公開日 2021/10/05 06:30
フォーカルの新ヘッドホンを徹底試聴! 密閉型「CELESTEE」 と開放型「CLEAR MG」の魅力を探る
【特別企画】“ヨーロピアン・ハイエンド”のヘッドホン世界
■ヘッドホンでも独自のアプローチを追求するフランス・フォーカル
スピーカー専業メーカーの中には、ヘッドホンを手掛けているところが少なくない。磁気回路を擁した振動板が核となるのは、スピーカーもヘッドホンも同じだからかもしれないが、開発や設計のアプローチはずいぶん違う。具体的には、スピーカーには部屋があり、耳までの到達距離は1m程度から数mあるが、ヘッドホンにはそれがない。耳(鼓膜)と振動板の距離はたかだか数cmだ。
それゆえヘッドホンの振動板には大振幅は必要なく、微細な動きに敏感に反応するリニアリティが要求される。そうした要件に真摯に取り組んでいるヨーロッパのメーカーのひとつがフォーカルだ。同社のスピーカーはユニット設計からオリジナルで、ハイエンドモデルはもとより、スタジオユースなどの業務用、さらには車載用(カーオーディオ)と、幅広いフィールドで展開している。ヘッドホンにおいても独自のアプローチを重ねて民生用/業務用を開発。高い支持を得ているのだ。
今回テストしたのは、新製品の「CLEAR MG」と「CELESTEE」の2機種。デザインに共通性を有した姉妹モデルといっていいかもしれない。なお、現在のフォーカルのヘッドホンのラインナップは、他に3モデルを揃える。フラッグシップモデルとなる開放型の「UTOPIA NP」、密閉型のトップモデル「STELLIA」、それにラグジュアリーカーブランドのBENTLEYとコラボした「RADIANCE」(密閉型)だ。
「CLEAR MG」と「CELESTEE」に共通するのは、40mm口径のM字型のドライバーを搭載していることにある。振動板形状(断面)をM字型とすることで、鼓膜と振動板が極めて近距離となるヘッドホンに理想的な広い放射特性と穏やかな指向特性を両立できる。この形は低歪みに仕上げることもでき、一般的な凸形状のドーム型、さらにはフォーカルのトゥイーターで定評のある凹形状の逆ドーム型と比較しても、ヘッドホンにより適した形状といえるのだ。
さらに、このドライバーユニットの性能を高めている独自の要素技術がある。それが高純度銅フレームレスボイスコイルだ。通常はボイスコイルを巻くためのボビンケースが必要となるが、フォーカルはこれを撤廃し、稼働部の大幅な軽量化を実現。高純度銅の導電性能の高さと相まって、前後運動のリニアリティの高い圧倒的な駆動力を実現したという。
ただし、「CLEAR MG」と「CELESTEE」には大きく異なる点が2つある。CLEAR MGは開放型、CELESTEEは密閉型であることに加え、CLEAR MGには4年の歳月をかけて新しく開発されたマグネシウム・ドーム振動板を、CELESTEEは定評のあるアルミニウムとマグネシウムのハイブリッドによる振動板を搭載している。マグネシウム・ドームは、アルミニウム/マグネシウムに比べ、軽量でダンピングに優れ、より高いパフォーマンスを発揮することができる。この違いが音の方向性にどう影響するか、興味深い。
外観仕上げは、「CLEAR MG」がブラウン、「CELESTEE」はブルーの基調カラーでシックにまとめられている。レザーとマイクロファイバーを組み合わせたヘッドバンド、エルゴノミクスデザインに基づくアルミヨークとステンレススチールグリル(CLEAR MGは蜂の巣状の穴付き)で構成されている。イヤーパッドに関しては、形式やサウンドチューニングの方向性の違いから、CLEAR MGが多数の小孔が設けられたマイクロファイバー製。CELESTEEがセミアリニンレザーイヤーパッドとなっている。また、いずれもお洒落で堅牢なキャリングポーチが付属する。
なおCLEAR MGには1.2m長の標準的な3.5mm ステレオミニジャックケーブルに加え、3m長のXLR(4pin)ジャックのケーブルが添付する。
■スケール豊かに色艶まで表現する密閉型「CELESTEE」
今回の試聴に際して準備した機材は、ラックスマンの最新ヘッドホンアンプ「P-750u MARKII」と、CDプレーヤー「D-03X」。前者は同社の増幅回路ODNF-uを搭載したフラグシップ・ヘッドホンアンプ。後者はMQAにもフルデコードで対応するCD再生専用機だ。これ以外にMacBookを用意し、D-03XのUSB入力を介してハイレゾコンテンツ再生を行なった。
始めに聴いたのはCELESTEE。装着感に関しては、ヘッドバンドの当たる頭頂部も気にならず、側圧もさほど強くないので快適だ。
第一印象は、ダイナミックレンジが広く、微細な音の描写力から強くて大きな音への余裕といった点で、強弱のコントラストをしっかり再現するパフォーマンスというところだ。パトリシア・バーバーのヴォーカルは色艶も精妙に表現し、伴奏との距離感も確か。上原ひろみのピアノソロでは、縦横無尽に鍵盤を操るこの才女のパフォーマンスがスケール感豊かに再現された。
フランスメーカーのヘッドホンをフランスの作曲家のクラシックで聴いてみよう。ヒラリー・ハーンの独奏ヴァイオリンによる「ショーソン:詩曲」は、ややソリッドなトーンに感じられたが、ハーンならではのテクニックの高さを鋭い分解能で描写し、オーケストラのハーモニーも雄大。満足度は非常に高かった。
ハイレゾ系はまずダイアナ・クラールを試聴。ハスキーな声質がリアルに浮かび上がり、リズムセクションの微細な質感も鮮明に聴こえた。ラフマニノフの交響曲第1番・第4楽章は、どっしりとした重心の低いリズムに支えられ、メロディーが勇ましく感じられた。余韻も豊かだ。
■オープン型ならではの解放感と情報量が魅力の「CLEAR MG」
続いてCLEAR MG。装着感はCELESTEEとさほど変わらないが、オープン型ならではの解放感がいい。特筆したいのは、ハイレゾ系ソースの情報量の多さが如実に感じられるところ。ダイアナ・クラールはくっきりとした音像フォルムが頭に結ばれ、リズムセクションがその後ろに広がる感じがとてもうまく表現されている。ラフマニノフの交響曲では、ホールに広がる余韻がいい感じで、遠くのホルンの距離感もクリアに醸し出され、弦楽隊のハーモニーは骨格ががっちりとしている。
ここでXLR-4pinケーブルに交換すると、前述したホルンがさらに奥に位置し、アンサンブルのハーモニーがより分厚くなった。スケール感も断然あり、対応機をお持ちならば積極的にバランス接続での使用をお薦めしたい。
バランス接続のもうひとつのよさはS/Nアップだ。上原ひろみのピアノソロではトランジェントの向上が感じられ、ピアニシモでの音色が一段とクリア。ヒラリー・ハーンも独奏部の緩急が一段と豊かで、ヴァイオリンがスーッと浮かび上がってくるかのようだ。
密閉型の「CELESTEE」、開放型の「CLEAR MG」、いずれもフォーカルの新しいヘッドホンとして魅力にあふれる製品だが、ホームユースが中心の方には「CLEAR MG」がオススメだ。この装着感とサウンドの解放感がこの価格で手に入るならば、満足度が非常に高いと感じられるからだ。
(提供:ラックスマン)
スピーカー専業メーカーの中には、ヘッドホンを手掛けているところが少なくない。磁気回路を擁した振動板が核となるのは、スピーカーもヘッドホンも同じだからかもしれないが、開発や設計のアプローチはずいぶん違う。具体的には、スピーカーには部屋があり、耳までの到達距離は1m程度から数mあるが、ヘッドホンにはそれがない。耳(鼓膜)と振動板の距離はたかだか数cmだ。
それゆえヘッドホンの振動板には大振幅は必要なく、微細な動きに敏感に反応するリニアリティが要求される。そうした要件に真摯に取り組んでいるヨーロッパのメーカーのひとつがフォーカルだ。同社のスピーカーはユニット設計からオリジナルで、ハイエンドモデルはもとより、スタジオユースなどの業務用、さらには車載用(カーオーディオ)と、幅広いフィールドで展開している。ヘッドホンにおいても独自のアプローチを重ねて民生用/業務用を開発。高い支持を得ているのだ。
今回テストしたのは、新製品の「CLEAR MG」と「CELESTEE」の2機種。デザインに共通性を有した姉妹モデルといっていいかもしれない。なお、現在のフォーカルのヘッドホンのラインナップは、他に3モデルを揃える。フラッグシップモデルとなる開放型の「UTOPIA NP」、密閉型のトップモデル「STELLIA」、それにラグジュアリーカーブランドのBENTLEYとコラボした「RADIANCE」(密閉型)だ。
「CLEAR MG」と「CELESTEE」に共通するのは、40mm口径のM字型のドライバーを搭載していることにある。振動板形状(断面)をM字型とすることで、鼓膜と振動板が極めて近距離となるヘッドホンに理想的な広い放射特性と穏やかな指向特性を両立できる。この形は低歪みに仕上げることもでき、一般的な凸形状のドーム型、さらにはフォーカルのトゥイーターで定評のある凹形状の逆ドーム型と比較しても、ヘッドホンにより適した形状といえるのだ。
さらに、このドライバーユニットの性能を高めている独自の要素技術がある。それが高純度銅フレームレスボイスコイルだ。通常はボイスコイルを巻くためのボビンケースが必要となるが、フォーカルはこれを撤廃し、稼働部の大幅な軽量化を実現。高純度銅の導電性能の高さと相まって、前後運動のリニアリティの高い圧倒的な駆動力を実現したという。
ただし、「CLEAR MG」と「CELESTEE」には大きく異なる点が2つある。CLEAR MGは開放型、CELESTEEは密閉型であることに加え、CLEAR MGには4年の歳月をかけて新しく開発されたマグネシウム・ドーム振動板を、CELESTEEは定評のあるアルミニウムとマグネシウムのハイブリッドによる振動板を搭載している。マグネシウム・ドームは、アルミニウム/マグネシウムに比べ、軽量でダンピングに優れ、より高いパフォーマンスを発揮することができる。この違いが音の方向性にどう影響するか、興味深い。
外観仕上げは、「CLEAR MG」がブラウン、「CELESTEE」はブルーの基調カラーでシックにまとめられている。レザーとマイクロファイバーを組み合わせたヘッドバンド、エルゴノミクスデザインに基づくアルミヨークとステンレススチールグリル(CLEAR MGは蜂の巣状の穴付き)で構成されている。イヤーパッドに関しては、形式やサウンドチューニングの方向性の違いから、CLEAR MGが多数の小孔が設けられたマイクロファイバー製。CELESTEEがセミアリニンレザーイヤーパッドとなっている。また、いずれもお洒落で堅牢なキャリングポーチが付属する。
なおCLEAR MGには1.2m長の標準的な3.5mm ステレオミニジャックケーブルに加え、3m長のXLR(4pin)ジャックのケーブルが添付する。
■スケール豊かに色艶まで表現する密閉型「CELESTEE」
今回の試聴に際して準備した機材は、ラックスマンの最新ヘッドホンアンプ「P-750u MARKII」と、CDプレーヤー「D-03X」。前者は同社の増幅回路ODNF-uを搭載したフラグシップ・ヘッドホンアンプ。後者はMQAにもフルデコードで対応するCD再生専用機だ。これ以外にMacBookを用意し、D-03XのUSB入力を介してハイレゾコンテンツ再生を行なった。
始めに聴いたのはCELESTEE。装着感に関しては、ヘッドバンドの当たる頭頂部も気にならず、側圧もさほど強くないので快適だ。
第一印象は、ダイナミックレンジが広く、微細な音の描写力から強くて大きな音への余裕といった点で、強弱のコントラストをしっかり再現するパフォーマンスというところだ。パトリシア・バーバーのヴォーカルは色艶も精妙に表現し、伴奏との距離感も確か。上原ひろみのピアノソロでは、縦横無尽に鍵盤を操るこの才女のパフォーマンスがスケール感豊かに再現された。
フランスメーカーのヘッドホンをフランスの作曲家のクラシックで聴いてみよう。ヒラリー・ハーンの独奏ヴァイオリンによる「ショーソン:詩曲」は、ややソリッドなトーンに感じられたが、ハーンならではのテクニックの高さを鋭い分解能で描写し、オーケストラのハーモニーも雄大。満足度は非常に高かった。
ハイレゾ系はまずダイアナ・クラールを試聴。ハスキーな声質がリアルに浮かび上がり、リズムセクションの微細な質感も鮮明に聴こえた。ラフマニノフの交響曲第1番・第4楽章は、どっしりとした重心の低いリズムに支えられ、メロディーが勇ましく感じられた。余韻も豊かだ。
■オープン型ならではの解放感と情報量が魅力の「CLEAR MG」
続いてCLEAR MG。装着感はCELESTEEとさほど変わらないが、オープン型ならではの解放感がいい。特筆したいのは、ハイレゾ系ソースの情報量の多さが如実に感じられるところ。ダイアナ・クラールはくっきりとした音像フォルムが頭に結ばれ、リズムセクションがその後ろに広がる感じがとてもうまく表現されている。ラフマニノフの交響曲では、ホールに広がる余韻がいい感じで、遠くのホルンの距離感もクリアに醸し出され、弦楽隊のハーモニーは骨格ががっちりとしている。
ここでXLR-4pinケーブルに交換すると、前述したホルンがさらに奥に位置し、アンサンブルのハーモニーがより分厚くなった。スケール感も断然あり、対応機をお持ちならば積極的にバランス接続での使用をお薦めしたい。
バランス接続のもうひとつのよさはS/Nアップだ。上原ひろみのピアノソロではトランジェントの向上が感じられ、ピアニシモでの音色が一段とクリア。ヒラリー・ハーンも独奏部の緩急が一段と豊かで、ヴァイオリンがスーッと浮かび上がってくるかのようだ。
密閉型の「CELESTEE」、開放型の「CLEAR MG」、いずれもフォーカルの新しいヘッドホンとして魅力にあふれる製品だが、ホームユースが中心の方には「CLEAR MG」がオススメだ。この装着感とサウンドの解放感がこの価格で手に入るならば、満足度が非常に高いと感じられるからだ。
(提供:ラックスマン)