評論家は「曲のどんなポイント」を聴いている?
緑黄色社会、宇多田ヒカル、米津玄師……オーディオ評論家が試聴に使った2022年の曲はこれだ!【Part.1】
野村先生が執筆したレビュー記事はこちら
Jポップ女性ボーカルの試聴曲といえば宇多田ヒカル「BADモード」が真っ先に挙がってくる。しかしながら、誰もが候補とする楽曲だろうからここではあえて外し、安月名莉子「かたち」を紹介させてもらおうと思う。
彼女はいわゆるアニソンシンガーだが、特徴的な歌声を持つことに加えてアコースティックギター1本でライブを行うことのできる実力派でもある。また、声の特徴を活かし、声優にもチャレンジしているなどマルチな才能も持ち合わせている。
この「かたち」は彼女の代表曲のひとつ。洪水のように様々な音が散りばめられているので、イヤホンやスピーカーごとに楽曲の印象が変わってしまう万華鏡のようなサウンドを持つ。おかげで、製品チェックにはもってこいの1曲となっている。
米津玄師といえば誰もが知る日本の人気アーティストだが、アルバム『BOOTLEG』(ハイレゾ版は96kHz/24bitリリース)までは表現力の高さとして音質を求めていた印象があったものの、サブスクが本格化してきた時代性もあってか、最近は“印象的な音”作りに注力しているようにも感じられる。
この「KICK BACK」もそんな一曲。エネルギッシュなサウンドを作り上げるためか“汚し”は強いが、実は音数が多かったり声や楽器の分離が良かったりと凝った作りにもなっていて、おかげで製品の音質的特徴が分かりやすかったりする。何よりも、本人がタイアップのアニメ作品『チェンソーマン』に対する思い入れが強いのだろう、何十回聴いても飽きないのがいい。
現代舞踊やアニメ劇伴を数多く手がけ、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのメンバーとしても活躍している石川智久のファースト“オリジナル”アルバム『ILLUSTRATED NEXUS ENCYCLOPEDIA』より。現在はCDが付属するアナログレコードのみのリリースだが、アーティスト本人のセンスと音に対するこだわりが魅力的な作品を作り上げているのでここで紹介したい。
実はこのアルバム、小池光夫の手により384kHz/32bitのマスター音源が製作され、それを元にアナログレコードが作られている。そのためか、空間的な広がりはとても大きくスムーズ。朝崎郁恵の歌唱や各楽器のニュアンスも細部まで伝わってくる。また「ピアノは演奏者本人の聴いている音がいちばんいい」とのこだわりから特徴的な音色を聴かせてくれるのも興味深い。