【連載】佐野正弘のITインサイト 第20回
ARグラス「Nreal Air」がiPhoneで利用可能に。大きな一歩だが課題も【Gadget Gate】
AR(拡張現実)が注目を集めて以降、登場が期待されていた眼鏡型のARデバイス「ARグラス」。実用的なサイズのARグラスがなかなか登場せず、普及が進んでいないが、最近になってようやく、現実的なサイズ感で利用できるARグラスが登場しつつある。
国内でその代表例となっているのが、中国のNrealが提供するARグラスであろう。同社のARグラスが日本で投入されたのは2019年の「Nreal Light」だが、その後2021年に、機能をそぎ落としてより軽量・コンパクトさを実現した「Nreal Air」が一般販売されたことをきっかけに注目を集めることとなった。
Nreal Airは約79gという軽さと、大きめのサングラスといった程度のサイズ感を実現したARグラスで、単体での利用はできず、スマートフォンなどに接続するかたちを取っている。ただしその分、サイズが大きいバッテリーや電力消費が大きいCPUなどを搭載する必要がなく、それが小型軽量化を実現できた大きな要因の1つとなっている。
とはいえ先にも触れた通り、Nreal Lightと比べると加速度センサーが6軸から3軸に減らされていることから、認識できるのは頭の動きくらいなので、本格的なARコンテンツの利用は難しい。そこでNreal Airは、ARコンテンツを利用するというよりも、動画やWebサイトなどを大画面で利用できることに主眼を置いた設計となっている。
Nreal Airで利用できるのは、1つは接続したスマートフォンなどの画面をそのまま映し出す「Air Casting」と、もう1つは、AR空間上に複数のアプリやウィンドウを並べて表示できる「AR Space」だ。前者はスマートフォンなどの画面をそのまま出力するだけだし、後者も複数のウィンドウが開けるとはいえ、その利用はWebサイトの閲覧やYouTubeなどの動画視聴が主となっている。
ただ、眼鏡型というデバイスの性格上、大きさが利用のしやすさに直結してくるのは確かだ。それだけに、機能を割り切って装着しやすいサイズ感に仕上げ、なおかつ価格も4万円前後と安くはないまでも、テクノロジーに興味のある人達が許容しやすい価格帯を実現したことが、Nreal Airが好評を得た要因となっているわけだ。
ただ、Nreal Airを利用する上で課題は少なからずあり、その代表例がiPhoneで利用ができないことだ。Nreal Airは、USB Type-C端子でスマートフォンなどと接続するかたちが取られている上、対応する機種も一部のAndroidスマートフォンのハイエンドモデルに限定されており、専用アプリ「Nebula」もAndroid版しか用意されていない。
しかしながら、日本ではiPhoneのシェアが非常に高く、Nreal Airに対応するハイエンドAndroidスマートフォンの利用者はかなり少ない。一方で、NrealがNreal Airを販売したのは日本が世界で最初であり、Airを販売し、携帯大手3社や大手家電量販店にまで販路を広げるなど、日本市場の開拓にかなり力を入れている。
そんな中、同社が今回新たに発表したのが「Nreal Adapter」という周辺機器である。これは、HDMI端子に接続したデバイスの映像をNreal Airに出力できるようにするデバイスで、ゲーム機などさまざまな機器の映像を出力できることが特徴なのだが、最大のポイントはNreal AirをiPhoneで利用できるようにすることに主眼が置かれていること。実際Nreal Adapterは、アップルの「Lightning – Digital AVアダプタ」をぴったり装着できるサイズに設計されている。
Nreal Adapterの提供で、Nreal AirがiPhoneで利用できるようになったことは、iPhoneユーザー、そしてNrealのビジネスを考えてもメリットは大きいといえるが、このNreal Adapterを装着した場合、Nreal Airの機能をフルに発揮できるわけではないことも覚えておく必要がある。
というのもNreal Adapterは、接続したデバイスの画面をそのまま映し出すAir Castingにしか対応しておらず、Androidデバイスを接続した時に使えるAR Spaceが利用できないのだ。
それに加えて、Nreal Adapterは8,980円、Lightning – Digital AVアダプタはアップルのオンラインショップの価格で7,980円となっている。iPhoneユーザーがNreal Airを利用するのに、追加で1万5,000円以上の出費が求められる上に機能が制限されるというのは、購入する側の立場からすると非常に悩ましい。
であれば、iPhoneにNreal Airを直接接続して利用できるよう、ハードやアプリの対応を進めて欲しいところでもある。実際Nrealは今回の発表で、今後macOS版のNebulaアプリを2022年9月中に提供し、MacでNreal Airをフル活用できるようにするほか、Windowsに関しても「全ての機種に対応させるのは困難」としながらも、いくつかの機種への対応を目指し、開発を進めていることが明らかにされている。
では、iOS版についてはどうなのか。Nrealの日本法人である日本Nrealのマーケティングマネージャーである下高原沙也佳氏によれば、iOS版はアップル側の技術的制約などもあって、開発がなかなか進めづらい状況なのだという。
それに加えて、iPhoneユーザーが過半数を占める国が日本だけという事情も開発に影響しているそうで、世界的に主流であるAndroidを優先しているため、iOS向けの開発投資は足踏みしている状況とのことだ。
筆者の周辺を見ると、Nreal Airを購入したという人の多くはAR Spaceを使っておらず、Air Castingでスマートフォンやパソコンなどを大画面で見ているという人がほとんどで、そうした現状を考慮すると「Nreal Adapterを提供すれば十分」というのが正直なところなのかもしれない。だが今後、Nreal Airを軸としてARの利用拡大を広げていくことを考えると、やはりAR Spaceへの対応も欠かせなくなってくるだろう。
そうした将来を考えると、iOSへの対応は避けられないように感じるし、もしそれを避けるのであれば、VRゴーグルの「Meta Quest 2」のように独立したARデバイスとして展開し、独自OSやプラットフォームを搭載することも視野に入れる必要が出てくるだろう。
同社が今後どのような選択を取るのかは、AR市場の今後を占う上でも、重要なポイントになってくるといえそうだ。
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」のオリジナル記事を読む
国内でその代表例となっているのが、中国のNrealが提供するARグラスであろう。同社のARグラスが日本で投入されたのは2019年の「Nreal Light」だが、その後2021年に、機能をそぎ落としてより軽量・コンパクトさを実現した「Nreal Air」が一般販売されたことをきっかけに注目を集めることとなった。
軽量・コンパクトなARグラス「Nreal Air」
Nreal Airは約79gという軽さと、大きめのサングラスといった程度のサイズ感を実現したARグラスで、単体での利用はできず、スマートフォンなどに接続するかたちを取っている。ただしその分、サイズが大きいバッテリーや電力消費が大きいCPUなどを搭載する必要がなく、それが小型軽量化を実現できた大きな要因の1つとなっている。
とはいえ先にも触れた通り、Nreal Lightと比べると加速度センサーが6軸から3軸に減らされていることから、認識できるのは頭の動きくらいなので、本格的なARコンテンツの利用は難しい。そこでNreal Airは、ARコンテンツを利用するというよりも、動画やWebサイトなどを大画面で利用できることに主眼を置いた設計となっている。
Nreal Airで利用できるのは、1つは接続したスマートフォンなどの画面をそのまま映し出す「Air Casting」と、もう1つは、AR空間上に複数のアプリやウィンドウを並べて表示できる「AR Space」だ。前者はスマートフォンなどの画面をそのまま出力するだけだし、後者も複数のウィンドウが開けるとはいえ、その利用はWebサイトの閲覧やYouTubeなどの動画視聴が主となっている。
ただ、眼鏡型というデバイスの性格上、大きさが利用のしやすさに直結してくるのは確かだ。それだけに、機能を割り切って装着しやすいサイズ感に仕上げ、なおかつ価格も4万円前後と安くはないまでも、テクノロジーに興味のある人達が許容しやすい価格帯を実現したことが、Nreal Airが好評を得た要因となっているわけだ。
ただ、Nreal Airを利用する上で課題は少なからずあり、その代表例がiPhoneで利用ができないことだ。Nreal Airは、USB Type-C端子でスマートフォンなどと接続するかたちが取られている上、対応する機種も一部のAndroidスマートフォンのハイエンドモデルに限定されており、専用アプリ「Nebula」もAndroid版しか用意されていない。
しかしながら、日本ではiPhoneのシェアが非常に高く、Nreal Airに対応するハイエンドAndroidスマートフォンの利用者はかなり少ない。一方で、NrealがNreal Airを販売したのは日本が世界で最初であり、Airを販売し、携帯大手3社や大手家電量販店にまで販路を広げるなど、日本市場の開拓にかなり力を入れている。
新たに発表された専用アダプター「Nreal Adapter」
そんな中、同社が今回新たに発表したのが「Nreal Adapter」という周辺機器である。これは、HDMI端子に接続したデバイスの映像をNreal Airに出力できるようにするデバイスで、ゲーム機などさまざまな機器の映像を出力できることが特徴なのだが、最大のポイントはNreal AirをiPhoneで利用できるようにすることに主眼が置かれていること。実際Nreal Adapterは、アップルの「Lightning – Digital AVアダプタ」をぴったり装着できるサイズに設計されている。
Nreal Adapterの提供で、Nreal AirがiPhoneで利用できるようになったことは、iPhoneユーザー、そしてNrealのビジネスを考えてもメリットは大きいといえるが、このNreal Adapterを装着した場合、Nreal Airの機能をフルに発揮できるわけではないことも覚えておく必要がある。
というのもNreal Adapterは、接続したデバイスの画面をそのまま映し出すAir Castingにしか対応しておらず、Androidデバイスを接続した時に使えるAR Spaceが利用できないのだ。
それに加えて、Nreal Adapterは8,980円、Lightning – Digital AVアダプタはアップルのオンラインショップの価格で7,980円となっている。iPhoneユーザーがNreal Airを利用するのに、追加で1万5,000円以上の出費が求められる上に機能が制限されるというのは、購入する側の立場からすると非常に悩ましい。
今後注目されるiOSへの対応
であれば、iPhoneにNreal Airを直接接続して利用できるよう、ハードやアプリの対応を進めて欲しいところでもある。実際Nrealは今回の発表で、今後macOS版のNebulaアプリを2022年9月中に提供し、MacでNreal Airをフル活用できるようにするほか、Windowsに関しても「全ての機種に対応させるのは困難」としながらも、いくつかの機種への対応を目指し、開発を進めていることが明らかにされている。
では、iOS版についてはどうなのか。Nrealの日本法人である日本Nrealのマーケティングマネージャーである下高原沙也佳氏によれば、iOS版はアップル側の技術的制約などもあって、開発がなかなか進めづらい状況なのだという。
それに加えて、iPhoneユーザーが過半数を占める国が日本だけという事情も開発に影響しているそうで、世界的に主流であるAndroidを優先しているため、iOS向けの開発投資は足踏みしている状況とのことだ。
筆者の周辺を見ると、Nreal Airを購入したという人の多くはAR Spaceを使っておらず、Air Castingでスマートフォンやパソコンなどを大画面で見ているという人がほとんどで、そうした現状を考慮すると「Nreal Adapterを提供すれば十分」というのが正直なところなのかもしれない。だが今後、Nreal Airを軸としてARの利用拡大を広げていくことを考えると、やはりAR Spaceへの対応も欠かせなくなってくるだろう。
そうした将来を考えると、iOSへの対応は避けられないように感じるし、もしそれを避けるのであれば、VRゴーグルの「Meta Quest 2」のように独立したARデバイスとして展開し、独自OSやプラットフォームを搭載することも視野に入れる必要が出てくるだろう。
同社が今後どのような選択を取るのかは、AR市場の今後を占う上でも、重要なポイントになってくるといえそうだ。
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」のオリジナル記事を読む