古代祐三×ストレイテナー×日向悠二 インタビュー
『世界樹の迷宮』の音楽について作曲家と大ファンとイラストレーターに聞いてみたらめちゃくちゃ濃かった
『世界樹の迷宮』の音楽はどんな流れで生まれたのか |
−−『世界樹の迷宮』の時代にまでくると、作業環境としてはもう十分なものになっているのではと思いますが、なぜむしろ逆行してFM音源だったのでしょうか?
先程もお話したとおり、T〜VまではFM音源をサンプリングして作ったんですが、なぜそうしたかと言いますと、Tを作られたディレクターの方が、作品が出る2007年当時のシンセサイザーの音がシックリ来なかったみたいで。作品のコンセプトが昔ながらの3DダンジョンゲームをDSに復活させるということもあって、じゃあ昔のFM音源で作ってみましょうか、ということになったんですね。それが私を起用することにもつながったスペシャルな部分でもあり、FM音源を採用したきっかけですね。
−−古代さんはFM音源の雄ですからね。その流れは完全に納得できます。
それからUとVは、音色を増やしたりと段々リッチになってはいますが、続編ということもあって、FM音源という根本は変わりませんでした。それで、Wからはプラットフォームがニンテンドー3DSになるんです。それにあたって、Wのディレクターの方から、画面も全部3Dポリゴンになるし、背景やキャラクターグラフィックも綺麗になるし、音楽も別のインパクトが欲しい、というお話があったんです。それだったら今度は生演奏でやってみましょうか、という案がすんなり通って、以降は外伝なども含めてずっと生演奏の音楽となっていますね。
−−VとWでの音楽の違いは大きなものがあると思いますが、大山さんはプレイしたらやはり気付かれましたか?
何を言ってるんですか、全然違うものじゃないですか!
「あー、こうきたんだ!」という嬉しさがありますし、Wの戦闘曲って、ギターがギュインギュインくるんですけど、上手いんですよ(笑)。何者なんだろうな、と思いながらプレイしていました(笑)。スタジオミュージシャンの方なんですか?
そうですね、プログレとか変則的なプレイが得意な方です。
めちゃめちゃ上手いんですよ・・・。
−−その印象的なギターのメロディラインなども、古代さんが考えるんですか?
書き譜の場合と、デモとコード譜だけで後はプレーヤーの方に完全に任せる場合と、2通りです。プレーヤーさんによってタイプが違って、書き譜の方が良いという人もいれば、コード譜だけの方がやりやすい、という人もいますので、都度コミュニケーションを取って指示していく形です。
−−レコーディングとなると、打ち込みでの音楽製作の現場とは随分違いがあるのでは?
もちろん楽器はやっているので、楽器を弾くというのがどういうことか、ということは分かるんですけど、私はずっと打ち込み一本でやってきましたから、レコーディング・スタジオでレコーディングをしていくというプロセスは経験がなくて、最初は全然勝手が分からなかったんです。Wの時に、日比野則彦さん(メタルギアシリーズなどを手がける作曲家)にお願いしてディレクションをやっていただくことになったんですけど、そこで色々と学ばせていただいて、レコーディングのプロセスが分かるようになりました。Wの次に出た『新・世界樹の迷宮』は日比野さん、『新・世界樹の迷宮2』から半々で、Vは完全に私が仕切ってやっています。
−−サントラのブックレットによると、『新・世界樹の迷宮2』の次に出た『世界樹と不思議のダンジョン』は、2013年にオープンされた古代さんの個人スタジオでほぼ全てレコーディングしているんですよね。
そうなんです、この作品で初めて一人でディレクションしているんですが、本当に大変でした(笑)。プレーヤーさんの限界とかテンションが、まったく分からないんですよ。それで、どういう風に指示を出していいのかつかめなくて。しかも機材のトラブルとかも気にしながらやっていて、頭が真っ白になっていた覚えがあります(笑)。プレーヤーさんはしっかりやってくださっているのに、指示を出す方がしっかりしてないから、自分でも情けなくなっちゃって・・・。
−−ちなみに、大山さんはストレイテナーでのレコーディングの場合、ディレクションを受けたりするんですか?
僕のバンドの場合は、ボーカルのホリエ君(ホリエアツシ)が弾き語り状態で曲を書いてきて、そこにバンドが乗っかっていく、という作曲の仕方なんです。「ここは悲しい感じでください」とかちょっとはあるんですが、基本は任せてくれるので、ほとんどディレクションといったものはないですね。ホリエ君と僕でギターが2本なんですが、大したディスカッションもなくなんとなく音が分かれていって、結果いつのまにか自然と出来ていくんです。とにかくバンドで何度もセッションして、頭の中に作り上げてからスタジオに入って個別にレコーディングする、という感じなんですね。それが、最終的な僕らの音になっています。
なるほど・・・! 私がバンドの方々とかのサウンドを聴いて、何が一番自分の音楽において難しいのかを考えると、一体感なんですよね。 皆が「いっせーの」で合わせるグルーブ感を出すのは、限られた予算、イコール時間の中でやっていくこういうプロダクションだと容易ではないですね。 その都度メンバーが違うこともありますし。。
チーム感というんですかね。例えば、「この曲だとこいつは絶対ここがズレる」というのをメンバーだけが理解している。「こうズレるでしょ」って全員が一斉に乗っかれる。打ち込みだと絶対にズレないけど、バンドだと“ズレに合わせる”ということになるので、それが気持ち良く聴こえたり、というのはあると思いますね。
そこは本当に、羨ましいです(笑)。それが出た時って、凄く嬉しんですよ! 計算出来ない気持ち良さというか。ただ、生演奏を録り始めて4年経ったVでは、これまで一緒にやってきたメンバーとの連携や、自分の経験もあって、一体感がよく出ていると思います。言うならば、それが今までで一番追求できた作品でもありますね。
−−そうして録音された音がゲームやサントラで楽しめるわけですが、これもプラットフォームに合わせた違いがあるんですよね。
はい。Wからは、例えばテープレコーダーと同じでレコーディングしたものを再生しているんですが、Vまではいわゆる内蔵音源となります。これはプラットフォームのメモリの制約上、録りっぱなしを流すということができないためですね。ニンテンドーDSのなかにシンセサイザーが一台あって、プログラムで一音一音それを鳴らして音楽にしているようなイメージです。サントラも、FM音源バージョンのほかに入っているものは、ゲームと同じ音源になります。
−−でも製作された時点では、言ってしまえばもっと音が良いものが出来ているのでは?
そうですね。でも、今の方はそうでもないかもしれませんが、昔からのゲームファンって、ゲームと同じ音がしないとダメなんですよ。ちょっとでも手を加えていると、「違う!」って怒られちゃうんです(笑)。ゲームをプレイしている時の気持ちをまた体感したいから、自分の体験と違うと許せない、ということなんですね。CDスペックより音質が落ちていても、その音をそのまま出すことを求められているんです。
その場合、マスタリング作業的にはどうなるんですか? コンプで抑えるとか?
そうですね、そうしたレベル調整に留めます。でもコンプを過剰にかけるとまた音が変わってしまうので・・・。
また怒られちゃう(笑)
そうなんです(笑) だからなるべくナチュラルなものになるよう作業しています。
−−Wのサントラからはゲーム音源ではなくなりましたが、それに合わせてなにか特別なことをされたりは?
いえ、普通のバンド録音と変わらないと思いますよ。プロトゥールスを使って、マルチトラック録音をして。フォーマットは48kHz/24bitで録っていて、Vからは96kHz/24bitになりました。でも、48kHz/24bitの音源があるので聴いてみたら、やっぱり音が全然良いんですよね。そういうのも、ゆくゆくはリリース出来たらと思っています。
−−CDだと、どうしても制作環境時よりスペック的には落とす必要がありますからね。でもCDは16bitですが、前からビット深度は24bitだったんですね。
折角の生演奏なので、勿体ないんですよね。やっぱり24bitだとレンジが全然違います、最後にリミッティングする時も結果が変わってきますし。まぁ、業界標準的に暗黙の了解として48kHz/24bitで、という時代が長い間続いていたんですよ。ただ、将来的なことというのも自分の頭の中にはあって、可能な限り良い音で、というのは考えていました。
−−大山さんとしては、ゲームに限らず音質という面についてはどうお考えですか?
そうですね…。ミックス作業するスタジオだと、とても良いスピーカーがあるし、マスタリングもすごいシステムで行います。けど、最終的にはラジカセのようなものでミックスを聴いてみて、そこでカッコ良く感じられるかが勝負だと思っているんです。スマホのスピーカーで「これ良いんだよ!」って聴いている人がいっぱいいると思うし、そこに標準を合わせているのはあります。
確かに標準的な意味では44.1kHz/16bitでよくて、しかも44.1kHz/16bitの方がガッツのある音なんですよね。ハイレゾにして音に隙間が出来ちゃうことを良しとするか、ということもあるんです。私はクラシック育ちだからというのもあると思うんですが、べったり張り付いているような波形よりも、余力のある、ダイナミクスが広いものの方が好みなので、それを追求していった結果、自分はハイレゾの方が好みなんだな、と。
−−音は好みであったり、聴く環境もあったりと色々と難しいですが、だからこそ作品による違いが出るのも面白いですね。
あと、最近特に目指しているものがあるんですけど、70年代のアナログ録音の良さっていうのを出していければな、と思っているところがあって。あの時代って、やたら音が良いんですよね。フォーマット化されていないというか、1個1個苦労して録っているのが分かるんです。個性というものがレコードそれぞれにあって、それがまた堪らなく良かったりするんですよね。これは完全に趣味なんですが(笑)