公開日 2024/04/11 06:40
メリットばかりでもない? 「外部アプリストア」義務化の懸念点
セキュリティ面を懸念する声も
内閣官房 デジタル市場競争会議(DMCH)が、アップルやグーグルによる市場の寡占状況を改善するため、プラットフォーム事業者以外のストアからもアプリをインストールできる「サイドローディング」などを義務付ける法律案の整備を進めている。
現在、公正取引委員会が「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」(仮称)として取りまとめている原案では、スマートフォンの利用に欠かせないモバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンを「特定ソフトウェア」と定義。現状で、これを特定少数の有力な事業者が寡占している環境が国内にも存在するとしている。
そのうえで公正かつ自由な競争を促すためとして、アプリの代替流入経路や代替決済を容認することをプラットフォーム事業者に求める。違反する事業者に対しては相応の措置を講じることなども、この法律案の骨子に含まれる。この法律案は1月26日に召集され、6月23日まで開催される今の第213回国会の開催期間に提出される見込みだ。
一方で、この流れに警鐘を鳴らす動きもある。情報通信関連の消費者問題を扱う民間団体の情報通信消費者ネットワークでは、この法律案が抱えるセキュリティやプライバシーの課題に対する指摘を意見書にまとめ、内閣府や公正取引委員会などに宛てて送った。iPhoneなどスマホを日常生活の中で活用する国内一般消費者の視点から、この法律案を俯瞰した時にどのような懸念点が見えてくるのか、情報通信消費者ネットワークの長田三紀氏に聞いた。
長田氏はアプリの代替流入経路、つまりサイドローディングがモバイルプラットフォームの安心・安全に大きな亀裂を生むと予見している。
アップルはiOS、iPadOSにアプリを導入する手段として、日本国内ではApp Store以外の代替流入経路を容認していない。長田氏は「アップルのエキスパートによって審査された安心・安全なアプリだけが揃っていることは、特にシニア層などデジタル機器の扱いに慣れていない消費者がiPhoneを選ぶ際に重視するポイント」と語る。サイドローディングによって安心・安全な環境に破綻が生じることになれば「iPhoneも含めてスマホを使うこと自体が不安になり、特にシニア層などが端末を手放す消費者も増える可能性もある」と警鐘を鳴らす。
App StoreやGoogle Playストアに代表されるOSの提供事業者によるアプリストアは多くのユーザーに使われている。その背景には、サブスクリプションサービスや課金コンテンツの購入履歴を確認したり、解約の手続きやトラブルが発生した際の問い合わせも含め、窓口を一元化できるメリットがあるからだと長田氏が指摘する。
長田氏は、仮に法律が成立したとしても、安心・安全な利用と引き換えに例えば外部アプリストアが提供するアプリやサービスの方が「安いから」と言って、代替の流入経路と決済手段を多くのユーザーが選ぶ理由にはなりにくいのではないかと疑問を投げかける。むしろ、プラットフォームを運営する事業者が関知できない決裁・課金が増えることが懸念される。そして消費者が抱えるトラブルについて、相談できる窓口が狭まる危険性についても長田氏は言及する。
なにより長田氏は「DMCHによる法律案には消費者の声が十分に反映されていないことが最大の懸念」と説く。そして「今国会での提出を急がず、消費者団体や専門家等の意見を広く聴取して、健全なデジタル文化の発展にも寄与する法案をつくってほしい」ともコメントしている。
今年の1月には欧州連合(EU)に加盟する27か国でデジタル市場法(DMA)が施行され、3月からEU地域に生活するiPhoneユーザーに限り、App Store以外のアプリマーケットからiPhoneにアプリをインストールしたり、アプリ内課金の支払い時にデベロッパのアプリ内でApple Pay以外の決済サービスプロバイダー(PSP)を選んだりできるようになった。
同時に、アップルはEU地域で有料コンテンツを提供する一部デベロッパから、App Storeの安全を担保するために必要なテクノロジーの開発とツール提供の負担を「コアテクノロジー手数料」として徴収することを決めた。
一部デベロッパとは「年間100万件のインストールを超える有料コンテンツ」をiPhone向けに提供する規模の大きなデベロッパのことだ。アップルはEU域内でコアテクノロジー手数料を負担することになるデベロッパは全体のおよそ1%未満になると試算している。
仮にDMCHによる法律案が成立して、EU地域と同じく日本でも一部のデベロッパを対象にコアテクノロジー手数料に類するルールが設けられた場合、App Storeで提供される一部アプリやサービスが値上げされ、引いてはユーザーにしわ寄せが行くことも考えられる。
プラットフォーム事業者がストアの安全でサステナブルな運営のためとして、デベロッパに負担を求めている手数料の妥当性については議論が絶えないところだ。
たしかに運営デジタル市場における競争を促進することも大切だが、一方で、結果としてアプリやサービスを楽しむ一般消費者の負担が増すことになれば、モバイルエコシステムの停滞や品質低下を招くことも考えられる。
筆者は、日本は今いったん立ち止まって、EUにおける今後の動向に目を向け、今後に向けた慎重な判断を下すべきだと考える。
■「サイドローディング」とは? 義務化に向け法律案が国会提出見込み
現在、公正取引委員会が「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」(仮称)として取りまとめている原案では、スマートフォンの利用に欠かせないモバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンを「特定ソフトウェア」と定義。現状で、これを特定少数の有力な事業者が寡占している環境が国内にも存在するとしている。
そのうえで公正かつ自由な競争を促すためとして、アプリの代替流入経路や代替決済を容認することをプラットフォーム事業者に求める。違反する事業者に対しては相応の措置を講じることなども、この法律案の骨子に含まれる。この法律案は1月26日に召集され、6月23日まで開催される今の第213回国会の開催期間に提出される見込みだ。
■メリットばかりでもない? サイドローディング義務化の懸念点
一方で、この流れに警鐘を鳴らす動きもある。情報通信関連の消費者問題を扱う民間団体の情報通信消費者ネットワークでは、この法律案が抱えるセキュリティやプライバシーの課題に対する指摘を意見書にまとめ、内閣府や公正取引委員会などに宛てて送った。iPhoneなどスマホを日常生活の中で活用する国内一般消費者の視点から、この法律案を俯瞰した時にどのような懸念点が見えてくるのか、情報通信消費者ネットワークの長田三紀氏に聞いた。
長田氏はアプリの代替流入経路、つまりサイドローディングがモバイルプラットフォームの安心・安全に大きな亀裂を生むと予見している。
アップルはiOS、iPadOSにアプリを導入する手段として、日本国内ではApp Store以外の代替流入経路を容認していない。長田氏は「アップルのエキスパートによって審査された安心・安全なアプリだけが揃っていることは、特にシニア層などデジタル機器の扱いに慣れていない消費者がiPhoneを選ぶ際に重視するポイント」と語る。サイドローディングによって安心・安全な環境に破綻が生じることになれば「iPhoneも含めてスマホを使うこと自体が不安になり、特にシニア層などが端末を手放す消費者も増える可能性もある」と警鐘を鳴らす。
App StoreやGoogle Playストアに代表されるOSの提供事業者によるアプリストアは多くのユーザーに使われている。その背景には、サブスクリプションサービスや課金コンテンツの購入履歴を確認したり、解約の手続きやトラブルが発生した際の問い合わせも含め、窓口を一元化できるメリットがあるからだと長田氏が指摘する。
長田氏は、仮に法律が成立したとしても、安心・安全な利用と引き換えに例えば外部アプリストアが提供するアプリやサービスの方が「安いから」と言って、代替の流入経路と決済手段を多くのユーザーが選ぶ理由にはなりにくいのではないかと疑問を投げかける。むしろ、プラットフォームを運営する事業者が関知できない決裁・課金が増えることが懸念される。そして消費者が抱えるトラブルについて、相談できる窓口が狭まる危険性についても長田氏は言及する。
なにより長田氏は「DMCHによる法律案には消費者の声が十分に反映されていないことが最大の懸念」と説く。そして「今国会での提出を急がず、消費者団体や専門家等の意見を広く聴取して、健全なデジタル文化の発展にも寄与する法案をつくってほしい」ともコメントしている。
■先行導入したEUではApp Storeの手数料増も……
今年の1月には欧州連合(EU)に加盟する27か国でデジタル市場法(DMA)が施行され、3月からEU地域に生活するiPhoneユーザーに限り、App Store以外のアプリマーケットからiPhoneにアプリをインストールしたり、アプリ内課金の支払い時にデベロッパのアプリ内でApple Pay以外の決済サービスプロバイダー(PSP)を選んだりできるようになった。
同時に、アップルはEU地域で有料コンテンツを提供する一部デベロッパから、App Storeの安全を担保するために必要なテクノロジーの開発とツール提供の負担を「コアテクノロジー手数料」として徴収することを決めた。
一部デベロッパとは「年間100万件のインストールを超える有料コンテンツ」をiPhone向けに提供する規模の大きなデベロッパのことだ。アップルはEU域内でコアテクノロジー手数料を負担することになるデベロッパは全体のおよそ1%未満になると試算している。
仮にDMCHによる法律案が成立して、EU地域と同じく日本でも一部のデベロッパを対象にコアテクノロジー手数料に類するルールが設けられた場合、App Storeで提供される一部アプリやサービスが値上げされ、引いてはユーザーにしわ寄せが行くことも考えられる。
プラットフォーム事業者がストアの安全でサステナブルな運営のためとして、デベロッパに負担を求めている手数料の妥当性については議論が絶えないところだ。
たしかに運営デジタル市場における競争を促進することも大切だが、一方で、結果としてアプリやサービスを楽しむ一般消費者の負担が増すことになれば、モバイルエコシステムの停滞や品質低下を招くことも考えられる。
筆者は、日本は今いったん立ち止まって、EUにおける今後の動向に目を向け、今後に向けた慎重な判断を下すべきだと考える。