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公開日 2024/10/15 06:30
アーティストに寄り添ったレコード作りを続けたい

東洋化成、ソニーに続くレコードプレス工場が始動!「アーティストの想いを “鮮度高く” 届けたい」Pヴァインの情熱

ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈

音楽レーベルがプレス工場を新たに設立



インディペンデントレーベルとして長い歴史をもつPヴァインが、今年春からあらたにレコードプレス工場「VINYL GOES AROUND PRESSING」を立ち上げて、レコード製造を開始した。そのプレス工場を訪問し、レコードが生まれる現場を取材させてもらった。

埼玉県川口市にあるPヴァインのレコードプレス工場。中央が社長の水谷聡男さん、右がヘッドの増田航也さん、左がスタッフの牧野佳介さん

Pヴァインは1975年に創立、来年で50周年を迎える音楽レーベルである。その間、ジム・オルークや少年ナイフなど数々のアーティストを世に送り出してきた。このレコードプレス工場は、同社のプロジェクト「VINYL GOES AROUND」の一環としてスタートしたものとなる。

プレス工場の計画は、コロナ禍の最中にスタートしたのだという。巣篭もり生活を余儀なくされる中で、レコードに対する需要は急増したが、折しものレコードブームを受けてプレス工場はどこも満員。日本では東洋化成もしくはソニーが2大プレス工場として知られるが、いずれも発注から納品まで半年から1年ほどかかる、という状態が続いていた。

「それならばいっそ自分たちで作ってしまおう、と考えたのです」と社長の水谷聡男さん。「音楽を届けるためには、やはり “鮮度” が大切です。アーティストが楽曲をつくる、ライヴやイベントを企画してお客さんに楽しんでもらう、そしてその楽曲を鮮度の高いままに皆様にお届けしていく。そう考えたときに、“自社でプレス工場をもつ” ということが現実的なアイデアとして浮かんできたのです」

今年3月、自社アーティストの作品からプレスを開始し、オペレーションが安定してきた7月からは他のレーベルからの受付も開始した。

職人技のノウハウによって作られるレコードたち



プレスマシンは海外から輸入したものだという。ヘッドの増田航也さんによると、「いまレコードプレスマシンをつくっている会社は、海外に複数あります。それぞれ検討してみたのですが、今回導入したところが一番小規模なプレス工場への納品事例が多く、また最新の技術を使っていることも決め手になりました」と導入の経緯を教えてくれた。

海外から輸入されたプレスマシン。左の銀色のチューブから送り出された「ビスケット」を、上下からスタンパーで押し付けて音溝を転写する

今春にマシンが国内に届いたタイミングで本国のトレーナーも来日し、スタッフは2週間にわたってみっちり機械のトレーニングを受ける。そして3月から、実際に製造を開始したのだという。

音溝が転写された出来立てホカホカのレコード。反りが出ないように金属の板にはさんで冷却される

「でも、ボタンを押したらはいレコードできました、って訳にはいかなかったんですよ」と苦笑する増田さん。「温度や湿度、そのほか様々な要因がありますが、なかなか安定して生産するのは大変です。昨日はこの設定でOKだったのに今日はくっついちゃってうまくいかない、なんてトラブルが毎日のように起こりました。そういったトラブルをひとつひとつ解決して、夏頃からやっと安定した生産ができるようになってきました」

レコードの素材を溶かすための温度やプレスの圧力も、 その日の温度や湿度などによって微妙に設定を調整して製造している

レコード盤の材料には主に塩化ビニール樹脂(塩ビ)が使われている。塩ビの粒を高温で溶かし、「ビスケット」と呼ばれるひとかたまりにして、その両面を「スタンパー」で挟み込むことで音溝を転写する、というのがレコードプレスの基本工程。この場合に、何℃で何分間熱を加えるのか、プレスの圧力はどれくらいにするのが適切なのか、ということは実は毎日の微調整によってベストな設定で行われていく。毎日決まった設定、というわけには行かない。まさに職人技のようなノウハウの積み重ねによってレコードは作られていくのだ。

レコードの原料となる塩ビの粒

塩ビを溶かして一塊にした「ビスケット」。これを高温で柔らかくして上下からプレスして音溝を刻む

出来上がったホカホカのレコードは、反りが出ないように金属の板の間に挟んで冷やし固められる。おおよそ1日程度冷やすそうで、プレスマシンのそばには冷却中のレコード盤が何百枚とならべられていた。

冷却中のレコードたち。おおよそ1日程度冷やされて、ジャケットに収められていく

そうして冷やされたレコードは、1枚ずつ手作業でジャケットに収められていく。帯をつける作業も同時に行われていた。

帯と共に手作業でジャケットに収められる

そして最後に「シュリンク」作業。水谷さんも、「このシュリンクマシンも私たちの自慢のひとつです。日本のレコードは透明のビニール袋に入れられていることが多いですが、ぴっちりシールドして新品ですよ、と分かるようにする。これもレコードならではの魅力のひとつと考えています」と専用マシンへの誇りを語ってくれた。

専用のシュリンクマシンもPヴァインのこだわりのひとつ

きっちりビニールがけされて世界中に出荷される

音楽が生まれるクリエイティブな場としてのプレス工場



工場の2Fには空きスペースがあり、今後は試聴スペースとして活用することや、アーティストを呼んでのイベントなども実現したいと考えているという。

「単なる工場、にはしたくなかったんです」と水谷さん。音楽が生まれる場所、クリエイティブな楽しみの場所としてプレス工場を運営していきたい、という考え方も、Pヴァインというレコードレーベルを長年運営してきたからこそかもしれない。

一方で、レーベルがプレス工場をもつことの悩ましさもあるという。「わたしたちはレーベルもやっているので非常に難しい問題ではあるのですが、今は新品のレコードって1枚4,000円とかしますよね。少し高いな、と思うこともありましたが、こうやって自分たちで作ってみると、実際4,000円、カツカツだな、ってこともよく分かりました(笑)。原材料の値上げのお話もやっぱりあります。ですが、我々のようにレーベルとプレス工場を同時に運営している会社だからこそ、できることや解決できることが色々とあると思うので、そこはレーベル事業とも連動・連携していきながら頑張っていきたいですね」と胸を張る。

「わたしたちは小さいプレス工場ですから、なるべくアーティストに寄り添った、小回りのきいたレコード作りを行いたいと思います。イベントに合わせて小ロットでつくりたいとか、鮮度が高いうちにリスナーに届けたいとか、そういった要望にもできる限りお答えしていきたいと思います」。

ちなみに通常のレコードはもちろん、7インチ盤や12インチ盤、カラーヴァイナルなども作ることができるそうで、今後さらに製造を拡大していきたいと目を輝かせる。音楽レーベルだからこその「アーティストに寄り添ったレコードづくり」、今後の発展もたのしみだ。

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