公開日 2022/12/22 06:50
楽天モバイルのプラチナバンド問題、「狭帯域700MHz帯」は解決策となるか
【連載】佐野正弘のITインサイト 第37回
■今年の携帯電話業界を賑わせた、プラチナバンド割当問題
2022年、携帯電話業界で大きな話題となったテーマの1つに挙げられるのが、楽天モバイルへのプラチナバンド再割り当てに関する議論である。
楽天モバイルは、広域でのエリア整備に有利なプラチナバンドを保有していないことから、2022年10月1日に改正された電波法の議論が進められる最中から、プラチナバンドの再割り当てを主張するようになったのだ。
この電波法改正によって、携帯電話会社が競願することにより、審査の末に他社の周波数免許を奪うことができるようになった。楽天モバイルはこれがプラチナバンドを再割り当てする根拠になるとして、プラチナバンドの再割り当てを経営上の最重要課題に位置付け、積極的に声を挙げるようになったのである。
だがプラチナバンドは、携帯電話会社がフル活用している帯域の1つであり、それが一部でも失われるとなれば影響は計り知れない。それゆえ、総務省の「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」で進められた議論においても、楽天モバイルと3社の主張は全くかみ合わず、最終判断は総務省に委ねられるかたちとなった。
その結果総務省が打ち出したのは、楽天モバイルの主張をほぼ全面的に受け入れるという結論を打ち出している。実際、同タスクフォースの報告書案では、プラチナバンド再割り当ての移行期間は5年以上としながらも、準備ができたエリアから順次プラチナバンドが使えるようにするとしているほか、再割り当てにかかる工事費用は全て既存免許人。要は、現在プラチナバンドを保有する3社が負担すべきとされている。
この総務省の報告書案を受け、楽天モバイルはもちろん歓迎の意向を示すと共に、2024年3月からプラチナバンドの使用開始を目指すと宣言している。だが一方で、この案のままプラチナバンド再割り当てが本当に進んでしまった場合、既存3社、ひいては業界全体に与える弊害が少なからずあるのも事実だ。
プラチナバンドを奪われる側の3社は、先のタスクフォースの議論の中で、再割り当てにかかる工事費用として約750〜1,150億円かかると見積もっていた。もし、楽天モバイルへのプラチナバンド再割り当てが決まったとなれば、3社は免許を奪われるだけでなく、それだけの費用を全て自己負担しなければならなくなる。
3社はただでさえ、政府主導による携帯料金引き下げで業績を大幅に悪化させているだけに、それに加えて巨額の工事費用が新たにのしかかるとなれば、当然それは事業全体に大きな影響を与えることとなる。
とりわけ懸念されるのが、ただでさえ「日本は遅れている」と言われている5Gのインフラ整備や、その遅れを取り戻すべくイニシアティブの獲得が求められる6Gに向けた研究開発にかけるコストが減少してしまうことで、日本の携帯電話産業が世界から取り残されるリスクが高まってしまうことだ。
とはいえ、楽天モバイルがプラチナバンドを持たず競争上不利なことは確かであるし、総務省がこうした方針案を出してしまった以上、3社も再割り当てを避けるには、楽天モバイルの競願申請を阻止する何らかの策が必要だというのもたしかだ。
■NTTドコモが提案する「狭帯域700MHz帯」
そこで動きを見せたのがNTTドコモであり、同社は総務省が2022年11月30日に実施した、情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班で、「700MHz帯への狭帯域4Gシステム導入の提案」をして注目されている。
700MHz帯は、地上波テレビのデジタル放送への移行によって携帯電話向けに割り当てられた帯域で、大手3社が10MHz×2幅ずつの免許を保有しており、4Gや5Gに活用しているのだが、実は全ての帯域をフルに使用しているわけではない。隣接する地上波デジタルテレビ放送や、放送やイベントなどに用いられる「特定ラジオマイク」との電波干渉を避けるため、4〜8MHzほど間を空けて割り当てがなされているのだ。
だがNTTドコモは、その空き帯域のうち3MHz幅を4G向けに割り当てたとしても、隣接するシステムに干渉の影響を与える可能性が低いので、3MHz×2幅を4G向けに割り当ててはどうかと提案したのである。
先にも触れた通り、既存3社に割り当てられているのは10MHz×2幅なので、その3分の1以下となる3MHz×2幅では携帯電話向けとして狭いのでは?と思われるかもしれないが、NTTドコモの試算によると約1,100万契約は収容できるとのこと。これは楽天モバイルの2022年9月末時点でのMVNOを除く、契約数(455万)の倍以上の数字だ。
またNTTドコモによると、3MHz幅での利用は標準化団体の3GPPの仕様で定められているもので、米国やインドなどでは実際に3MHz幅の帯域が利用されている実績もあるとのこと。
そして何より、他の700MHz帯と同様「バンド28」として3GPPによる標準化がなされている周波数帯なので、基地局設備やスマートフォンなどに特別なカスタマイズをする必要がなく、既存のエコシステムを存分に活用できるのもメリットだ。
さらに言えば、この帯域は使われていないので、割り当てがなされればすぐ使うことができる。再割り当てをするとなれば工事が必要で、どれだけ急いでもすぐには使い始められないことを考えると、楽天モバイルにもメリットが大きい周波数帯といえるだろう。
そうしたことから楽天モバイルは、狭帯域700MHz帯の提案に対して、「プラチナバンド再割当以外の新たな選択肢になりうる、700MHz帯の3MHzシステムの検討が開始されたことを歓迎いたします」とのコメントを寄せている。
プラチナバンドをすでに保有しているNTTドコモが、このような狭い帯域を捻出する必要はないだけに、今回の提案は楽天モバイルに塩を送るものと言えなくもない。だが先にも触れた通り、プラチナバンドの再割り当てがなされたとなれば、自社に与える影響も甚大になりかねないだけに、NTTドコモとしては背に腹は代えられない、というところなのだろう。
そして、狭帯域700MHz帯の4Gへの割り当てが進み、楽天モバイルがその免許を獲得したとなれば、少なくとも楽天モバイルの契約が大幅に増えるまで業界の混乱は収まりそうな雰囲気も出てきた。
ただ忘れてはいけないのは、この帯域の割り当てはあくまで、地上波デジタルテレビ放送や特定ラジオマイクに影響を与えないことが大前提であるし、楽天モバイルが本当に3MHz×2幅の割り当てで納得するのか?という点は、まだ見えていないということ。
今年の年末から早々に、割り当てに向けた具体的な議論が始まるようだが、2023年の業界動向を占う上でも、狭帯域700MHz帯の行方が大きな鍵を握ることは間違いないだろう。