公開日 2023/04/10 06:40
一生付き合えるレコードプレーヤー。LINN「LP12」は、音楽がもっと楽しくなるかけがえのない愛機
オルトフォンのユニバーサルアーム搭載でカートリッジ交換もお手の物
一生大事に付き合っていきたい。そう思えるレコードプレーヤーをお迎えすることができました。LINNの「LP12 Mechanics Retro Walnut」です。ボディにスリットの入った、とても美しいこのモデルは、LP12の再初期型デザインを復刻したもの。木目の美しいウォールナットの色味は、私の和室にもピッタリの風情です。小さな仕事部屋のコンパクトなシステムに、最高の佇まいと上質な響きを放ってくれています。「やっと出会えた」、今そんな気持ちでいっぱいです。
このプレーヤーは、オルトフォンのユニバーサルアーム「AS-212S」を付けた特別仕様となっています。現在カートリッジは、お借りしたプラタナス「2.0S」を使用しています。今回は、なぜこのプレーヤーをお迎えするに至ったか、そしてその大きな魅力についてお伝えしたいと思います。
私が仕事場にあれこれとオーディオ機材を組み始めたのはまだほんの3年前のこと。日頃からクラシック音楽にまつわる仕事をしておりますが、2020年はコロナ禍でコンサートが軒並み中止となってしまいました。そんな折、オーディオ機器への熱が突然高まったのです。
入門機のCDレシーバーや中古のスピーカーからそろえ始め、割とすぐにレコードプレーヤーも買いました。実売価格5万円ほどのエントリーモデルです。最初は針を落とす行為も懐かしく、一枚一枚丁寧に聴くのが楽しくてなりませんでした。
ハマると猛スピードで調べ、どんどん買い集めていくというキケンな習性のある私。ほどなく、アンプやスピーカーを自分なりにグレードアップさせていきました。気付けばレコードプレーヤーだけが変わらぬまま。カートリッジをMMからMCに替えたり、フォノイコライザーを変えたり、スタビライザーを使ったり、プチ・ステップアップをやって、それはそれで楽しかったのですが、トライオードの真空管アンプ「TRV-A300XR」、パラダイムのスピーカー「Persona B」を迎えたあたりから、レコードプレーヤーだけ完全にアンバランスかも、と感じるようになりました。
よし買い替えよう、そう思いたったのは1年ほど前。ですが、なかなか「これぞ!」というものに出会えず……。
私が買い替えの際のポイントにしていたのは次の3つです。
(1)自分にとって心地よい音質であること
(2)デザイン性とサイズ感がしっくりくること
(3)ユニバーサルアームであること
音が好みでも私の部屋にはサイズが大きすぎてしまったり、レトロな風合いが好みなのにモダンなデザインが気に入らなかったり、なかなかしっくりくるものに出会えませんでした。ここまでは個人的な好みや主観によるところが大きいですが、意外とネックとなったのはS字型のユニバーサルアーム仕様でした。
私はモノラルレコードをモノラルカートリッジで聴くのが好きですし、今となってはカートリッジ・レビューを執筆させていただくような機会もあります。そうなると、カートリッジをさくっと交換できることは必須です。しかし、近年では交換が簡単にできないストレートアームのプレーヤーが主流のようで、プレーヤーの選択肢が限られているのです。
そんな中出会ったLP12は、上の3つのポイントをすべて叶えてくれました! LP12も、基本的にはLINN純正のストレートアームで使用することが主流でしょう。しかし、ボディ、電源、底板、サブシャーシなどを自在に組み合わせて構築するLP12のシステムだからこそ、実はユニバーサルアームの特別仕様に仕上げることもできたのです。
それを実現してくれたのは、銀座のオーディオショップ、SOUNDCREATE(サウンドクリエイト)さんでした。以前、アーティストインタビューの現場としてお店を訪問したり、『季刊・アナログ』誌で店長の竹田響子さんとでスペシャル対談をしたり、ずばりLP12の取材で伺ったこともありました。
その後竹田さんとはあるお食事会でご一緒し、「ユニバーサルアームでLP12が使えたらいいなと思うので、試聴機をご準備いただけませんか?」とお願いしました。
それから数ヶ月後。カートリッジ・プラタナス「3.0S」のレビューを『analog誌』に執筆することになりました。しかし、私の入門機プレーヤーではどうしようもない…と思っていたところ、なんとLP12に特別に取り付けた形で試聴機をお借りできることになりました。もちろんS字アームは必須なので、サウンドクリエイトさんにスペシャルなモデルに組んでいただく流れに。私が個人的にお願いをしていたということもありましたが、まさに夢のような展開でLP12が自室に運び込まれました。
サウンドクリエイト社長の金野 匠さんと竹田さんがお越しくださり、電源周りの見直しから、セッティング、調整まで、とても丁寧に行ってくれました。この段階では、あくまで「カートリッジレビューのための貸し出し機」ではあったのですが、S字アーム付きで組み上がったLP12を見て、テンションが上がりましたね。「これは、もう、決まりかもしれないな……」と密かに思いつつ、「お借り」したLP12との暮らしがスタートしました。
2週間ほど聴き込んで、無事カートリッジの記事も書き終えたところで、自然と結論は出ていました。編集部に原稿を送信するのとほぼ同時に、「買わせてください」と竹田さんにメッセージを送っていました。祝!お迎え!
そんなわけで、「貸出機」から「私物」となって1ヶ月半ほどが経ちました。買い替えポイントの3条件を満たしてくれたLP12ですが、実際にお迎えしますと、「条件クリア」どころか、自分の感性に刺さりまくる、かけがえのない愛機となってくれています。音盤情報も加えながら、その聴き心地をもう少し詳しくお伝えします。
素直で、それでいて、コクがある。それがLP12から再生される音の大きな印象です。フローティングによる安定した回転により、精細に拾い上げられる音情報の豊かさなのでしょうか。きめ細やかなテクスチャーと豊かなダイナミクスのある響きは、クラシック音楽、それもオーケストラを聴くのが楽しくてたまりません。
持っていたのに、あまり針を落とす気になれていなかった一枚のアルバムが、今や宝物になってしまいました。それが、バルビローリ指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によるマーラーの交響曲第9番です。英国の指揮者バルビローリが、ベルリン・フィルの楽員たちを感動させ、急遽録音がなされた名盤ですが、どうもこれまでの私のシステムでは、あっさりと単調に聴こえていたのです。
ところが聴き直してみると、金管楽器はハジけるように鳴るばかりでなく包容力のある深みを増し、終楽章の弦楽器のハーモニーは、塊として潰れることなく、一人一人の奏者の旋律線が絹の糸のようにふわりと宙を舞って、こちらを包んでくれるような音楽体験をもたらしてくれたのです。こういう音楽を、きちんと受け取ることができるか、できないか。それが実はプレーヤーにかかっているなんて、やっぱりあなどれません!
コクがある、と書きましたが、充実した低音もよく響くようになりました。とても自然で、心に沁みる低音です。ビートルズのLPで、ズンズンくる低音に、完全にノックアウトされました。青いカラーレコードが素敵で入手した『ザ・ビートルズ 1967年〜1970年』。なんだかガサついたチープな音がして、あまり針を落とすことはありませんでした。ところが……LP12でこれまた印象が完全に変わったのです!
「レット・イット・ビー」のような名曲で、今さら号泣するとは思いませんでした。シンプルなメロディーが繰り返されるたびに、楽器が増え、音の厚みがしっかりと伝わる。言葉の重みもじわじわと伝わって、あらためて “words of wisdom” に胸を打たれたのでした。いやはや。
精密な音の体験というところでは、英国在住の作曲家、藤倉 大による初のアナログ盤『The bow maker』も紹介しておきましょう。ノルウェーの音楽家ヤン・バングとともに製作したというこのアルバムは、声、トランペット、シンセサイザー、笙、ギターなどによる、独特のサウンド空間を楽しませてくれるアルバム作品です。不協和でありながら心地よい音の積み重ね、拍感からは解放された自由な響きのたゆたい、曖昧な母音と倍音に不思議と集中力が喚起させられる声……。
実はデジタルのロスレス音源でも聴いていたアルバムなのですが、アナログ盤でリリースされていることを知り、海外から取り寄せました。アナログ再生では、ハイレゾ音源から感じられる音のエッジやクリアさはやわらぎます。空気振動の波動が目に見えそうな、鼓膜や頬を震わせる質感が、アナログからは受け取れる。あえてレコードというメディアを選ぶときに、潜在的に期待してきた美質を、このレコードがあらためて感じさせてくれました。
◇
さて、最後にデザインについても、もうひと言。50年もの歴史を刻むLP12は、各パーツに細かな改良を重ねてきたとのことですが、基本的な構造とデザインは、ずっと変わっていないそうです。そうしたところも個人的にツボ(笑)。これまでクルマはMINIやFIAT500、バイクはホンダのカブ、カメラならM型ライカを愛用してきた私。大きく変わらないデザインには、やはり「用の美」があるのだと思います。LP12にもそうした理念、哲学が感じられ、つくづく粋だなぁと思うのでした。
コロナ禍でオーディオ熱に目覚める! レコードを丁寧に聴く楽しみ
このプレーヤーは、オルトフォンのユニバーサルアーム「AS-212S」を付けた特別仕様となっています。現在カートリッジは、お借りしたプラタナス「2.0S」を使用しています。今回は、なぜこのプレーヤーをお迎えするに至ったか、そしてその大きな魅力についてお伝えしたいと思います。
私が仕事場にあれこれとオーディオ機材を組み始めたのはまだほんの3年前のこと。日頃からクラシック音楽にまつわる仕事をしておりますが、2020年はコロナ禍でコンサートが軒並み中止となってしまいました。そんな折、オーディオ機器への熱が突然高まったのです。
入門機のCDレシーバーや中古のスピーカーからそろえ始め、割とすぐにレコードプレーヤーも買いました。実売価格5万円ほどのエントリーモデルです。最初は針を落とす行為も懐かしく、一枚一枚丁寧に聴くのが楽しくてなりませんでした。
ハマると猛スピードで調べ、どんどん買い集めていくというキケンな習性のある私。ほどなく、アンプやスピーカーを自分なりにグレードアップさせていきました。気付けばレコードプレーヤーだけが変わらぬまま。カートリッジをMMからMCに替えたり、フォノイコライザーを変えたり、スタビライザーを使ったり、プチ・ステップアップをやって、それはそれで楽しかったのですが、トライオードの真空管アンプ「TRV-A300XR」、パラダイムのスピーカー「Persona B」を迎えたあたりから、レコードプレーヤーだけ完全にアンバランスかも、と感じるようになりました。
よし買い替えよう、そう思いたったのは1年ほど前。ですが、なかなか「これぞ!」というものに出会えず……。
音質・デザイン・サイズ感に加えて、「ユニバーサルアーム」も重要ポイント
私が買い替えの際のポイントにしていたのは次の3つです。
(1)自分にとって心地よい音質であること
(2)デザイン性とサイズ感がしっくりくること
(3)ユニバーサルアームであること
音が好みでも私の部屋にはサイズが大きすぎてしまったり、レトロな風合いが好みなのにモダンなデザインが気に入らなかったり、なかなかしっくりくるものに出会えませんでした。ここまでは個人的な好みや主観によるところが大きいですが、意外とネックとなったのはS字型のユニバーサルアーム仕様でした。
私はモノラルレコードをモノラルカートリッジで聴くのが好きですし、今となってはカートリッジ・レビューを執筆させていただくような機会もあります。そうなると、カートリッジをさくっと交換できることは必須です。しかし、近年では交換が簡単にできないストレートアームのプレーヤーが主流のようで、プレーヤーの選択肢が限られているのです。
そんな中出会ったLP12は、上の3つのポイントをすべて叶えてくれました! LP12も、基本的にはLINN純正のストレートアームで使用することが主流でしょう。しかし、ボディ、電源、底板、サブシャーシなどを自在に組み合わせて構築するLP12のシステムだからこそ、実はユニバーサルアームの特別仕様に仕上げることもできたのです。
サウンドクリエイトさんのサポートでLP12の導入を決意!
それを実現してくれたのは、銀座のオーディオショップ、SOUNDCREATE(サウンドクリエイト)さんでした。以前、アーティストインタビューの現場としてお店を訪問したり、『季刊・アナログ』誌で店長の竹田響子さんとでスペシャル対談をしたり、ずばりLP12の取材で伺ったこともありました。
その後竹田さんとはあるお食事会でご一緒し、「ユニバーサルアームでLP12が使えたらいいなと思うので、試聴機をご準備いただけませんか?」とお願いしました。
それから数ヶ月後。カートリッジ・プラタナス「3.0S」のレビューを『analog誌』に執筆することになりました。しかし、私の入門機プレーヤーではどうしようもない…と思っていたところ、なんとLP12に特別に取り付けた形で試聴機をお借りできることになりました。もちろんS字アームは必須なので、サウンドクリエイトさんにスペシャルなモデルに組んでいただく流れに。私が個人的にお願いをしていたということもありましたが、まさに夢のような展開でLP12が自室に運び込まれました。
サウンドクリエイト社長の金野 匠さんと竹田さんがお越しくださり、電源周りの見直しから、セッティング、調整まで、とても丁寧に行ってくれました。この段階では、あくまで「カートリッジレビューのための貸し出し機」ではあったのですが、S字アーム付きで組み上がったLP12を見て、テンションが上がりましたね。「これは、もう、決まりかもしれないな……」と密かに思いつつ、「お借り」したLP12との暮らしがスタートしました。
2週間ほど聴き込んで、無事カートリッジの記事も書き終えたところで、自然と結論は出ていました。編集部に原稿を送信するのとほぼ同時に、「買わせてください」と竹田さんにメッセージを送っていました。祝!お迎え!
そんなわけで、「貸出機」から「私物」となって1ヶ月半ほどが経ちました。買い替えポイントの3条件を満たしてくれたLP12ですが、実際にお迎えしますと、「条件クリア」どころか、自分の感性に刺さりまくる、かけがえのない愛機となってくれています。音盤情報も加えながら、その聴き心地をもう少し詳しくお伝えします。
慣れ親しんだレコードから生まれる新しい発見
素直で、それでいて、コクがある。それがLP12から再生される音の大きな印象です。フローティングによる安定した回転により、精細に拾い上げられる音情報の豊かさなのでしょうか。きめ細やかなテクスチャーと豊かなダイナミクスのある響きは、クラシック音楽、それもオーケストラを聴くのが楽しくてたまりません。
持っていたのに、あまり針を落とす気になれていなかった一枚のアルバムが、今や宝物になってしまいました。それが、バルビローリ指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によるマーラーの交響曲第9番です。英国の指揮者バルビローリが、ベルリン・フィルの楽員たちを感動させ、急遽録音がなされた名盤ですが、どうもこれまでの私のシステムでは、あっさりと単調に聴こえていたのです。
ところが聴き直してみると、金管楽器はハジけるように鳴るばかりでなく包容力のある深みを増し、終楽章の弦楽器のハーモニーは、塊として潰れることなく、一人一人の奏者の旋律線が絹の糸のようにふわりと宙を舞って、こちらを包んでくれるような音楽体験をもたらしてくれたのです。こういう音楽を、きちんと受け取ることができるか、できないか。それが実はプレーヤーにかかっているなんて、やっぱりあなどれません!
コクがある、と書きましたが、充実した低音もよく響くようになりました。とても自然で、心に沁みる低音です。ビートルズのLPで、ズンズンくる低音に、完全にノックアウトされました。青いカラーレコードが素敵で入手した『ザ・ビートルズ 1967年〜1970年』。なんだかガサついたチープな音がして、あまり針を落とすことはありませんでした。ところが……LP12でこれまた印象が完全に変わったのです!
「レット・イット・ビー」のような名曲で、今さら号泣するとは思いませんでした。シンプルなメロディーが繰り返されるたびに、楽器が増え、音の厚みがしっかりと伝わる。言葉の重みもじわじわと伝わって、あらためて “words of wisdom” に胸を打たれたのでした。いやはや。
精密な音の体験というところでは、英国在住の作曲家、藤倉 大による初のアナログ盤『The bow maker』も紹介しておきましょう。ノルウェーの音楽家ヤン・バングとともに製作したというこのアルバムは、声、トランペット、シンセサイザー、笙、ギターなどによる、独特のサウンド空間を楽しませてくれるアルバム作品です。不協和でありながら心地よい音の積み重ね、拍感からは解放された自由な響きのたゆたい、曖昧な母音と倍音に不思議と集中力が喚起させられる声……。
実はデジタルのロスレス音源でも聴いていたアルバムなのですが、アナログ盤でリリースされていることを知り、海外から取り寄せました。アナログ再生では、ハイレゾ音源から感じられる音のエッジやクリアさはやわらぎます。空気振動の波動が目に見えそうな、鼓膜や頬を震わせる質感が、アナログからは受け取れる。あえてレコードというメディアを選ぶときに、潜在的に期待してきた美質を、このレコードがあらためて感じさせてくれました。
さて、最後にデザインについても、もうひと言。50年もの歴史を刻むLP12は、各パーツに細かな改良を重ねてきたとのことですが、基本的な構造とデザインは、ずっと変わっていないそうです。そうしたところも個人的にツボ(笑)。これまでクルマはMINIやFIAT500、バイクはホンダのカブ、カメラならM型ライカを愛用してきた私。大きく変わらないデザインには、やはり「用の美」があるのだと思います。LP12にもそうした理念、哲学が感じられ、つくづく粋だなぁと思うのでした。