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公開日 2023/09/12 18:00

デノン、新フラグシップレコードプレーヤー「DP-3000NE」。ダイレクトドライブ方式、トーンアームも新設計

シンプルさ、使いやすさも追求
編集部:杉山康介
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デノンは、レコードプレーヤーの新フラグシップモデル「DP-3000NE」を10月上旬より発売する。価格は385,000円(税込)。

DP-3000NE

現在、デノンのレコードプレーヤー製品は2018年発売の「DP-400」「DP-450USB」をはじめとした低価格モデルのみで、ハイエンド機は空席となっている。そこに対し「深いアナログ体験を、より多くの音楽愛好家へ」というコンセプトのもと、新たなフラグシップ機としてDP-3000NEを打ち出すかたちだ。

同社の田中清崇氏によると、業務用機器メーカーだったデノン(デンオン)が民生市場へと参入したのは1971年のこと。当時は大手メーカーが市場を占有している状態だったが、放送局用ディスク再生装置の納入占拠率99.9%以上という技術力、信頼性の高さを武器に、放送局でも使われていたMCカートリッジ「DL-103」で参入し、市場での立ち位置を確立した。

その後同年に放送局用ターンテーブルを民生用にアレンジした「DP-5000」を発売し、高評価を得るが、大卒初任給が46,400円だったのに対しDP-5000は68,000円と、当時としては高額なモデルだったという。そこで「音楽という文化をたくさんの日本人へ」という信念のもと、DP-5000の性能を維持しつつ約40%のコストダウンを実現したレコードプレーヤー「DP-3700」を開発。1973年に発売すると爆発的なヒットを記録し、民生ブランドとしての礎を築くモデルになった。

民生市場へ参入後、大ヒットを記録した「DP3700」の発売から50年となることや、共通するコンセプト性から3000番台の名前をつけたとのこと

今年はDP-3700の発売から50周年の節目となることもあり、空席だったプレミアムレコードプレーヤーを、デノンの技術に基づいて開発し、よりお求めやすい価格で実現する、という想いを込めて、デノンにとって象徴的な「3000番台」の名前をつけたとのこと。

性能と信頼性からダイレクトドライブを採用。デノン伝統のS字型トーンアームも新設計

回転機構は正確な回転や負荷に対する安定性、使いやすさ、信頼性といった、業務用機器に求められる性能を満たすダイレクトドライブ方式を放送局用プレーヤーから受け継ぎ採用。モーターは3相16極DCブラシレスモーターで、制御方式には「空間ベクトル・パルス幅変調(SV-PWM:Space Vector PWM)」方式を採用する。

ベクトル制御法は回転を低速から高速まで効率良く制御可能で、特にレコードプレーヤーのような低速でのモーター制御には最適だという。反面、駆動回路が煩雑でソフトウェア開発が必要というデメリットもあるが、ここはデノンの培ってきた技術力で解決。非接触の光学式センサーによってプラッターの回転速度を常時検出し、値をマイコンにフィードバックして制御することによって、安定した回転速度を保ち正確なレコード再生を実現する。

放送局向けモデルでも使われていたダイレクトドライブ方式を採用

直径305mmのプラッターにはアルミダイキャスト素材を採用。共振を抑えるため裏側には3mm厚のステンレス板を銅メッキねじで固定しており、約2.8kgの質量で安定した回転に貢献しているとのこと。

プラッター裏には3mm厚のステンレスを銅メッキねじで固定している

回転系の電源回路にはスイッチモード電源(SMPS)を採用。トランスを用いたリニア電源のような振動が発生しないため、針先への影響を避けられるという。回転は33、45、78回転に対応し、ワウ・フラッターは0.06%以下、回転数偏差は±0/5%、S/Nは70dB以上。

トーンアームは高精度と使いやすさ、デザイン性にこだわって新設計したというスタティックバランスS字型トーンアームを採用。デノンではかつて開発した製品の設計図を福島・白河工場に保管していたのだが、2011年の東日本大震災でかなりの量を破損、紛失してしまったという。しかし震災後にできる限り回収、保存されていた設計図を見直しつつ、不明なところはデノンのOBエンジニアの元も訪ね、新たに図面を書き起こした。

トーンアームは新設計

「往年のレコードファンなら『デノンのトーンアームだね』と膝を叩くデザイン」だというS字型アームは、トラッキングエラーを最小化すべくカーブも入念な検討を経て設計。板バネを用いた接手によってアームパイプをフローティングさせることで、周波数特性におけるピークとディップを解消している。

デノン伝統のS字型デザイン

カウンターウェイトは16gまでのカートリッジに対応しており、付属のサブウェイトを追加すれば最大26gまでのカートリッジを使用可能。アンチスケーティング機能には、トーンアームの軸に機械的に設置せずアームの感度に影響を与えないマグネット式を採用する。

また新開発のアーム高さ調整機構を備えており、アーム根本部のレバーによって約8mmの高さ調節が可能。この機構はカメラレンズのズームと同じ機構なため、スムーズかつ高精度な調節ができるとアピールする。

カメラレンズのズームと同じ機構の高さ調整機能を新搭載

アーム有効長は244mmでオーバーハングは14mm、オフセット角は20.5度、トラッキングエラーは2.5度以内。アンチスケーティング調整幅は0-3gで、適合カートリッジ質量は単体で4-16g、リード線付きヘッドシェルやネジ、ナット、ワッシャーを含めた場合は15-27g、サブウェイト使用時はそれぞれ+10gとなる。

キャビネットは共振に強い高密度MDF+木目の美しいダーク・エボニー突板仕上げだが、中が空洞になったボックスタイプではなく、一枚板の状態から基板やモーター、配線の収まる部分だけを切削でくり抜いたソリッドタイプで製造。これによって共振を抑制して高いハウリングマージンを実現したという。

キャビネットは中が空洞のボックスタイプではなく、一枚板からパーツの空間だけを切削したソリッドタイプ

ちなみに最初の設計段階では、海外においてデノン=竹のイメージが強いことから竹キャビネットも検討していたが、量産などの観点から実用化に至らず、現在の構成に行き着いたそうだ。

インシュレーター素材にはアルミニウム樹脂、フェルトを採用し、さらにスプリングとラバークッションを組み合わせることでラックや床からの振動を遮断するという。外形寸法は500W×185H×394Dmで、質量は18.5kg(ともにダストカバーを含む)。

製品の背面部

「物理的に正しいことと感性の融合」をテーマにサウンドマスターが音決め

音決めはデノンのサウンドマスター・山内慎一氏が担当。「アナログが好きでデノンに入社したところがあるが、自身がアナログ製品に携わったのはこれまで2、3回くらいで、フルで携わったのは今回が初めて」「アナログプレーヤーではあるが、あくまで今のデノンの延長線上ということでVivid & Spaciousのフィロソフィーに基づきチューニングしている」と語る。

今回は設計で物理的な正しさを追求しつつ、山内氏の感性で音を作っていったという。例えば裏にステンレスを貼り付けるプラッター構造は、当初は制振のためにゴムを貼り付ける案が出ていたが「音が死ぬ」と却下。異種金属の中でも設計側からは質量のある亜鉛を推奨する声が挙がったが、最終的に音質面で山内氏の推すステンレスに決まったそうだ。

また、トーンアームのフローティング手段も詰め物やダンピングのテープといった案が出ていたが、音質面で板バネが採用されたとのこと。他にも電源回路のコンデンサーにオーディオ用高音質パーツを用いていたり、アームからのワイヤリングケーブルは試行錯誤の結果、5回ねじって固定しないフリーワイヤー状態になったりと、各所に山内氏のこだわりが盛り込まれている。

ユーザビリティ面もさまざまな部分で配慮がなされており、キャビネットにはSTART/STOPボタンと回転数ボタンの2つのみを搭載。電源スイッチをなくしているが、回転を停止して約20秒間操作を行わないと自動でスタンバイモードに移行する。また回転数ボタンでは33回転/45回転の切り替えが可能で、回転数ボタンを押しながらSTART/STOPボタンを推すことで78回転モードになる。

音のみならずシンプルなデザイン性、使い心地の良さも追求されている

また、キャビネットからレコード面までの高さは32mmに設定。多くのオーディオファンはレコード再生時にトーンアームリフターを使わないが、そんな方にとって32mmの高さは非常に使い心地が良いという。さらにプラッターを囲う縁の部分は、針を落とす際に右手薬指や小指を置くガイドとしてちょうど良いとのこと。

付属品としてダストカバーやプラッターマット、45回転レコード用アダプター、リードワイヤー付きヘッドシェル、電源ケーブル、オーディオケーブル(約1m)、アース線(約1.5m)など、カートリッジ以外のほぼ全てが同梱される。

編集部インプレッション

今回、DP-3000NEのサウンドを一足早く体験することができたので、簡単なインプレッションを記したい。

ダストカバーをはじめ「カートリッジ以外はほぼ全て」付属する

一聴して、アナログらしい中域-中低域の力強さや肉感がありつつ、高域にかけて見通しの良い広大なサウンドステージが展開。各音ともエッジが鋭く解像感の高い、まさに「Vivid & Spaciousなアナログサウンド」だ。

TOTOの「ロザーナ」では、ベースやボーカルが目の前に迫ってくるような熱気を感じながら、少し顔を上げるとキーボードやギターといった上物楽器が雲ひとつない青空のように広く、爽やかに広がっている。非常に感覚的ではあるが、このサウンドバランスからは、気温は高いものの風が気持ちよく吹き抜ける「理想の夏」といった印象を受ける。

山内氏の標榜するVivid & Spaciousは、ともすればアナログの魅力と正反対な要素のようにも思えるが、本製品は決して中途半端さや物足りなさはなく、アナログの魅力を十二分に引き出した“うえで”Vivid & Spaciousも実現している。今のデノンだからこそのサウンドを是非体験してみてほしい。

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