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今回はボーズが発売した全5種類のヘッドホンをライターの炭山アキラ氏が一斉に試聴した。それぞれの個性の違いを明らかにし、用途やライフスタイルによって使い分けるヘッドホンの楽しみ方を研究してみた。 |
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これまでにもボーズのヘッドホンを試聴する機会は幾度となくあったが、いずれの製品も装着に負担の少ない軽量タイプながら、驚くほどに低音の伸びと量感を備え、全体に音楽を明るく伸びやかに聴かせてくれる持ち味がある。考えてみれば、これはヘッドホンに限らず、同社の音響製品のほとんどに共通する味わいのような気もする。
ボーズのヘッドホンには、これまでノイズキャンセリング・タイプの「QuietComfort2」と、オーディオヘッドホンの「TriPort」があった。2006年の冬、同社はそのラインアップを大幅に拡充し、用途別にセグメント分けを行った。
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今回は炭山アキラ氏の自宅試聴室にて、ヘッドホン全5機種の試聴を行った |
新しいカテゴリーは「ノイズキャンセリング・ヘッドホン」と「オーディオ・ヘッドホン」に大別される。前者は、同社独自のアクティブ・ノイズキャンセリング技術を搭載した「QuietComfort」シリーズであり、後者はコンパクトなヘッドホンの筐体において、力強い本格派のオーディオを実現するための「TriPort」技術が搭載されている。オーディオヘッドホンのラインナップに2機種、ノイズキャンセリングに1機種の新製品が2006年秋以降に追加され、合計5機種のヘッドホン製品のラインアップが出揃った。それぞれボーズならではの上質な音楽再生能力を実現しながら、ユーザーそれぞれのライフスタイルに対応するべく、「オンイヤー」「インイヤー」「アラウンドイヤー」という、3つの装着スタイルも提案しているところが特徴だ。
今回は新製品を含むボーズの現行ヘッドホン製品の全機種を試聴し、音楽再生能力を確かめながら、使いこなし方も含めてそれぞれの魅力を掘り起こして行きたいと思う。
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2006年冬に発売されたばかりの「オンイヤー」タイプのヘッドホンである。装着感は耳へ吸い付くようにしっくりとなじみ、しかし皮膚に密着するような不快感は皆無だ。側圧はかなり低めで不快感はないが、総重量が軽いので不安定にもならない。頭頂部への圧迫感がないのも大きな魅力だ。ケーブルは布打ちで手触りが良く、2種類の長さが用意されている。
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Bose on-ear headphonesは耳に乗せるオンイヤータイプを採用しながら、頭部への圧迫感のない快適な装着感を実現している |
全モデルの試聴は、ヘッドホンアンプ使ってオーディオシステムでの再生を確認したほか、iPodによるポータブルプレーヤーでのサウンドと使い勝手も検証した。
全域にフラットでハイスピードの端正なサウンドだ。低域の量感は若干控えめだが、ローエンドまでモヤつきなく音程明確にしっかりと再現している。クラシックは音場感が豊かで、音場の奥にある楽器まで定位もしっかりとしている。パーカッションのアタックがピシリと決まるのも快感だ。
ジャズは強烈なオンマイクのウッドベースもこなし、サックスやトロンボーンを明るく迫力いっぱいに再現してくれる。ポップスは他ジャンルより低域が豊かになったように感じられる。その土台に支えられて、声も伸びやかによく歌う感じだ。大変好ましい描写である。
次にiPodで聴いてみる。iPod持ち前のクールなサウンド表現を聴かせつつ、低域がたっぷりとした安定感の高いバランスの音楽を楽しませてくれた。低域の量感は増しても中・高域が混濁することはなく、音楽を楽しく聴くことができる。
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ボーズ初のインナーイヤー型ヘッドホン。耳穴に差し込むイヤーチップはシリコン製の特殊な形状になっており、耳穴にある2カ所の出っ張りに引っかけることによって、圧迫感を与えずに安定したホールドを可能にしている。耳の形はかなり個人差が大きいが、大/中/小と3種類のイヤーチップが用意されているので、ほとんどの人の耳にフィットするだろう。筆者の場合はミディアムサイズのチップがちょうど良く、異物感を感じることなく長時間のリスニングが楽めた。外部の音はある程度耳に届く。このレベルなら歩きながらのリスニングにも危険は少ないだろう。
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独自形状のシリコン製イヤーチップによって安定したホールド感を実現。高音質再生との両立も実現したBose in-ear headphones |
まずヘッドホンアンプで聴き始める。クラシックでは、この小振りなサイズからは考えられないようなピラミッド型の音楽が耳に飛び込んできた。驚くべき低域である。中低域の太さ、厚みも実に快い。中域はナチュラルで、高域にかけて穏やかさを増す。強烈なサウンドも耳障りにならず、長時間のリスニングに向く音作りといえるだろう。
ジャズの再生では、サックスやトランペットの太くまろやかな味わいが楽しめる。ポップスも声が耳障りにならず、長時間聴き続けても耳が疲れることはなかった。
iPodでは本機の低音がうまく活かされ、iPodの帯域バランスの良さと相まって、驚くほどのレンジ感を味わうことができた。
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耳をすっぽりと覆う「アラウンドイヤー」型は、見た目には大振りだが重さは140gと極めて軽量である。イヤーパッドはごくソフトで、上質な羽根枕に頭を埋めたときの感触に近いものがある。同社ヘッドホンの例に漏れず側圧はとても軽い。本体自体が軽量なこともあって、頭頂部への圧迫がほとんどないのも美点に挙げられよう。
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質量140gという軽量設計を実現。長時間の装着にも疲れを感じさせないBose around-ear headphones |
ヘッドホンアンプで聴くと、クラシックは間接音の成分が豊富で、広大な音場感が楽しめる。高域方向は一聴すると薄味かと思うが、これは非常に自然な伸びと明るさを持っているからだろう。低域はこれ見よがしの量感はないが、音楽を適切に表現するだけの量と、ローエンドまでしっかりと再現する解像度を有している。全体に軽やかだが、アタックがスパッと決まるのも印象的だ。奥ゆかしさと明るさを併せ持つ、小粋なサウンドの持ち主といえそうである。
ジャズでは録音スタジオの狭さまで分かるような音場表現の巧みさに驚く。管楽器は優しいが結構コクのある再現も聴かせる。ウッドベースは柔らかめだが、ドラムの輪郭は鮮明だ。ポップスでは一転エレキベースのエッジがどっしりとくる。持ち前の明るさはこういうジャンルにも活きるようだ。声は抑揚をよく伝えながら優しい。
iPodでは、独特の空間表現がさらに活きてくる。iPodそのもののクールな音場展開と相まって、「ポータブルプレーヤーってこんなにいい音だったっけ?」と思わずうならされた。
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ボーズ・オーディオヘッドホンシリーズ
Bose
around-ear headphones (TriPort
)
¥20,790(税込)
わずか140gの軽量ボディを実現。ボーズの誇るスピーカー開発技術が惜しみなく投入された、ポータブルタイプの本格派オーディオヘッドホン。
>>ボーズ
ホームページの製品情報
>>製品データベースで詳細を調べる |
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ボーズのノイズキャンセリング・ヘッドホンに、「オンイヤー」タイプの本製品が2006年秋に加わった。本体の小振りさを活かして、スポーツをしながら音楽を聴くといった、アクティブな用途に対応するための軽快な装着感も目指して開発が行われたのだという。専用の充電池が装備された点も大きく使い勝手が高められたポイントといえるだろう。
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オンイヤータイプで快適な装着感と、優れたノイズキャンセリング効果を合わせて実現したQuietComfort3 |
本体はノイズキャンセル回路と充電池が内蔵されていることが感じられないほど軽く、頭頂部にも負担はかからない。イヤーパッドはとてもソフトで、耳にしっとりとよくなじみながら違和感は全く生じない。スイッチを入れた瞬間、自分の心臓の鼓動が聴こえてくるような静寂に包まれるが、イヤーパッド周りが小さくなったのにノイズキャンセリングの効果は減じていない。先に商品化されたQuietComfort2よりも中高域を中心に、ノイズキャンセリングの効果が高められているそうだ。
クラシックは音像の実体感が豊かで、堂々とした音場を作り上げるタイプだ。低域はやや軽めだが、他のヘッドホンにはない躍動感を備えている。ソロ楽器の表現にも優れている。楽しいサウンドの持ち主だ。
ジャズも躍動感に溢れ、濃厚で切れ味の良い演奏が楽しめた。ポップスは迫力よりもよく整ったバランスが耳に残る。声に刺々しさがないのはボーズのヘッドホンが共有する特徴だ。
iPodではどうしても若干コンパクトになりがちなサウンドをくっきりと前に出し、やはり迫力いっぱいに再現してくれる。相性は良好といって良いだろう。
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ボーズのノイズキャンセリング・ヘッドホンの大看板ともいうべき本機は、2005年に現在のボディーカラーへのリニューアルを行うとともに、音楽再生能力にも磨きをかけて現在に至っている、完成度の高いヘッドホンだ。パッドは羽二重を思わせる柔らかさで、側圧は同社としては高めだが全く気にならない。このあたりのチューニングの巧みさはさすがである。本体のスイッチを入れた瞬間に静寂が訪れるが、本機で驚くのは静寂そのものの「上質さ」だ。恐らく耳に聴こえないレベルのノイズまで抑制されているのだろう。
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独自のアクティブノイズキャンセリング機能により解像度の高いサウンドが楽しめるQuietComfort2 |
一聴して本機はハイファイ・ヘッドホンであることが分かる。クラシックは広大なレンジと極めつけの解像度が味わえる。音像定位の遠近感もよく表現し、アタックも気持ちいいように決まる。低域は膨らまず痩せず、みずみずしい響きが楽しめる。
ジャズは分厚く濃く、心臓に迫るような演奏がいい。ポップスも一切の破綻なく、音楽そのものが耳に飛び込んでくるという感じだ。複雑なキャンセリング機構を持ちながら、優れた音楽再現をこなしている。
iPodと自宅のリファレンス・システムで聴き比べれば、素性の差で音数が若干減ずるのは致し方ないが、それでも大筋は変わらず、驚くほど生々しくクリアでワイドなサウンドが楽しめた。
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ボーズのヘッドホン5モデルは、「音楽を明るくハイフィデリティに聴かせる」という共通項を持ちながら、1台ごとに異なる持ち味や用途も楽しめそうだ。女性も気軽に使えるインイヤー型、軽快さとワイドレンジ、高解像度を両立するオンイヤー型、よりハイファイ方向へ振ったアラウンドイヤー型というセグメントを筆者は感じ取ることができたが、もちろんユーザーの数だけ、用途やスタイルが無限に生まれるはずだ。ノイズキャンセリングの上質な静寂と合わせて、ボーズ・サウンドがより広いフィールドで楽しめるようになったことを喜びたい。ぜひ服を着替えるような感覚で、5つのヘッドホンの違いを楽しんでみて欲しい。 |
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レポート/炭山アキラ
1964年、兵庫県神戸市生まれ。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。地元の吹奏楽団ではユーフォニウムの奏者としても活躍している。 |
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