【連載】佐野正弘のITインサイト 第19回
「月額0円」廃止で純減に転じた楽天モバイル、回復に向けた策は【Gadget Gate】
今年7月に導入した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」にて、「月額0円」で利用できる仕組みを廃止し、大きな波紋を呼んだ楽天モバイル。月額0円は非常に好評だっただけに、5月の新料金プラン発表直後から楽天モバイルに失望するユーザーが続出、他社サービスに乗り換える動きが急加速したことは記憶に新しい。
では実際のところ、月額0円廃止は楽天モバイルにどのような影響を与えているのだろうか。同社の親会社である楽天グループが、8月10日に実施した決算説明会でさまざまな数値が明らかとなったので、まずはそちらから確認していきたい。
まず最も気になるのは、月額0円の廃止によって他社に移ったユーザーがどれくらいいたのか?ということだ。先の決算説明会によると、2022年6月時点における楽天モバイルの契約数は546万だが、このうちMVNOとして提供しているサービスの契約数が69万となることから、携帯電話事業としての楽天モバイルの契約数は477万となる。
楽天モバイルは、4月に携帯電話事業の契約数が500万に達したとしていただけに、その時から比べると20万以上契約数が減っていることが分かる。ただ、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、決算説明会で月額0円廃止の影響を除くと契約数が30%伸びたと話していることから、その増加分を考慮すればより一層多くの解約が生じたと考えられよう。
また三木谷氏は、解約者のうち8割が月額0円で利用していたユーザーであったとも話している。楽天モバイルが月額0円施策を廃止したのは、赤字が続く収益の改善が主な目的であるだけに、月額0円で利用していたユーザーが減り、お金を払ってくれるユーザーに入れ替わっていることはメリットと捉えているようだ。
確かに月額0円廃止の影響などもあってか、楽天モバイルを主とした楽天グループのモバイルセグメントの営業利益を見ると、2022年4〜6月期の3ヶ月間の赤字は、同年1〜3月期と比べ赤字幅が減少している。新料金プランへと移行する次の3ヶ月には、課金対象のユーザーが増え、さらなる収益改善が期待されるのは確かだろう。
ただ、月額0円の廃止が楽天モバイルにとってマイナスに働いた部分も少なからずある。その1つは、他社への顧客流出である。実際、楽天グループと同時期に実施された競合他社の決算説明会では、楽天モバイルからの顧客流入で契約数が増えているとの声が相次いで聞こえてきた。
実際KDDIは、通信障害発生前まで同じく月額0円から利用できる「povo 2.0」の契約が大きく伸びていたとしているし、ソフトバンクもサブブランドの「ワイモバイル」だけでなく、不調が続いていたオンライン専用プラン「LINEMO」の契約が大きく伸びるなど、純増数が大きく伸びたという。またNTTドコモの親会社である日本電信電話(NTT)も、楽天モバイルの影響かどうかは分からないとしながらも、この3ヶ月間の番号ポータビリティによる転入は純増に転じたとのことだ。
しかも、顧客が流出したサービスの多くは有料であるし、povo 2.0も月額0円では維持し続けられず、何らかの形で料金を支払う必要がある。つまり、楽天モバイルから流出した月額0円ユーザーが、他社に移ってお金を払うようになったわけで、月額0円で利用され続けた楽天モバイルとしては痛しかゆしの部分があるのは確かだろう。
ただ、既に月額0円施策は終了してしまっており、その緩和策として実施されているキャッシュバックやポイント還元など、実質月額0円で利用できる施策も10月末には終了する予定だ。それゆえ楽天モバイルは今後、完全有料化に向けさらにまい進していくことになるのだが、その過程でさらなる顧客流出が起きる可能性も十分考えられる。
三木谷氏によると、解約数は月額0円廃止の発表後から大幅に増えたが、新料金プラン移行直前の6月末でピークを迎えており、足元の解約数は減少傾向にあることから、今後解約は落ち着くと見ているようだ。ただ、緩和策の終了まで顧客の動きは見えない部分もあるだけに、引き続き動向を注視する必要はあるとしている。
そしてもう1つ、気になるのは月額0円という武器を失った楽天モバイルの、契約獲得に向けた施策である。KDDIの通信障害でバックアップ用のサブ回線が注目されるようになったが、Rakuten UN-LIMIT VIIはサブ回線として見た場合、税込で1,000円を超えてしまうため、より安価に利用できるpovo 2.0やLINEMO、そしてMVNOの低価格サービスなどと比べると分が悪い。
それだけに楽天モバイルは、やはり収益性が高いメイン回線として利用するユーザーの獲得に今まで以上に力を注ぐものと考えられる。そこで課題になってくるのは、やはり大手3社に劣るエリアカバーだ。三木谷氏も今回の決算において、人口カバー率と契約申し込み数には相関関係があることを明らかにしており、今後はさらなるエリア拡大によって、都市部だけでなく地方でも契約数を伸ばしていきたい考えのようだ。
実際楽天モバイルは、2023年中に4Gの基地局を6万にまで増やし、2022年6月末時点で97.6%の人口カバー率を99%超にまで拡大していきたいとしている。それと同時にマーケティング施策も全国一律ではなく、より地域毎の獲得を重視するかたちへと変更していくとのことだ。
月額0円のような“飛び道具”に頼るのではなく、地道にエリアを広げて契約数を増やすという正攻法の戦略に切り替えたことはポジティブに評価できる。しかし、プラチナバンドを獲得できていない中、効率よくエリアを広げて大手3社に遜色ないエリアを構築できるのか?という点においては未知数だ。
楽天モバイルの成否を握るのは、やはりサービス開始当初から課題とされてきたエリア拡大ということになりそうだ。
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では実際のところ、月額0円廃止は楽天モバイルにどのような影響を与えているのだろうか。同社の親会社である楽天グループが、8月10日に実施した決算説明会でさまざまな数値が明らかとなったので、まずはそちらから確認していきたい。
注目された契約数の推移
まず最も気になるのは、月額0円の廃止によって他社に移ったユーザーがどれくらいいたのか?ということだ。先の決算説明会によると、2022年6月時点における楽天モバイルの契約数は546万だが、このうちMVNOとして提供しているサービスの契約数が69万となることから、携帯電話事業としての楽天モバイルの契約数は477万となる。
楽天モバイルは、4月に携帯電話事業の契約数が500万に達したとしていただけに、その時から比べると20万以上契約数が減っていることが分かる。ただ、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、決算説明会で月額0円廃止の影響を除くと契約数が30%伸びたと話していることから、その増加分を考慮すればより一層多くの解約が生じたと考えられよう。
また三木谷氏は、解約者のうち8割が月額0円で利用していたユーザーであったとも話している。楽天モバイルが月額0円施策を廃止したのは、赤字が続く収益の改善が主な目的であるだけに、月額0円で利用していたユーザーが減り、お金を払ってくれるユーザーに入れ替わっていることはメリットと捉えているようだ。
確かに月額0円廃止の影響などもあってか、楽天モバイルを主とした楽天グループのモバイルセグメントの営業利益を見ると、2022年4〜6月期の3ヶ月間の赤字は、同年1〜3月期と比べ赤字幅が減少している。新料金プランへと移行する次の3ヶ月には、課金対象のユーザーが増え、さらなる収益改善が期待されるのは確かだろう。
「月額0円」廃止で生じたマイナス面
ただ、月額0円の廃止が楽天モバイルにとってマイナスに働いた部分も少なからずある。その1つは、他社への顧客流出である。実際、楽天グループと同時期に実施された競合他社の決算説明会では、楽天モバイルからの顧客流入で契約数が増えているとの声が相次いで聞こえてきた。
実際KDDIは、通信障害発生前まで同じく月額0円から利用できる「povo 2.0」の契約が大きく伸びていたとしているし、ソフトバンクもサブブランドの「ワイモバイル」だけでなく、不調が続いていたオンライン専用プラン「LINEMO」の契約が大きく伸びるなど、純増数が大きく伸びたという。またNTTドコモの親会社である日本電信電話(NTT)も、楽天モバイルの影響かどうかは分からないとしながらも、この3ヶ月間の番号ポータビリティによる転入は純増に転じたとのことだ。
しかも、顧客が流出したサービスの多くは有料であるし、povo 2.0も月額0円では維持し続けられず、何らかの形で料金を支払う必要がある。つまり、楽天モバイルから流出した月額0円ユーザーが、他社に移ってお金を払うようになったわけで、月額0円で利用され続けた楽天モバイルとしては痛しかゆしの部分があるのは確かだろう。
ただ、既に月額0円施策は終了してしまっており、その緩和策として実施されているキャッシュバックやポイント還元など、実質月額0円で利用できる施策も10月末には終了する予定だ。それゆえ楽天モバイルは今後、完全有料化に向けさらにまい進していくことになるのだが、その過程でさらなる顧客流出が起きる可能性も十分考えられる。
三木谷氏によると、解約数は月額0円廃止の発表後から大幅に増えたが、新料金プラン移行直前の6月末でピークを迎えており、足元の解約数は減少傾向にあることから、今後解約は落ち着くと見ているようだ。ただ、緩和策の終了まで顧客の動きは見えない部分もあるだけに、引き続き動向を注視する必要はあるとしている。
さらなるユーザー獲得に向けた今後の施策
そしてもう1つ、気になるのは月額0円という武器を失った楽天モバイルの、契約獲得に向けた施策である。KDDIの通信障害でバックアップ用のサブ回線が注目されるようになったが、Rakuten UN-LIMIT VIIはサブ回線として見た場合、税込で1,000円を超えてしまうため、より安価に利用できるpovo 2.0やLINEMO、そしてMVNOの低価格サービスなどと比べると分が悪い。
それだけに楽天モバイルは、やはり収益性が高いメイン回線として利用するユーザーの獲得に今まで以上に力を注ぐものと考えられる。そこで課題になってくるのは、やはり大手3社に劣るエリアカバーだ。三木谷氏も今回の決算において、人口カバー率と契約申し込み数には相関関係があることを明らかにしており、今後はさらなるエリア拡大によって、都市部だけでなく地方でも契約数を伸ばしていきたい考えのようだ。
実際楽天モバイルは、2023年中に4Gの基地局を6万にまで増やし、2022年6月末時点で97.6%の人口カバー率を99%超にまで拡大していきたいとしている。それと同時にマーケティング施策も全国一律ではなく、より地域毎の獲得を重視するかたちへと変更していくとのことだ。
月額0円のような“飛び道具”に頼るのではなく、地道にエリアを広げて契約数を増やすという正攻法の戦略に切り替えたことはポジティブに評価できる。しかし、プラチナバンドを獲得できていない中、効率よくエリアを広げて大手3社に遜色ないエリアを構築できるのか?という点においては未知数だ。
楽天モバイルの成否を握るのは、やはりサービス開始当初から課題とされてきたエリア拡大ということになりそうだ。
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