公開日 2016/06/06 16:06
「出来の良いバスブーストを実現したBluetoothヘッドホン」− JVC「HA-S900XBT」を聴く
重低音をさらに強化した新ライン「XX/ELATION」をレビュー
■「出来の良いバスブースト」を実現
JVC「HA-S900XBT」のルックスを見て“それ系”を想像した方が多いだろう。ご想像の通り“それ系”かつワイヤレス、それでいて比較的手頃な価格のヘッドホンだ。
“それ系”の言葉の具体的なチョイスはその人次第だろうが、JVCではこれ系を「重低音&タフ」コンセプトを打ち出した「XX(XTREME XPLOSIVES)」シリーズとして展開。しかもこのモデルはその重低音をさらに強化したということで「XX/ELATION(イレーション)」という新たなシリーズ名まで与えられている。気合いの入ったモデルのようだ。
いちばんの特徴はスイッチでON/OFFできる低音強化「バスブースト機能」の搭載。「……たしかに特殊機能ではあるけどいまどき珍しくはないのでは?」と感じた方もいらっしゃるだろうが、「出来の良いバスブースト機能」と限定すればそれを実現しているものはさほど多いわけではない。
「出来の良いバスブースト」とは何か?ON/OFFのどちらもが個性的であったり、あるいはON/OFFしても個性は揺るがずにそれでいて低音の量感だけは明確に変化するなど、ユーザーが積極的にON/OFFを使い分けたくなる、そして使い分けられる。そういったものだ。具体的には後述とするが、本機のバスブーストはそれに該当する。
なお本機のバスブーストは空気孔の開閉等のアコースティックな手法ではなく、電気回路によるエレクトリックな手法。ワイヤレスモデルであるので電気回路やバッテリーは何にせよ必須であるので、イコライジングも電気的に行うというのは合理的だ。
他の部分の特徴も簡単に確認しておこう。
ドライバーは40mm径。メインマグネットの前方にもう追加マグネットを配置した「ダブルマグネット」構造とハウジング背面に搭載の「Xダンパー」で全帯域で解像度やキレを高めている。
Bluetooth周りはまずNFC対応。コーデックはSBCの他、AACとaptXにも対応。バッテリーは約2時間の充電で約10時間の連続使用が可能。
耳に乗せるオンイヤー型のイヤーパッドの感触はやや硬め。リモコンボタンはセンタークリック一回で進む、二回で戻るという動作で、慣れないパターンなので初めは少し戸惑った。
細かなところではハウジングの手にしたときに自然と指先が触れる位置に、「L」「R」を示すと思われる点字が大きめに刻印されている。これが実際にわかりやすいものなのかどうかは僕には判断しにくいが少なくとも、そういった配慮も欠けていない製品だということだ。
■音質レビュー:チューニングの巧みさが光るヘッドホン
さて音を聴いてみての印象としてはポイントととして特に伝えたいところはふたつ。「重低音系ワイヤレスにしてはボーカルの感触が自然」と「バスブーストの効果は曲によって変わるが不安定というわけではなくハズレになることは少ない」ということだ。
まずボーカルの感触。「重低音重視」と言われれば「高域軽視ということ?」と思うだろうし、「ワイヤレス」と言われれば「伝送路の圧縮で高域が荒れる…」と思うだろう。「ベースがでかくてボーカルは雑なんじゃないか?」といったようなことだ。
しかし本機は、やくしまるえつこさんや田村ゆかりさんの声を聴き込んでみても、もちろんワイヤードのハイエンドのような上質さはないが、明らかに声が荒れているだとか雑な刺さり方をするとか、そういう感触にはなっていない。かといって不自然なほどぼやけていたりもしない。
おそらく、圧縮伝送での劣化は仕方ないものとして、それを目立たせないようなチューニングにしてあるのだろう。高域の荒れを目立たせないチューニングというのはつまり高域の描写を少し甘くしてあるということで、本機でも例えばハイハットシンバルのシャープさは少し損なわれていたりする。
しかし歌の入っているポップスやロックでは、結局のところ主役は歌だ。主役の歌を気持ち良く聴いてもらうことを最優先にすることには納得できる。不自然にはならないような絶妙な調整であればなおさらだ。
バスブーストの効果は曲によって少し違ってくる。
相対性理論「夏至」「ベルリン天使」では、ON/OFFしても極端には変わらない印象。オンにしてもベースがボワンと大きくなったりせず、自然な膨らみで存在感を少し増してくれる。またこれらの曲の場合、ブーストしなくても屋内でならベースはの存在感はそもそも適当だ。静かな環境ではオフ、屋外ではオンといったような、基本的な使い分けができる。
ペトロールズ「表現」では、相対性理論の曲よりもオンにしたときのブーストがわかりやすい。オンにすると彼らのこの曲のグルーヴの、タイトでかっちりした部分よりも、大きなうねりの要素の方をより強く感じられる。これは好みや気分で使い分けたい。
曲ごとの効果の違いは、バンドの違いやポップスとロックとかの違いというよりも単に、その曲のベースラインの音域や音色の重心の違いによるものと思う。「表現」の方がベースは低い音域で太い音色の演奏だ。それがこのモデルのバスブーストがブーストする帯域と合っているのだろう。
この曲に限らず、低い音域を太い音色で演奏しているならそれはやはり重みや厚みを狙っての演奏や編曲である場合が多いだろう。ならばその帯域を狙ってその意図を強めるようなバスブーストチューニングは、音楽的にも妥当に思える。
低音重視であるとかワイヤレスであるとか価格帯であるとか、諸々の狙いや事情を受け入れつつ、その中でのチューニングの巧みさが光るヘッドホンだ。
JVC「HA-S900XBT」のルックスを見て“それ系”を想像した方が多いだろう。ご想像の通り“それ系”かつワイヤレス、それでいて比較的手頃な価格のヘッドホンだ。
“それ系”の言葉の具体的なチョイスはその人次第だろうが、JVCではこれ系を「重低音&タフ」コンセプトを打ち出した「XX(XTREME XPLOSIVES)」シリーズとして展開。しかもこのモデルはその重低音をさらに強化したということで「XX/ELATION(イレーション)」という新たなシリーズ名まで与えられている。気合いの入ったモデルのようだ。
いちばんの特徴はスイッチでON/OFFできる低音強化「バスブースト機能」の搭載。「……たしかに特殊機能ではあるけどいまどき珍しくはないのでは?」と感じた方もいらっしゃるだろうが、「出来の良いバスブースト機能」と限定すればそれを実現しているものはさほど多いわけではない。
「出来の良いバスブースト」とは何か?ON/OFFのどちらもが個性的であったり、あるいはON/OFFしても個性は揺るがずにそれでいて低音の量感だけは明確に変化するなど、ユーザーが積極的にON/OFFを使い分けたくなる、そして使い分けられる。そういったものだ。具体的には後述とするが、本機のバスブーストはそれに該当する。
なお本機のバスブーストは空気孔の開閉等のアコースティックな手法ではなく、電気回路によるエレクトリックな手法。ワイヤレスモデルであるので電気回路やバッテリーは何にせよ必須であるので、イコライジングも電気的に行うというのは合理的だ。
他の部分の特徴も簡単に確認しておこう。
ドライバーは40mm径。メインマグネットの前方にもう追加マグネットを配置した「ダブルマグネット」構造とハウジング背面に搭載の「Xダンパー」で全帯域で解像度やキレを高めている。
Bluetooth周りはまずNFC対応。コーデックはSBCの他、AACとaptXにも対応。バッテリーは約2時間の充電で約10時間の連続使用が可能。
耳に乗せるオンイヤー型のイヤーパッドの感触はやや硬め。リモコンボタンはセンタークリック一回で進む、二回で戻るという動作で、慣れないパターンなので初めは少し戸惑った。
細かなところではハウジングの手にしたときに自然と指先が触れる位置に、「L」「R」を示すと思われる点字が大きめに刻印されている。これが実際にわかりやすいものなのかどうかは僕には判断しにくいが少なくとも、そういった配慮も欠けていない製品だということだ。
■音質レビュー:チューニングの巧みさが光るヘッドホン
さて音を聴いてみての印象としてはポイントととして特に伝えたいところはふたつ。「重低音系ワイヤレスにしてはボーカルの感触が自然」と「バスブーストの効果は曲によって変わるが不安定というわけではなくハズレになることは少ない」ということだ。
まずボーカルの感触。「重低音重視」と言われれば「高域軽視ということ?」と思うだろうし、「ワイヤレス」と言われれば「伝送路の圧縮で高域が荒れる…」と思うだろう。「ベースがでかくてボーカルは雑なんじゃないか?」といったようなことだ。
しかし本機は、やくしまるえつこさんや田村ゆかりさんの声を聴き込んでみても、もちろんワイヤードのハイエンドのような上質さはないが、明らかに声が荒れているだとか雑な刺さり方をするとか、そういう感触にはなっていない。かといって不自然なほどぼやけていたりもしない。
おそらく、圧縮伝送での劣化は仕方ないものとして、それを目立たせないようなチューニングにしてあるのだろう。高域の荒れを目立たせないチューニングというのはつまり高域の描写を少し甘くしてあるということで、本機でも例えばハイハットシンバルのシャープさは少し損なわれていたりする。
しかし歌の入っているポップスやロックでは、結局のところ主役は歌だ。主役の歌を気持ち良く聴いてもらうことを最優先にすることには納得できる。不自然にはならないような絶妙な調整であればなおさらだ。
バスブーストの効果は曲によって少し違ってくる。
相対性理論「夏至」「ベルリン天使」では、ON/OFFしても極端には変わらない印象。オンにしてもベースがボワンと大きくなったりせず、自然な膨らみで存在感を少し増してくれる。またこれらの曲の場合、ブーストしなくても屋内でならベースはの存在感はそもそも適当だ。静かな環境ではオフ、屋外ではオンといったような、基本的な使い分けができる。
ペトロールズ「表現」では、相対性理論の曲よりもオンにしたときのブーストがわかりやすい。オンにすると彼らのこの曲のグルーヴの、タイトでかっちりした部分よりも、大きなうねりの要素の方をより強く感じられる。これは好みや気分で使い分けたい。
曲ごとの効果の違いは、バンドの違いやポップスとロックとかの違いというよりも単に、その曲のベースラインの音域や音色の重心の違いによるものと思う。「表現」の方がベースは低い音域で太い音色の演奏だ。それがこのモデルのバスブーストがブーストする帯域と合っているのだろう。
この曲に限らず、低い音域を太い音色で演奏しているならそれはやはり重みや厚みを狙っての演奏や編曲である場合が多いだろう。ならばその帯域を狙ってその意図を強めるようなバスブーストチューニングは、音楽的にも妥当に思える。
低音重視であるとかワイヤレスであるとか価格帯であるとか、諸々の狙いや事情を受け入れつつ、その中でのチューニングの巧みさが光るヘッドホンだ。