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公開日 2006/11/22 13:44
「PS3」ガチンコ対決! SACDの音質を専用機「SCD-XA1200ES」と比較する
ゲーム機であるにも関わらずBD-ROMビデオ、SACD再生と、メディアプレーヤーとしての性能にも注目が集まっているPlaystation 3。その能力を確かめるべく、今回はソニーの最新SACDプレーヤー「SCD-XA1200ES」が刺客として現れた。今回のターゲットはPS3のSACD再生機能。果たしてPS3はSACDプレーヤーとしてどの程度の実力を持っているのか。その実力を比較・検証する。
●SACDプレーヤーとしても使えるPS3
PS3をAV機器として見たときに、AVファンがビックリしたのがSACD再生への対応だろう。SACD(スーパーオーディオCD)とはDSD方式という従来のPCM方式とは異なる記録方法を使用した音楽ディスクで、高音質の5.1ch音声の収録も可能と、音質を重視するオーディオファンに親しまれてきた。そのSACDをゲーム機を使って再生するとは意外な気もするが、PS3はHDMI端子を使うことでリニアPCMの192kHzマルチチャンネル音声を出力できるため、高音質で汎用性の高い仕様を持つ。そこで音質に期待を寄せつつ実機をチェックしてみようと企画したのが今回の対決だ。
対戦相手として選んだのは、ソニーから10万円を切る低価格で発売されたSACDプレーヤー「SCD-XA1200ES」(関連ニュース)だ。組み合わせるAVアンプもソニー「TA-DA3200ES」で揃えたかったところだが、今回は貸し出しスケジュールが合わず、マランツの中級機「SR7001」(関連ニュース)を使用している。試聴は音元出版の視聴室で行い、スピーカーはモニターオーディオのSilverRSシリーズを組み合わせた。PS3とSR7001の接続はHDMIケーブルを使用。PS3の無線LANやBluetoothといったノイズ源となりそうな機能も予め無効にしてテストを行った。SCD-XA1200ESとSR7001は、RCAケーブルを6本使ってアナログマルチチャンネル入力で接続した。
●PS3 × SCD-XA1200ESのSACDで音質対決!
実際のSACDの再生は、PS3はHDMIで接続したテレビの画面からXMBを操作してSACDのディスクを選択して行う。SCD-XA1200ESはシンプルなプレーヤーなので、ディスクを入れてスタートするだけと簡単だ。視聴はすべてSACDマルチチャンネルを選んで再生している。なお、筆者は本格的なオーディオ評論は専門外だが、今回は普段からからよく聞いている3枚のSACDを使って視聴している。同じディスクを両モデルで何度も繰り返し視聴して聞こえ方の違う点を挙げているので、そこから両機の違いを汲み取ってもらいたい。
ダイアナ・クラールの「The girl in the other room」は3トラックの「Temptation」を視聴。彼女のハスキーなボーカルとしっとりとしたピアノのサウンドを楽しめるジャズナンバーだ。
この作品では主にボーカルをチェックする目的で視聴したが、すぐに気づくのが、PS3は奥行き方向に空間が出るのに対してSCD-XA1200ESは横方向にも広がりが感じられること。ウッドベースの低音、シンバルの金属音はどちらもよく出ているが、もっとも違いが現れたのがボーカルで、SCD-XA1200ESの方が声に厚みがあり、曲全体にも落ち着いた空気感が出ている。
続いてストラヴィンスキー「火の鳥」に収録されている幻想的交響曲「花火」を試聴。フルートやピッコロの高音が飛び交う尖鋭的な響きが特徴のクラシックだ。この作品はマルチチャンネルで収録されているが、フロントとセンターの3チャンネルのみを使用する。
PS3の音も高音はしっかりと出ているが、どことなく硬さがあるような音。SCD-XA1200ESは中〜高音の響きにも厚みがあり、同じ楽器の音も楽しげな鳴らし方をする。
最後にチャイコフスキーの「序曲1812」を視聴。この曲は1812年にロシア軍がナポレオンのロシア遠征を打ち破ったこと出来事がテーマとされ、終盤にはコーラス、オーケストラに加えて本物の大砲、教会の鐘が打ち鳴らされ盛大なクライマックスを迎える。
今回はそのクライマックス部分を中心に視聴したところ、今回視聴したSACDの中で最も違いが感じられた。特に周りを取り囲むようにして打ち鳴らされる鐘の音の一つ一つがSCD-XA1200の方が明瞭で、大砲の爆音も広がり迫力がある。コーラスと演奏はSCD-XA1200は溶け合うように鳴らすのに対して、PS3は分離しているように聞こえる。
●音質はSCD-XA1200ESの方が上だが…
全体を通してみると、やはりSCD-XA1200の圧勝と言わざるを得ない。抽象的な表現になってしまうが、PS3を使ったSACD再生では、ダイアナクラールのハスキーボイスにある凄み、ストラヴィンスキー「花火」序盤のワクワク感、「序章1812」のクライマックスに向けて盛り上がっていく雰囲気が現れず、どこか淡々としている。それを良さと感じる人もいるかもしれないが、SCD-XA1200ESは音楽を聞いていて文句なしに楽しい。両者の間には、恐らく誰が聞いても分かるほどの違いがある。
今回の対決は、率直に言ってPS3には相手が悪かった。テスト環境やパートナーに問題があったのかもしれないが、何よりSCD-XA1200ESの再生する音の良さが印象的で、ソニーのエントリー向けSACD再生機の想像以上のクオリティに関心が向かってしまったほどだ。
ただし、PS3は、DSD→PCM変換を、Cellの強大なプロセッサーパワーを使って、ソフトウェア処理で行っている。近々、このアルゴリズムを進化させたシステムソフトウェアのアップデートが行われるという噂もあり、それが実現すれば、PS3のSACD再生音質はさらに進化するはず。PS3のSACD再生能力を最終的に判断するのは、今後のソフトウェアアップデートを待つ必要がありそうだ。
●HDMIケーブル1本でSACDマルチを再生できるのは大きな魅力
現段階では、専用機の音質に及ばないPS3だが、それでもPS3を使ってSACDを再生することには大きなメリットがある。PS3とAVアンプ、そしてHDMIケーブルだけという取り回しの良さだ。従来SACDマルチチャネルの再生というと、光・同軸とDVDで使用するデジタルケーブルでは規格上高音質の音声を伝送できず、デジタル一本で高音質に繋げるi.Linkは対応プレーヤー・AVアンプが少なく、しかも高級機に限られる。アナログ接続をする場合にはマルチチャンネルに6本のケーブルが必要と、何とも導入しにくかったのが実情だ。それと比べればPS3を使ったシステムはHDMI一本でBD再生と簡単に共存でき、AV環境と親和性が高い。そして約5万円という破格の値段も考えれば、初めてSACDマルチチャネルに挑戦するシステムにうってつけだろう。
●次回は同じBD陣営の某機種と対決!
SACD再生対決を、導入の容易さと取り回しの良さで辛うじて引き分けに持ち込んだPS3。しかしホッとしたのも束の間、同じBD陣営の某社から新たな刺客が訪れる。次回はBD-ROM再生画質対決を掲載する予定だ。乞うご期待!
(折原一也)
●SACDプレーヤーとしても使えるPS3
PS3をAV機器として見たときに、AVファンがビックリしたのがSACD再生への対応だろう。SACD(スーパーオーディオCD)とはDSD方式という従来のPCM方式とは異なる記録方法を使用した音楽ディスクで、高音質の5.1ch音声の収録も可能と、音質を重視するオーディオファンに親しまれてきた。そのSACDをゲーム機を使って再生するとは意外な気もするが、PS3はHDMI端子を使うことでリニアPCMの192kHzマルチチャンネル音声を出力できるため、高音質で汎用性の高い仕様を持つ。そこで音質に期待を寄せつつ実機をチェックしてみようと企画したのが今回の対決だ。
対戦相手として選んだのは、ソニーから10万円を切る低価格で発売されたSACDプレーヤー「SCD-XA1200ES」(関連ニュース)だ。組み合わせるAVアンプもソニー「TA-DA3200ES」で揃えたかったところだが、今回は貸し出しスケジュールが合わず、マランツの中級機「SR7001」(関連ニュース)を使用している。試聴は音元出版の視聴室で行い、スピーカーはモニターオーディオのSilverRSシリーズを組み合わせた。PS3とSR7001の接続はHDMIケーブルを使用。PS3の無線LANやBluetoothといったノイズ源となりそうな機能も予め無効にしてテストを行った。SCD-XA1200ESとSR7001は、RCAケーブルを6本使ってアナログマルチチャンネル入力で接続した。
●PS3 × SCD-XA1200ESのSACDで音質対決!
実際のSACDの再生は、PS3はHDMIで接続したテレビの画面からXMBを操作してSACDのディスクを選択して行う。SCD-XA1200ESはシンプルなプレーヤーなので、ディスクを入れてスタートするだけと簡単だ。視聴はすべてSACDマルチチャンネルを選んで再生している。なお、筆者は本格的なオーディオ評論は専門外だが、今回は普段からからよく聞いている3枚のSACDを使って視聴している。同じディスクを両モデルで何度も繰り返し視聴して聞こえ方の違う点を挙げているので、そこから両機の違いを汲み取ってもらいたい。
ダイアナ・クラールの「The girl in the other room」は3トラックの「Temptation」を視聴。彼女のハスキーなボーカルとしっとりとしたピアノのサウンドを楽しめるジャズナンバーだ。
この作品では主にボーカルをチェックする目的で視聴したが、すぐに気づくのが、PS3は奥行き方向に空間が出るのに対してSCD-XA1200ESは横方向にも広がりが感じられること。ウッドベースの低音、シンバルの金属音はどちらもよく出ているが、もっとも違いが現れたのがボーカルで、SCD-XA1200ESの方が声に厚みがあり、曲全体にも落ち着いた空気感が出ている。
続いてストラヴィンスキー「火の鳥」に収録されている幻想的交響曲「花火」を試聴。フルートやピッコロの高音が飛び交う尖鋭的な響きが特徴のクラシックだ。この作品はマルチチャンネルで収録されているが、フロントとセンターの3チャンネルのみを使用する。
PS3の音も高音はしっかりと出ているが、どことなく硬さがあるような音。SCD-XA1200ESは中〜高音の響きにも厚みがあり、同じ楽器の音も楽しげな鳴らし方をする。
最後にチャイコフスキーの「序曲1812」を視聴。この曲は1812年にロシア軍がナポレオンのロシア遠征を打ち破ったこと出来事がテーマとされ、終盤にはコーラス、オーケストラに加えて本物の大砲、教会の鐘が打ち鳴らされ盛大なクライマックスを迎える。
今回はそのクライマックス部分を中心に視聴したところ、今回視聴したSACDの中で最も違いが感じられた。特に周りを取り囲むようにして打ち鳴らされる鐘の音の一つ一つがSCD-XA1200の方が明瞭で、大砲の爆音も広がり迫力がある。コーラスと演奏はSCD-XA1200は溶け合うように鳴らすのに対して、PS3は分離しているように聞こえる。
●音質はSCD-XA1200ESの方が上だが…
全体を通してみると、やはりSCD-XA1200の圧勝と言わざるを得ない。抽象的な表現になってしまうが、PS3を使ったSACD再生では、ダイアナクラールのハスキーボイスにある凄み、ストラヴィンスキー「花火」序盤のワクワク感、「序章1812」のクライマックスに向けて盛り上がっていく雰囲気が現れず、どこか淡々としている。それを良さと感じる人もいるかもしれないが、SCD-XA1200ESは音楽を聞いていて文句なしに楽しい。両者の間には、恐らく誰が聞いても分かるほどの違いがある。
今回の対決は、率直に言ってPS3には相手が悪かった。テスト環境やパートナーに問題があったのかもしれないが、何よりSCD-XA1200ESの再生する音の良さが印象的で、ソニーのエントリー向けSACD再生機の想像以上のクオリティに関心が向かってしまったほどだ。
ただし、PS3は、DSD→PCM変換を、Cellの強大なプロセッサーパワーを使って、ソフトウェア処理で行っている。近々、このアルゴリズムを進化させたシステムソフトウェアのアップデートが行われるという噂もあり、それが実現すれば、PS3のSACD再生音質はさらに進化するはず。PS3のSACD再生能力を最終的に判断するのは、今後のソフトウェアアップデートを待つ必要がありそうだ。
●HDMIケーブル1本でSACDマルチを再生できるのは大きな魅力
現段階では、専用機の音質に及ばないPS3だが、それでもPS3を使ってSACDを再生することには大きなメリットがある。PS3とAVアンプ、そしてHDMIケーブルだけという取り回しの良さだ。従来SACDマルチチャネルの再生というと、光・同軸とDVDで使用するデジタルケーブルでは規格上高音質の音声を伝送できず、デジタル一本で高音質に繋げるi.Linkは対応プレーヤー・AVアンプが少なく、しかも高級機に限られる。アナログ接続をする場合にはマルチチャンネルに6本のケーブルが必要と、何とも導入しにくかったのが実情だ。それと比べればPS3を使ったシステムはHDMI一本でBD再生と簡単に共存でき、AV環境と親和性が高い。そして約5万円という破格の値段も考えれば、初めてSACDマルチチャネルに挑戦するシステムにうってつけだろう。
●次回は同じBD陣営の某機種と対決!
SACD再生対決を、導入の容易さと取り回しの良さで辛うじて引き分けに持ち込んだPS3。しかしホッとしたのも束の間、同じBD陣営の某社から新たな刺客が訪れる。次回はBD-ROM再生画質対決を掲載する予定だ。乞うご期待!
(折原一也)