評論家は「曲のどんなポイント」を聴いている?
YOASOBI、ヒゲダン、上原ひろみ……オーディオ評論家が試聴に使った2023年の曲はこれだ!【Part.1】
高橋先生が執筆したレビュー記事はこちら
現代ジャズギターの象徴ジュリアン・ラージさんの最新EPから、アコースティックギターとウッドベースのデュオ曲。
小編成なのでラージさんの演奏ニュアンスを細部まで聴き込みやすい。アコギだけでは把握しにくい低音側についてはウッドベースに耳を向ければよい。一瞬の静けさにふと聴こえてくる衣擦れや気配の届き方で背景描写やS/Nの様子もわかりやすい。など、アコースティック系のチェック音源に欲しい要素をおおよそ揃えてくれています。
あとこの曲だけではありませんが演奏が動画で公開されている曲は、「このフレーズはこういう奏法こういうタッチで弾いているのか」みたいな情報をその映像から補強できるのも嬉しいポイント。
ホセ・ジェイムズさんによるエリカ・バドゥさん楽曲カバーアルバム「On & On」に収録。2023年、5弦ベースリファレンス曲の筆頭でした。
5弦に付随する超低域の響きとかよりも5弦の実音、その音像の明瞭度や安定感のチェックに活躍。4弦から5弦ローポジションを使ったこの曲の下降リフを聴いたとき、途中のひとつの音程の音像だけが膨らんだりしてフレーズが凸凹してしまったら再生システムの低域再生に癖がある証拠です。
さらにそのリフが執拗に繰り返されるのもありがたいところ。曲を戻すことなくそれを何度もチェックでき、試聴リファレンスとして実に都合が良いのです。
ポイントだらけの曲ですが特に挙げるならリズム周り。アイというキャラクターの多面性を表現しているのか、この曲には鮮やかな場面転換が多用されています。その場面転換の要がリズムの変化です。
ヒップホップ的なキレのラップパートから四つ打ちロックなドライブ感のサビへ。2回目のラップパートはBPMを僅かに落として重みを増すことで単なる繰り返しにせず新鮮さを維持。そういった工夫が凝らされた場面転換をバシッと決めるためにオーディオ側には、アタックへの応答の速さやディケイ以降の減衰への素直な追従が求められます。そこはアンプの制動力などが発揮される要素。そういった部分もこの曲でチェックできるわけです。