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3D対応だけでなく2Dでの高画質化もポテンシャル高し

ソニー“BRAVA”「HX900/800」高画質化のポイントは? - 同社キーマンに折原氏が直撃!

公開日 2010/04/30 10:00 折原一也
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2010年の薄型テレビ業界では”3D”と同時に”LEDバックライト”の採用が急激に進み2Dの高画質化も進んでいる。今年の春夏モデルにおけるソニー液晶テレビ“BRAVIA”新ラインナップは、最上位の「HX900シリーズ」はもちろん「HX800シリーズ」、「LX800シリーズ」を始めとする主要モデルのすべてでLEDバックライトを採用している。

HX900シリーズ

HX800シリーズ

さらに、「HX900シリーズ」は直下型のエリア駆動、「HX800シリーズ」はエッジライトでエリア駆動を採用。まさにLEDバックライト一色といった様相だ。

かつては“トリルミナス”の名称で2004年にLEDバックライトを採用、2008年にはRGB-LEDのBRAVIA「XR1」を発売したソニー。同社はLEDによって2D映像の高画質化にどのように臨んでいるのか。画質面でのフラグシップに位置づけられる「HX900シリーズ」を中心に、画質の設計を担当する同社ホームエンタテインメント事業本部 第1事業部 シャーシ設計部 設計2課 エンジニアリングマネジャーの徳倉康之氏への取材を敢行した。

ソニー(株)コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ ホームエンタテインメント事業本部 第1事業部 シャーシ設計部 設計2課 エンジニアリングマネジャー 徳倉康之氏

製品とともに立つ徳倉氏

■HX900ではXR1を上回る黒輝度を実現

BRAVIAの2010年ラインナップにおける大きなトピックのひとつに、1年ぶりのエリア駆動対応LEDバックライト機「HX900シリーズ」の登場が挙げられる。同製品は「2008年末に発売した、XR1以上の黒輝度を再現できるようにと開発しました」と徳倉氏が語る自信作だ。

XR1シリーズ

LEDバックライト以前のCCFL方式は、蛍光ランプの特性によって黒方向の階調が限られてしまうという制限があった。一方、LEDバックライトでは、直下型、エッジ型を問わずコントラストを広げられるというメリットがある。こうした背景もあり、ソニーはXR1にLEDバックライトを採用したと見られるが、今回のHX900ではXR1のそれをさらに推し進めている。

XR1よりもHX900が画質で上回る理由の一つには、新たに白色LEDの採用があったという。

徳倉氏は「XR1では、RGBのLEDを採用し自動的にホワイトバランスの補正をかけていたため、補正用に種火となる光が必要でした。このために全黒の再現が難しかったのです」とコメント。これに対して、HX900は白色LEDとなったことで画質調整用の種火が必要なくなり、エリア駆動に光の制御によりほぼ全黒までの消灯を可能とした。結果としてHX900はXR1を上回るほどの黒色の深度に到達できるようになったのだ。

他にも「黒色に他の色がはいると、色が濁ってしまいます。しかし、白色LEDの採用で黒の表現力が増したことにより、HX800は暗所まで同じ色でキレイなグラデーションを出せます」と、徳倉氏は白色LEDによる強みもコメント。より低輝度の色再現性を向上させていることを説明する。なお、新モデルでは信号処理により白色LEDの特性に合わせた高画質チューニングを行っているという。

HX900でのLEDバックライトには白色LEDとともに新技術「インテリジェントダイナミックLEDバッラクライト」を採用

そして、BRAVIAによるLEDバックライトエリア制御の高画質化ポイントとして、LED制御の細かさも挙げられる。なお、この点に関しては画面内の分割数ではなく、LED一つひとつに対して行う明るさ制御も重視しているという。

バックライトに用いるデバイスとしてのLED自体は明るさを無段階に作れるものだが、実際に表示される階調は信号処理に依存している。「具体的な信号処理の段階数は非公表」(徳倉氏)とのことだが、キメ細かな階調制御により低輝度の階調を従来以上正確に作り出せるという。

■エリア駆動の“副作用”にもキッチリ対処

さて、バックライトのエリア駆動については、そのメリットの反面で“副作用”を心配する声も一部にあった。単純に映像に合わせてバックライトを調整すると一画面内でガンマの異なる映像が混在することになり、映像は破綻するのではないかという疑問である。

この点について徳倉氏は「LEDエリア駆動をすると、副作用として破綻が発生するというのは一般論として確かに存在します。BRAVIAでは入力する信号解析を行い、シーンシーンで信号処理を加える仕組みで処理して破綻を避けるようにしています」と説明する。

具体的には、バックライトからの余分な漏れ光を防ぐ方法として液晶のシャッターを映像に連動した開閉。LEDバックライトと合わせた調整により光の強さを調整する。

この時の明暗が、先に挙げた「ガンマが合わない」という疑問に繋がっていたのだが、バックライトの光としてのレベルを保ったままに液晶側で調整を行うことで階調を整えられるというロジックにより、1ヶ所の階調が不自然になることを避ける仕組みだ。これにより、画質の調整を施しているのだ。

取材中の様子

そして、HX900のLEDバックライト採用による強みは他にもある。従来からソニーの4倍速駆動技術の目玉となっていた“モーションフロー240Hz”も進化させた点だ。

HX900シリーズでは、240Hz駆動に、直下型の強みを活かしたラインブリンキングも同時に行い液晶のホールド感を下げている。ご存知の通り液晶は全面同時に書き換えるのではなく、上のラインから順次下に向かって映像書き換えを行うのだ。液晶の応答タイミングと合わせて、液晶素子の移動する直前を消すラインブリンキングも直下型LEDバックライトのもたらす2D画質向上ポイントとして注目したい。

「モーションフロープロ240Hz」でのラインブリンキングの表示イメージ

■“3D対応機”としてばかりでなく“高画質2Dモデル”としてもポテンシャル高し

春のBRAVIAラインナップでは、ハイエンドモデルのHX900シリーズのみならず、HX800シリーズにもエリア制御を採用する。

HX800シリーズのエリア駆動はエッジライトによるもので、HX900の直下型によるエリア制御と比較して分割数は当然少なくなる。筆者が見た限りでは、上下2分割に加えて左右の分割数もさほど多い数ではないように思えたが、明暗差の大きい映像に対する絶大なクオリティアップをもたらすエリア駆動をミドルレンジのHX800にまで導入してきたインパクトは強力だ。

また、HX800には同社独自の制御技術として、ブロックを光らせた際にバックライト側と信号側の両方に補正をかけ、光として正しい線形になるような技術を盛り込んでいる。分割数がHX900より荒くなっている分、エリア駆動そのものに信号の状況、ソースの状況を解析により効果的な映像処理を組み合わせることで弱点をカバーする方式を取り入れているわけだ。

以前、試作機によるデモ映像を視聴する機会があったが、フラグシップであるHX900には及ばないものの、画面の最大輝度を向上させる明るさ方向で、上記制御技術の効果を特に大きく感じた。HX800のライバルに相当する製品はエリア駆動に対応しないものが多いだけに、同製品には、同価格帯のなかでの画質重視モデルとしての期待も高まる。

ソニーBRAVIAラインナップのなかでも1年半もの異例の長さで頂点に君臨してきたXR1の後継に位置づけられるHX900シリーズと、ミドルレンジモデルにエリア駆動を導入したHX800シリーズ。“3Dレディ”モデルとしてばかり注目が集まっているが、2Dモデルとしても久々に画質に期待できるモデルだと言える。発売は両機種ともに7月発売予定と少し先になるが、クオリティ重視で液晶テレビを選ぶユーザーは期待して待ってみるのも良さそうだ。


執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。

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