公開日 2024/09/05 06:30
ディスクリートクロックとDAC回路をさらに洗練
エソテリックのフラグシップネットワークプレーヤーが “SE” に進化。「N-01XD SE」に聴く音質のさらなる洗練
山之内 正
2019年に発売されたESOTERIC(エソテリック)の「N-01XD」は、完全ディクリートDACを搭載したネットワークDACとして大いに話題を集めた。このN-01XDが「SE」バージョンとなり、「N-01XD SE」として登場した。そのサウンドの進化を山之内 正氏が解説する。
Grandiosoを皮切りに、エソテリックの上位コンポーネントにおいてSE仕様へのアップグレードが進行中だ。クロック回路、DACアナログ部のリファインを中心に複数の音質改善策を投入することで、すでに頂点に君臨する製品群の基本性能にさらなる磨きをかけることを狙う。
これまでGrandiosoのP1X、D1X、K1Xの3機種でSEモデルへの移行が完了。それに続く製品として同社はネットワークDACに白羽の矢を立て、N-01XD SEが誕生した。ネットワークプレーヤーとしてはエソテリックのフラグシップに位置する重要な製品であり、N-01XDからのモデルチェンジは4年ぶりとなる。どこまで進化を遂げたのか、興味は尽きない。
2019年末にN-01XDが登場したときの技術的なハイライトは、エソテリック独自設計のマスターサウンドディスクリートDACをネットワークプレーヤーに載せたことで、ネットワーク再生だけでなく、同社のディスクプレーヤーやトランスポートとES-LINKで接続し、最先端のディスクリートDACの音を楽しむことにも重要な意味があった。
今回のSEモデルもその点は同じだが、ディスクリート設計の思想をクロック回路にまで徹底し、理想の音にさらに一歩近づいたというのがエソテリックの主張である。
内蔵と外部接続を問わず、従来の同社のクロック回路は汎用のクロックモジュールをベースに高音質化に取り組んでいただが、Grandioso G1Xに載せたディスクリート・クロック回路は、そこからさらに踏み込み、クロックモジュール自体を自社で開発したことに意味があった。安定した振動と理想的な電気物理特性を持つ「エソテリック・SC1クリスタル」と独自開発の温度制御システムを組み合わせ、オーディオ専用のクロック回路として理想の特性を実現していた。
今回N-01XD SEに内蔵したクロック回路はその技術資産を受け継いだデジタルプレーヤー仕様のもので、G1Xに準じる性能が期待できる。クリスタルは長い時間をかけて水晶片を成長させた大型の発振素子を用いているという。
クロック回路のディスクリート化以外にも注目すべき音質改善を導入。ディスクリートDAC後段のアナログ回路に独自のアンプモジュール「IDM-01」を採用したこともその1つだ。IDM-01はGrandioso C1Xに初めて導入したエソテリックオリジナルのモジュールで、N-01XDの開発時にはまだ完成していなかった。高い集積度で信号経路の短縮化が実現できることが利点とされる。
そのほか、デジタルフィルターの定数の見直しでS/N感を改善したり、抵抗やコンデンサーなどパーツの再吟味にも時間をかけたという。N-01XDからSEモデルへのバージョンアップも発表済みなので、前作のオーナーには検討をお薦めする(税込38万5000円)。
ハイレゾ音源をN-01XDとN-01XD SEで再生し、音の変化を確認する。今回聴いた室内楽の音源では、ヴァイオリンとピアノが互いに相手の音を良く聴きながら呼吸を揃え、スムーズに音を受け渡していることが聴きどころの1つだ。絶妙なタイミングや一瞬で音量を調整する様子はSEモデルだと聴き手が意識しなくても自然に伝わり、目の前で展開する演奏の緊張感も生々しい。微細な情報を精度高く再現しているという印象を受けた。
オーケストラの録音では余韻の動きがいっそう見えやすくなった。手前の弦楽器とステージ後方の金管や打楽器の位置関係を正確に再現する描写力はオリジナルモデルも非常に優秀だが、トゥッティで弾き切ったあとの余韻の減衰はSEモデルの方が最後までニュアンスを失わず、次のフレーズにつながる呼吸のテンポが自然に感じる。僅かな違いではあるが、演奏の高揚感や臨場感を再現するうえで重要な情報を従来以上に正確に再現できるようになった効果は大きい。
女性ヴォーカルは特に伴奏のアーチリュートの発音に明瞭な違いを聴き取ることができた。新旧どちらのプレーヤーもアルペジオの発音が素直でレガートも滑らか。一方、テンポが前に進む流れと推進力、そしてリュートの動きに寄り添って歌うヴォーカルの息遣いの生々しさはSEモデルの方がより強く感じられる。もっと分かりやすく言えば、臨場感がいっそう豊かに伝わるようになるのだ。はじかれた弦の一音一音の立ち上がり、ブレスの息の動きなど、微妙な情報がより鮮やかに聴き取れるようになったことが大きい。
セリア・ネルゴールでは、パーカッションやシンセサイザーなど、リズムセクションの楽器の音色をより鮮やかに再現するのがSEモデルだ。アグレッシブでダイナミックなリズムパートだが、ヴォーカルをマスクすることはなく、音量を上げてもうるさく感じない。耳を刺激する付帯音や強調はほぼ皆無。これはクロック回路の見直しというより、オーディオ回路のチューニングが功を奏しているのかもしれない。
SEモデルは電源部にもメスを入れていると聞く。今回、それらの音質改善策が相乗効果を発揮した結果、顕著な音の違いを生んだのだろう。時間をかけて細部のチューニングを追い込んだSEモデル。新たな価値を獲得した注目機である。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー 192号』からの転載です
4年ぶりのモデルチェンジで基本性能に磨きをかける
Grandiosoを皮切りに、エソテリックの上位コンポーネントにおいてSE仕様へのアップグレードが進行中だ。クロック回路、DACアナログ部のリファインを中心に複数の音質改善策を投入することで、すでに頂点に君臨する製品群の基本性能にさらなる磨きをかけることを狙う。
これまでGrandiosoのP1X、D1X、K1Xの3機種でSEモデルへの移行が完了。それに続く製品として同社はネットワークDACに白羽の矢を立て、N-01XD SEが誕生した。ネットワークプレーヤーとしてはエソテリックのフラグシップに位置する重要な製品であり、N-01XDからのモデルチェンジは4年ぶりとなる。どこまで進化を遂げたのか、興味は尽きない。
ディスクリート設計思想をクロック回路にまで徹底
2019年末にN-01XDが登場したときの技術的なハイライトは、エソテリック独自設計のマスターサウンドディスクリートDACをネットワークプレーヤーに載せたことで、ネットワーク再生だけでなく、同社のディスクプレーヤーやトランスポートとES-LINKで接続し、最先端のディスクリートDACの音を楽しむことにも重要な意味があった。
今回のSEモデルもその点は同じだが、ディスクリート設計の思想をクロック回路にまで徹底し、理想の音にさらに一歩近づいたというのがエソテリックの主張である。
内蔵と外部接続を問わず、従来の同社のクロック回路は汎用のクロックモジュールをベースに高音質化に取り組んでいただが、Grandioso G1Xに載せたディスクリート・クロック回路は、そこからさらに踏み込み、クロックモジュール自体を自社で開発したことに意味があった。安定した振動と理想的な電気物理特性を持つ「エソテリック・SC1クリスタル」と独自開発の温度制御システムを組み合わせ、オーディオ専用のクロック回路として理想の特性を実現していた。
今回N-01XD SEに内蔵したクロック回路はその技術資産を受け継いだデジタルプレーヤー仕様のもので、G1Xに準じる性能が期待できる。クリスタルは長い時間をかけて水晶片を成長させた大型の発振素子を用いているという。
クロック回路のディスクリート化以外にも注目すべき音質改善を導入。ディスクリートDAC後段のアナログ回路に独自のアンプモジュール「IDM-01」を採用したこともその1つだ。IDM-01はGrandioso C1Xに初めて導入したエソテリックオリジナルのモジュールで、N-01XDの開発時にはまだ完成していなかった。高い集積度で信号経路の短縮化が実現できることが利点とされる。
そのほか、デジタルフィルターの定数の見直しでS/N感を改善したり、抵抗やコンデンサーなどパーツの再吟味にも時間をかけたという。N-01XDからSEモデルへのバージョンアップも発表済みなので、前作のオーナーには検討をお薦めする(税込38万5000円)。
微細な情報を精度高く再現し、臨場感が豊かになる
ハイレゾ音源をN-01XDとN-01XD SEで再生し、音の変化を確認する。今回聴いた室内楽の音源では、ヴァイオリンとピアノが互いに相手の音を良く聴きながら呼吸を揃え、スムーズに音を受け渡していることが聴きどころの1つだ。絶妙なタイミングや一瞬で音量を調整する様子はSEモデルだと聴き手が意識しなくても自然に伝わり、目の前で展開する演奏の緊張感も生々しい。微細な情報を精度高く再現しているという印象を受けた。
オーケストラの録音では余韻の動きがいっそう見えやすくなった。手前の弦楽器とステージ後方の金管や打楽器の位置関係を正確に再現する描写力はオリジナルモデルも非常に優秀だが、トゥッティで弾き切ったあとの余韻の減衰はSEモデルの方が最後までニュアンスを失わず、次のフレーズにつながる呼吸のテンポが自然に感じる。僅かな違いではあるが、演奏の高揚感や臨場感を再現するうえで重要な情報を従来以上に正確に再現できるようになった効果は大きい。
女性ヴォーカルは特に伴奏のアーチリュートの発音に明瞭な違いを聴き取ることができた。新旧どちらのプレーヤーもアルペジオの発音が素直でレガートも滑らか。一方、テンポが前に進む流れと推進力、そしてリュートの動きに寄り添って歌うヴォーカルの息遣いの生々しさはSEモデルの方がより強く感じられる。もっと分かりやすく言えば、臨場感がいっそう豊かに伝わるようになるのだ。はじかれた弦の一音一音の立ち上がり、ブレスの息の動きなど、微妙な情報がより鮮やかに聴き取れるようになったことが大きい。
セリア・ネルゴールでは、パーカッションやシンセサイザーなど、リズムセクションの楽器の音色をより鮮やかに再現するのがSEモデルだ。アグレッシブでダイナミックなリズムパートだが、ヴォーカルをマスクすることはなく、音量を上げてもうるさく感じない。耳を刺激する付帯音や強調はほぼ皆無。これはクロック回路の見直しというより、オーディオ回路のチューニングが功を奏しているのかもしれない。
SEモデルは電源部にもメスを入れていると聞く。今回、それらの音質改善策が相乗効果を発揮した結果、顕著な音の違いを生んだのだろう。時間をかけて細部のチューニングを追い込んだSEモデル。新たな価値を獲得した注目機である。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー 192号』からの転載です