公開日 2019/10/04 13:37
ドイツ・ベルリンで開催されたコンシューマー・エレクトロニクスショー「IFA2019」は、世界各国からイノベーティブなIT企業やスタートアップが集まるIFA NEXTの勢いも飲み込みながら、さらに大きな成長を遂げていた(ニュース一覧はこちら)。盛況の後に閉幕したIFAの成果をメッセ・ベルリン社のイエンズ・ハイテッカー氏に振り返ってもらった。
■AIが家電のインターフェースとして生活に溶け込みはじめた
今年は欧州先進国の経済が減速感を漂わせるなかで開催されたIFAだったが、ふたを空けてみれば9月4日・5日のプレスデイから9月11日まで続いたIFAの本開催期間中も、メッセ・ベルリンの会場は終始よいムードに包まれていた。今年は出展社数が約2,000に増え、245,000人を超える来場者が6日間に足を運んだ。およそ160カ国からトレードビジターとジャーナリストが集まり、国際色も豊かさを増した。
AI、5Gといった、私たちの生活の少し先の未来にあるエレクトロニクスのトレンドを、IFAは上手く今ここにあるプロダクトやテクノロジーとして来場者にアピールできていたと筆者は思う。
8Kテレビについてはソニーやシャープ、サムスンにLGといった業界をリードするメーカーから完成度の高い商品がブースに並んだ。インターネットにつないで、生活に新たな豊かさをもたらすスマート家電については、ヨーロッパで圧倒的な人気を誇るボッシュにシーメンス、ミーレなどのトップブランドがラインナップを一気に拡充。スタンダードクラスにまで裾野が広がり、ヨーロッパの白物家電は「もはやコネクテッドであることが当たり前」といわんばかりの勢いを感じさせた。さらにLGエレクトロニクスは次世代のスマート家電向けに、新たな専用SoCをクアルコムと共同で開発することをプレスカンファレンスで宣言。話題を呼んだ。
今後、AIがエレクトロニクス機器との統合を深めていくと私たちの生活は便利になるのだろうか。未来を慎重に見通す目を養うために、巨大なメッセを運営するチームの一員として「一般のコンシューマーがどのようにAIを受け入れているのか」について常に注意深く見守る視点を大事にしたいとハイテッカー氏は日ごろから語っている。
「なぜならAIについては、時にメディアの反応と一般コンシューマーの受け止め方が大きく違う場合もあるからです。私は以前、あるドイツの大手経済新聞の記者が『ボイスコントロールなど含めて、いま手にできるAIを搭載する製品は私にとってなんの役にも立たない』とコメントしていた記事を読みました。この方にとっては、今のスマート家電ができることはやや物足りないのかもしれません。でも一方で、一般のコンシューマーの方にはリモコンの代わりに音声で家電機器のメニューを操作できることがとても便利に感じるという声や、既に音声操作を巧みに使いこなしている若いユーザーの方が大勢いるという現実があることも理解するべきだと思います。」(ハイテッカー氏)
AIは私たちの暮らしに「インターフェース改革」をもたらしていると、ハイテッカー氏は兼ねてからのインタビューの機会に繰り返し述べてきた。ハイテッカー氏の印象としては、今年のIFAでは出展各社がAIを前面に打ち出すのではなく、日常生活に溶け込む家電のインターフェースとして自然な在り方を見せていたこと満足しているという。
筆者もブースをまわりながらいくつかの事例に出会った。キッチン周りのスマート家電に注力してきたミーレの場合、Amazon Alexaによる音声コントロールに対応する家電機器を既に様々なカテゴリーに展開している。その中で来春に本格ローンチを予定する「Cook Assist」は、モバイルアプリやディスプレイ付スマートスピーカーから調理メニューを選ぶと、後はAIが料理の手順をコーチングしてくれるというサービスだ。デモンストレーションではIHクッキングヒーターやオーブンなど、複数のスマート家電が連携してユーザーの調理をテンポ良くアシストしてくれる様子を見ることができた。
ハイテッカー氏は現在、私たちが家庭でインターネットを当たり前のインフラとして活用しているのと同じように、大げさに構えることなくスマート家電を使いこなすようになるだろうとしながら、AIが急速にコンシューマーの生活に溶け込んできた実感を今年のIFAの展示に得たと語っていた。
■日本との「IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナー」は大成功だった
今年も世界各国からIT企業やスタートアップ、ベンチャー企業が集まる特別展示「IFA NEXT」が熱く盛り上がった。第3回目の開催となる今年は、初めての「IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナー」に日本が選ばれ、20社が集まる「ジャパン・パビリオン」が注目を浴びた。ハイテッカー氏は今年の日本のプレゼンスをどのように評価したのだろうか。
「私たちがイメージに描いていた通り、パートナーシップ・プログラムの最良の船出を日本とともに実現できたことに感謝しています。ジャパン・パビリオンは、これまでヨーロッパにいるだけでは捉えることができなかった最新の日本のテクノロジーと文化、人々の考え方、歴史とIFAに来場した多くの方々とを結びつけることに成功していたと思います。」(ハイテッカー氏)
反対に、日本のIT企業やスタートアップがヨーロッパのイノベーションにも触れたり、また自らの技術や製品、人材の立ち位置を振り返って見つめ直す良い機会にもなったはずだと、ハイテッカー氏は語っている。
「何事もまず挑戦することが大事なのだと私は思います。製品やテクノロジー、サービスも人々に何が求められていることなのか、どれが一番よい見せ方なのかということを発見するためにはトライアル&エラーの繰り返しが大切です。これは日本の出展者の皆様に限らず言えることだと思います。」(ハイテッカー氏)
IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナーについては、来年以降も続けて実施されそうだ。来年もまた続けて日本が選ばれるという可能性は低いと思うが、パートナーシップの有無にかかわらず、またIFAに多くの日本企業が出展して、大胆な挑戦を繰り広げて欲しいと思う。
「今年のIFA NEXTのテーマは“コ・イノベーション=共創”でした。この場所にその可能性があふれているということに、多くの出展社が気付いてくれたと私は確信しています。その影響力や評判が、やがてIFA全体にも広がることも私は期待しています。今はIFAの開催期間中、メインホールには年末商戦に投入予定のプロダクトが並び、目の前のビジネスをテーマにした商談が熱く交わされています。エレクトロニクスのもう少し先にある未来を見据えたIFA NEXTの展示との違いを『コントラスト』と捉えることもできると思いますが、私は別の見方をすれば、それぞれが相互補完ができる関係にあるとみています。世界最大のソーシング・プラットフォームであるIFA Global Marketsとも連動しながら、IFAそのものの共創関係を深めて大きくしていくことが私たちの使命です。」(ハイテッカー氏)
■IFAを中心とした展示会・見本市のグローバルプラットフォームも拡大している
今年はIFAの開催直後となる9月19日から中国の広州市で姉妹イベントの「CE China」が開催された。また6月にアメリカのニューヨークで実施された「CE Week」とも連携しながら、メッセ・ベルリンはいまIFAを中心としたエレクトロニクスをテーマにした展示会・見本市のグローバルプラットフォームを固めつつある。
「私がメッセ・ベルリンでIFAを担当してから、IFAのグローバル化を軌道に乗せるまで10年以上の時間が必要でした。その間はイベントの『質』にこだわりながら、トライアル&エラーも重ねて少しずつ規模を拡大してきました。CE Chinaは今年で4回目、CE Weekも昨年に続く2回目の開催を迎えたばかりです。各地域のエキスパートたちと連携しながら、市場から必要とされるイベントの姿へ着実な成長を遂げていると私は自己採点をしています。」(ハイテッカー氏)
それぞれのイベントは他のエレクトロニクスショーと競合するために立ち上げたのではないということを、ハイテッカー氏はあらためて強調している。各地域のディーラーに小売店、メディアに必要とされるイベントとして、ゆっくり時間をかけて育てながら業界に貢献していきたいとハイテッカー氏は意気込みを述べた。
来年のIFA2020の日程も既に9月4日から9月9日までと決まった。次回に向けた施策についてはまた機会を改めてハイテッカー氏に訊ねてみたいと思う。
メッセ・ベルリン ハイテッカー氏に訊く
5G、AI…「IFA2019」をキーパーソンが振り返る。ジャパン・パビリオンも大成功
山本 敦■AIが家電のインターフェースとして生活に溶け込みはじめた
今年は欧州先進国の経済が減速感を漂わせるなかで開催されたIFAだったが、ふたを空けてみれば9月4日・5日のプレスデイから9月11日まで続いたIFAの本開催期間中も、メッセ・ベルリンの会場は終始よいムードに包まれていた。今年は出展社数が約2,000に増え、245,000人を超える来場者が6日間に足を運んだ。およそ160カ国からトレードビジターとジャーナリストが集まり、国際色も豊かさを増した。
AI、5Gといった、私たちの生活の少し先の未来にあるエレクトロニクスのトレンドを、IFAは上手く今ここにあるプロダクトやテクノロジーとして来場者にアピールできていたと筆者は思う。
8Kテレビについてはソニーやシャープ、サムスンにLGといった業界をリードするメーカーから完成度の高い商品がブースに並んだ。インターネットにつないで、生活に新たな豊かさをもたらすスマート家電については、ヨーロッパで圧倒的な人気を誇るボッシュにシーメンス、ミーレなどのトップブランドがラインナップを一気に拡充。スタンダードクラスにまで裾野が広がり、ヨーロッパの白物家電は「もはやコネクテッドであることが当たり前」といわんばかりの勢いを感じさせた。さらにLGエレクトロニクスは次世代のスマート家電向けに、新たな専用SoCをクアルコムと共同で開発することをプレスカンファレンスで宣言。話題を呼んだ。
今後、AIがエレクトロニクス機器との統合を深めていくと私たちの生活は便利になるのだろうか。未来を慎重に見通す目を養うために、巨大なメッセを運営するチームの一員として「一般のコンシューマーがどのようにAIを受け入れているのか」について常に注意深く見守る視点を大事にしたいとハイテッカー氏は日ごろから語っている。
「なぜならAIについては、時にメディアの反応と一般コンシューマーの受け止め方が大きく違う場合もあるからです。私は以前、あるドイツの大手経済新聞の記者が『ボイスコントロールなど含めて、いま手にできるAIを搭載する製品は私にとってなんの役にも立たない』とコメントしていた記事を読みました。この方にとっては、今のスマート家電ができることはやや物足りないのかもしれません。でも一方で、一般のコンシューマーの方にはリモコンの代わりに音声で家電機器のメニューを操作できることがとても便利に感じるという声や、既に音声操作を巧みに使いこなしている若いユーザーの方が大勢いるという現実があることも理解するべきだと思います。」(ハイテッカー氏)
AIは私たちの暮らしに「インターフェース改革」をもたらしていると、ハイテッカー氏は兼ねてからのインタビューの機会に繰り返し述べてきた。ハイテッカー氏の印象としては、今年のIFAでは出展各社がAIを前面に打ち出すのではなく、日常生活に溶け込む家電のインターフェースとして自然な在り方を見せていたこと満足しているという。
筆者もブースをまわりながらいくつかの事例に出会った。キッチン周りのスマート家電に注力してきたミーレの場合、Amazon Alexaによる音声コントロールに対応する家電機器を既に様々なカテゴリーに展開している。その中で来春に本格ローンチを予定する「Cook Assist」は、モバイルアプリやディスプレイ付スマートスピーカーから調理メニューを選ぶと、後はAIが料理の手順をコーチングしてくれるというサービスだ。デモンストレーションではIHクッキングヒーターやオーブンなど、複数のスマート家電が連携してユーザーの調理をテンポ良くアシストしてくれる様子を見ることができた。
ハイテッカー氏は現在、私たちが家庭でインターネットを当たり前のインフラとして活用しているのと同じように、大げさに構えることなくスマート家電を使いこなすようになるだろうとしながら、AIが急速にコンシューマーの生活に溶け込んできた実感を今年のIFAの展示に得たと語っていた。
■日本との「IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナー」は大成功だった
今年も世界各国からIT企業やスタートアップ、ベンチャー企業が集まる特別展示「IFA NEXT」が熱く盛り上がった。第3回目の開催となる今年は、初めての「IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナー」に日本が選ばれ、20社が集まる「ジャパン・パビリオン」が注目を浴びた。ハイテッカー氏は今年の日本のプレゼンスをどのように評価したのだろうか。
「私たちがイメージに描いていた通り、パートナーシップ・プログラムの最良の船出を日本とともに実現できたことに感謝しています。ジャパン・パビリオンは、これまでヨーロッパにいるだけでは捉えることができなかった最新の日本のテクノロジーと文化、人々の考え方、歴史とIFAに来場した多くの方々とを結びつけることに成功していたと思います。」(ハイテッカー氏)
反対に、日本のIT企業やスタートアップがヨーロッパのイノベーションにも触れたり、また自らの技術や製品、人材の立ち位置を振り返って見つめ直す良い機会にもなったはずだと、ハイテッカー氏は語っている。
「何事もまず挑戦することが大事なのだと私は思います。製品やテクノロジー、サービスも人々に何が求められていることなのか、どれが一番よい見せ方なのかということを発見するためにはトライアル&エラーの繰り返しが大切です。これは日本の出展者の皆様に限らず言えることだと思います。」(ハイテッカー氏)
IFA NEXTグローバル・イノベーション・パートナーについては、来年以降も続けて実施されそうだ。来年もまた続けて日本が選ばれるという可能性は低いと思うが、パートナーシップの有無にかかわらず、またIFAに多くの日本企業が出展して、大胆な挑戦を繰り広げて欲しいと思う。
「今年のIFA NEXTのテーマは“コ・イノベーション=共創”でした。この場所にその可能性があふれているということに、多くの出展社が気付いてくれたと私は確信しています。その影響力や評判が、やがてIFA全体にも広がることも私は期待しています。今はIFAの開催期間中、メインホールには年末商戦に投入予定のプロダクトが並び、目の前のビジネスをテーマにした商談が熱く交わされています。エレクトロニクスのもう少し先にある未来を見据えたIFA NEXTの展示との違いを『コントラスト』と捉えることもできると思いますが、私は別の見方をすれば、それぞれが相互補完ができる関係にあるとみています。世界最大のソーシング・プラットフォームであるIFA Global Marketsとも連動しながら、IFAそのものの共創関係を深めて大きくしていくことが私たちの使命です。」(ハイテッカー氏)
■IFAを中心とした展示会・見本市のグローバルプラットフォームも拡大している
今年はIFAの開催直後となる9月19日から中国の広州市で姉妹イベントの「CE China」が開催された。また6月にアメリカのニューヨークで実施された「CE Week」とも連携しながら、メッセ・ベルリンはいまIFAを中心としたエレクトロニクスをテーマにした展示会・見本市のグローバルプラットフォームを固めつつある。
「私がメッセ・ベルリンでIFAを担当してから、IFAのグローバル化を軌道に乗せるまで10年以上の時間が必要でした。その間はイベントの『質』にこだわりながら、トライアル&エラーも重ねて少しずつ規模を拡大してきました。CE Chinaは今年で4回目、CE Weekも昨年に続く2回目の開催を迎えたばかりです。各地域のエキスパートたちと連携しながら、市場から必要とされるイベントの姿へ着実な成長を遂げていると私は自己採点をしています。」(ハイテッカー氏)
それぞれのイベントは他のエレクトロニクスショーと競合するために立ち上げたのではないということを、ハイテッカー氏はあらためて強調している。各地域のディーラーに小売店、メディアに必要とされるイベントとして、ゆっくり時間をかけて育てながら業界に貢献していきたいとハイテッカー氏は意気込みを述べた。
来年のIFA2020の日程も既に9月4日から9月9日までと決まった。次回に向けた施策についてはまた機会を改めてハイテッカー氏に訊ねてみたいと思う。