公開日 2013/12/27 10:39
CHORDジョン・フランクスCEOに聞く − ハイレゾ対応ポタアン「HUGO」の魅力
【特別企画】
■CHORDのあゆみ |
イギリスのCHORDから、ハイレゾ対応のUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプ「HUGO(ヒューゴ)」が発表された。ブランド初のポータブルオーディオ機器でありながら、内蔵するDAコンバーターはDSD128(5.6MHz)、および最大384kHz/32bitまでのPCM再生に対応する尖った仕様が盛り込まれた。CHORD Electronics社のファウンダーである、CEOのジョン・フランクス氏に製品開発のバックグラウンドを訊ねた。
元々は航空機用エンジンの電源開発に関わるメカニカルエンジニアとしてのキャリアを持つフランクス氏。一般的にスイッチング電源は、高周波ノイズの発生源となることからオーディオ用途には不向きと考えられていたが、フランクス氏は独自の「周波数ホッピング・テクニック」という技術を開発。小型ながらも大出力が得られる高効率な電源供給システムの特徴を活かした、数々の高音質なオーディオコンポーネントをCHORDブランドから世に送り続けてきた。
2000年以降のCHORDの躍進を語る上で欠かせない存在が、ソフトウェア・エンジニアのロバート・ワッツ氏だ。ワッツ氏のプログラミングによる独自のアルゴリズムが、CHORDのDAコンバーターに新たな生命を吹き込んだ。フランクス氏との最初のコラボレーションが、2001年に日本でも発売されたDAコンバーター「DAC64」。当時ザイリンクス社が製品化していた「FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)」と呼ばれる集積回路を使って、ワッツ氏オリジナルのアルゴリズムをプログラムした自社開発のチップが搭載された。
やがてその成功は、信号処理や電力消費を効率化したFPGAプラットフォームの進化へとつながり、2008年に国内で発売された「QBD76」(関連ニュース)ではまた新たな高みへ到達。その開発資産はやがて、小振りでチャーミングなスタイルながら本格派の高音質を実現した「Chordetteシリーズ」に拡大していった。
■HUGOの特徴 |
最新モデルのHUGOに話を戻そう。本機の開発は、同社製品のディストリビューターから「CHORDブランドからポータブルタイプのヘッドホンアンプが作れないか」というリクエストを受けて始まったのだという。フランクス氏が開発に着手した時期は何と今年の8月。それから極めて短期間で開発を完了してしまった。国内では2014年2月からの発売を予定している。販売価格はまだ決まっていないが、参考までにイギリスでは1,000ポンドの価格設定が見込まれているという。
本機にはザイリンクス社の最新版FPGAが搭載された。デバイスの特徴についてフランクス氏は「ゲートアレイの数を間引かずに、高精度な信号処理を低い電力消費で実現している。発熱制御が容易であることも、ポータブルユースがメインのHUGOにフィットした」と説明する。
HUGOのネーミングは「Wherever You Go(ユー・ゴー)」という言葉遊びから来ている。どこにでも、いい音が持ち歩けるポータブルヘッドホンアンプとして、フランクス氏は高音質と高機能にこだわり抜いた。「CHORDが持てるDA変換とアナログオーディオ技術のありったけを投入した、これこそがリファレンスと呼べるモデル」と、フランクス氏は新製品の完成度に胸を張る。
DAコンバーター部はDSD128(5.6MHz)、ならびにPCMで最大384kHz/32bitのハイレゾ再生に対応する。micro USB端子は2つ設けられており、うち1系統はDSD/PCM/DXDなどハイレゾファイルの再生に特化した。
もう一つのmicro USB端子はポータブル専用として設けた。最大48kHz/24bitのPCM信号まで対応する。こちらの端子を設けた理由についてフランクス氏は「iPhoneやiPadなどモバイル端末から電源をUSBバスパワーで供給しながら48kHz/24bit以上のハイレゾ音源を再生すると、再生中にモバイル端末がシャットダウンしてしまうことがあった。そこでオーディオ信号のみを取り出すモバイルのUSBを配置した」と説明する。本端子使用時には、HUGO本体に内蔵するリチウムイオンバッテリーから電源が供給される。内蔵バッテリーは2〜3時間のフル充電で、通常12〜15時間前後の連続駆動が可能。
■HUGOのサウンド |
「HUGOにはハイレゾ再生の魅力を全て詰め込みたかった」とフランクス氏が語るように、光/同軸デジタル入力やライン/プリアウト出力、3人までの同時リスニングが楽しめる3つのヘッドホン端子(標準1/ミニ2)など、本体の接続端子を充実させたことも大きな特徴と言える。高品位なワイヤレスリスニングを実現するapt-XコーデックをサポートしたBluetooth機能にも対応する。
充電池の採用やハイクオリティなオペアンプ、ディスクリート電源回路の搭載など、電源部周りの高音質化も徹底している。全高調波歪の数値は-140dBを実現。「SNが非常に高く、小音量で音楽を再生した際の静寂感がHUGOの音質面での魅力である」というフランクス氏。コンパクトな筐体ながらハイパワーも実現したHUGOの特徴についても触れながら、「インピーダンスの高いヘッドホンも余裕でドライブができる。据え置き型のDAコンバーターとしても、オーディオルームのハイエンドコンポーネントに組み合わせて使って欲しい」とアピールする。
今回の取材時にフランクス氏が持参したHUGOのプロトタイプを、ULTRASONEのヘッドホン「edition 12」と組み合わせて試聴できる機会を得た。DSDソースの再生からは、奥行きの深さや立体感の表現力に富むHUGOの実力がしっかりと体感できた。iPod touchやiPadでの試聴は、女性ボーカルは艶やかな声の潤いを見事に再現。アコースティックギターは楽器の弦やボディの響きがとてもふくよかに広がるのが特徴と感じた。力強く、輪郭のシャープな低域の鳴りっぷりも心地良い。
本体は文庫本ほどのコンパクトサイズ。シャーシには航空機グレードのアルミ削り出し素材を用いながら、ボリューム位置やバッテリー残量など本体の動作状態をLEDの点灯色で知らせる、遊び心に溢れるデザインを採用した。「いい音で音楽を楽しみたいと考えている全ての音楽ファンに、HUGOのサウンドを聴いて欲しい」というフランクス氏。ワンランク上のポータブルヘッドホンアンプ、あるいは高音質・多機能なUSB-DACを探している方には要チェックの製品としておすすめしたい。
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