公開日 2024/10/18 06:30
新世代KOREシリーズに結実した40年のストーリーを紐解く
デンマークの人気スピーカーブランド「DALI」。ミュージカリティ溢れるサウンドの魅力に迫る
井上千岳
1983年にデンマークにて設立された「DALI」。創業から“Musical Emotion(音楽の豊かな感情)”を設計思想に掲げ、その唯一無二のサウンドに多くの音楽ファンが魅了されてきた。2022年には弩級のスピーカー「KORE」が誕生し、新たなフェーズを迎えている。ここではDALI 40年の軌跡を振り返りながら、その魅力について改めて解説したい。
世界でも有数のスピーカー・ブランドとなったDALI(Danish Audio Loudspeaker Industry)の創設は1983年。ピーター・リンドルフが経営する販売店グループ、ハイファイ・クルーベンのスピーカー部門として発足したのが最初である。
ピーターはほかにも輸入品を取り扱うオーディオノードも主宰していて、それらオーディオ製品と組み合わせて販売するのに適したスピーカーを自社で製造してしまおうというのが当初の意図だったようだ。
もともとデンマークにはスピーカー・メーカーが多い。ドライバー・ユニットの供給元は、ほとんどがデンマークだと言ってもおかしくないほどである。人口約600万の国になぜそれほどスピーカー・メーカーがあるのか、一度ピーターに訊いたことがある。
するとピーターが言うには、デンマークにはエルステッド以来の電磁気学の伝統がある。国内には大学の電磁気学の学部が100以上もあるのだと。
エルステッド以外にもワイヤー・レコーダーの発明者ヴォルデマール・ポールセンや、ダイナミック型スピーカーの開発者ピーター・L・ジェンセンなど、著名な技術者・学者が輩出されている。現在でもスピーカーや補聴器のメーカーが林立して、確かにスピーカーはデンマークの伝統産業なのだと実感させられるのである。
DALIの現CEOであるラース・ウォーレ氏も、「フランスがワインやチーズを作る国であるように、デンマーク人がスピーカーを作るのはとても自然なことなのです」と言っているそうだ。日本人ならさしずめ米ということになるのかもしれない。
DALIはそういう経緯で作られたメーカーなので、例えば当時のBBCモニターのようないわゆるリファレンス・タイプのスピーカーと張り合う気はなかったようだ。むしろもっとリラックスして音楽を楽しむ、ユーザーに寄り添った形でのオーディオというものを念頭に置いていたらしい。
今日でいえばB&Wに代表される“リファレンス”(最先端のサイエンスで音を忠実に再現する)に対して、ミュージカリティ(音を越えて芸術としての音楽表現)がDALIのモットーと言ってよさそうだ。
実際先ほどのハイファイ・クルーベンという販売店はヨーロッパで最もB&Wを販売しているひとつだそうだが、同時にDALIも主要なブランドのひとつとしている。そこは明確に差別化されて、DALIの存在感が確立されているわけである。
この2つの軸を巡る形で、DALIは成長を遂げてきた。その40年間で、エポック・メイキングとなる事柄を振り返ってみたい。
1983年に設立されてからの7 - 8年は、専らデンマーク国内での製品供給に終始していたらしい。しかし1990年代に入る頃から、グローバル化への指向が強まってくる。輸出に特化した専門チームが作られ、技術開発も相次いだ。
この頃にはすでにわが国でも取り扱いが始まっていて、斬新なスタイルのSKYLINEや現在でも現役の2ウェイ型「MENUET」などが輸入されている。さらに巨大なラインソース・システム「MEGALINE」も話題を呼んだ。時代の要請とも言える。
しかし私見ではあるが、DALIが本当にグローバルの存在となったのは、2002年発売の「EUPHONIA」からだったと言っていいように思う。それまでも色々な試みは行われてきたが、いずれも実験的な要素が否めない。しかしEUPHONIAは総力を挙げて作り上げた初のフラッグシップ・モデルで、その後のDALIの基礎技術はここで確立された。
例えばソフトドームとリボン・トゥイーターをユニット化して一体として扱うハイブリッド・トゥイーターがそうだし、樹皮をパルプに混抄したウッドファイバー・コーンもここで開発された。キャビネットはマルチレイヤーの特殊構成であった。現在のDALI製品は、ほとんど本機を源流にしていると考えておそらく間違いではない。
この後20周年記念モデルとして「HELICON」が開発され、また「IKON」や「ZENZOR」などエントリー・クラスも発表された。また中国の寧波に設立された工場は、じきに一大生産拠点として発展を遂げている。
2012年にはもうひとつの基幹技術であるSMCを初めて採用した「EPICON」が登場した。さらにその後2010年代を通じて「RUBICON」「OPTICON」「OBERON」という現在のラインアップが整備されてくるのである。
このようにしてDALIは、ハイブリッド・トゥイーター、ウッドファイバー・コーン、SMCという3つの基幹技術を中心として発展を遂げ、2020年代までに十分な成熟を果たしたと言える。キャビネットに関する技術がこれに加わっていることは言うまでもない。そして創立40周年を翌年に控えた2022年、それまでの集大成として新たなフラグシップKOREが開発された。
ここで詳しく触れる余裕はないがKOREの特徴を要約すると、新設計のリボン・トゥイーターと35mm大口径ドーム・トゥイーターによるEVO-Kハイブリッド・トゥイーター、SMC Gen-2(第2世代SMC)と2個のボイスコイルによるバランスドライブSMC、ウッドファイバー強化ハニカムサンドイッチ振動板によるツイン・バス・ドライバーなど、これまでの基幹技術を磨き上げたドライブ・ユニットがまず挙げられる。
初の7インチ・ミッドレンジドライバーもそうだ。それに高域と低域の基板を分離搭載したネットワークと、特殊形状のバスレフダクトを持つキャビネットで周辺を固めている。「これまで」を最大限にまで高め「これから」を加えることで、次の40年を見据えた技術と音楽性の金字塔がすなわちKOREなのである。
KOREによって確立された新たな方向性が開かれたテクノロジーは、翌2023年に早くも「EPIKORE 11」として結実する。さらに今年、“RUBIKOREシリーズ”が発表されていよいよ新世代への移行が軌道に乗り始めた。KOREテクノロジーが植え付けた新たな芽は、どこへ向かおうとしているのだろうか。
ここ数年のDALIを見ていて感じるのは、テクノロジーへの指向を明確化させてきたということだ。音楽性第一という姿勢に変わりはないが、それを現実化する技術というものをいわば「明文化」していこうという意思が見て取れる。
ただ音がよければいいだろうというのではなく、自分たちが築いてきた技術やノウハウを再度はっきり認識して設計に適用しようとする行き方を強めているように思うのだ。それはほかでもないRUBIKOREシリーズの音にも明らかだが、次の40年、DALIの新たな飛躍に期待する。
1983年:DALI設立
1984年:高価な競合製品に匹敵する性能を、約半分のコストで実現したDALI 2発売
1986年:デンマークのNoragerに本社が建設。超低共振が特徴のDALI 40発売
1990年:評判が高まりグローバル化。輸出に特化した専門チームを設立
1991年:斬新なデザインと最先端の性能を融合させたSKYLINE発売
1992年:今でも世界中で販売されている小型の銘機MENUET発売
1996年:6個のダイポール・リボン・トゥイーターと24個のカスタマイズされたバス/ミッドドライバーの印象的なアレイを特徴としたMEGALINE発売
2002年:ソフトドームとマグネトスタティック・トゥイーターの組み合わせを導入した先駆的なEUPHONIA発売
2005年:国際的な舞台でDALIが大きな躍進を遂げたことになったハイコストパフォーマンスモデルのIKON発売
2007年:中国に独自の品質管理施設を設立
2012年:EPICONシリーズにSMCテクノロジーを導入
2014年:SMCテクノロジーを搭載した上位クラスのRUBICONシリーズ登場
2015年:ミドルクラスOPTICONシリーズにもSMCテクノロジーを搭載
2018年:エントリークラスOBERONシリーズにSMCテクノロジーを搭載
2019年:DALIのサウンドをワイヤレスヘッドホンで実現したIO-4、IO-6発売
2022年:新たなフラグシップKORE発売
2023年:ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンIO-12とKOREの技術を継承したEPIKOREシリーズ発売
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です
スピーカー・メーカーが多く伝統産業と言えるデンマーク
世界でも有数のスピーカー・ブランドとなったDALI(Danish Audio Loudspeaker Industry)の創設は1983年。ピーター・リンドルフが経営する販売店グループ、ハイファイ・クルーベンのスピーカー部門として発足したのが最初である。
ピーターはほかにも輸入品を取り扱うオーディオノードも主宰していて、それらオーディオ製品と組み合わせて販売するのに適したスピーカーを自社で製造してしまおうというのが当初の意図だったようだ。
もともとデンマークにはスピーカー・メーカーが多い。ドライバー・ユニットの供給元は、ほとんどがデンマークだと言ってもおかしくないほどである。人口約600万の国になぜそれほどスピーカー・メーカーがあるのか、一度ピーターに訊いたことがある。
するとピーターが言うには、デンマークにはエルステッド以来の電磁気学の伝統がある。国内には大学の電磁気学の学部が100以上もあるのだと。
エルステッド以外にもワイヤー・レコーダーの発明者ヴォルデマール・ポールセンや、ダイナミック型スピーカーの開発者ピーター・L・ジェンセンなど、著名な技術者・学者が輩出されている。現在でもスピーカーや補聴器のメーカーが林立して、確かにスピーカーはデンマークの伝統産業なのだと実感させられるのである。
DALIの現CEOであるラース・ウォーレ氏も、「フランスがワインやチーズを作る国であるように、デンマーク人がスピーカーを作るのはとても自然なことなのです」と言っているそうだ。日本人ならさしずめ米ということになるのかもしれない。
リラックスして音楽を楽しむユーザーに寄り添うスピーカー
DALIはそういう経緯で作られたメーカーなので、例えば当時のBBCモニターのようないわゆるリファレンス・タイプのスピーカーと張り合う気はなかったようだ。むしろもっとリラックスして音楽を楽しむ、ユーザーに寄り添った形でのオーディオというものを念頭に置いていたらしい。
今日でいえばB&Wに代表される“リファレンス”(最先端のサイエンスで音を忠実に再現する)に対して、ミュージカリティ(音を越えて芸術としての音楽表現)がDALIのモットーと言ってよさそうだ。
実際先ほどのハイファイ・クルーベンという販売店はヨーロッパで最もB&Wを販売しているひとつだそうだが、同時にDALIも主要なブランドのひとつとしている。そこは明確に差別化されて、DALIの存在感が確立されているわけである。
この2つの軸を巡る形で、DALIは成長を遂げてきた。その40年間で、エポック・メイキングとなる事柄を振り返ってみたい。
3つの基幹技術を中心に発展して2020年代に成熟を果たす
1983年に設立されてからの7 - 8年は、専らデンマーク国内での製品供給に終始していたらしい。しかし1990年代に入る頃から、グローバル化への指向が強まってくる。輸出に特化した専門チームが作られ、技術開発も相次いだ。
この頃にはすでにわが国でも取り扱いが始まっていて、斬新なスタイルのSKYLINEや現在でも現役の2ウェイ型「MENUET」などが輸入されている。さらに巨大なラインソース・システム「MEGALINE」も話題を呼んだ。時代の要請とも言える。
しかし私見ではあるが、DALIが本当にグローバルの存在となったのは、2002年発売の「EUPHONIA」からだったと言っていいように思う。それまでも色々な試みは行われてきたが、いずれも実験的な要素が否めない。しかしEUPHONIAは総力を挙げて作り上げた初のフラッグシップ・モデルで、その後のDALIの基礎技術はここで確立された。
例えばソフトドームとリボン・トゥイーターをユニット化して一体として扱うハイブリッド・トゥイーターがそうだし、樹皮をパルプに混抄したウッドファイバー・コーンもここで開発された。キャビネットはマルチレイヤーの特殊構成であった。現在のDALI製品は、ほとんど本機を源流にしていると考えておそらく間違いではない。
この後20周年記念モデルとして「HELICON」が開発され、また「IKON」や「ZENZOR」などエントリー・クラスも発表された。また中国の寧波に設立された工場は、じきに一大生産拠点として発展を遂げている。
2012年にはもうひとつの基幹技術であるSMCを初めて採用した「EPICON」が登場した。さらにその後2010年代を通じて「RUBICON」「OPTICON」「OBERON」という現在のラインアップが整備されてくるのである。
このようにしてDALIは、ハイブリッド・トゥイーター、ウッドファイバー・コーン、SMCという3つの基幹技術を中心として発展を遂げ、2020年代までに十分な成熟を果たしたと言える。キャビネットに関する技術がこれに加わっていることは言うまでもない。そして創立40周年を翌年に控えた2022年、それまでの集大成として新たなフラグシップKOREが開発された。
次の40年を見据えた技術と音楽性によるKORE登場
ここで詳しく触れる余裕はないがKOREの特徴を要約すると、新設計のリボン・トゥイーターと35mm大口径ドーム・トゥイーターによるEVO-Kハイブリッド・トゥイーター、SMC Gen-2(第2世代SMC)と2個のボイスコイルによるバランスドライブSMC、ウッドファイバー強化ハニカムサンドイッチ振動板によるツイン・バス・ドライバーなど、これまでの基幹技術を磨き上げたドライブ・ユニットがまず挙げられる。
初の7インチ・ミッドレンジドライバーもそうだ。それに高域と低域の基板を分離搭載したネットワークと、特殊形状のバスレフダクトを持つキャビネットで周辺を固めている。「これまで」を最大限にまで高め「これから」を加えることで、次の40年を見据えた技術と音楽性の金字塔がすなわちKOREなのである。
KOREによって確立された新たな方向性が開かれたテクノロジーは、翌2023年に早くも「EPIKORE 11」として結実する。さらに今年、“RUBIKOREシリーズ”が発表されていよいよ新世代への移行が軌道に乗り始めた。KOREテクノロジーが植え付けた新たな芽は、どこへ向かおうとしているのだろうか。
ここ数年のDALIを見ていて感じるのは、テクノロジーへの指向を明確化させてきたということだ。音楽性第一という姿勢に変わりはないが、それを現実化する技術というものをいわば「明文化」していこうという意思が見て取れる。
ただ音がよければいいだろうというのではなく、自分たちが築いてきた技術やノウハウを再度はっきり認識して設計に適用しようとする行き方を強めているように思うのだ。それはほかでもないRUBIKOREシリーズの音にも明らかだが、次の40年、DALIの新たな飛躍に期待する。
DALI 40年の軌跡
1983年:DALI設立
1984年:高価な競合製品に匹敵する性能を、約半分のコストで実現したDALI 2発売
1986年:デンマークのNoragerに本社が建設。超低共振が特徴のDALI 40発売
1990年:評判が高まりグローバル化。輸出に特化した専門チームを設立
1991年:斬新なデザインと最先端の性能を融合させたSKYLINE発売
1992年:今でも世界中で販売されている小型の銘機MENUET発売
1996年:6個のダイポール・リボン・トゥイーターと24個のカスタマイズされたバス/ミッドドライバーの印象的なアレイを特徴としたMEGALINE発売
2002年:ソフトドームとマグネトスタティック・トゥイーターの組み合わせを導入した先駆的なEUPHONIA発売
2005年:国際的な舞台でDALIが大きな躍進を遂げたことになったハイコストパフォーマンスモデルのIKON発売
2007年:中国に独自の品質管理施設を設立
2012年:EPICONシリーズにSMCテクノロジーを導入
2014年:SMCテクノロジーを搭載した上位クラスのRUBICONシリーズ登場
2015年:ミドルクラスOPTICONシリーズにもSMCテクノロジーを搭載
2018年:エントリークラスOBERONシリーズにSMCテクノロジーを搭載
2019年:DALIのサウンドをワイヤレスヘッドホンで実現したIO-4、IO-6発売
2022年:新たなフラグシップKORE発売
2023年:ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホンIO-12とKOREの技術を継承したEPIKOREシリーズ発売
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です