評論家は「曲のどんなポイント」を聴いている?
ヨルシカ、五等分の花嫁、野田愛実……オーディオ評論家が試聴に使った2023年の曲はこれだ!【Part.2】
海上先生が執筆したレビュー記事はこちら
リファレンスとしてよく使った2023年の新譜を紹介するこのコーナー。昨年も書いているが、筆者は少なくとも1年以上繰り返し聴いた曲でなければリファレンスとして使用しないポリシーなので、正確には「2023年に巡り合った将来のリファレンス候補曲」ということになる。あらかじめ承知おき願いたい。
Dominic MillerといえばStingの信頼厚いギタリストとして著名だが、ECMからリリースされているソロアルバムも傑作揃い、彼の魅力が詰まっている。そのECM 3作目となるアルバムが本作。
オスロのレインボースタジオで録音された前作・Silent Lightとは異なり、スタジオは第1作・Absintheと同じフランス南東部ペルヌ=レ=フォンテーヌのLa Buissonneだが、(ほぼ)多重録音を用いないライブスタイルは一貫しており、音質も高水準。リファレンス用には、2曲目の「Cruel But Fair」と6曲目の「Altea」を慎重に聴き重ねているところだ。
試聴で使う曲は、フルコーラスで再生することは稀だ。冒頭1分程度、欲をいえば数十秒で(オーディオシステムの)音の特性を把握できるような曲が使いやすい。その点、この「ロスタイム」は良い塩梅だ。ピアノとボーカルだけのシンプル構成がしばらく続くから、そこである程度評価できてしまう。
実は、もっと試聴に使ってみたい曲が彼女にはある。NHK BS「釣りびと万歳」の挿入歌として使われている「おかえり」がそれだ。しかし、ディスクもファイルもストリーミングも見つからない。どうやら番組用に書き下ろした曲で、一般には流通していないらしいのだ(YouTubeでは聴けるけれど)。ときにウィスパー調で、ときにファルセット調で歌う彼女の声を、是非とも非圧縮音源で聴いてみたい。
マリーンやアーネル・ピネダなど、フィリピン人シンガーには驚くほど歌の上手い人が多いが、筆者のイチオシはChad Borja(チャド・ボーハ)。YUTAKA/横倉裕がプロデュースした2000年公開のアルバム「Show Me The Way」は、高い歌唱力に支えられたAOR史上屈指の傑作だ。
彼には「Heart Over Mind」という実に試聴向きな(楽器が少なくシンプルな)1990年代前半リリースの曲もあるのだが、当時のフィリピンはカセットでの販売が主流だったらしく、ディスクは入手できるかどうかすらわからない。
そして2023年突如ストリーミング配信が始まったこの「The Way I Am」、どうやら1996年にリリースされていたらしいが、これまで入手困難だったため新作扱いでピックアップしてみた。AOR調ではないものの、穏やかでツヤのある歌声はいまも変わらず魅力的。高音質録音とは言い難いが、彼の魅力が詰まった表題曲をもう少し聴き重ねてみようと考えている。