最新モデルが遂げた「3つの進化」のポイント
目指したのは3D時代のサラウンドヘッドホン ー ソニー「MDR-DS7500」開発者インタビュー
━ ヘッドホンとしての使い心地やデザインの面で特徴となる点を教えてください。
角田氏:ヘッドホンについては一から新規設計しています。低反撥イヤークッションを採用したことで、3Dテレビなどで視聴する際に、3Dメガネを装着した状態でも頭部を優しく包み込むような装着感が得られます。このイヤークッションは、外観のラグジュアリーで高品位な質感と、快適な装着感を両立させただけでなく、遮音性を高めたことで濃厚な低音を逃さず楽しめ、臨場感のあるサラウンド再生を味わうことができます。
ヘッドホンの構造は重低音再生に特長を持たせたソニーのヘッドホン“XBシリーズ”の開発から得たノウハウも多くつぎ込みました。ドライバーのユニット自体の開発、ドライバーと耳との間の距離検討手法などに成果が活かされています。
━ HDMI対応になったことで、ハイレゾ再生対応のAVアンプなどに接続してピュアオーディオ再生も楽しめそうですね。
角田氏:そうですね。「MDR-DS7500」では全体的なクオリティが底上げされているので、ピュアオーディオ的に楽しんでいただく際の音楽体験も格段に良くなるものと思います。今回のモデルでは、音の良い映画館の音場を再現することと、良質なゲームサラウンドの音場を正確に再現することを目標に開発してきましたが、オーディオのリファレンスとしても楽しめるサラウンドヘッドホンというカテゴリについては、これからさらに検証を重ねながら磨きをかけて行きたいと考えています。
インタビューの際にはデモ用として特別に用意された、フロントハイトの音声をディスクリート収録した『ソルト』を使って視聴を行った。教会での戦闘シーンでパイプオルガンが壊れる場面の音声は、天井の方からガレキが崩れ落ちてくる迫力がしっかりと伝わってくる。ヘッドホンながらに、この高さ方向の表現力を備えている点は見事だと感じた。
自宅の視聴室では市販のBDソフト『エンジェルウォーズ』、ゲームソフトの『デッドスペース2』などを使って試聴した。再生機にはPS3を使用した。
『エンジェルウォーズ』のBDは5.1ch DTS-HD Master Audioで収録されているが、「MDR-DS7500」で聴くサラウンドは迫力十分。Dolby Prologic IIzの効果についても検証してみたが、サラウンド感の手応えは良好だった。DVDを再生してみても、従来と違った感覚のサラウンドで楽しめて面白いかもしれない。
ゲームでの効果は絶大だった。テストした『デッドスペース2』はサードパーソン・シューティング形式のホラーゲームで、サウンドによる恐怖感のエフェクトが随所に盛り込まれている。筆者はこれまでテレビのスピーカーだけで楽しんでいたのだが、「MDR-DS7500」でテストしてみたところ、何度もクリアしているタイトルにもかかわらず、そのサウンドの迫力がけた違いで、再度飽きずにプレイできた。キャラクターの視点にあわせて音場がリアルに変化するので、場面展開の内容を知っているにもかかわらず、何度もビビってしまった。サラウンド音声のクオリティ次第で、ゲームの楽しさが何倍にも高まるサードパーソン・シューティングをプレイするなら、ぜひ「MDR-DS7500」で体験してみることをおすすめしたい。
全体的な音質は「MDR-DS7100」と比べると格段に向上していることを実感できた。サウンドがイマイチなシネコンで映画を観るよりも、大画面テレビと本機の組み合わせの方が数段楽しめると筆者は思う。ロスレスオーディオに対応したことで、従来機に比べて効果音がより生々しくなったことにも驚かされる。ただ、あまりにも効果音に存在感がありすぎて、映像に集中できない場面もあった。何というか、画面に対して音が派手すぎるのだ。例えるならテレビの「ダイナミックモード」で映画を鑑賞する感覚に近いと言えばイメージしていただけるだろうか。再生能力が高すぎるが故に、エフェクト音声だけを聞いているような錯覚すら覚えた。本機の音声エフェクトにはSPEとのコラボレーションにより、映画製作用ダビングシアターの測定データを解析、ソニー独自のVPTとの組み合わせによる“理想的な映画館の音場”を再現したという「新シネマモード」のほか、2chステレオ環境で人の声を聞き取りやすくする「ボイスモード」、SCEのサウンドデザイナー監修による「ゲームモード」が搭載されているが、できれば次期モデルでは、現状のモードはそのままに、効果音の表現を少しマイルドにした「スタンダードモード」的な設定も加えてもらいたい。
ヘッドホンとしての装着感はとても良く、長時間使っても耳が痛くなることはないだろう。使い勝手の面では本体のエフェクトボタンで音場を切換えられるのだが、別筐体のプロセッサーの表示を見ないと、現在どのモードにいるのかわからなくなることがあった。
本体に様々な操作系のボタンが配置されており、右側ハウジングにインプットボタン(入力切換え)とエフェクトボタン、左側にプロッセッサーの電源ボタンがレイアウトされている。実際に使ってみたところ、どちらも似た形状のボタンなので、慣れるまではエフェクトボタンを押したつもりが、プロセッサーの電源ボタンを押してしまい、大切なシーンで音がでなくなって焦ることがあった。初めて本機を使う人は、同じようなハンドリングミスをしてしまう可能性もあると思われるので、できれば電源スイッチ系は操作を意識できるスライドスイッチか、他のボタンとは全く違う場所に配置するなどしても良かったと筆者は感じた。
ワイヤレスサラウンドヘッドホンは深夜でも迫力のある音声が楽しめることからも、非常に便利なアイテムだと思うが、カテゴリ的にもっと盛り上がっても良いように感じる。日本の住宅事情の制約を踏まえながらも、家庭で気軽にサラウンドが楽しめる頼もしいホームシアター機器である。今回レポートした「MDR-DS7500」の進化には確かな手応えを感じた。本機がホームシアターサラウンドの新たなユーザー層を拡大してくれるアイテムになることを期待したい。
(レポート/鈴木桂水)