公開日 2012/06/28 11:00
JVC開発者に聞く「FXD/FRD」シリーズの魅力 ー “ビクターからJVCへ”継承された音づくりの秘密とは
スペシャルインタビュー
この春、JVCブランドから新開発のカーボンナノチューブ振動板を用いたマイクロHDドライバーや『ダイレクトトップマウント構造』を採用した“FXD/FRDシリーズ”が登場し、そのコストパフォーマンスの高さから、早くも注目が集まっている。
今回はこの“FXD/FRDシリーズ”の内部構造の設計やサウンド作りを先頭に立って進めてきたという、JVCケンウッド・ホーム&モバイル事業グループHM技術統括部 商品設計第三部 第一設計グループの浅香宏充氏に直接お話を伺いながらその核心に迫ってみたい。
ビクターからJVCへ継承された高音質技術のノウハウを結集したイヤホン
まずは新しいFXD/FRDシリーズが開発された経緯から訊ねた。
「先行モデルだったFXCシリーズのマイクロHDドライバーを使った高解像度サウンドがユーザーの皆さんにも評価いただいていたのですが、そこに甘んじることなく、マイクロHDドライバー自体の性能をもっと引き出せるのではないかということで、よりワイドレンジな音とリアリティを追求しようというところから開発をスタートさせました」(浅香氏)
この心臓部といえるマイクロHDドライバーについては、昨年発売された「HA-FXT90」で採用された『カーボンナノチューブ振動板』を用いているが、今回の採用に当たっては「HA-FXT90」用ユニットをそのまま用いるのではなく、筺体設計に合わせて再チューニングされた専用のユニットを新たに開発。シリーズの4機種とも同じ仕様のものを搭載しているという。
「カーボンナノチューブ振動板についてはHA-FXT90開発の段階から、高剛性かつ軽量という観点で良い素材であることは認識していたので、FXD/FRDシリーズでカーボンナノチューブ振動板を採用することに迷いはありませんでした。開発当初HA-FXT90用のユニットを組み込んだものを試してみましたが、ツインシステムで中高域を主に受け持つ時とは異なり、単発ユニットでバランスの良いサウンド再生を実現するため、振動板そのものから見直しを進めました。カーボンナノチューブをコーティングするフィルム素材の厚みの調整など、細かい個所をヒアリングしながらチューニングしていきました」(浅香氏)
続いて“FXD/FRDシリーズ”の特長ともいえる『ダイレクトトップマウント構造』について、さらには「HA-FXD80」「HA-FXD70」で用いられたメタルエンクロージャーについてもどのような経緯で採用されたのかを伺ってみた。
「耳の奥にドライバーを置くことで、より高解像度な音をダイレクトに楽しめるトップマウント構造を持つFXCシリーズのコンセプトを引き継ぎつつ、どうすればさらに音が良くなるのかを検討していく中で、注目したのがスピーカーのエンクロージャー構造でした。しかし、ユニットと筺体をただ繋いだだけではうまくいかず、エンクロージャーの容積によって音のバランスが大きく変わるので、装着しやすい大きさを模索しつつ、サウンドの面からも調整を行いました。FXD/FRDシリーズのエンクロージャーは全モデルでほぼ同じ容積としています。
![](data:image/png;base64,iVBORw0KGgoAAAANSUhEUgAAAAMAAAACCAQAAAA3fa6RAAAADklEQVR42mNkAANGCAUAACMAA2w/AMgAAAAASUVORK5CYII=)
専用設計のエンクロージャー先端にドライバーユニットを直接固定した「ダイレクトトップマウント構造」を採用。ドライバーユニットの性能を引き出し、低音から中高音まで迫力ある高解像度サウンドを実現。遮音性がより高まることから、外部音と音漏れも大幅に低減できるメリットが生まれる
「メタルエンクロージャーについてはHA-FXT90のメタルハウジングや、ウッド振動板モデルでも採用されたブラスリングなど、これまでも不要な振動を抑えるため金属を用いてきた実績があります。今回もそうした点でメタル筺体にすることで良い音になるのではないかというイメージを持っていました」(浅香氏)
金属素材の選定においては、加工のしやすさから当初アルミも候補に上っていたそうであるが、低音の出方など、イメージとは違う印象であり、結果として高比重な素材が良いという結論からステンレスが選ばれたという。
「ステンレスを採用したこともそうですが、特にHA-FXD80は筐体にローレット加工を施したことでコストはかなりかかってしまいました。その点ではこれを販売価格に影響させないよう、かなり頑張りました。ローレット加工の精度については、当初の試作で納得できるものができなかったので製造拠点にまで赴いて指示をしたほどです」(浅香氏)
「FXD/FRD」シリーズ4製品それぞれのキャラクターとは
“FXD/FRDシリーズ”はステンレス筺体を持つ「HA-FXD80」「HA-FXD70」と、樹脂製筺体の「HA-FXD60」「HA-FRD60」(スマートフォン用リモコンを装備しているが、ハウジング部のつくりやサウンドは同一)がラインナップされているが、各々どういうコンセプトで誕生したのであろうか。
「FXDシリーズは価格や筺体構成に差をつけてはいますが、単なる上下関係ではなく、様々な楽しみ方を訴求したいという点で、各々別の個性・魅力を持たせた設計としました。まずHA-FXD60はモールド素材ということで、特にボーカルの質感を中心とした自然さと、ダイレクトトップマウント構造による低域の量感の豊かさを追求しました。HA-FXD70では高比重なステンレス筺体の良さを意識しながら、締まりのある低域とクリアな高域を併せ持ったサウンド作りとしています。同じメタル筺体どうしであるHA-FXD80においてはシリーズ最上位モデルという点も意識して、上位モデルでも採用されていたブラスリングを用いたデュアルシリンダー構造も取り入れ、HA-FXD70とは違うリアリティの高さを追求しました。また密閉型インナーイヤーモデルにありがちな音の曇りをマルチポートやメッシュによって解消し、“リアルな音”に貢献しています。(浅香氏)
「4極プラグを採用しているスマートフォンはiPhoneと同じ端子配列のものもあれば違うものもあります。メーカーによっては変換ケーブルを付けていることもありますが、そうした煩わしさを解消したいということで、マイクとグラウンドを変換するスイッチをつけるようにしました。この変換スイッチは普段頻繁に使うものではないので極力小さくして、リモコン全体のサイズもコンパクトにしました。そうした意図もあって今回はボリュームコントロールを付けていませんが、ニーズはあると思いますので今後のモデルでは検討していきたいですね」
“FXD/FRDシリーズ”の装着感において、最大の特長となっているのが『制振フィットブッシング』である。特にカナル型だとケーブルを伝ってくる振動ノイズがハウジングを介し、そのまま内耳に届いてしまうため、ケーブルのタッチノイズに悩まされているユーザーも少なくないのではないだろうか。
「そうですね、これまでもクリップを使って衣服に挟み込むことでタッチノイズはある程度緩和できましたが、ヘッドホン自体でどう軽減するかについてはずっと課題としてきました。そこで目を付けたのがブッシングでした。さらにノイズ低減のヒントとなったのはFXC71などで使っていた制振ジェルです。ブッシングにジェルと同じ役割を果たす弾性素材を入れることで、ケーブルの擦れを吸収してくれるのですが、問題となったのは弾性素材の固さでした。本来のジェル状の方が吸収率は高いのですが、形状維持や見た目、耐久性の点で問題があるので、素材の固さも適度に持たせながら、擦れの軽減を両立できるものを選びました。加えてブッシングの中のケーブルがまっすぐのままでは、弾性素材に触れたり触れなかったりして効果が薄まるため、S字に蛇行させることで常に触れるようにしています」(浅香氏)
個性豊かなラインナップが揃ったJVCのイヤホンシリーズ
JVCでは個性豊かなイヤホンのラインナップが存在するが、最後に“FXD/FRDシリーズ”のポジショニングと、同系列であるカーボンナノチューブ振動板マイクロHDドライバーを搭載した「HA-FXT90」との違いについても伺ってみた。
「マイクロHDドライバーとトップマウント構造を用いたシリーズは今回で3代目となりますが、低域の充実度を重視したXXシリーズ、最上位となるウッドシリーズ、そしてツインドライバーのHA-FXT90とは別の訴求ポイントを持った製品であると考えています。マイクロHDドライバーによる、耳の奥で高解像度サウンドを楽しむという独自のスタイルによって、他のラインナップとは差別化できていますし、FXD/FRDシリーズを投入することでマイクロHDドライバーというジャンルを確立していきたいと思っています。
ユーザーの皆様には、HA-FXT90とのサウンドの違いも気になることと思いますが、FXD/FRDシリーズはとても自然な音づくりを目指しています。様々なジャンルの音楽にも対応できるように設計していますし、普段使いとして、自然に音楽を聴きたい、楽しみたいという方たちにぜひ聴いてもらいたいと思います」(浅香氏)
【製品に関する問い合わせ先】
JVCケンウッド カスタマーサポートセンター
TEL/0120-2727-87
今回はこの“FXD/FRDシリーズ”の内部構造の設計やサウンド作りを先頭に立って進めてきたという、JVCケンウッド・ホーム&モバイル事業グループHM技術統括部 商品設計第三部 第一設計グループの浅香宏充氏に直接お話を伺いながらその核心に迫ってみたい。
ビクターからJVCへ継承された高音質技術のノウハウを結集したイヤホン
まずは新しいFXD/FRDシリーズが開発された経緯から訊ねた。
「先行モデルだったFXCシリーズのマイクロHDドライバーを使った高解像度サウンドがユーザーの皆さんにも評価いただいていたのですが、そこに甘んじることなく、マイクロHDドライバー自体の性能をもっと引き出せるのではないかということで、よりワイドレンジな音とリアリティを追求しようというところから開発をスタートさせました」(浅香氏)
この心臓部といえるマイクロHDドライバーについては、昨年発売された「HA-FXT90」で採用された『カーボンナノチューブ振動板』を用いているが、今回の採用に当たっては「HA-FXT90」用ユニットをそのまま用いるのではなく、筺体設計に合わせて再チューニングされた専用のユニットを新たに開発。シリーズの4機種とも同じ仕様のものを搭載しているという。
「カーボンナノチューブ振動板についてはHA-FXT90開発の段階から、高剛性かつ軽量という観点で良い素材であることは認識していたので、FXD/FRDシリーズでカーボンナノチューブ振動板を採用することに迷いはありませんでした。開発当初HA-FXT90用のユニットを組み込んだものを試してみましたが、ツインシステムで中高域を主に受け持つ時とは異なり、単発ユニットでバランスの良いサウンド再生を実現するため、振動板そのものから見直しを進めました。カーボンナノチューブをコーティングするフィルム素材の厚みの調整など、細かい個所をヒアリングしながらチューニングしていきました」(浅香氏)
続いて“FXD/FRDシリーズ”の特長ともいえる『ダイレクトトップマウント構造』について、さらには「HA-FXD80」「HA-FXD70」で用いられたメタルエンクロージャーについてもどのような経緯で採用されたのかを伺ってみた。
「耳の奥にドライバーを置くことで、より高解像度な音をダイレクトに楽しめるトップマウント構造を持つFXCシリーズのコンセプトを引き継ぎつつ、どうすればさらに音が良くなるのかを検討していく中で、注目したのがスピーカーのエンクロージャー構造でした。しかし、ユニットと筺体をただ繋いだだけではうまくいかず、エンクロージャーの容積によって音のバランスが大きく変わるので、装着しやすい大きさを模索しつつ、サウンドの面からも調整を行いました。FXD/FRDシリーズのエンクロージャーは全モデルでほぼ同じ容積としています。
![](/news/photo/interview/1/145/img_1_2.gif)
専用設計のエンクロージャー先端にドライバーユニットを直接固定した「ダイレクトトップマウント構造」を採用。ドライバーユニットの性能を引き出し、低音から中高音まで迫力ある高解像度サウンドを実現。遮音性がより高まることから、外部音と音漏れも大幅に低減できるメリットが生まれる
「メタルエンクロージャーについてはHA-FXT90のメタルハウジングや、ウッド振動板モデルでも採用されたブラスリングなど、これまでも不要な振動を抑えるため金属を用いてきた実績があります。今回もそうした点でメタル筺体にすることで良い音になるのではないかというイメージを持っていました」(浅香氏)
金属素材の選定においては、加工のしやすさから当初アルミも候補に上っていたそうであるが、低音の出方など、イメージとは違う印象であり、結果として高比重な素材が良いという結論からステンレスが選ばれたという。
「ステンレスを採用したこともそうですが、特にHA-FXD80は筐体にローレット加工を施したことでコストはかなりかかってしまいました。その点ではこれを販売価格に影響させないよう、かなり頑張りました。ローレット加工の精度については、当初の試作で納得できるものができなかったので製造拠点にまで赴いて指示をしたほどです」(浅香氏)
「FXD/FRD」シリーズ4製品それぞれのキャラクターとは
“FXD/FRDシリーズ”はステンレス筺体を持つ「HA-FXD80」「HA-FXD70」と、樹脂製筺体の「HA-FXD60」「HA-FRD60」(スマートフォン用リモコンを装備しているが、ハウジング部のつくりやサウンドは同一)がラインナップされているが、各々どういうコンセプトで誕生したのであろうか。
「FXDシリーズは価格や筺体構成に差をつけてはいますが、単なる上下関係ではなく、様々な楽しみ方を訴求したいという点で、各々別の個性・魅力を持たせた設計としました。まずHA-FXD60はモールド素材ということで、特にボーカルの質感を中心とした自然さと、ダイレクトトップマウント構造による低域の量感の豊かさを追求しました。HA-FXD70では高比重なステンレス筺体の良さを意識しながら、締まりのある低域とクリアな高域を併せ持ったサウンド作りとしています。同じメタル筺体どうしであるHA-FXD80においてはシリーズ最上位モデルという点も意識して、上位モデルでも採用されていたブラスリングを用いたデュアルシリンダー構造も取り入れ、HA-FXD70とは違うリアリティの高さを追求しました。また密閉型インナーイヤーモデルにありがちな音の曇りをマルチポートやメッシュによって解消し、“リアルな音”に貢献しています。(浅香氏)
また「HA-FRD60」のスマートフォン対応リモコンについて、開発の経緯を浅香氏はこのように語る。
「4極プラグを採用しているスマートフォンはiPhoneと同じ端子配列のものもあれば違うものもあります。メーカーによっては変換ケーブルを付けていることもありますが、そうした煩わしさを解消したいということで、マイクとグラウンドを変換するスイッチをつけるようにしました。この変換スイッチは普段頻繁に使うものではないので極力小さくして、リモコン全体のサイズもコンパクトにしました。そうした意図もあって今回はボリュームコントロールを付けていませんが、ニーズはあると思いますので今後のモデルでは検討していきたいですね」
“FXD/FRDシリーズ”の装着感において、最大の特長となっているのが『制振フィットブッシング』である。特にカナル型だとケーブルを伝ってくる振動ノイズがハウジングを介し、そのまま内耳に届いてしまうため、ケーブルのタッチノイズに悩まされているユーザーも少なくないのではないだろうか。
「そうですね、これまでもクリップを使って衣服に挟み込むことでタッチノイズはある程度緩和できましたが、ヘッドホン自体でどう軽減するかについてはずっと課題としてきました。そこで目を付けたのがブッシングでした。さらにノイズ低減のヒントとなったのはFXC71などで使っていた制振ジェルです。ブッシングにジェルと同じ役割を果たす弾性素材を入れることで、ケーブルの擦れを吸収してくれるのですが、問題となったのは弾性素材の固さでした。本来のジェル状の方が吸収率は高いのですが、形状維持や見た目、耐久性の点で問題があるので、素材の固さも適度に持たせながら、擦れの軽減を両立できるものを選びました。加えてブッシングの中のケーブルがまっすぐのままでは、弾性素材に触れたり触れなかったりして効果が薄まるため、S字に蛇行させることで常に触れるようにしています」(浅香氏)
個性豊かなラインナップが揃ったJVCのイヤホンシリーズ
JVCでは個性豊かなイヤホンのラインナップが存在するが、最後に“FXD/FRDシリーズ”のポジショニングと、同系列であるカーボンナノチューブ振動板マイクロHDドライバーを搭載した「HA-FXT90」との違いについても伺ってみた。
「マイクロHDドライバーとトップマウント構造を用いたシリーズは今回で3代目となりますが、低域の充実度を重視したXXシリーズ、最上位となるウッドシリーズ、そしてツインドライバーのHA-FXT90とは別の訴求ポイントを持った製品であると考えています。マイクロHDドライバーによる、耳の奥で高解像度サウンドを楽しむという独自のスタイルによって、他のラインナップとは差別化できていますし、FXD/FRDシリーズを投入することでマイクロHDドライバーというジャンルを確立していきたいと思っています。
ユーザーの皆様には、HA-FXT90とのサウンドの違いも気になることと思いますが、FXD/FRDシリーズはとても自然な音づくりを目指しています。様々なジャンルの音楽にも対応できるように設計していますし、普段使いとして、自然に音楽を聴きたい、楽しみたいという方たちにぜひ聴いてもらいたいと思います」(浅香氏)
【製品に関する問い合わせ先】
JVCケンウッド カスタマーサポートセンター
TEL/0120-2727-87
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