スペシャルインタビュー<前編>
動画配信時代を担う高音質技術「DTS Express」− 2012年のDTS新思想に山之内正が迫る
藤崎 ネットワーク環境は国・地域によって様々に異なりますので、各所の環境を考慮しなくてはいけません。DTSの音声技術の中には、「DTS Express」というコーデックがあります。当社では以前から持っているコーデック技術ではありますが、ブルーレイメディアではその特性を充分に活かせていませんでした。
この「DTS Express」は、音質をある程度キープしたままバンド幅に合わせたビットレートで音声情報を送ることができる技術です。もちろんロスレスではないので多少の音質劣化はありますが、突然バンド幅が狭くなったときでも、聴いている方が違和感を感じないようにビットレートを自然な状態に下げて音声を送ることが可能です。
山之内 これはユーザー側が選択するわけではなく、自動で変わるのでしょうか。
伊藤 はい。ユーザー側で何か設定や操作するものではありません。ユーザーの側で「ストリームにあわせてビットレートが変わっている」ということを意識する必要はないと思います。私たちは“Fit to stream”というキーワードで呼んでいます。
山之内 コンテンツの視聴中に途中で止まってしまうことがなく、聴いている側にストレスを感じさせないことは重要だと思います。技術的にはどういったことをしているのでしょうか。
藤崎 ビットレートを下げるとき、人間の耳が気がつきにくい部分から音声情報を落としています。さらにマルチチャンネルにも対応していますので、ステレオだけでなくサラウンドにも対応できます。
山之内 5.1ch音声の場合、レートはどれくらい軽くなるんですか?
藤崎 256kbpsです。
山之内 随分軽くなりますね。音質面に心配はないのですか?
藤崎 もちろんロスレスではないので多少のロスはありますが、ロッシーの中では比較的良い音を確保しています。
山之内 映像コンテンツを楽しむときに、“音声”は非常に重要なファクターです。しかし現状として、日本のVODなどは音声がステレオで、まだまだ高音質であるとはいえません。しかし、この「DTS Express」によって日本の配信コンテンツシーンが変わる可能性がありますね。
藤崎 はい。変わるであろうと感じていますし、また、私たちが変えていく責任を担っていると思います。
山之内 米国では、既にマルチチャンネルでの配信サービスが一部で始まっています。CES会場ではこの「DTS Exress」はデモを実施されましたか。
伊藤 DTSのブースではデモ環境をご用意できませんでしたが、当社も参画している「UltraViolet」のブースで開催された記者会見でも「DTS Express」のご紹介を頂きました。
山之内 UltraVioletの規格は今後伸びていくと思われますか?
伊藤 日本では著作権の考え方が他国と違う部分もありますので、北米と日本で展開の仕方が変わってくるものと思っています。北米に関しては、昨年の全米Blu-ray販売ランキングで1位を獲得したBDソフト『ハリー・ポッター』の購入者の中から、既に何十万人という方がUltraVioletに投稿されたという話も出ていますし、ハードが出揃っていない状態でも、コンテンツ側が積極的な動きを見せているというのは面白い兆候なのではないかと思います。
山之内 確かにそうですね。ユーザーの立場から考えると、タブレットやスマートフォンで映像コンテンツを視聴したいというニーズは確実にあると思います。
伊藤 はい。“コンテンツを購入している”ということを考えれば、“それをどのデバイスで視聴するか”についてはあくまでもユーザー側に委ねられる時代が近いと思いますし、そういう環境が徐々に整いつつあると思います。
山之内 今年のCESで発表されていた各メーカーのタブレット端末には、画質の向上あるいは液晶サイズを大きくするなど、“コンテンツを高画質に楽しめる”というクオリティ面でのアドバンテージを謳っているものもありました。様々な種類の端末で、コンテンツをシームレスに楽しむための1つのカギは、デバイス間に“違和感を持たせないこと”だと思います。リビングのテレビでは良いが、自室のPCやタブレットだとあまり楽しめないということでは意味がありません。
藤崎 そうですね。私たちDTSは“音質面での違和感の改善”に寄与するPCやスマートフォン/タブレット向けの音質向上技術も開発しており、現在アジアを中心に採用が進んでいます。
<インタビュー後編「薄型テレビやスマホへ拡充するDTSのポスプロ技術」へ続く>
< 山之内 正 プロフィール >
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。
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