【連載】佐野正弘のITインサイト 第32回
解約続く楽天モバイル、今後は安泰?追い風受けてどこまで走れるか
楽天モバイルは、「Rakuten UN-LIMIT VI」で好評だった、月当たりのデータ通信量が1GB未満であれば月額0円で利用できる仕組みを廃止したことが賛否を呼び、契約数の減少が続いている。先日11月11日に実施された楽天グループの決算説明会で、新たな契約数を公表しているのだが、やはり契約数の減少は抑えられていないようだ。
実際、同社の2022年9月末時点での契約数は、MVNOの契約数も合わせて518万回線、MVNOを除けば455万回線。前四半期はそれぞれ546万、477万回線だっただけに、より一層契約数が減少している様子を見て取ることができるだろう。
楽天モバイルは、月額0円の仕組みがなくなった現在の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」へ移行した2022年7月以降、緩和措置のため2022年10月末まで複数の手段により、実質月額0円で利用可能なキャンペーン施策を展開していた。しかしながら、それでもなお解約は防げなかった様子で、「月額0円廃止」への失望感が非常に大きかったことをうかがわせる。
ただ、今回の楽天グループの決算で公表した数値を見ると、月額0円廃止という判断もやむなし、と思えてしまうのが正直なところだ。それはARPU(Average Revenue Per User)、要はユーザー1人当たりの平均売上であり、携帯電話サービスのように月額課金制のサービスでは良く用いられる指標である。
その内容を見ると今四半期、つまり2022年7〜9月のARPUは1,472円となっている。だが、前年同期の2021年7〜9月のARPUはなんと453円で、それ以前はおおむね200円台であったことが判明したのだ。
他の携帯大手3社のARPUは、おおむね4,000円前後であり、楽天モバイルがMVNOとして提供しているサービス(既に新規契約は終了)でさえ2,000円台が相場。いくら楽天モバイルの料金が安いとはいえ、現在のARPUでさえ低い印象を受けてしまうのだが、月額0円で利用するユーザーが多くを占めていたころは、他社の10分の1以下という水準で、相当厳しい状況にあったことが分かる。
もちろんそれは、新興の事業者だけあって契約を大幅に増やすための先行投資の側面が大きかったのだろう。だが、想定以上に0円で利用し続けるユーザーが多く、収益につながらないと判断し、月額0円廃止という結論に至ったといえそうだ。
実際、月額0円施策を終了したことで契約者数は確かに減ったが、ARPUは急増しているようだ。2022年10月末をもって実質0円で利用できるキャンペーンが終了し、2022年11月以降は有料課金ユーザーしか残っていないことから、契約数が減ったとはいえ全てのユーザーが収益につながるようになったことは大きなメリットといえる。
もう1つ、楽天モバイルにとってプラスの材料となっているのが、コスト削減に目途を付けていることだ。同社は、月額0円施策で契約者からお金が入らない一方、基地局整備を4年と大幅に大幅に前倒ししたことでその分先行コストがかさんだ。それに加えて、その間のエリアを補完するKDDIとのローミングにかかる費用が非常に大きく、楽天グループの決算会見などでは代表取締役兼社長の三木谷浩史氏が、ローミング費用の高さを嘆く場面がたびたび見られたほどだ。
だが、基地局整備を加速させたことで、2022年9月末には4Gの基地局数が5万局を超え、人口カバー率が97.9%にまで上昇。ローミングエリアも大幅に縮小し、KDDIに支払う費用もかなり削減しているようだ。
楽天モバイルは、2023年中に基地局を6万局超に増やして、人口カバー率を99%超にまで広げたいとしているが、今後は郊外でのエリア拡大や都市部でのトラフィック対策などが主。これまでのように整備を急ぐ必要はなくなってくるので、基地局整備にかけるコストも大幅に低減できると見ているようだ。
また、そのエリア整備で楽天モバイルに大きな朗報となったのが、プラチナバンドの再割り当てに関して総務省が楽天モバイルに非常に有利な内容を打ち出したことだ。
総務省は11月8日に、「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」の報告書案を発表しており、プラチナバンド再割り当て時の移行期間は5年以上、その際必要な工事の費用負担は既存免許人、つまりプラチナバンドを渡す側が原則全て負担するという内容をまとめたのである。
これは実質的に、楽天モバイルが訴えた内容をほぼ全面的に採用し、既存3社の訴えを大きく退けた内容となっている。それだけに、楽天モバイルの代表取締役CEOであるタレック・アミン氏は、この報告案に「非常にうれしい」と発言するとともに、今後準備を進めて2024年3月にはプラチナバンドを使い始めることを目指したいとしている。
周波数が低いプラチナバンドは障害物に強く、少ない基地局で屋内や入り組んだ場所、広いエリアなどをカバーしやすいとされている一方、空きが少なく楽天モバイルは免許割り当てを受けていない。それだけに、プラチナバンドの免許を獲得できる道筋が見えてきたことが、楽天モバイルに大きなメリットとなることは間違いないだろう。
ただ、それだけプラスの材料があってもなお、楽天モバイルの赤字は現在も続いて楽天グループ全体の経営を苦しめていることに変わりはなく、今四半期も2,580億円と、過去最大の赤字決算となっている。それゆえ楽天グループは、2021年に日本郵政などから資金調達を受けているが、その後も楽天銀行の上場申請、そして楽天証券ホールディングスの上場準備や、みずほ証券からの出資受け入れなど、グループのリソースを用いて外部からの資金調達を急いでおり、依然厳しい状況にある様子をうかがわせる。
その苦しさは、プラチナバンドへの対応からも見て取ることができる。先の報告書案では、プラチナバンドを早く利用したいのであれば、再割り当てを受ける側が費用を支払って工事などを早める、「終了促進措置」を利用できるとされているのだが、楽天モバイルの代表取締役社長である矢澤俊介氏は、「終了促進措置を使うつもりはない」と明言している。
実は矢澤氏は、総務省での議論においても終了促進措置を使わないとしており、その上で再割り当てに係る工事の費用は既存免許人が負担すべきと強く主張するなど、コストをかけずにプラチナバンドを獲得することに注力していた印象がある。
また先の決算においても、タレック氏はプラチナバンドのインフラ整備を低コストで進められることを強調するなど、喉から手が出るほど欲しいはずのプラチナバンドをいち早く活用するのではなく、コストを抑えることに重点を置いた説明をしているのはかなり気になった。
そうした状況を考えると、楽天モバイルに今後強く求められるのはやはり収益の改善、ひいては契約回線数とARPUを引き上げることに尽きるだろう。とりわけ契約数に関して、タレック氏は2022年11月時点の獲得は純増に転じ好調だとしているが、月額0円の武器を失っただけに顧客の急拡大が難しくなっているのもたしか。契約数を伸ばすための新たな施策が、大きく問われるところではないだろうか。
実際、同社の2022年9月末時点での契約数は、MVNOの契約数も合わせて518万回線、MVNOを除けば455万回線。前四半期はそれぞれ546万、477万回線だっただけに、より一層契約数が減少している様子を見て取ることができるだろう。
楽天モバイルは、月額0円の仕組みがなくなった現在の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」へ移行した2022年7月以降、緩和措置のため2022年10月末まで複数の手段により、実質月額0円で利用可能なキャンペーン施策を展開していた。しかしながら、それでもなお解約は防げなかった様子で、「月額0円廃止」への失望感が非常に大きかったことをうかがわせる。
■ARPUから見る楽天モバイルの現状
ただ、今回の楽天グループの決算で公表した数値を見ると、月額0円廃止という判断もやむなし、と思えてしまうのが正直なところだ。それはARPU(Average Revenue Per User)、要はユーザー1人当たりの平均売上であり、携帯電話サービスのように月額課金制のサービスでは良く用いられる指標である。
その内容を見ると今四半期、つまり2022年7〜9月のARPUは1,472円となっている。だが、前年同期の2021年7〜9月のARPUはなんと453円で、それ以前はおおむね200円台であったことが判明したのだ。
他の携帯大手3社のARPUは、おおむね4,000円前後であり、楽天モバイルがMVNOとして提供しているサービス(既に新規契約は終了)でさえ2,000円台が相場。いくら楽天モバイルの料金が安いとはいえ、現在のARPUでさえ低い印象を受けてしまうのだが、月額0円で利用するユーザーが多くを占めていたころは、他社の10分の1以下という水準で、相当厳しい状況にあったことが分かる。
もちろんそれは、新興の事業者だけあって契約を大幅に増やすための先行投資の側面が大きかったのだろう。だが、想定以上に0円で利用し続けるユーザーが多く、収益につながらないと判断し、月額0円廃止という結論に至ったといえそうだ。
実際、月額0円施策を終了したことで契約者数は確かに減ったが、ARPUは急増しているようだ。2022年10月末をもって実質0円で利用できるキャンペーンが終了し、2022年11月以降は有料課金ユーザーしか残っていないことから、契約数が減ったとはいえ全てのユーザーが収益につながるようになったことは大きなメリットといえる。
もう1つ、楽天モバイルにとってプラスの材料となっているのが、コスト削減に目途を付けていることだ。同社は、月額0円施策で契約者からお金が入らない一方、基地局整備を4年と大幅に大幅に前倒ししたことでその分先行コストがかさんだ。それに加えて、その間のエリアを補完するKDDIとのローミングにかかる費用が非常に大きく、楽天グループの決算会見などでは代表取締役兼社長の三木谷浩史氏が、ローミング費用の高さを嘆く場面がたびたび見られたほどだ。
だが、基地局整備を加速させたことで、2022年9月末には4Gの基地局数が5万局を超え、人口カバー率が97.9%にまで上昇。ローミングエリアも大幅に縮小し、KDDIに支払う費用もかなり削減しているようだ。
楽天モバイルは、2023年中に基地局を6万局超に増やして、人口カバー率を99%超にまで広げたいとしているが、今後は郊外でのエリア拡大や都市部でのトラフィック対策などが主。これまでのように整備を急ぐ必要はなくなってくるので、基地局整備にかけるコストも大幅に低減できると見ているようだ。
■朗報となった総務省の発表
また、そのエリア整備で楽天モバイルに大きな朗報となったのが、プラチナバンドの再割り当てに関して総務省が楽天モバイルに非常に有利な内容を打ち出したことだ。
総務省は11月8日に、「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」の報告書案を発表しており、プラチナバンド再割り当て時の移行期間は5年以上、その際必要な工事の費用負担は既存免許人、つまりプラチナバンドを渡す側が原則全て負担するという内容をまとめたのである。
これは実質的に、楽天モバイルが訴えた内容をほぼ全面的に採用し、既存3社の訴えを大きく退けた内容となっている。それだけに、楽天モバイルの代表取締役CEOであるタレック・アミン氏は、この報告案に「非常にうれしい」と発言するとともに、今後準備を進めて2024年3月にはプラチナバンドを使い始めることを目指したいとしている。
周波数が低いプラチナバンドは障害物に強く、少ない基地局で屋内や入り組んだ場所、広いエリアなどをカバーしやすいとされている一方、空きが少なく楽天モバイルは免許割り当てを受けていない。それだけに、プラチナバンドの免許を獲得できる道筋が見えてきたことが、楽天モバイルに大きなメリットとなることは間違いないだろう。
ただ、それだけプラスの材料があってもなお、楽天モバイルの赤字は現在も続いて楽天グループ全体の経営を苦しめていることに変わりはなく、今四半期も2,580億円と、過去最大の赤字決算となっている。それゆえ楽天グループは、2021年に日本郵政などから資金調達を受けているが、その後も楽天銀行の上場申請、そして楽天証券ホールディングスの上場準備や、みずほ証券からの出資受け入れなど、グループのリソースを用いて外部からの資金調達を急いでおり、依然厳しい状況にある様子をうかがわせる。
その苦しさは、プラチナバンドへの対応からも見て取ることができる。先の報告書案では、プラチナバンドを早く利用したいのであれば、再割り当てを受ける側が費用を支払って工事などを早める、「終了促進措置」を利用できるとされているのだが、楽天モバイルの代表取締役社長である矢澤俊介氏は、「終了促進措置を使うつもりはない」と明言している。
実は矢澤氏は、総務省での議論においても終了促進措置を使わないとしており、その上で再割り当てに係る工事の費用は既存免許人が負担すべきと強く主張するなど、コストをかけずにプラチナバンドを獲得することに注力していた印象がある。
また先の決算においても、タレック氏はプラチナバンドのインフラ整備を低コストで進められることを強調するなど、喉から手が出るほど欲しいはずのプラチナバンドをいち早く活用するのではなく、コストを抑えることに重点を置いた説明をしているのはかなり気になった。
そうした状況を考えると、楽天モバイルに今後強く求められるのはやはり収益の改善、ひいては契約回線数とARPUを引き上げることに尽きるだろう。とりわけ契約数に関して、タレック氏は2022年11月時点の獲得は純増に転じ好調だとしているが、月額0円の武器を失っただけに顧客の急拡大が難しくなっているのもたしか。契約数を伸ばすための新たな施策が、大きく問われるところではないだろうか。