公開日 2023/03/16 06:40
ASMR=ダミヘ?カナル型じゃない=インイヤー?増加する“現代オーディオ用語”を知る
[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第269回】
新語や新用法の意味の幅広さを知り、言葉の行き違いを回避!
新しいアイテム、ジャンル、テクノロジーが次々と登場するオーディオの世界。それに伴い「オーディオ用語」も次々と増え続けている。
「完全ワイヤレスイヤホン」だって、10年ほど前に世界初のそれが登場してから広まり、定着したばかりの「新語」だ。既存の用語も、その意味や用法が時代に応じて変化することもある。そんなこんなで、オーディオにまつわる言葉の世界は、宇宙のように広がり続けているのだ。
その広がりの中でもたらされる混乱も、少なからずある。新しい言葉の意味が曖昧なまま使われ、本来の意味とは違ったまま広まることも。例えば「ASMR音源とは、ダミーヘッド音源のことである」などだ。
また、新しいジャンルや概念を指すのに使われるようになった言葉が、実は昔から別の意味もあって、そのことで今どちらの意味で使われているのか分からないケースもある。「オープン型イヤホン」に、「カナル型ではなく耳の穴を塞がないイヤホン」ではない他の意味もあったりするように…。
ほかにも、日本のカタカナ英語と英語圏の英語では、同じ言葉でも指すモノが違っていたり、日本の中に限っても同じ言葉が複数の意味で使われていたりもする。「インナーイヤー型」など、その代表例ともいえる。
こうした言葉の混乱が、オーディオ好き同士の会話に行き違いやすれ違いを生み出してしまうこともあるのだ。
本記事では、近年よく使われるようになってきた新しめのオーディオ用語から、上記のような曖昧さ、幅広さを含むものをいくつかピックアップ。その言葉が「現状では主にどのような意味合いで用いられているか」「本来はどのような意味か」「同じものを指す他の呼び方もあるか」「それによってどのような混乱が起こり得るのか」などを確認していく。
なお、本記事の意図は「正しくはこの意味であるから、そうではない誤った使い方はするべきではない」といったように、押し付けをすることにはない。本記事を通して伝えたいのは、「実際のところ、ひとつの言葉は、ひとつではない様々な意味や用法で使われているし、同じものを示すのに別の言葉が使われることもある」ということ。
ここで紹介する例から、「同じ言葉でも自分と相手はそれぞれ別の意味で使っている可能性があるんだな」みたいなことを確認してもらえればと思う。
その前提が心の中にあれば、言葉の行き違いによる無駄な衝突やすれ違いも減らせるだろう。そもそも、マニアとは知識欲の権化。自分の好きな分野、関心のある分野における様々な用語の知識を頭に入れておくことは、それ自体が趣味の楽しみというものだ。
ということで、今回そのサンプルとしてピックアップしたオーディオ新語テーマはこちら。
◇ ASMR=ダミーヘッドマイク?いやいやASMRの世界は超多様!
◇ カナル型"じゃない”イヤホンの呼び方、オープン?インイヤー?
◇ スティック型USB……DAC?それともヘッドホンアンプ?
ASMR=ダミーヘッドマイク?いやいやASMRの世界は超多様!
では、最初のテーマ「ASMR」から始めていこう。「ASMR」はいまや超人気コンテンツ。「ASMRに最適」を謳うイヤホン製品も登場しヒットしているほどだ。
しかし、そのASMRについて、「ASMR音源とはダミーヘッドマイク収録音源のことである」との誤解も一部にはあるような…。あるいはさらにピンポイントに、「ASMR音源とはダミーヘッドマイク収録のシチュエーション体感音源のことである」まであるかもしれない。
単純にそれを「誤解」と言ってしまうのも違うだろう。同人コンテンツ販売サイト「DLsite」のASMRジャンルを眺めればわかるが、実際ASMR作品の多くはダミーヘッドマイク収録。「おっとり後輩大学生と湯けむりASMR」のようなシチュエーションを主観で体感するような内容で、「耳元ささやき」や「耳かき」が強力な武器だったりする。
本来の意味はどうあれ、現状はそうなのだから、ASMRという言葉をそのような意味と理解しその意味で使う側の気持ちもわからないでもない。↓参考動画はこちら。
それに実際、その魅力は強烈。
例えば、以下の白銀ノエルさんのASMR配信を聴いてみてほしい。天性の柔らかな声質。ダミーヘッドマイクへの声や息の当て方など研究を重ねたであろう技術。海外からの取り寄せ品も含むという選び抜かれた機材と環境による高音質。それらから生み出されるASMRはこの威力に達する。
なるほどこういったものを体験して衝撃を受け、「これがASMR!ASMR=これ!」と脳に焼き付けられる人がいるのもわかる。これは強い。
それでも、「ASMR」について、その “ひとつ” の意味しか知らないままでいることがよしとされるわけではない。というのも現実問題として、それでは困ったことになる場合もあるからだ。
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