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公開日 2007/04/24 14:58

話題のソフトを“Wooo”で観る − 第7回『イルマーレ』 (Blu-ray Disc)

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この連載「話題のソフトを“Wooo”で観る」では、AV評論家・大橋伸太郎氏が旬のソフトの見どころや内容をご紹介するとともに、“Wooo”薄型テレビで視聴した際の映像調整のコツなどについてもお伝えします。DVDソフトに限らず、放送や次世代光ディスクなど、様々なコンテンツをご紹介していく予定です。第7回はBlu-ray Discソフト『イルマーレ』をお届けします。


『イルマーレ』ワーナー・ホーム・ビデオ WBBA-82964 ¥3,980(税込)
男女の運命的なめぐり合いを描く映画がいつの間にか増えているような気がする。邦画では『いま、会いにゆきます。』(2004)が大ヒットしたのは記憶に新しい。“泣きたい症候群”が世界中にはびこっているのか、それとも、欲望丸出しの出会いサイトに代表されるインスタント恋愛の虚しさにヘキエキしているからか。神様が決めた宿命の相手に出会うためなら少々話の辻褄が合わなくたって…、そんな映画が受けているようだ。

韓国映画のハリウッドリメイクが大成功

『イルマーレ』は、シカゴとミシガン湖畔に建つ家を舞台に、2004年と2006年の二つの世界に生きる男女が文通し恋を育むファンタジックな恋愛映画である。

また、『イルマーレ』にはもうひとつ特徴がある。それは、本作が2001年に製作された韓国映画のハリウッド・リメイクであることだ。内外のヒット作をベースに人気俳優をキャスティングし現代の観客に嗜好に合わせてリフォームすれば、低リスクで高収益の映画が作れる。リメイクがこれだけ沢山作られるのは安全だからである。

ハリウッド版『イルマーレ』は、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックという人気俳優の出演を当初から想定していたに違いない。この二人のキャスティングこそリメイクのすべてといっていい。そして事実、映画に狙い通りの成功をもたらしたのである。

医師のケイト・フォースター(サンドラ・ブロック)はシカゴの大病院に転勤が決まり、二年間を暮らした湖畔の家を引き払う決心をする。毎日の激務から自分を癒してくれたその家をいとおしむ彼女は、次の住人に宛てた手紙を書いて郵便ポストに入れる。その手紙は不思議なことに二年前の今そこに暮らしている男の元に届く。その男は建築事務所で働くアレックス(キアヌ・リーブス)。彼からの返事をケイトが受け取った時から二年という時を越えたふたりの文通が始まり、感性の似た二人は次第に惹かれあっていく。

ストーリーの骨格も湖畔に立つ家という舞台設定(韓国版は海辺の家)も、オリジナル版通りである。その家が男の父である有名建築家の設計で、彼が葛藤を抱いていることも同じである。しかし、作品のトーンが大きく変わっている。キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックというベテラン有名俳優の映画だからである。オリジナル版の主役男女(イ・ジョンジェとチョン・ジヒョン)が建築学科の学生とアニメの声優という二人の若者だったのに対し、本作ではゼネコンに勤務する建築士と大病院の女医、それぞれ独身のまま中年の坂に差し掛かった男女の恋へと設定を変えている。しかも、ケイトとアレックスはかつてそれぞれ恋人を伴ってパーティで偶然に出会い、惹かれあった同士だった。運命的な出会いという作品の主題がこれで強調された。

二人の男女には共通点があった。肉親との心の葛藤である。アレックスとケイト、二人の人生がすれ違う舞台はいかにもミシガン州らしい美しい湖畔の家である(英語原題は“The Lake House”)。人間が古い家に執着する裏側には、失われた家族への思いがある。アレックスは父から愛された記憶がなく、母を死に追いやった有名建築家でエゴイスティックな父に複雑な思いがある。ケイトも病弱だった父の願い通り医師になったが死別し、母とはそりが合わない。オリジナル版ではあっさりとしか触れられなかった家族の来歴と心のバックボーンをきちんと描くことで、湖畔に立つ家に象徴的な意味と生命が吹き込まれたのである。オリジナルで隠れていた周辺要素を拾い上げ、ていねいに描きこむことで映画としてのふくらみが増し、ファンタジックな男女の恋愛を描きながら家族を描いた現代のアメリカ映画『イルマーレ』が生まれた。家族の最小単位は一組の男女から始まるのだから。

ただし、これで困ったことになった。二人のベテラン俳優がリアルに演じるほど、オリジナル版ではサラリと受け流すことのできたタイムパラドックスが強調されてしまう。ストーリー紹介を続けると、どうしてもあなたに、きみに会いたいとなり、アレックスは一年半先までディナーの予約が一杯の人気レストランに二年後の明日の予約をする。オリジナルでは海辺に立つ家の愛称だった「イルマーレ」が本作ではレストランの名となり、彼女が胸を高鳴らせそこを訪れると確かに予約がある。しかし、アレックスは現れなかった。数ヶ月前、交通事故にあい救命処置の甲斐なく彼女の腕の中で息を引き取っていたのである…。

結末は賛否両論があるだろう。現実にあったことかどうかわからないが、自分にとってそれは起きたのだ、がファンタジーの原則であって現実を変えてはいけない。これはオリジナル版も同じだがかなり無茶苦茶な結末で、観客のリサーチから生まれる現代の映画に哀切な幕切れはありえないのだろう。

でも、野暮をいうのは止めましょう。見終わって後味のいい映画に仕上がっているのだから。監督のアレハンドロ・アグレスティは合作映画『フィガロ・ストーリー』を演出したアルゼンチン出身の監督。音楽はレイチェル・ポートマンだが、オリジナルスコアは少なく観客層の嗜好に合わせた既存のポピュラー曲がファンタジック・ロマンスを盛り立てる。普通は未来に暮らすほうが有利で色々なことを知っているわけだが、本作では先の時間を行くケイトはアレックスに会っても彼に気づかず、過去にいるアレックスがケイトを追いかけていく。二人が偶然出会うパーティでは、彼女が文通の相手であるケイトと知って恋心を抱く。

パーティが終わって誰もいない夜の庭で二人が踊り自然に唇を重ねるシーンが、オリジナルにないリメイク版の創意でロマンティックな全編のハイライトである。そこに流れる音楽がポール・マッカートニーの「ディス・ハップンド・ネヴァー・ビフォア」、映画の片方の時間である2004年に発表されたアルバム『ケイオス・アンド・クリエーション・イン・バックヤード』の収録曲でエンディングにもう一度繰り返される。なかなか粋な選曲だ。

W42P-HR9000で見る『イルマーレ』

ブルーレイディスクとしてワーナー・ホーム・ビデオから発売された『イルマーレ』のエンコード方式はVC-1、音声はドルビーデジタル5.1chである。静かな会話劇で背景に流れる音楽がいいのでリニアPCMにして欲しかった。

筆者の二階仕事場に置いた、日立42V型プラズマテレビ「W42P-HR9000」でこの10カ月、DVDからHD DVD、ブルーレイディスクまで実に多くのソフトを見てきた。その画質の良さについては連載を通じて紹介してきた通りだが、本作『イルマーレ』ほど、その映像がW42P-HR9000の表現力とぴたりと一致し、そこに浸ることのできる映画はなかった。

まず映像自体が美しい。オリジナル版は韓国映画界のビジュアリスト、イ・ヒョンスン監督らしいファッショナブルで幻想的な映像に特徴があったが、それと対照的に本作の映像は主演二人の持ち味に合わせアダルトでシック、落ち着いて端正である。

リメイクに当たり舞台にシカゴを選んだのは、想像するに二つの理由がある。一つはいうまでもなく主題設定にふさわしく湖畔に控える大都市であること。シネスコのワイドサイズを生かした広角撮影のロケーションシーンが中心で、運命を縒り合わせていく男女に扮した主演二人のふくらみのある演技をミシガン湖畔、街頭、郊外の風景ごと情感豊かに切り取っていく。撮影監督はアラー・キヴィロ。

もう一つの理由は本作では建築が重要なモチーフで、シカゴが新旧の建築が混在する都市だからである。二年の時を隔て二人が生活する町が持つ豊かな時間の層を映画の背景として陰影豊かに引き出している。この時間こそ、恋人たちを結びつけたり隔てたりする悪戯な副主人公なのである。

ファンタジーといっても、映像はソフトフォーカスでなくあくまでシャープでコントラストはくっきりと深い。日立のハイビジョンプラズマテレビW42P-HR9000の最大の魅力は垂直解像度1080の情報量とすみずみまでフォーカスが行き届いたシャープな描画である。これが本作の映像の基調とピタリ一致してリメイクの主題である「大人の一途な恋」を浮かび上がらせる。

リメイクの隠し味に主役二人の周囲との「違和感」がある。これが感性の似たもの同士である二人を縁り合わせていくわけだが、違和感の最たるものとしてそれぞれの恋人が登場する。アレックスのガールフレンド(蛯原友里似のなかなかの美人)は、場末のホームセンターで売っているような悪趣味な服でパーティに現れる。一方のアレックスとケイトは一貫して地味であるがシックで質感の高い大人のトラッド(古い!)ファッションをまとっている。

ハイビジョンディスクは色の表現域がDVD(NTSC)よりはるかに広く色数が多いので、W42P-HR9000の被写体のテクスチュアの巧みな表現とあいまって、通じ合う二人の感性がそこから非常によく伝わってくる。失われた家族の日々への想いがよぎる湖畔に建つ家の憂愁を帯びたたたずまいを圧縮ノイズの妨害を排してクリアに描写する解像感と高S/Nも、W42P-HR9000の持ち味である。ファンタジーであるからこそ、物語の拠って立つ湖畔の家に確かなリアリティが感じられないと、映像の全体がふくらんでいかないのだ。

色温度は悩んだ結果「低」を選択

大人のラブファンタジー『イルマーレ』に最高の適性を発揮する日立のプラズマテレビW42P-HR9000であるが、あえて画質調整を試みてみよう。毎回同じことを繰り返すようだが、一本の映画を通して見ることはまず色温度の設定から始まる。

筆者はW42P-HR9000で現代のアメリカ映画を見る場合、「中」を選ぶことが多い。本作はロケーション撮影が中心である。筆者は数年前の秋にイリノイ州をシカゴまで車で旅した経験があるが、ミシガン湖周辺の郊外は美しい。調整の基本にその時の光を思い出してみた。この映画は晩秋から始まるが、落葉で埋まった湖畔の風景といいアダルトでシックなトーンといい色彩は穏やかで厚みのある「低」がいいのだが、シカゴの冷涼な空気感は「中」がふさわしいのである。

普段は気丈な女医だが少女のように心細い表情を見せるサンドラ・ブロックの肌も基本的には「中」である。撮影上あるいはカラリストの作為か撮影時の微妙な光線の差なのか、これは撮影監督に訊かないとわからないが、連続するシーンでケイトとアレックスの目に映る湖畔の家のトーンに微妙な差が認められる。アレックスのいる2004年のシーンの方がやや重く、つまり心の屈託を反映しているように感じられる。これらを総合して散々悩んだ末、結局「低」を選択し、他の項目でやや明るめに調整することにした。

先に書いたパーティのダンスシーンを例にとってみよう。APL検出との兼ね合いで、W42P-HR9000の明るさ(コントラスト)は‐10と-11の間に断層がある。ここは-11で踏ん張ってもらい黒レベルは+6とした。色の濃さは-18まで下げて過剰に重い色調になるのを避けた。他の設定は写真の通りだ。これで『イルマーレ』全編を心おきなく楽しむことができる。

画質調整に使ったワンシーン

画質調整項目(1/3)

画質調整項目(2/3)

なお、本作とオリジナル版を見比べていきながら、もう一つ別の映画がふと思い出され気になりはじめ、とうとうDVDをアマゾンで買ってしまった。岩井俊二監督、中山美穂主演の日本映画『Love Letter』(1995)。死んだ恋人に宛てた手紙が同姓同名の同級生に届いてしまいそこから女性二人の文通が始まるという、本作よりリアルな話だが、W42P-HR9000が描き出す『Love Letter』の映像、これがまた素晴らしいものだった。DVDはレンタル対象外のようだがぜひ本作と合わせて見ることをお勧めする。

(大橋伸太郎)

大橋伸太郎 プロフィール

1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数2006年に評論家に転身。趣味はウィーン、ミラノなど海外都市訪問をふくむコンサート鑑賞、アスレチックジム、ボルドーワイン。

バックナンバー
第1回『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』
第2回『アンダーワールド2 エボリューション』
第3回『ダ・ヴィンチ・コード』
第4回『イノセンス』 (Blu-ray Disc)
第5回『X-MEN:ファイナル デシジョン』 (Blu-ray Disc)
第6回『16ブロック』 (Blu-ray Disc)

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