公開日 2023/03/27 16:19
ダイナミックオーディオ4F H.A.L.IIIにて開催
国産真空管アンプのレベルの高さを体感!トライオード/オーロラサウンド/エアータイト比較試聴イベントレポ
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
去る3月11日(土)、秋葉原のオーディオ専門ショップ・ダイナミックオーディオ4F H.A.L.IIIにて、国産真空管アンプの聴き比べイベントが開催された。トライオード、エアータイト、オーロラサウンドという個性的な3ブランドが登場した当日の模様をレポートしよう。
この企画は、ダイナミックオーディオが毎年開催するSPRING FESTIVALの一環として開催されたもの。アンプ以外のシステムはすべて共通で、スピーカーにはB&Wの「801 D4」を使用、アナログプレーヤーにはトランスローター「ZET-3」、トーンアームにはグランツ「MH-1200S」、カートリッジにはマイソニックの「SIGNATURE GOLD」を使用している。なお、今回はCDやデータ再生はなく “レコード” に特化した試聴イベントとなっていた。
トライオードのデモンストレーションは、「スター・ウォーズ」のオープニングテーマで幕を開ける。最新のウェスタン・エレクトリックの300Bを搭載したプリメインアンプ「EVOLUTION 300 30th Anniversary」(以下EVO 300)が登場。1台で「801 D4」をどこまで鳴らしきれるかと、社長の山崎さんも自信たっぷり。
山崎さんによると、今回のEVO 300はトライオードの300B搭載モデルとしては18世代目にあたり、2021年より復刻した「ウェスタン・エレクトリックの300B」の良さを最大限引き出そうという目的で開発したモデルだという。前段は国内からかき集めてきたヴィンテージ管というのもこだわりで、「何がついているかは届いてからのお楽しみ」とのこと。今回の試聴イベントではユーゴスラビアのEI社の真空管が付属しているものとなる。
「スター・ウォーズ」のテーマソングでは、300Bならではの上質な手触り感を感じさせながらも、様々な楽器の織りなすステージ感や奥行き感はさすがの一言。山崎さんは、「ハイレゾ音源が一般的になってきた現代においては、“情報量をどれだけ引き出せるか” がアンプにとっても重要な役目になってきています」と語り、懐古的ではなく、新しい時代に合わせた真空管アンプづくりを目指していると強調する。
続けて、井筒香奈江さんがダイレクトカッティングに挑戦した『Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio』やマイルス・デイヴィスのライヴ盤『Live Around the World』、鈴木勲トリオによる『黒いオルフェ』など、300Bが得意とするアコースティックやヴォーカルに魅力のつまったレコードを次々に再生。
弦のゴリっとした質感やピアノの余韻の美しさは、まさにトライオードが得意とするところ。プリメインアンプでもここまでオーディオ的に楽しめるのは、30年に渡り培ってきた真空管技術の為せる技、と改めて感じさせてくれた。
第二部は横浜を拠点に活動するオーロラサウンドが登場した。代表の唐木志延夫さんが2012年に設立したブランドで、以前はDAコンバーターなどのデジタル製品も手掛けていたが、現在はアナログに特化して展開している。今回持ち込まれたのはプリアンプ「PREDA III」とフォノイコライザー「VIDA SUPREME」、パワーアンプは300B搭載の「PADA-300B」をモノラルで使用。300Bをプッシュプルで構成し、28Wという出力を実現している。
オーロラサウンドのフォノイコライザーの大きな特徴は「LCR型」を採用していることと、大型のミュートボタン。LCR型はインダクタンスと抵抗、コイルを組み合わせてRIAAカーブを実現する世界的にも珍しい構成で、「低音の解像度が良くなるほか、3次元的な立体感なども引き出します。ライヴ録音とか会場の熱気とか、ホールの広さも得意としますね」と唐木さん。
「大型のミュートボタン」は同社のフォノイコライザーにはすべて搭載されており、ミュート時には明るくオレンジ色に光る。「こんなに大きなミュートボタンをつけてどうするんだ、とよく聞かれるのですが、針の上げ下げをする時とても便利なんです。ボリュームを調整しなくていいですからね。一度この便利さに慣れるともう戻れません(笑)」。
このパートで最も衝撃を受けたのは、1974年にスリー・ブラインド・マイスから発表された『BLOW UP』。ジャズの限界を越えようというミュージシャンたちのパッションと、その場にある全ての音を録り尽くしてやろうというレコーディングエンジニアの情熱が不思議なケミストリーを起こし、音楽そのものにチャレンジしていくような独特の世界観を構築する。唐木さんも、「以前CESでこのレコードをデモしたら、びっくりしてたくさんの人が部屋に集まってきんですよ」と、日本人ジャズメンのレベルの高さが誇らしく思えたと振り返る。
最後には、ターンオーバーとロールオフを細かく設定でき、さまざまなイコライザーカーブに対応できるフォノイコライザー「EQ-100」も紹介。クリフォード・カーゾンによるモーツァルトのピアノ協奏曲では、RIAAとDECCAカーヴという貴重な聴き比べも行われた。「アナログ機器に特化しているからこそ、SPからモノラルから、あらゆる盤を聴くことができる製品開発に力を入れています」とオーロラサウンドならではのこだわりを語って締めくくった。
ここで今回のイベントの仕掛け人でもある、H.A.L.IIIの諸石さんが今回のリファレンスシステムを紹介。特にグランツのトーンアーム「MH-1200S」は諸石さんのこだわりということで、「ステンレス製のトーンアームですが、反応が良く細かい音の描写がよく分かるアームです。グランツほどのスピード感があるアームはあまりないでしょう」と大絶賛。
エド・シーランの「Thinking Out Loud」では、目の覚めるような立ち上がりの鋭さと、じんわり柔らかく耳を包むエド・シーランの声のニュアンスのバランス感が最高で、ずっとこのままこの声に身を委ねていたくなる心地よさに溢れている。解像感高く、それでいて肩肘はらない優しさは、マイソニックの「SIGNATURE GOLD」の力によるものもあるかもしれない。
そして最後は、大阪府高槻市に拠点を置く真空管アンプブランド・エアータイトが登場。1986年に創業し、今年で37年目を迎えるエアータイトは、内部配線から基板へのピン立てまで、すべて自社工場でハンドメイドで行う貴重なブランドだ。
今回はフォノイコライザー「ATE-3011」と、プリアンプ「ATC-7」、パワーアンプ「ATM-2211J」×2台という贅沢なシステムを構成。「ATM-2211J」は2001年に登場した「ATM-211」の後継機となるモデルで、「211」のシングル構で32Wという大出力を実現している。近年の大型スピーカーを駆動するためにはそれなりの制動力が必要になることから、オーバーオールではなく、プレートから初段にのみネガティブ・フィードバックをかける点にこだわりがあり、「シングルエンドの良さを失わず、骨格があって、凛とした音になる」と、代表取締役社長の三浦さんは説明する。
ノルウェーの女性シンガー、アネッテ・アスクヴィークによる「Liberty」という作品は、ウクライナ戦争を想起させるような深い苦しみと悲しみを思わせる歌詞が特徴だが、エアータイトのアンプで聴くと、肌にそのまま静かに歌が染み渡ってくるような不思議な感覚にいざなわれる。音は耳だけで聴くのではなく、身体全体で感じるものだと改めて教えてくれる。
シェフィールドのダイレクトカッティング盤『I'VE GOT THE MUSIC IN ME』では、最初は緊張しながら演奏を始めたミュージシャンたちが、だんだん生き生きと音楽を奏で始めるまでの変化が手にとるように見えてくるし、ドイツのエレクトロニックミュージシャン、ヘンリック・シュワルツが築地本願寺で行ったライヴパフォーマンスを収録した『インストルメンツ』では、アンビエントの広がりをサイズ感たっぷりに表現してくれる。
アンプビルダーのスタッフは、創業時から37年働いている人もいるということで、創業時からのエアータイトブランドとしての理念がしっかり受け継がれていることをアピール。特殊な部品を使わないことや、飽きが来ないデザインも同社のこだわりで、創業時からのアンプはすべて修理可能。「一生モノ」になるようなアンプづくりを続けていきます、と意気込みを語った。
◇
2時間を超える聴き比べイベントとなったが、他ではなかなか実現できない密度の濃い内容で、国産真空管ブランドのレベルの高さを改めて感じさせてくれた。ダイナミックオーディオ4F H.A.L.IIIでは、今後もさまざまなイベントを仕掛けていくことを考えているということで、お店ならではのこだわりを持ったイベントをぜひ今後もチェックして欲しい。
この企画は、ダイナミックオーディオが毎年開催するSPRING FESTIVALの一環として開催されたもの。アンプ以外のシステムはすべて共通で、スピーカーにはB&Wの「801 D4」を使用、アナログプレーヤーにはトランスローター「ZET-3」、トーンアームにはグランツ「MH-1200S」、カートリッジにはマイソニックの「SIGNATURE GOLD」を使用している。なお、今回はCDやデータ再生はなく “レコード” に特化した試聴イベントとなっていた。
第一部:トライオード
トライオードのデモンストレーションは、「スター・ウォーズ」のオープニングテーマで幕を開ける。最新のウェスタン・エレクトリックの300Bを搭載したプリメインアンプ「EVOLUTION 300 30th Anniversary」(以下EVO 300)が登場。1台で「801 D4」をどこまで鳴らしきれるかと、社長の山崎さんも自信たっぷり。
山崎さんによると、今回のEVO 300はトライオードの300B搭載モデルとしては18世代目にあたり、2021年より復刻した「ウェスタン・エレクトリックの300B」の良さを最大限引き出そうという目的で開発したモデルだという。前段は国内からかき集めてきたヴィンテージ管というのもこだわりで、「何がついているかは届いてからのお楽しみ」とのこと。今回の試聴イベントではユーゴスラビアのEI社の真空管が付属しているものとなる。
「スター・ウォーズ」のテーマソングでは、300Bならではの上質な手触り感を感じさせながらも、様々な楽器の織りなすステージ感や奥行き感はさすがの一言。山崎さんは、「ハイレゾ音源が一般的になってきた現代においては、“情報量をどれだけ引き出せるか” がアンプにとっても重要な役目になってきています」と語り、懐古的ではなく、新しい時代に合わせた真空管アンプづくりを目指していると強調する。
続けて、井筒香奈江さんがダイレクトカッティングに挑戦した『Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio』やマイルス・デイヴィスのライヴ盤『Live Around the World』、鈴木勲トリオによる『黒いオルフェ』など、300Bが得意とするアコースティックやヴォーカルに魅力のつまったレコードを次々に再生。
弦のゴリっとした質感やピアノの余韻の美しさは、まさにトライオードが得意とするところ。プリメインアンプでもここまでオーディオ的に楽しめるのは、30年に渡り培ってきた真空管技術の為せる技、と改めて感じさせてくれた。
第二部:オーロラサウンド
第二部は横浜を拠点に活動するオーロラサウンドが登場した。代表の唐木志延夫さんが2012年に設立したブランドで、以前はDAコンバーターなどのデジタル製品も手掛けていたが、現在はアナログに特化して展開している。今回持ち込まれたのはプリアンプ「PREDA III」とフォノイコライザー「VIDA SUPREME」、パワーアンプは300B搭載の「PADA-300B」をモノラルで使用。300Bをプッシュプルで構成し、28Wという出力を実現している。
オーロラサウンドのフォノイコライザーの大きな特徴は「LCR型」を採用していることと、大型のミュートボタン。LCR型はインダクタンスと抵抗、コイルを組み合わせてRIAAカーブを実現する世界的にも珍しい構成で、「低音の解像度が良くなるほか、3次元的な立体感なども引き出します。ライヴ録音とか会場の熱気とか、ホールの広さも得意としますね」と唐木さん。
「大型のミュートボタン」は同社のフォノイコライザーにはすべて搭載されており、ミュート時には明るくオレンジ色に光る。「こんなに大きなミュートボタンをつけてどうするんだ、とよく聞かれるのですが、針の上げ下げをする時とても便利なんです。ボリュームを調整しなくていいですからね。一度この便利さに慣れるともう戻れません(笑)」。
このパートで最も衝撃を受けたのは、1974年にスリー・ブラインド・マイスから発表された『BLOW UP』。ジャズの限界を越えようというミュージシャンたちのパッションと、その場にある全ての音を録り尽くしてやろうというレコーディングエンジニアの情熱が不思議なケミストリーを起こし、音楽そのものにチャレンジしていくような独特の世界観を構築する。唐木さんも、「以前CESでこのレコードをデモしたら、びっくりしてたくさんの人が部屋に集まってきんですよ」と、日本人ジャズメンのレベルの高さが誇らしく思えたと振り返る。
最後には、ターンオーバーとロールオフを細かく設定でき、さまざまなイコライザーカーブに対応できるフォノイコライザー「EQ-100」も紹介。クリフォード・カーゾンによるモーツァルトのピアノ協奏曲では、RIAAとDECCAカーヴという貴重な聴き比べも行われた。「アナログ機器に特化しているからこそ、SPからモノラルから、あらゆる盤を聴くことができる製品開発に力を入れています」とオーロラサウンドならではのこだわりを語って締めくくった。
閑話休題:H.A.L.IIIタイム
ここで今回のイベントの仕掛け人でもある、H.A.L.IIIの諸石さんが今回のリファレンスシステムを紹介。特にグランツのトーンアーム「MH-1200S」は諸石さんのこだわりということで、「ステンレス製のトーンアームですが、反応が良く細かい音の描写がよく分かるアームです。グランツほどのスピード感があるアームはあまりないでしょう」と大絶賛。
エド・シーランの「Thinking Out Loud」では、目の覚めるような立ち上がりの鋭さと、じんわり柔らかく耳を包むエド・シーランの声のニュアンスのバランス感が最高で、ずっとこのままこの声に身を委ねていたくなる心地よさに溢れている。解像感高く、それでいて肩肘はらない優しさは、マイソニックの「SIGNATURE GOLD」の力によるものもあるかもしれない。
第3部:エアータイト
そして最後は、大阪府高槻市に拠点を置く真空管アンプブランド・エアータイトが登場。1986年に創業し、今年で37年目を迎えるエアータイトは、内部配線から基板へのピン立てまで、すべて自社工場でハンドメイドで行う貴重なブランドだ。
今回はフォノイコライザー「ATE-3011」と、プリアンプ「ATC-7」、パワーアンプ「ATM-2211J」×2台という贅沢なシステムを構成。「ATM-2211J」は2001年に登場した「ATM-211」の後継機となるモデルで、「211」のシングル構で32Wという大出力を実現している。近年の大型スピーカーを駆動するためにはそれなりの制動力が必要になることから、オーバーオールではなく、プレートから初段にのみネガティブ・フィードバックをかける点にこだわりがあり、「シングルエンドの良さを失わず、骨格があって、凛とした音になる」と、代表取締役社長の三浦さんは説明する。
ノルウェーの女性シンガー、アネッテ・アスクヴィークによる「Liberty」という作品は、ウクライナ戦争を想起させるような深い苦しみと悲しみを思わせる歌詞が特徴だが、エアータイトのアンプで聴くと、肌にそのまま静かに歌が染み渡ってくるような不思議な感覚にいざなわれる。音は耳だけで聴くのではなく、身体全体で感じるものだと改めて教えてくれる。
シェフィールドのダイレクトカッティング盤『I'VE GOT THE MUSIC IN ME』では、最初は緊張しながら演奏を始めたミュージシャンたちが、だんだん生き生きと音楽を奏で始めるまでの変化が手にとるように見えてくるし、ドイツのエレクトロニックミュージシャン、ヘンリック・シュワルツが築地本願寺で行ったライヴパフォーマンスを収録した『インストルメンツ』では、アンビエントの広がりをサイズ感たっぷりに表現してくれる。
アンプビルダーのスタッフは、創業時から37年働いている人もいるということで、創業時からのエアータイトブランドとしての理念がしっかり受け継がれていることをアピール。特殊な部品を使わないことや、飽きが来ないデザインも同社のこだわりで、創業時からのアンプはすべて修理可能。「一生モノ」になるようなアンプづくりを続けていきます、と意気込みを語った。
2時間を超える聴き比べイベントとなったが、他ではなかなか実現できない密度の濃い内容で、国産真空管ブランドのレベルの高さを改めて感じさせてくれた。ダイナミックオーディオ4F H.A.L.IIIでは、今後もさまざまなイベントを仕掛けていくことを考えているということで、お店ならではのこだわりを持ったイベントをぜひ今後もチェックして欲しい。