだろう。円安トレンドが長く続くほど、iPhone一辺倒という時期が長く続いた日本のスマートフォン市場も、徐々に変化を見せることになるかもしれない。
ただ実はiPhone以前にも、既に円安がスマートフォンの価格に影響する事象がいくつか起きていたことも知っておくべきだ。例えばNLNテクノロジーが販売している、中国Nubia Technology製のゲーミングスマートフォン「REDMAGIC 7」は、2022年4月の発売時の価格は9万1,000円からだったものが、2022年5月には9万9,000円から、2022年6月には10万6,260円からと、わずか2カ月のうちに2度も値上げが行われた。
また以前に触れたXiaomi(シャオミ)の「POCO F4 GT」は、現在の円安相場を反映して7万4,800円からという価格に設定したとのこと。もし円安がここまで進んでいなければ、より安い価格で販売された可能性もあったわけだ。
そうしたことから、円安トレンドが他のスマートフォンメーカーにとっても値上げ要因となり、ビジネスが厳しいものになっている様子が見えてくる。
消費者の低価格志向が強まることで、低価格帯に強みを持つメーカーの優位性が高まることは間違いないが、その低価格モデルも円安の影響で、従来より値段を上げて販売しなければならなくなっているのは悩ましいところだ。
現在は世界的に政情が非常に不安定で、為替もいつ大きく変動するか分からず、先を読むのは非常に難しい。円安トレンドもいつまで続くか分からない。こういった状況に、どのメーカーも頭を抱えていることだけは確かといえそうだ。
それを明確に示したのが2022年7月1日、アップルの「iPhone」の直販価格が突如大幅に値上がりしたこと。値上げは全機種に及び、その幅には機種によって差はあるものの、最も値上げ幅が小さい「iPhone SE(第3世代)」の64GBモデルで5,000円(5万7,800円→6万2,800円)、最も大きい「iPhone 13 Pro Max」の1TBモデルで4万円(19万4,800円→23万4,800円)と、相当な割合の値上げとなった。
突如実施された、iPhone現行品の値上げ
この値上げが何より大きな驚きをもたらしたのは、新機種ではなく、現行のモデルが対象だったということだろう。
新製品を発売するタイミングで為替の変動を反映し、値上げまたは値下げするというケースはよくあるのだが、現行の製品を突如値上げするというのはあまり例がない。
もちろん値上げをすればそれだけ販売が落ちることから、メーカーとしても値上げは避けたいところだろうが、円安の進行があまりに急だったため、アップルも値上げに踏み切らざるを得なかったのだろう。
そしてアップルの値上げに合わせるかたちで、ここ数日にわたって携帯4社がiPhoneの値上げを相次いで発表。消費者からしてみれば、短期間の値上げでiPhoneが急速に買いづらくなってしまったのは確かだろう。
だが円安傾向が今後も続くのであれば、今回のiPhoneの値上げは序章に過ぎず、影響が本格化するのはむしろこれからであろう。言うまでもなく、今後発売されるであろうiPhone新機種のことだ。
例年通りであれば、2022年もiPhoneの新機種が秋頃に発表されると考えられるが、その頃まで現在の円安が続いていれば、例年以上にiPhoneの価格が高額になることが予想される。
しかも例年通りの周期であれば、今年はiPhoneのリニューアルが図られるタイミングでもある。そうなれば一層機能が向上する分、高額化が進む可能性が出てくる。
もちろん日本の場合、iPhoneを販売する携帯電話会社が、長期間の割賦を組んで端末を購入し、途中で返却することで残債の支払いが不要、あるいは軽減されるという、いわゆる端末購入プログラムなどによって、高額な端末を安価に購入できる仕組みが整っている。このため、携帯電話会社経由で購入することにより、消費者が新iPhoneを利用するのに負担する費用を、ある程度減らすことはできるだろう。
ただ、通信契約に伴う端末値引きは電気通信事業法で規制が行われているし、携帯各社は政府の携帯料金引き下げによって利益を大幅に減らしている一方、やはり政府から5Gの地方におけるエリア拡大に向けた投資が求められるなど、経営面で非常に難しい状況にある。
加えて、大手の一角を占めるKDDIが、2022年7月2日から数日間にわたって大規模な通信障害を起こしており、今後の賠償などを考えると、新iPhoneの値引きに回す資金をどこまで出せるのか、という懸念も出てくる。
大幅値上げによって懸念される、日本の“iPhone離れ”
そうしたことから、携帯電話会社の値引きだけで、円安で高くなった新iPhoneのコストを吸収するのも難しい。ただでさえ政府の端末値引き規制でスマートフォンの価格が急上昇している昨今、そこに円安が加わることで、新iPhoneは非常に買いづらくなることは間違いないだろう。
そしてこの円安トレンドが今後も続くようであれば、iPhoneを巡る消費者のマインドも大きく変わる可能性があると筆者は見ている。
日本はiPhoneのシェアが非常に高い“iPhone大国”だが、そこまでのシェアを獲得できたことには、かつて携帯電話会社同士でiPhoneの値引き販売合戦が激化したことが非常に大きく影響している。
携帯各社がiPhoneを他のスマートフォンより優遇して値引き販売し、「最も安く買えるスマートフォンがiPhone」という状況が長く続いたからこそ、iPhoneの人気が定着したわけだ。
だが政府の端末値引き規制に円安が加わり、iPhoneを安く買い続けられる環境は着実に失われつつある。それはすなわち、日本のユーザーが価格面でiPhoneを使い続けるのが難しくなりつつあることを意味しており、どこかのタイミングでiPhone離れが起きてもおかしくない時期が訪れつつあるともいえる。
むろんiPhoneは、他のスマートフォンとは違い独自のOSやアプリプラットフォームを採用しており、その満足度もかなり高いことから、iPhoneに慣れた人が他のスマートフォンに乗り換えるハードルは非常に高い。だがiPhoneが購入できないほど高額化してしまえば、そうも言っていられなくなるだろう。円安トレンドが長く続くほど、iPhone一辺倒という時期が長く続いた日本のスマートフォン市場も、徐々に変化を見せることになるかもしれない。
ただ実はiPhone以前にも、既に円安がスマートフォンの価格に影響する事象がいくつか起きていたことも知っておくべきだ。例えばNLNテクノロジーが販売している、中国Nubia Technology製のゲーミングスマートフォン「REDMAGIC 7」は、2022年4月の発売時の価格は9万1,000円からだったものが、2022年5月には9万9,000円から、2022年6月には10万6,260円からと、わずか2カ月のうちに2度も値上げが行われた。
また以前に触れたXiaomi(シャオミ)の「POCO F4 GT」は、現在の円安相場を反映して7万4,800円からという価格に設定したとのこと。もし円安がここまで進んでいなければ、より安い価格で販売された可能性もあったわけだ。
そうしたことから、円安トレンドが他のスマートフォンメーカーにとっても値上げ要因となり、ビジネスが厳しいものになっている様子が見えてくる。
消費者の低価格志向が強まることで、低価格帯に強みを持つメーカーの優位性が高まることは間違いないが、その低価格モデルも円安の影響で、従来より値段を上げて販売しなければならなくなっているのは悩ましいところだ。
現在は世界的に政情が非常に不安定で、為替もいつ大きく変動するか分からず、先を読むのは非常に難しい。円安トレンドもいつまで続くか分からない。こういった状況に、どのメーカーも頭を抱えていることだけは確かといえそうだ。