身につけやすい聴覚補助機器の選択肢がまたひとつ広がった
「AirPods Pro 2」に医療機器グレードの聴覚補助機能が追加。アップデート内容をひと足先に体験
アップルがワイヤレスイヤホンのAirPods Pro 2に「聴覚の健康」をサポートする新機能を追加する。10月28日以降に予定する無料のソフトウェア・アップデートにより加わる「ヒアリングチェック」と「ヒアリング補助」を、リリースの前に実機で試すことができた。機能の使い方と効果をレポートする。
今回の新機能は最新のOSに対応するiPhone、またはiPadに、ファームウェア・アップデートを行ったAirPods Pro 2をペアリングした環境で使える。
本機能が他のAirPodsシリーズでは対応できない理由が2つある。ひとつが高性能なApple H2チップを搭載していなければならないこと、もうひとつはイヤーチップによりパッシブな遮音効果を高めることが必要だからだ。
世界保健機関(WHO)の調査によると、いま世界人口の中の約15億人が難聴を抱えているという。日本の厚生労働省もまた、日本国民全体の約10%にあたる1430万人が年齢などにかかわらず難聴を患っているというデータを明らかにしている。
アップルはAirPods Proの開発を始めた早い段階から、このスマートデバイスがユーザーの聴力の健康を支援できる可能性に着目してきた。米国では初代の「AirPods Pro」が発売された年と同じ2019年から、ミシガン大学公衆衛生大学院、およびWHOと一緒にバーチャル公的研究調査であるApple Hearing Studyを立ちあげて、多くの臨床研究を重ねてきた。その成果がついに今回AirPods Pro 2の新機能として日の目を見る。
新しく追加されるヒアリングチェックとヒアリング補助は、どちらも18歳以上のユーザーを対象としている。特にヒアリング補助は軽中度の難聴を抱える方を支援するための機能だ。
アップルはAirPods Pro 2による新機能を日本にも速やかに投入するため、AirPods Pro 2のファームウェアと、iOSなどAppleデバイス側の基幹ソフトウェアの連携により提供するモバイルアプリケーションを「Appleのヒアリング補助プログラム」と銘打ち、これに日本の薬機法(医薬品医療機器法)に定められた管理医療機器としての承認を獲得した。
ユーザーの耳の健康をサポートする補聴器は、その本体が非課税商品となるため、購入や修理の際に消費税がかからない。AirPods Pro 2の場合はソフトウェアが管理医療機器となるため、補聴器と同じ扱いにはならないものと考えられる。アップルでは新機能のアップデート提供を開始した後もAirPods Pro 2の販売方法などを変更する予定はないようだ。
今回は取材に基づいた検証を行うため、iOS 18.1のパブリックベータ版を入れたiPhone 16と最新のファームウェアを投入したAirPods Pro 2を用意した。特別に許可を得て、関連するユーザーインターフェースの画面もこの記事に紹介する。
最初にヒアリングチェックから試した。前段としてAirPods Pro 2の「イヤーチップ装着状態テスト」を行う。専用のシリコンイヤーチップによる高い密閉性を確保できることが、正確にヒアリングチェックを行うために欠かせないからだ。
続いて約5分間のヒアリングチェック(聴覚検査)に進む。AirPods Pro 2から再生されるテストトーンを聞きながら、音が聞こえたときにiPhoneの画面をタップする。これを左右の耳それぞれに行うと、合わせて5分前後で検査が完了する。テストトーンがとても小さい音で再生されるため、ヒアリングチェックは静かな場所で行うことが推奨されている。
ユーザーの聴覚能力をプロファイリングした結果は「オージオグラム(audiogram)」として、iOSのヘルスケアアプリにデータを記録される。アプリを開くと左右の耳ごとにオージオグラムの数値とグラフ、ならびに「難聴の可能性」について判定結果を確認できる。データはiPhoneからPDFファイルとして出力することも可能だ。
米国で生活する筆者の知人に聞くと、米国には日本のような国民皆保険制度がないことから、自身の聴覚を検査するために少なくない出費を伴うのだという。AirPods Pro 2とiPhoneを持っていれば、医療グレードの信頼性を確保した検査方法に従ってユーザーが自宅で簡単に聴覚検査を行い、難聴の可能性までセルフチェックができることはとても画期的なのだと知人は語っていた。
アップルは「ヒアリングチェックを行うべき頻度」として、少なくとも1年に1回程度の実施を推奨している。
ヒアリングチェックを済ませると、AirPods Pro 2の設定メニューに追加される「聴力補助」のオンとオフが切り替えられるようになる。聴力補助をレポートする前に、新しく追加された「メディアアシスト」について触れておきたい。
メディアアシストは「聴力補助」のオプションとして追加される機能であり、オージオグラムを音楽やビデオ、ゲームなどのサウンドや電話・FaceTimeの音声を聞く用途に当てがうことができる。
ヒアリング補助の機能は先述のとおり対象とするユーザーを限っているが、メディアアシストについてはAirPods Pro 2で再生するコンテンツの音が聞こえやすくなる体験が幅広いユーザーにもたらされる。
筆者はヒアリングチェックで難聴の可能性がほとんどないと判定されたため、ヒアリング補助については機能紹介に止めておく。
AirPods Pro 2の設定から「ヒアリング補助」と外部音取り込みをオンにすると、イヤホンに内蔵するマイクが周囲の音声を聞き取りやすくするモードに切り替わる。
音の聞こえ方を「調整」することも可能だ。例えば環境音の音量全体をアップダウンしたり、バックグラウンドノイズだけを除去して「会話音声を強調」する設定項目がある。左右の耳の聴力が異なる場合は片耳ごとに増幅レベルが整えられるし、また「声調=トーン」を変更すると高音・低音の量も変わる。
ヒアリング補助の設定をオンにすると、iOSのコントロールセンターに表示されるスライダーから環境音の音量を増減できるようになる。
左右独立のワイヤレスイヤホンの形をした補聴器の中には、補聴器モードとオーディオリスニングモードを切り替えて使う製品もあるが、AirPods Pro 2はモード変更等の設定が要らない。代わりに、内蔵バッテリーをフル充電にしてから連続してAirPods Pro 2を使い続けられる時間もオーディオリスニングの場合と変わらない。ヒアリング補助の機能だけを必要とするユーザーのために、補聴器のプロファイルにスイッチしてより長い時間連続して使えるモードを設けてもよさそうだ。
2024年10月現在、39,800円(税込)で購入できるAirPods Pro 2で信頼性の高い聴覚サポート機能が使えるようになることに大きな意味があると筆者は思う。今年筆者は50歳になった。日常的にイヤホン・ヘッドホンを活用してきた同年代の人々が、これから順番に聴力の悩みを抱えるようになるだろう。その時にAirPods Pro 2のような見た目は「ふつうのイヤホン」がヒアリング補助のための機能を持てば、日々の暮らしの中で自然に使える。AirPods以外にも、自分に合った補聴器を見つけて身に着けることにも抵抗感がなくなると思う。
いま市場で販売されているワイヤレスタイプの集音器や補聴器の中には、本体のほかに耳の健康に関する知識に精通した専門家によるサポートを一緒に提供する製品もある。これらの製品は多くの場合がAirPodsと比べて価格が高額になるが、本来ユーザーが補聴器を本格的に使う場合は専門家によるカウンセリングと調整を繰り返し行いながら、最適な聞こえ方に慣れるためのトレーニングが必要になる。
アップルは聴覚の健康をサポートする新機能のソフトウェアについて管理医療機器としての認定を取得しているが、これからユーザーが増えて、機能に対する評価が高まるほど、より専門的なサポートを期待されるようになるかもしれない。アップルによる挑戦的なヘルスケアの試みを、ローンチ後にユーザーがどのように受け入れるのか注目したい。
人間の聴覚は一般的に加齢とともに衰えるものだが、長時間に渡って大きな音のノイズなどに耳が曝露されてしまうと聴力の低下を招いてしまう。一度失われた聴力は取り戻すことが困難だ。AirPods Pro 2を身に着けて過ごす際には、設定から選べる「大きな音の低減」をオンにして日常から耳を守る習慣も身に着けたい。
そして言うまでもないことだが、今回アップルがAirPods Pro 2に追加した聴覚の健康をサポートする新機能を、自身の耳の健康を知るための唯一絶対の指標にするべきではない。難聴の特徴によっては機能の使用が適さない場合もある。聞こえづらさが気になったり、新機能によって難聴の可能性が判定された際には、できるだけ早く医療機関に足を運んで受診することをおすすめする。
■管理医療機器の承認を受けた無料のソフトウェアを公開
今回の新機能は最新のOSに対応するiPhone、またはiPadに、ファームウェア・アップデートを行ったAirPods Pro 2をペアリングした環境で使える。
本機能が他のAirPodsシリーズでは対応できない理由が2つある。ひとつが高性能なApple H2チップを搭載していなければならないこと、もうひとつはイヤーチップによりパッシブな遮音効果を高めることが必要だからだ。
世界保健機関(WHO)の調査によると、いま世界人口の中の約15億人が難聴を抱えているという。日本の厚生労働省もまた、日本国民全体の約10%にあたる1430万人が年齢などにかかわらず難聴を患っているというデータを明らかにしている。
アップルはAirPods Proの開発を始めた早い段階から、このスマートデバイスがユーザーの聴力の健康を支援できる可能性に着目してきた。米国では初代の「AirPods Pro」が発売された年と同じ2019年から、ミシガン大学公衆衛生大学院、およびWHOと一緒にバーチャル公的研究調査であるApple Hearing Studyを立ちあげて、多くの臨床研究を重ねてきた。その成果がついに今回AirPods Pro 2の新機能として日の目を見る。
新しく追加されるヒアリングチェックとヒアリング補助は、どちらも18歳以上のユーザーを対象としている。特にヒアリング補助は軽中度の難聴を抱える方を支援するための機能だ。
アップルはAirPods Pro 2による新機能を日本にも速やかに投入するため、AirPods Pro 2のファームウェアと、iOSなどAppleデバイス側の基幹ソフトウェアの連携により提供するモバイルアプリケーションを「Appleのヒアリング補助プログラム」と銘打ち、これに日本の薬機法(医薬品医療機器法)に定められた管理医療機器としての承認を獲得した。
ユーザーの耳の健康をサポートする補聴器は、その本体が非課税商品となるため、購入や修理の際に消費税がかからない。AirPods Pro 2の場合はソフトウェアが管理医療機器となるため、補聴器と同じ扱いにはならないものと考えられる。アップルでは新機能のアップデート提供を開始した後もAirPods Pro 2の販売方法などを変更する予定はないようだ。
■5分で耳の聞こえが検査できる「ヒアリングチェック」
今回は取材に基づいた検証を行うため、iOS 18.1のパブリックベータ版を入れたiPhone 16と最新のファームウェアを投入したAirPods Pro 2を用意した。特別に許可を得て、関連するユーザーインターフェースの画面もこの記事に紹介する。
最初にヒアリングチェックから試した。前段としてAirPods Pro 2の「イヤーチップ装着状態テスト」を行う。専用のシリコンイヤーチップによる高い密閉性を確保できることが、正確にヒアリングチェックを行うために欠かせないからだ。
続いて約5分間のヒアリングチェック(聴覚検査)に進む。AirPods Pro 2から再生されるテストトーンを聞きながら、音が聞こえたときにiPhoneの画面をタップする。これを左右の耳それぞれに行うと、合わせて5分前後で検査が完了する。テストトーンがとても小さい音で再生されるため、ヒアリングチェックは静かな場所で行うことが推奨されている。
ユーザーの聴覚能力をプロファイリングした結果は「オージオグラム(audiogram)」として、iOSのヘルスケアアプリにデータを記録される。アプリを開くと左右の耳ごとにオージオグラムの数値とグラフ、ならびに「難聴の可能性」について判定結果を確認できる。データはiPhoneからPDFファイルとして出力することも可能だ。
米国で生活する筆者の知人に聞くと、米国には日本のような国民皆保険制度がないことから、自身の聴覚を検査するために少なくない出費を伴うのだという。AirPods Pro 2とiPhoneを持っていれば、医療グレードの信頼性を確保した検査方法に従ってユーザーが自宅で簡単に聴覚検査を行い、難聴の可能性までセルフチェックができることはとても画期的なのだと知人は語っていた。
アップルは「ヒアリングチェックを行うべき頻度」として、少なくとも1年に1回程度の実施を推奨している。
■ヒアリング補助とオーディオ再生をサポートする「メディアアシスト」
ヒアリングチェックを済ませると、AirPods Pro 2の設定メニューに追加される「聴力補助」のオンとオフが切り替えられるようになる。聴力補助をレポートする前に、新しく追加された「メディアアシスト」について触れておきたい。
メディアアシストは「聴力補助」のオプションとして追加される機能であり、オージオグラムを音楽やビデオ、ゲームなどのサウンドや電話・FaceTimeの音声を聞く用途に当てがうことができる。
ヒアリング補助の機能は先述のとおり対象とするユーザーを限っているが、メディアアシストについてはAirPods Pro 2で再生するコンテンツの音が聞こえやすくなる体験が幅広いユーザーにもたらされる。
筆者はヒアリングチェックで難聴の可能性がほとんどないと判定されたため、ヒアリング補助については機能紹介に止めておく。
AirPods Pro 2の設定から「ヒアリング補助」と外部音取り込みをオンにすると、イヤホンに内蔵するマイクが周囲の音声を聞き取りやすくするモードに切り替わる。
音の聞こえ方を「調整」することも可能だ。例えば環境音の音量全体をアップダウンしたり、バックグラウンドノイズだけを除去して「会話音声を強調」する設定項目がある。左右の耳の聴力が異なる場合は片耳ごとに増幅レベルが整えられるし、また「声調=トーン」を変更すると高音・低音の量も変わる。
ヒアリング補助の設定をオンにすると、iOSのコントロールセンターに表示されるスライダーから環境音の音量を増減できるようになる。
左右独立のワイヤレスイヤホンの形をした補聴器の中には、補聴器モードとオーディオリスニングモードを切り替えて使う製品もあるが、AirPods Pro 2はモード変更等の設定が要らない。代わりに、内蔵バッテリーをフル充電にしてから連続してAirPods Pro 2を使い続けられる時間もオーディオリスニングの場合と変わらない。ヒアリング補助の機能だけを必要とするユーザーのために、補聴器のプロファイルにスイッチしてより長い時間連続して使えるモードを設けてもよさそうだ。
■iPhoneとAirPods Proで気軽に試せる意義は大きい
2024年10月現在、39,800円(税込)で購入できるAirPods Pro 2で信頼性の高い聴覚サポート機能が使えるようになることに大きな意味があると筆者は思う。今年筆者は50歳になった。日常的にイヤホン・ヘッドホンを活用してきた同年代の人々が、これから順番に聴力の悩みを抱えるようになるだろう。その時にAirPods Pro 2のような見た目は「ふつうのイヤホン」がヒアリング補助のための機能を持てば、日々の暮らしの中で自然に使える。AirPods以外にも、自分に合った補聴器を見つけて身に着けることにも抵抗感がなくなると思う。
いま市場で販売されているワイヤレスタイプの集音器や補聴器の中には、本体のほかに耳の健康に関する知識に精通した専門家によるサポートを一緒に提供する製品もある。これらの製品は多くの場合がAirPodsと比べて価格が高額になるが、本来ユーザーが補聴器を本格的に使う場合は専門家によるカウンセリングと調整を繰り返し行いながら、最適な聞こえ方に慣れるためのトレーニングが必要になる。
アップルは聴覚の健康をサポートする新機能のソフトウェアについて管理医療機器としての認定を取得しているが、これからユーザーが増えて、機能に対する評価が高まるほど、より専門的なサポートを期待されるようになるかもしれない。アップルによる挑戦的なヘルスケアの試みを、ローンチ後にユーザーがどのように受け入れるのか注目したい。
人間の聴覚は一般的に加齢とともに衰えるものだが、長時間に渡って大きな音のノイズなどに耳が曝露されてしまうと聴力の低下を招いてしまう。一度失われた聴力は取り戻すことが困難だ。AirPods Pro 2を身に着けて過ごす際には、設定から選べる「大きな音の低減」をオンにして日常から耳を守る習慣も身に着けたい。
そして言うまでもないことだが、今回アップルがAirPods Pro 2に追加した聴覚の健康をサポートする新機能を、自身の耳の健康を知るための唯一絶対の指標にするべきではない。難聴の特徴によっては機能の使用が適さない場合もある。聞こえづらさが気になったり、新機能によって難聴の可能性が判定された際には、できるだけ早く医療機関に足を運んで受診することをおすすめする。