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公開日 2018/01/13 09:00
ソニーCLEDとの違いとは

<CES>サムスンが発表した世界初 “マイクロLEDテレビ” とは何か、どう凄いのか?

編集部:風間雄介
米ラスベガスで開催されている「2018 International CES」。映像関係の話題で、もっとも大きなサプライズだったのは、サムスンが発表した “世界初のマイクロLEDテレビ” 「The Wall」だろう。

サムスンのマイクロLEDテレビ「The Wall」

もっともこれに最も驚かされたというのは、LGから「88型8K有機EL」や「65型の曲げられる有機EL」が先にニュースとして発表され、しかもCES会場では一般公開されなかったという状況も手伝っている。

まずは動画で撮影した「The Wall」のデモをご覧いただきたい。なお白飛びしているのは、ほとんどの部分においてiPhone Xのカメラ性能の限界によるものだが、一部、実際に目で見て白飛びしているシーンも確認できた。



マイクロLEDテレビとは?

ともあれ、「マイクロLEDテレビ」というのは、かなりのパワーワードである。

簡単に解説しておくと、マイクロLEDは、既存の液晶テレビや有機ELテレビとは異なる、新たな方式のディスプレイ技術だ。現在、SIDなどでも続々と研究成果が発表されている。

液晶は、バックライトの光を液晶分子のシャッターで開けたり閉じたりして、前面のカラーフィルターを通すことで映像を表示する。昔からある、かなり完成された技術で、しかも今なお技術的な改善が盛んに行われている。ただしその構造上、光漏れを皆無にはできず、絶対的な黒が表現しづらいという課題を持っている。また視野角にも問題を抱えている。

有機ELは、よく「自発光」といわれるが、その言葉の通り、素子自体が発光するデバイスだ。このためバックライトが必要なく、パネルを極限まで薄くできる。また黒い部分は光らせなければ良いので、いわゆる「真っ黒」が実現できる。さらに視野角が非常に広いのも特徴だ。

一方で有機ELは輝度を高めることが難しく、たとえば液晶テレビは2,000nits程度の商品が売られているのに対して、有機ELテレビは最高でも1,000nits程度にとどまる。依然として絶対的な明るさでは液晶に分がある(ただし明るくするには強力なバックライトが必要で、そのぶんテレビセットが厚く、消費電力が大きくなってしまう)。そのほか、焼き付きの問題も指摘せざるを得ない。

なおLGの有機ELテレビは、白色有機ELを発光させる方式を採用している。有機EL素子自体がRGBで光っているわけではないため、前面にカラーフィルターが必要となる。

今回サムスンが開発したマイクロLEDテレビは、RGBの微細なLEDを画面全体に敷き詰めた新たな方式だ。一時期「LEDテレビ」という言葉が話題になったことがあったが、あれはバックライトにCCFLではなくLEDを使っただけで、単なる液晶テレビだ。現在では、ほとんどの液晶テレビのバックライトがLEDになっている。マイクロLEDテレビとLEDテレビはまったく別のものであることを知っておきたい。

The Wallはサムスンのプレスカンファレンスで発表された

さて、マイクロLEDテレビの画面全体に敷き詰められたRGBの微細なLEDは、それ自体が発光する。有機ELと同じく、発光させるべきではない画素は光らないので、漆黒が表現できる。

また素子自体がRGBに分かれているので、カラーフィルターが不要。さらにLEDは発光効率が高く、輝度を高めやすい。このため屋外のサイネージなどに使われる場合も多い。今回の「The Wall」も、2,000nitsの輝度を実現しているという。

そのうえ、これはLEDデバイスの性能にもよるが、一般的に色域も広い。また電力効率も良く、消費電力を下げやすい。焼き付きの問題もない。現在のディスプレイデバイスの弱点をかなり潰しており、いま最も注目される次世代ディスプレイデバイスの一つなのだ。

実は昔からあったマイクロLEDディスプレイ

…と、ここまで読んで「それってソニーがやってるヤツだよね」と思った方もいるだろう。実際に今回、マイクロLEDの速報記事を公開してから、Twitterなどで最も多かったのが「Crystal LEDと同じ?」「CLEDのサムスン版か」「これってCLEDISだよね」という反応だった。

わずか6年前なのに、はるか昔のことのように感じるのだが、ソニーが55型のLEDディスプレイ「Crystal LED Display」を発表したのは、2012年のCESだ(関連ニュース)。そのとき展示されたのは55型で、解像度はフルHDだった。

ソニーが2012年のCESで発表した55型のLEDディスプレイ「Crystal LED Display」

ソニーはそれ以前、実に2009年の段階から「独自開発のディスプレイデバイスを開発している」と語っていた(関連ニュース)。それがこのCrystal LED Displayだった可能性が高い。そう考えると、もう10年ほど前からソニーが開発を行っていたデバイスなのだ。

そのとき展示されたCrystal LED Displayは、フルHDという、当時としても低めの解像度ながら、その圧倒的な色純度、視野角の広さ、動画応答性の良さなどで高い評価を得た。

だが、このCrystal LEDが、民生用テレビとして発売されることはなかった。液晶テレビの価格がどんどん下落し、さらには地デジ特需が終わってテレビ事業の採算性が悪化していた時期なので、おそらくコスト面の折り合いが付かなかったのではないか。

一方、この技術をベースにして、商品化にまでこぎ着けたのは、業務用のディスプレイ「CLEDIS」(関連ニュース)だ。2017年はじめに発売し、昨年のCESでも展示され、その圧倒的な画質の高さで話題を集めた。

Crystal LED Displayをベースに開発した業務用ディスプレイ「CLEDIS」

このCLEDIS、今回のサムスン「The Wall」と同じく、モジュール式を採用している。1つのモジュールは403mm×453mmで、解像度は320×360。これを任意の数で組み上げ、一つのディスプレイとして機能させる仕組みだ。このためモジュールとは別にコントロールユニットも必要となる。4K解像度のディスプレイを組んだ場合、価格は1億円を超えるというから、民生用テレビとはケタが3つくらい違う。

The Wallもモジュール式を採用。モジュールの数によってサイズを変えられる

明るさ、色純度の高さ、視野角の広さは驚嘆すべきレベル

さて、ようやく今回の「The Wall」の話題だ。今回、サムスンブースで実機を見てきたが、柵が設けられており、数メートルの距離からしか映像を見られなかった。

また、一眼カメラやミラーレスカメラでの撮影も許可していなかった。スマホのカメラなら撮影しても良いといわれたので、望遠レンズで画素構造を撮影され、分析されるのを嫌がっているのだろう。かなり厳重な警戒ぶりだ。

また公開されている情報も、展示しているのは146インチで、解像度は4Kであること、輝度が2,000nitsであること程度にとどまっている。それ以外の情報については、質問しても回答が得られなかった。

表示するデモコンテンツも有機ELを意識してのことか、輝度を思い切り高めた、明るいものばかりだった。場面によってはトーンマッピングが上手くいってないようで、高輝度部が飽和していたりなどしていたが、その明るさ、色純度の高さ、視野角の広さは驚嘆すべきレベルに達していた。

一方でCrystal LED Displayを見たときのような、しっとりした映像美は感じられなかったが、これは画作りやデモに対する考え方の違いだろう。

画質のポテンシャルが高いことはよくわかったが、ほかに何も情報がないのも困る。そこで画素密度を計算してみた。

今回の「The Wall」は146インチ、4K解像度なので、計算すると画素密度は約30.8ppiとなる。いまの4Kテレビと比べて明らかに画素密度は低い。

それに対して、いま商品化されているCLEDISは約15ppi程度となる。LEDのサイズは55μmだ。

さらに興味深いことに、2012年のソニーCrystal LED Displayは約40ppiとなり、この3つの中では最も画素密度が高い。単純に言うと、至近距離で見比べたら、今回のThe WallよりCrystal LED Displayの方が高解像度ということになる。

ぜひ「テレビ」として商品化を

「The Wall」の発売時期、価格等は何もアナウンスされていないが、「ディスプレイ」ではなく、あえて「世界初のマイクロLEDテレビ」とサムスンが言っているということは、素直に考えれば民生用として市販することを想定しているのだろう(というか、そう信じたい)。

しかし、微細なLEDを敷き詰める安価な製造方法をサムスンが確立しているならともかく、そういった情報はない。このため、もし市販化したとしても、相当に高額な商品になるだろう。

また、モジュール式を採用したことによって、自由にスクリーンのサイズやかたちを決められるのは良いのだが、ほとんどのコンシューマ向け映像コンテンツは16対9である。実際に奇妙なアスペクト比や形状のディスプレイを家庭に導入しても活かしきれないだろう。

さらに、もしモジュールが1種類であれば、モジュールの数によって解像度が決定されてしまうのも気になるところ。画面サイズを半分にすれば、解像度もそのぶん下がってしまうのだ。

…と、疑問点を挙げていくと切りがないのだが、液晶、有機ELに続く第3のデバイスが登場してきたのは単純に嬉しい。単なるショーケース用のデバイスでなく、市販化へ向けて着実に歩を進めて欲しいと願っている。

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