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昨年1月17日の演奏会をライブ録音

佐渡 裕氏特別インタビュー:復興への祈りを込めた《ローマ三部作》、ハイレゾ配信開始

公開日 2015/01/09 13:55 山之内 正
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推進力の強さに圧倒された1月17日の演奏

《ローマ三部作》の演奏からは、ひとりひとりの演奏家がどんな音を目指しているのか、はっきり伝わってくるという印象を受けた。独奏楽器だけでなく、全てのパートから力強い音が湧き上がり、推進力の強さにも圧倒された。PACオケのそうした個性はどこから生まれるのだろうか。

2014年1月17日のコンサートの様子。写真左右の上の方で吹いているのが「バンダ」(C)飯島隆

「全員、いい音楽家になりたいという思いがすごく強いんです。将来への憧れの一方で、いまはまだ音楽家としての生活は見えていない。ソリストなのか、室内楽なのか、オケに就職するのか、いまはまだ分かりません。でも音楽家人生への思いが一番強い世代であることは間違いありません。

オーケストラ活動のなかで、幻滅することや人間関係に悩むこともあるでしょう。音楽はとても人間くさいものなので、簡単にへこんだり、つぶれたりする。でも、そこでうまくいくと、力強く新鮮な音、ピュアな音が生まれ、力強く音楽に向き合えるんだと思います。

今回の《ローマ三部作》では4日間みっちり練習した成果も大きいですね。今回1月17日にこの演奏会を向けて、オーケストラが本当に力強く、しかも美しさや静けさも含めて野性味がある音楽を作り出すことに意味があるんです。もちろん多くの犠牲者に手を合わせてレクイエムやG線上のアリアを演奏することも忘れてはいけないんだけど、今日の演奏会のように、人間が生きていることを伝え、人間だからこんなに創造的なものが作れるんだ、ということを伝えることも重要なんです。

そのメッセージを復興を達成した人たちに贈り、多くの犠牲者に誓う。オーケストラや芝居で、ますますこの街が力強く生きていくことを誓う日になるでしょう。そして、今回のプログラムを《ローマの松》で終えたのは東北へのメッセージでもあります。この曲をどうして最後にやるのか、オーケストラのメンバーにも話しました。

いろいろな環境で音楽を学んできたメンバーが集まっていることにも重要な意味があります。お客さんも含めてそもそも全員が違う人生を歩んで来て、環境も違う。そこから音楽を作っていくことが僕流のやり方です。だから、こうしてはいけないとか、こうやりなさいとかは、ほとんど言わない。お互いに音を聴き合うのは大事だけど、ブライアンがホルンを吹いているとか、紗衣ちゃんがクラリネットを吹いているとか、個が見えてくるオーケストラが面白いと思っているんですよ。」


《ローマ三部作》はオーケストラの編成が大きく、多数のパーカッションやピアノ、チェレスタ、オルガンも入っている。さらに舞台とは別の場所で演奏するトランペットなど(バンダ)も加わり、色彩の豊かさと全奏部分の音圧の大きさは半端ではない。兵庫県立芸術センターの大ホールは2,000席を擁する大きな空間だが、そのサイズのホールとしてはどの客席からもステージが近く感じる。それだけ近いにも関わらず、フォルテシモでも響きが飽和せず、ハーモニーと音色を確保していることに強い印象を受けた。

このスケールの大きな演奏をDSDで収録

その広大なダイナミックレンジとレスピーギの巧みなオーケストレーションが生む精妙な音色をどう伝えるか、録音の腕の見せどころである。今回はオクタヴィアレコードのチームが録音に取り組んでおり、大編成のオーケストラをDSDで収録。DSDやPCMのハイレゾ音源で聴くと、レンジの広さや音色の美しさを忠実に再現してくれるに違いない。

レコーディングルームの様子。録音作業を行ったのはオクタヴィアレコードの村松健さん(前)と小野啓二さん(後ろ)

最上段からバックアップ用のレコーダーTASCAM X-48、その下がヘッドアンプMillennia HV-3D×3台、AD/DAコンバーターMytek Digital 8×192 ADDA(DSD option)と、Prism Sound ADA-8XR×2台


メインとは別に弦楽器の真ん中、弦の前、木管全体を狙ったマイク。あとはピックアップ用に必要に応じてスポットマイクを使用

左がメインマイクB&K4006。低めのセッティング。右は弦楽器用のマイク(撮影ポイントの関係で近距離に見えるが、実際はかなり手前にある)
兵庫県立芸術文化センター大ホールの音響について佐渡さんが語るエピソードはとても興味深い。

「オーケストラがとてもよく鳴るホールですね。よく鳴るというのは力があるということですが、最初は今ほどバランスが良くなく、尖ったところもあったんです。それが時間とともに尖ったものが丸くなり、デコボコだったものがつながってきました。しかも全体の輪郭は小さくならない。そんなホールの特性を考えながら、今回はバンダの配置を考えました。」

日本を代表する指揮者が特別な思いを込めて取り組んだ《ローマ三部作》、演奏の現場で生まれた創造的なメッセージを、最高水準の音で体験する日は近い。


〈本記事は「Net Audio vol.14」(2014年7月発売)に掲載されたものを元にしています〉

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