公開日 2023/12/21 06:35
元アップルの最高デザイン責任者がアナログプレーヤーに関わったワケ。老舗オーディオブランド・LINNのCEOが語るコラボ誕生秘話
LINNのCEO、ギラード・ティーフェンブルン氏が来日し特別披露
元アップルの最高デザイン責任者、ジョナサン・アイブが率いるLoveFromの初プロダクトは、名門オーディオブランドLINNのアナログプレーヤー「LP12」の50周年記念モデルーー今年7月に飛び込んできたこのビッグニュースは、世界中のオーディオファンに大きな衝撃を与えた。しかも全世界250台限定、5万ポンドという驚きの価格に瞠目したファンも少なくないだろう。
この奇跡のコラボレーションはどのようにして生まれたのか。LINNのCEOであるギラード・ティーフェンブルン氏にその裏話を伺うとともに、山之内 正氏がそのサウンドをいち早く確認した。
英国のLINNが創立50周年を迎えた。記念モデルとして登場した「LP12-50」は、同社が世に出るきっかけとなったレコードプレーヤー「LP12」の特別な進化形である。半世紀を経た今日でも同社の製品群のなかで重要な位置を占める超ロングセラー機、はたしてどんな進化を遂げたのだろうか。
12月初旬、CEOのギラード・ティーフェンブルンが実機を携えて来日し、LP12-50をプレス関係者に公開する機会があった。筆者も参加して初めて製品に触れ、短時間だが音も確認することができた。その内容は驚くべきものだった。
世界でわずか250台の限定生産となるLP12-50は、技術とデザインそれぞれに特別な仕掛けがある。技術面では独自の超高圧圧縮積層材「Bedrok」を採用した堅固なPlinth(プリンス)と肉厚のステンレス製トッププレートが新しく、モーターや外来振動の影響を極小に抑える効果を発揮する。
Bedrokは岩床を意味するBedrockに由来する造語で、LINNらしい命名が興味深い。超高密度素材で鉄よりも硬いそうだが、外観は既存の積層材とあまり変わらない。叩いた感触は石のようで、たしかに重さも半端ではない。当然ながら加工は難しいという。
デザイン面では世界で最も有名なインダストリアルデザイナーの一人、ジョナサン・アイブが外装デザインを手がけたことが最大級の注目を集めている。MacBookやiPod、iPhoneなど、アップルを象徴する製品群のデザインを手がけ、スティーブ・ジョブズとともに同社の方向性を決定付けた重要人物である。
4年前にアップルを辞めてから創設したLoveFrom社で新たなデザインの仕事に取り組むなか、最初の製品として世に送り出したのがリンのLP12-50だとされる。iPhoneのような大量生産モデルではなく、たったの250台しか作らない製品のデザインがLoveFromの最初の作品になったのは実に興味深いことだと思う。
LINNが社内で50周年記念モデルの開発を進めていた昨年、ジョニー(ジョナサン)からギラードにメールが届いたことが、コラボレーションのきっかけだという。「最初は本人からだと思わず、そのままにしておいたんです。でも内容を読んだらジョニー・アイブ本人からのメールだとわかってびっくり(笑)。なにかお手伝いできることがあれば仰ってくださいと書いてあったので、連絡を取りあってコラボレーションが決まりました。最初に会ったのは2022年8月のことです」とギラードは当時を振り返る。
ジョニー・アイブは以前からLP12のユーザーだったという。システムを入れ替えるときに一度手放したものの、もう一度手に入れたくなり、その相談も兼ねてギラードに連絡をとったのだ。ギラードによると、アイブはリチャード・ロジャースが設計したグラスゴーのLINN本社を訪ねたこともあるそうで、以前からLINNのことを意識していたことがうかがえる。
ジョニー・アイブがLINNの製品だけでなく伝統と革新を軸に据えたLINNの企業姿勢にも敬意を払っていることは、LP12-50のデザインからも読み取ることができる。
主な変更点はトッププレート、電源/スタート・ストップボタン、アームプレートなど主要パーツの形状とダストカバーを固定するヒンジなど最小限にとどまり、それ以外はオリジナルのLP12のデザインをほぼそのまま踏襲している。完成度の高いLP12のデザインを大きく変えることは避け、アイコンとしての価値を尊重しているのだ。
とはいえトッププレートとアームプレートの曲線部分の形状はiPhoneのボディと相似形だし、トッププレートと高さを揃えた電源ボタンのクリック感はMacBookのトラックパッドによく似ている。さらにアームプレートの仕上げ色はスペースグレーに近い。こだわるところにはしっかりこだわっているのだ。
記念モデルのデザインを追い込む過程でなんらかの意見の食い違いが生じたのではとギラードに尋ねてみた。「音に影響が及ぶ部分の変更は断りました。たとえば、フットは変えられないよと伝えたんです(笑)。私たちの思いをよく理解してくれたことに感謝しています」。
LP12-50の生産台数が250台限定なのは、一台一台の製造に十分な時間をかけ、調整に手間をかける必要があることにも理由がある。電源ボタンだけでなくヒンジも無垢のアルミ材から削り出しており、圧巻の仕上げ精度。細部まで妥協しないこだわりのモノ作りはアップル製品と似たところがあり、外観の美しさは格別だ。背面のアルミ製プレートには通し番号が刻まれ、250台のうちの何台目なのか、判別が可能。地域ごとの台数の割り当てはなく、先着順で販売される。
KLIMAX DSM、360 EXAKTと組み合わせて聴いた再生音は、私の予想を大きく上回るもので、音楽表現の奥の深さに衝撃を受けた。本体とトッププレート以外の主要パーツは既存のKLIMAX LP12と共通するにも関わらず、3次元の空間描写と澄み切った音場はこれまで経験したことがないレベルに到達しており、楽器イメージの立体的な描写も別格だ。
ちなみにLP12-50に導入したデザインは今回限りのもので、今後発売するLP12に採用する予定はないそうだが、プリンスに採用したBedrokを上位グレードに導入する可能性は残されている。誕生から50年を経たLP12は今後も進化の歩みを止めることはなく、さらに上を目指していくのだ。
この奇跡のコラボレーションはどのようにして生まれたのか。LINNのCEOであるギラード・ティーフェンブルン氏にその裏話を伺うとともに、山之内 正氏がそのサウンドをいち早く確認した。
LINNのCEOも来日、LoveFromデザインの「LP12-50」を特別披露
英国のLINNが創立50周年を迎えた。記念モデルとして登場した「LP12-50」は、同社が世に出るきっかけとなったレコードプレーヤー「LP12」の特別な進化形である。半世紀を経た今日でも同社の製品群のなかで重要な位置を占める超ロングセラー機、はたしてどんな進化を遂げたのだろうか。
12月初旬、CEOのギラード・ティーフェンブルンが実機を携えて来日し、LP12-50をプレス関係者に公開する機会があった。筆者も参加して初めて製品に触れ、短時間だが音も確認することができた。その内容は驚くべきものだった。
世界でわずか250台の限定生産となるLP12-50は、技術とデザインそれぞれに特別な仕掛けがある。技術面では独自の超高圧圧縮積層材「Bedrok」を採用した堅固なPlinth(プリンス)と肉厚のステンレス製トッププレートが新しく、モーターや外来振動の影響を極小に抑える効果を発揮する。
Bedrokは岩床を意味するBedrockに由来する造語で、LINNらしい命名が興味深い。超高密度素材で鉄よりも硬いそうだが、外観は既存の積層材とあまり変わらない。叩いた感触は石のようで、たしかに重さも半端ではない。当然ながら加工は難しいという。
デザイン面では世界で最も有名なインダストリアルデザイナーの一人、ジョナサン・アイブが外装デザインを手がけたことが最大級の注目を集めている。MacBookやiPod、iPhoneなど、アップルを象徴する製品群のデザインを手がけ、スティーブ・ジョブズとともに同社の方向性を決定付けた重要人物である。
4年前にアップルを辞めてから創設したLoveFrom社で新たなデザインの仕事に取り組むなか、最初の製品として世に送り出したのがリンのLP12-50だとされる。iPhoneのような大量生産モデルではなく、たったの250台しか作らない製品のデザインがLoveFromの最初の作品になったのは実に興味深いことだと思う。
LP12ラバーだったジョナサンからの提案でコラボレーションが決定
LINNが社内で50周年記念モデルの開発を進めていた昨年、ジョニー(ジョナサン)からギラードにメールが届いたことが、コラボレーションのきっかけだという。「最初は本人からだと思わず、そのままにしておいたんです。でも内容を読んだらジョニー・アイブ本人からのメールだとわかってびっくり(笑)。なにかお手伝いできることがあれば仰ってくださいと書いてあったので、連絡を取りあってコラボレーションが決まりました。最初に会ったのは2022年8月のことです」とギラードは当時を振り返る。
ジョニー・アイブは以前からLP12のユーザーだったという。システムを入れ替えるときに一度手放したものの、もう一度手に入れたくなり、その相談も兼ねてギラードに連絡をとったのだ。ギラードによると、アイブはリチャード・ロジャースが設計したグラスゴーのLINN本社を訪ねたこともあるそうで、以前からLINNのことを意識していたことがうかがえる。
ジョニー・アイブがLINNの製品だけでなく伝統と革新を軸に据えたLINNの企業姿勢にも敬意を払っていることは、LP12-50のデザインからも読み取ることができる。
主な変更点はトッププレート、電源/スタート・ストップボタン、アームプレートなど主要パーツの形状とダストカバーを固定するヒンジなど最小限にとどまり、それ以外はオリジナルのLP12のデザインをほぼそのまま踏襲している。完成度の高いLP12のデザインを大きく変えることは避け、アイコンとしての価値を尊重しているのだ。
とはいえトッププレートとアームプレートの曲線部分の形状はiPhoneのボディと相似形だし、トッププレートと高さを揃えた電源ボタンのクリック感はMacBookのトラックパッドによく似ている。さらにアームプレートの仕上げ色はスペースグレーに近い。こだわるところにはしっかりこだわっているのだ。
記念モデルのデザインを追い込む過程でなんらかの意見の食い違いが生じたのではとギラードに尋ねてみた。「音に影響が及ぶ部分の変更は断りました。たとえば、フットは変えられないよと伝えたんです(笑)。私たちの思いをよく理解してくれたことに感謝しています」。
LP12-50の生産台数が250台限定なのは、一台一台の製造に十分な時間をかけ、調整に手間をかける必要があることにも理由がある。電源ボタンだけでなくヒンジも無垢のアルミ材から削り出しており、圧巻の仕上げ精度。細部まで妥協しないこだわりのモノ作りはアップル製品と似たところがあり、外観の美しさは格別だ。背面のアルミ製プレートには通し番号が刻まれ、250台のうちの何台目なのか、判別が可能。地域ごとの台数の割り当てはなく、先着順で販売される。
音楽表現の奥の深さに衝撃。楽器イメージの立体的な描写は別格
KLIMAX DSM、360 EXAKTと組み合わせて聴いた再生音は、私の予想を大きく上回るもので、音楽表現の奥の深さに衝撃を受けた。本体とトッププレート以外の主要パーツは既存のKLIMAX LP12と共通するにも関わらず、3次元の空間描写と澄み切った音場はこれまで経験したことがないレベルに到達しており、楽器イメージの立体的な描写も別格だ。
ちなみにLP12-50に導入したデザインは今回限りのもので、今後発売するLP12に採用する予定はないそうだが、プリンスに採用したBedrokを上位グレードに導入する可能性は残されている。誕生から50年を経たLP12は今後も進化の歩みを止めることはなく、さらに上を目指していくのだ。