古代祐三×ストレイテナー×日向悠二 インタビュー
『世界樹の迷宮』の音楽について作曲家と大ファンとイラストレーターに聞いてみたらめちゃくちゃ濃かった
メンバーが感じた『世界樹の迷宮』の音楽の凄さ |
−−大山さんはアーティスト的な目線として、『世界樹の迷宮』の音楽の凄さはどんなところにあると思いますか?
バリーエーションの豊富さがハンパない、というところですよね。イラストからもインスピレーションを得るというお話を聞いて、なんとなく合点がいったんですけど、1つの作品について、ダンジョンだけで6曲作るわけじゃないですか。それって凄いことだと思うんですよ。ダンジョン、6曲。「全部ダンジョンじゃねーか!」って(笑)
(笑)
これがもし、自分に仕事としてきたら、パニック。それを5作品プラスα作られたわけです。『世界樹の迷宮』シリーズだけで、ダンジョンを何十曲と書かれている。そのアイデアの豊富さにビックリします。
−−確かに、ゲーム音楽の作曲ならではかもしれません。では1人のファンとしてはいかがでしょう?
1曲1曲の尺が、結構長いんですよね。でも、戦闘で1曲聴き切るまで戦ってたら、それはもう危険なんですよ(笑)。だから、「あまり通して聴いたことないぞ」、っていう人は多いと思うんですけど、ちょっとプレイを止めて聴いてみたら、後半の展開が凝っていて面白い曲がいっぱいあるんですよね。
特に最近のゲーム音楽って、映像が綺麗で、映画にかなり近くなっていますよね。それなので、あんまり音楽を前面に押し出すと良くない、という部分があります。ただ自分の場合は、ゲームの邪魔にならないよりかは邪魔になるくらいのものを要求されることが多いんですね。ですので、起承転結がハッキリしている曲を常に心がけるようにしています。
−−勝手なイメージですが、ゲーム中の音楽って背景に溶け込ませるようなものかと思っていました。
例えば、『世界樹の迷宮』で地図を書いている時にはハッキリとした音を使わない、というようにもします。そうすることでゲームとしては集中出来るんですが、一方で「いまいちノレないぞ」、っていう反応になってしまうんです。そこのバランスを取って、ノレるように考えながら作っています。『世界樹の迷宮』では戦闘曲はロックと決まっていますし、ギター・ベース・ドラムの3点セットにはこだわっていますね。加えて、そこから少しオケ寄りにするのが私の趣味です。ビッグバンド編成+ストリングスくらいのイメージですね。
−−大山さんの中で、『世界樹の迷宮』シリーズで特に印象に残っている曲はどれでしょうか?
フィールドで「やられた!」、って思ったのが、『世界樹の迷宮V』のダンジョン第三階層の曲(迷宮V 光輝ノ石窟)ですね。後半でパーカッシブな感じをメインに据えて展開するじゃないですか。ゲームのフィールドの音楽で、パーカッションでゴリ押していくというところに、「なんだ、そのアイデアは!」、ってビックリしたんですよ。
これはオールドゲームファンにしか分からないんですけど、『世界樹の迷宮』の音楽には、隠れたコンセプトがあるんですよ。昔のゲーム音楽をオマージュしているんです。例えば80年代って、アーケードゲームの全盛期で、そこで生まれた名曲がいっぱいあるんですよ。その頃とまったく同じ音色を使って作り変えたりしているので、ゲーム音楽に詳しくない方には分からないんですけど、昔から好きな方には「あっ、この音色だ」、って分かるようになっているんです。それがまた、アイデアの取っ掛かりになっているんです。
ということは、この曲にも?
はい。この三層って、自分の中では『グラディスU』あたりがイメージの1つになっているんです。だから、ちょっとプログレ調というか、変拍子チックになっているんです。ダンジョンの曲を作ろうというアイデアではなく、シューティングの曲を作ろうという考えがベースにあったんですね。
−−シューティングゲームの緊張感が、RPGのダンジョンにもマッチするというのは、言われてみれば納得ですね。ちなみに、他にはどのようなものが隠れているんですか?
Tは『イース』や『ソーサリアン』の時代の音色で固められているんです。U、Vは私の好きだったアーケードゲームの音をいっぱい入れています。
−−日向さんも、先程の大山さんの挙げられた曲に頷いていましたね。
僕もVの三層の曲は、「凄いの来たな!」、って思っていたんですよ。Vって話の分岐もあったりして、三層は大事なターニングポイントの階層なんですよね。それは知っていたんですが、この曲をいただいた段階で、「これは凄い階層になるぞ!」って。早く皆に遊んで欲しい、という期待感やワクワクがありました。
−−完全に皆が納得のお薦め曲ですね。
実際にプレイしてみても、今までのダンジョン曲と違う焦燥感とかもあって、前に前に、という進み方が楽しかったです。ユーザーの入り込み方も、曲が上手くテンションを変えてくれるのに衝撃を受けましたね。
−−ゲーム音楽を作業用BGMとして楽しまれている方は多いようなのですが、『世界樹の迷宮』の音楽はそれに向いているでしょうか?
そうですね、実際に『世界樹の迷宮』のイラストを描く時に聴いていますけど、黙々と手を動かす作業時にはバトル曲で縦ノリしながら、世界観に浸ってパーツなんかのアイデア出しをする時にはフィールド曲とか。あと、Wはちょっと特殊で、メインダンジョンとサブダンジョンがあって、サブダンジョンの曲はメインダンジョンの曲からメロディを抜いた構成になっているんですよ。それが凄く斬新で、またいつかやって欲しいです(笑) あれがまた作業の刺激になったりするんです。
−−古代さんは『世界樹の迷宮』シリーズの中で、印象に残っていたり、これには苦労させられた、という曲はありますか?
苦労はいつもしています(笑)。でも特に、『世界樹の迷宮』というゲームの性質上、ダンジョン曲と戦闘曲はクオリティを落としてはならないので、思い入れがありますね。製作時間の半分以上は、ダンジョン曲と戦闘曲だけに取られるくらい力を入れています。
−−では、『世界樹の迷宮V』に限定して、音楽製作時の面白エピソードはありますか?
ちょっと別のお仕事と同時作業だったので、進行がキツくて。でも、日向さんが新曲を聴かないとテンションが上がらないと、ディレクターの方にポロっと言われたことがあって(笑)。早く届けたいと思ってはいたんですけど、私は1つの作業が終わらないと次に取り掛かれないタイプなので、「絶対に良い物にするから、すいません、待っていてください」って(笑)。結局お待たせしてしまって、かなり最後の方になりましたよね?
そうですね、かなり・・・(笑)。でも、実は僕も、いまだかつてないレベルで押していたんです。だから最後のスパートの時に、古代さんの熱のこもった楽曲でブースト出来て、上手くハマりました(笑)
結果オーライですかね(笑)
全然連絡は取ってないんですけど、繋がっているというか、一緒の所で仕事しているような気持ちになれました(笑)
そういった意味では、長年一緒にやらせていただいているので、バンド的なチームという感じはありますよね!
−−それでは、そろそろ締めに入らせていただきます。古代さんは、今のゲーム音楽についてはどうお考えでしょう?
時代が変わって、最近はゲーム機というよりもスマートフォンが中心になってきているじゃないですか。それでユーザー数も凄く多くなって、1000万ダウンロードとかされていますけど、そのうち曲をちゃんと聴いている人は1万人もいないと思うんですよ。ほとんどが通勤時とかちょっと暇のある時にプレイされていて、せいぜい効果音くらいしか聴こえないような環境だと思うんです。
−−確かに、僕も移動時なんかは、周りを気にして小音量でプレイしています。
ただ、ユーザー数も増えてきている中で、ここ数年でそういったゲームの音の良さが凄く上がってきているんですよ。だから家にいる間はスピーカーから音を出すとかして、ちゃんと聴いていただくことによって、ゲーム音楽の魅力に改めて気付いてもらえるんじゃないかな、と思います。
−−大山さんからも、ゲーム音楽についてのお考えをお願いします。
例えば僕が「この曲好きなんですよ」、なんてつぶやいたとするじゃないですか。それキッカケで、ゲームをプレイしてくれても良いとは思うんです。こういう素敵な曲があるんだ、こういうゲームの曲なんだ、じゃあやってみようって。でも、ゲーム音楽って、それもゲームの一部なんですよ。音楽があって、完成するパッケージなんです。ゲームファンとしては、やっぱりゲームを含めて楽しんで欲しいと思いますね。
−−日向さんはいかがでしょう?
大山さんの言うとおり、ゲーム音楽は、ゲームの体験と紐付いたものなので、プレイすることで音楽の楽しさが倍増すると思います。でも、思い出したんですけど、小さいころはお金がなくて、サントラを買って、攻略本を読んで、「こういう冒険が待ってるんだ」、と空想して漫画を描いたりしていました。それって凄く楽しかったんですよ。だから、人それぞれの楽しみ方をしていただけたら(笑)
そういえば、僕もひたすらマリオの絵を描いてましたよ。買ってもらえなくて(笑)
−−このままでは話が広がりそうなので、古代さん、最後に『世界樹の迷宮V』のサントラについて、ひと言お願いします。
『世界樹の迷宮』のサントラは、基本的にはゲームのファンが楽しまれるものだと思います。けど、FM音源は過去の思い出を楽しむ音源だと思うんですが、Wからのレコーディング音源はまったくそうではないじゃないですか。そういうのを知らない人でも、普通にリスニングCDとして楽しめるものを作りたいと意識しています。特にVは音の良さにもこだわっていますので、CDで聴いていただくことで、ゲーム機の時よりも音の隅々まで聴き取っていただけると思います。
−−ありがとうございます!
ということで、想像以上に濃い話を聞くことができました。その内容の充実っぷりに、アトラスの方にイチャモンをつけるのを忘れたわけですが、それ以上にゲームを楽しむための有力な情報が得られたので良しとします。
『世界樹の迷宮V 長き神話の果て』は8月4日発売。先着購入特典として、オリジナルブックレット付き『世界樹の迷宮V サウンドトラック ラフスケッチVer.』が用意されています。サントラも、お馴染みのオリジナル・バージョンとFM音源バージョンの2種類を収録した3枚組にて、9月28日に発売されます。
僕もゲームを購入して、気持ち良くやられようと思います。
なお、古代さん、大山さん2人の生声はWEBラジオで聞くことができますので、ぜひそちらもチェックしてみてください。
『世界樹の迷宮V 長き神話の果て』
ジャンル:3DダンジョンRPG
ハード:ニンテンドー3DS
発売日:2016年8月4日
プレイ人数:1人
価格:通常版/6,480円(税別)(パッケージ版/ダウンロード版)、限定版/9,980円
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