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公開日 2007/08/23 12:26
ソニー最新AVアンプ「TA-DA5300ES」のサウンドを“PS3”で聴いた! − 開発者・金井氏インタビュー
ソニーの次世代AVアンプ「TA-DA5300ES」の試聴編レビューをお伝えしよう。ハードウェアの詳細に関するレポートは前回の記事を参照していただきたい。
今回もソニーのピュアオーディオアンプの開発全体を統括しているオーディオ事業本部 ホームオーディオ事業部 設計1部 主幹技師の金井隆氏にお話を伺った。
(レポート/鈴木桂水)
■TA-DA5300ESのサウンドを、ベストパートナー“PS3”で聴く
━━今回の試聴ではBD/SACDプレーヤー再生のリファレンスに専用コンポーネントではなく、敢えてPLAYSTATION3を選んだ理由を教えて下さい。
金井氏:PLAYSTATION3には底知れないポテンシャルがあります。また私はPLAYSTATION 3のオーディオ部分の開発を手伝っておりますので、TA-DA5300ESとのマッチングについても熟知しています。PLAYSTATION 3は発売後、ファームウエアを更新することで機能や音質が向上し、その積み重ねでますます高音質なプレーヤーとして進化しています。コストパフォーマンスを考えれば夢のような製品です。最新バージョン1.9は、前回のバージョン1.8で採用した「ビットマッピング・タイプ1」に加え「タイプ2」を追加しました。
「ビットマッピング」とは量子化(デジタル信号化)によって切捨てられていたデータを救い、有効活用することによって、SACDに記録されたデジタルデータを、よりアナログ的で滑らかに表現する処理。乱暴な説明をするなら“0と1”で記録してあるデジタル信号に対して、自然に近い音の再現のために不要なデータ(この場合はノイズ)を切り捨て、逆に不足している部分に対しては一定のノイズを加えることで、階段のような波形を滑らかにして再生する。この処理はヴォーカル、楽器などすべての音色に対して効果がある。バージョン1.8ではクリアでナチュラルな響きの「ビットマッピング・タイプ1」に加え、ホールなどの余韻の表現を得意とする「ビットマッピング・タイプ2」が追加されている。
早速そのサウンドをチェックしてみよう。試聴したディスクは金井氏が日頃から開発やデモに使っているタイトルだ。他にも幾つかのタイトルを試聴したが、その中から印象に残った作品をピックアップし、試聴メモを添えることにした。タイトルの詳細は金井氏のホームページ「かないまる」にて紹介されているので、興味のある方は参考にしてみてはいかがだろう。
【試聴に使用した機材】
■AVアンプ:TA-DA5300ES
▲TA-DA5300ESはまだ試作機なので、細かな変更が加えられるかもしれない。
■スピーカー:B&W マトリックス801シリーズ
▲スピーカーはB&Wのマトリックス801シリーズを使用。
■プレーヤー:PLAYSTATION3
▲プレーヤーは最新バージョンにアップデートされているPLAYSTATION3を使った。
■PLAYSTATION3と組み合わせたTA-DA5300ESのオーディオ再生をチェック
タイトル:PONTA BOX
演奏者:村上“ポンタ”秀一
レーベル:ビクターエンターテインメント
曲名:ナッシング・フロム・ナッシング〜ウェル・ユー・ニードント
聴き所:楽器の定位感を確認した。とくにシンバルの音が明瞭でブレのないフォーカスが気持ちいい。リファレンスに選ばれた背景については、金井氏いわく「デジタルアンプの上位モデルと比べても遜色のない定位感が出るように工夫しました」とのこと。
タイトル:Manhattan in Blue
演奏者:MALTA
レーベル:ビクターエンターテインメント
曲名:I'm A Fool To Want You
聴き所:この曲ではサックスの息づかいとシズルシンバル独特「シャワー」っとした音響を見事に再現している。金属の響きがクリアで、空気の震える感じさえ伝わってくる。サックスには音にぬくもりがあり実に自然で美しい。
タイトル:Beethoven: Piano Sonatas Nos. 21, 23 & 26 - Kodama
演奏者:児玉麻里
レーベル:PentaTone Classics
聴き所:今回は2チャンネル再生とマルチチャンネル再生の両方聴いて比較した。ポップスなどのマルチチャンネルのSACDタイトルは、音が360度全方向から聴こえてきて、たいへん落ち着かない印象がある。しかしクラッシックのマルチチャンネルSACDでは収録場所の空間を再現するためにマルチチャンネル録音が採り入れられている側面もある。「SACDのマルチチャンネルを良い状態で再現すれば、ホールやコンサート会場の広がりが体感できます」(金井氏)
マルチチャンネルのサウンドは楽器の音を立体的に再現するので、リアリティのある音源となってイメージできる。試聴したアルバムではピアノの向き、ハンマーの位置まで目に浮かんできたのは驚きだった。一方の2チャンネル再生時には音質の良さは変らないが、前後方向の表現が乏しく、マルチチャンネル再生に比べると幾分か物足りなさを感じた。
タイトル:Poulenc Concerto for Organ
演奏者:Gillian Weir
レーベル:LINN RECORDS
聴き所:教会で録音されたオーケストラとパイプオルガンによるコンチェルト。冒頭に入るティンパニーの音一つで、広い教会の空間が瞬時にイメージできた。オーケストラの距離感は、楽器の位置が明確に確認でき前後方向の奥行きも十分に感じられる。
耳を澄ますとパイプオルガンの“パコッ”という弁の開閉音や送風機の音も再現しているのには驚かされた。楽器それぞれの距離と位置が手に取るようにわかるので、複雑な譜面に合わせて交差する楽器の音色の輪郭を明確にしながら再現するのは圧巻。楽器そのもの音を吟味しながら、その融合を存分に楽しめた。
タイトル:Popov Symphony No.1
演奏:London Symphony Orchestra
レーベル:Telarc
このタイトルではPLAYSTATION3の「ビットマッピング」効果をテストした。TA-DA5300ESについてのインプレッションから離れるが、PLAYSTATION3は、本アンプの開発には欠かせないプレーヤーなので、併せてその評価もお伝えしよう。
まずPLAYSTATION3のビットマッピングを「切」にして再生した。これがいわばノーマルの状態だが、すでにコンディションの良い環境で聴いていたせいか、全体的に音がざらついている印象を受ける。金井氏によると「このザラツキ感は24ビットの量子化ノイズです」とのこと。
次にビットマッピングを使って同じパートを再生した。「タイプ1」で再生したところ、ノイズを適度に加減することで音に滑らかさが出てくる。断然こちらの方が聴きやすく楽器の音色は自然だ。次にノイズシェイピング処理を加えた「タイプ2」で視聴した。こちらは低域部分の解像度が上がるので、ホールの残響音を正確に再現できるようになり、音に広がりが生まれてくる。同じプレーヤーなのにまったく異なる性質の音色となっている。金井氏によれば「すべてを“タイプ2”で再生すれば良いというわけではありません。作成する際にノイズシェービングを行っているタイトルもあるので、同様の効果が重なり、効果が過剰になる場合があります。その場合は“タイプ1”に切替えて聴いてください。ビットマッピング機能はアナログプレーヤで例えるならカートリッジのようなものです。ソフトウエアの処理を変更することで好みの音色が出せるようになります」とのこと。
■次世代サラウンドフォーマットの再生能力をチェック
次は次世代サラウンドのチェックを行ってみよう。テストに使用したのはドルビーTrueHDが記録されている米国版の映画『GHOST RIDER』(Sony Pictures)を使用した。このソフトすでに日本版も発売されているが、なぜかドルビーTrueHDは記録されていない。とても不公平な感じを受けるのは筆者だけではないだろう。ぜひ音声などの重要な仕様は米国版と同様にしていただきたいものだ。
テストはドルビーTrueHDとPCM-5.1chで音の違いを聴き比べた。金井氏の説明によれば、可逆性の圧縮方式を採用するドルビーTrueHDは原音再生が可能だが、そのデコード(解凍処理)時にノイズの影響を受け、音の劣化が発生する場合があるという。金井氏はTA-DA5300ESを設計する際、このノイズ対策を徹底的に施し、リニアPCM5.1chと比べても遜色のない音に仕上げたのだという。
まだ発売されて間もないソフトなので、シーンの詳細についての記述は控えるが、劇中でゴーストライダーがビルをバイクに乗りながら駆け下りてくるシーンを視聴した。バイクの音、爆発音、人の声が交差するシーンだが、それぞれが明瞭に聴こえるかをチェックした。結果はリニアPCMの方が、わずかだが台詞が明瞭に感じたが、その違いは殆ど感じられなかった。金井氏によるとまだ試作段階と言うことなので、今後も発売ギリギリまで調整を繰り返すという。
今回はB&Wの高級スピーカーを使った最高のコンディションでのテストだったが、そのあたりを差し引いてもサウンドのフォーカス能力や広がりのあるサラウンド再生など、TA-DA5300ESの実力を感じられた。これでまだ試作機の段階ということなので、実機が万全の状態で発売されるのが今から楽しみだ。発売後は、ぜひ筆者のチープな環境でも同じような実力が発揮されるのかを試してみたいものだ。
鈴木桂水(Keisui Suzuki)
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経 BP社デジタルARENAにて「使って元取れ!ケースイのAV機器<極限>酷使生活」などで使いこなし系のコラムを連載。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら
今回もソニーのピュアオーディオアンプの開発全体を統括しているオーディオ事業本部 ホームオーディオ事業部 設計1部 主幹技師の金井隆氏にお話を伺った。
(レポート/鈴木桂水)
■TA-DA5300ESのサウンドを、ベストパートナー“PS3”で聴く
━━今回の試聴ではBD/SACDプレーヤー再生のリファレンスに専用コンポーネントではなく、敢えてPLAYSTATION3を選んだ理由を教えて下さい。
金井氏:PLAYSTATION3には底知れないポテンシャルがあります。また私はPLAYSTATION 3のオーディオ部分の開発を手伝っておりますので、TA-DA5300ESとのマッチングについても熟知しています。PLAYSTATION 3は発売後、ファームウエアを更新することで機能や音質が向上し、その積み重ねでますます高音質なプレーヤーとして進化しています。コストパフォーマンスを考えれば夢のような製品です。最新バージョン1.9は、前回のバージョン1.8で採用した「ビットマッピング・タイプ1」に加え「タイプ2」を追加しました。
「ビットマッピング」とは量子化(デジタル信号化)によって切捨てられていたデータを救い、有効活用することによって、SACDに記録されたデジタルデータを、よりアナログ的で滑らかに表現する処理。乱暴な説明をするなら“0と1”で記録してあるデジタル信号に対して、自然に近い音の再現のために不要なデータ(この場合はノイズ)を切り捨て、逆に不足している部分に対しては一定のノイズを加えることで、階段のような波形を滑らかにして再生する。この処理はヴォーカル、楽器などすべての音色に対して効果がある。バージョン1.8ではクリアでナチュラルな響きの「ビットマッピング・タイプ1」に加え、ホールなどの余韻の表現を得意とする「ビットマッピング・タイプ2」が追加されている。
早速そのサウンドをチェックしてみよう。試聴したディスクは金井氏が日頃から開発やデモに使っているタイトルだ。他にも幾つかのタイトルを試聴したが、その中から印象に残った作品をピックアップし、試聴メモを添えることにした。タイトルの詳細は金井氏のホームページ「かないまる」にて紹介されているので、興味のある方は参考にしてみてはいかがだろう。
【試聴に使用した機材】
■AVアンプ:TA-DA5300ES
▲TA-DA5300ESはまだ試作機なので、細かな変更が加えられるかもしれない。
■スピーカー:B&W マトリックス801シリーズ
▲スピーカーはB&Wのマトリックス801シリーズを使用。
■プレーヤー:PLAYSTATION3
▲プレーヤーは最新バージョンにアップデートされているPLAYSTATION3を使った。
■PLAYSTATION3と組み合わせたTA-DA5300ESのオーディオ再生をチェック
タイトル:PONTA BOX
演奏者:村上“ポンタ”秀一
レーベル:ビクターエンターテインメント
曲名:ナッシング・フロム・ナッシング〜ウェル・ユー・ニードント
聴き所:楽器の定位感を確認した。とくにシンバルの音が明瞭でブレのないフォーカスが気持ちいい。リファレンスに選ばれた背景については、金井氏いわく「デジタルアンプの上位モデルと比べても遜色のない定位感が出るように工夫しました」とのこと。
タイトル:Manhattan in Blue
演奏者:MALTA
レーベル:ビクターエンターテインメント
曲名:I'm A Fool To Want You
聴き所:この曲ではサックスの息づかいとシズルシンバル独特「シャワー」っとした音響を見事に再現している。金属の響きがクリアで、空気の震える感じさえ伝わってくる。サックスには音にぬくもりがあり実に自然で美しい。
タイトル:Beethoven: Piano Sonatas Nos. 21, 23 & 26 - Kodama
演奏者:児玉麻里
レーベル:PentaTone Classics
聴き所:今回は2チャンネル再生とマルチチャンネル再生の両方聴いて比較した。ポップスなどのマルチチャンネルのSACDタイトルは、音が360度全方向から聴こえてきて、たいへん落ち着かない印象がある。しかしクラッシックのマルチチャンネルSACDでは収録場所の空間を再現するためにマルチチャンネル録音が採り入れられている側面もある。「SACDのマルチチャンネルを良い状態で再現すれば、ホールやコンサート会場の広がりが体感できます」(金井氏)
マルチチャンネルのサウンドは楽器の音を立体的に再現するので、リアリティのある音源となってイメージできる。試聴したアルバムではピアノの向き、ハンマーの位置まで目に浮かんできたのは驚きだった。一方の2チャンネル再生時には音質の良さは変らないが、前後方向の表現が乏しく、マルチチャンネル再生に比べると幾分か物足りなさを感じた。
タイトル:Poulenc Concerto for Organ
演奏者:Gillian Weir
レーベル:LINN RECORDS
聴き所:教会で録音されたオーケストラとパイプオルガンによるコンチェルト。冒頭に入るティンパニーの音一つで、広い教会の空間が瞬時にイメージできた。オーケストラの距離感は、楽器の位置が明確に確認でき前後方向の奥行きも十分に感じられる。
耳を澄ますとパイプオルガンの“パコッ”という弁の開閉音や送風機の音も再現しているのには驚かされた。楽器それぞれの距離と位置が手に取るようにわかるので、複雑な譜面に合わせて交差する楽器の音色の輪郭を明確にしながら再現するのは圧巻。楽器そのもの音を吟味しながら、その融合を存分に楽しめた。
タイトル:Popov Symphony No.1
演奏:London Symphony Orchestra
レーベル:Telarc
このタイトルではPLAYSTATION3の「ビットマッピング」効果をテストした。TA-DA5300ESについてのインプレッションから離れるが、PLAYSTATION3は、本アンプの開発には欠かせないプレーヤーなので、併せてその評価もお伝えしよう。
まずPLAYSTATION3のビットマッピングを「切」にして再生した。これがいわばノーマルの状態だが、すでにコンディションの良い環境で聴いていたせいか、全体的に音がざらついている印象を受ける。金井氏によると「このザラツキ感は24ビットの量子化ノイズです」とのこと。
次にビットマッピングを使って同じパートを再生した。「タイプ1」で再生したところ、ノイズを適度に加減することで音に滑らかさが出てくる。断然こちらの方が聴きやすく楽器の音色は自然だ。次にノイズシェイピング処理を加えた「タイプ2」で視聴した。こちらは低域部分の解像度が上がるので、ホールの残響音を正確に再現できるようになり、音に広がりが生まれてくる。同じプレーヤーなのにまったく異なる性質の音色となっている。金井氏によれば「すべてを“タイプ2”で再生すれば良いというわけではありません。作成する際にノイズシェービングを行っているタイトルもあるので、同様の効果が重なり、効果が過剰になる場合があります。その場合は“タイプ1”に切替えて聴いてください。ビットマッピング機能はアナログプレーヤで例えるならカートリッジのようなものです。ソフトウエアの処理を変更することで好みの音色が出せるようになります」とのこと。
■次世代サラウンドフォーマットの再生能力をチェック
テストはドルビーTrueHDとPCM-5.1chで音の違いを聴き比べた。金井氏の説明によれば、可逆性の圧縮方式を採用するドルビーTrueHDは原音再生が可能だが、そのデコード(解凍処理)時にノイズの影響を受け、音の劣化が発生する場合があるという。金井氏はTA-DA5300ESを設計する際、このノイズ対策を徹底的に施し、リニアPCM5.1chと比べても遜色のない音に仕上げたのだという。
まだ発売されて間もないソフトなので、シーンの詳細についての記述は控えるが、劇中でゴーストライダーがビルをバイクに乗りながら駆け下りてくるシーンを視聴した。バイクの音、爆発音、人の声が交差するシーンだが、それぞれが明瞭に聴こえるかをチェックした。結果はリニアPCMの方が、わずかだが台詞が明瞭に感じたが、その違いは殆ど感じられなかった。金井氏によるとまだ試作段階と言うことなので、今後も発売ギリギリまで調整を繰り返すという。
今回はB&Wの高級スピーカーを使った最高のコンディションでのテストだったが、そのあたりを差し引いてもサウンドのフォーカス能力や広がりのあるサラウンド再生など、TA-DA5300ESの実力を感じられた。これでまだ試作機の段階ということなので、実機が万全の状態で発売されるのが今から楽しみだ。発売後は、ぜひ筆者のチープな環境でも同じような実力が発揮されるのかを試してみたいものだ。
鈴木桂水(Keisui Suzuki)
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経 BP社デジタルARENAにて「使って元取れ!ケースイのAV機器<極限>酷使生活」などで使いこなし系のコラムを連載。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら