各タイトルの音質もレビュー
時代を作った「和フュージョン」の名盤群が新リマスターで蘇る! 録音現場の音を再現した立役者とは?
山岸潤史 「オール・ザ・セイム」VICJ-77010
1980年ビクタースタジオで24CHアナログ録音、ミキシングは1/4インチテープ、15ips。ドルビー使用。
関西出身のブルース畑出身ギタリストのリーダー作。レゲエビートのTR02、ボブ・ジェームス風TR03、STUFF調のファンキーなTR06と多彩な音楽性と表現の幅を見せつけるフュージョンアルバムだが、山岸が体の中に持っているのはブルースのフレーズなので、ボーカルも担当するTR04 のようなブルージーな曲調で真価を発揮。現在はニューオリンズ在住だそうだ。TR01のパーカッションの音の鮮度とキレ味に驚愕。TR05のギターの熱いエネルギー感とディストーションの奥の音の芯をキャッチする解像感も舌を巻く。本当にこれが1980年のアナログ録音か!? KORGの新世代シンセから(ホーン)スペクトラムの金管まで使用楽器が幅広くアナログ多重で音が厚いが、デジタルリマスタの威力で混濁感や鈍りがないクリアで奥行き深い音空間に生まれ変わった。
阿川泰子 「スウィートメニュー」VICJ-77011
1979年ビクタースタジオ、サウンドシティ、サウンドインスタジオ他で録音。24CHアナログ。ミキシング1/4インチテープ、15ips。
「ネクタイ族のアイドル」として人気沸騰真っ最中のリリースだけに、阿川の声の甘美な質感の魅力をいかに伝えるか、ビクタースタジオのエンジニアが気を使って録音したことがリマスタから伝わる。ブルーアイドソウルTR05は原曲が男の色気と惑いを滲ませるのに対し、揺れる女心を表現し秀逸な出来。TR06の語りかけるような歌い口も素晴らしい。
TR07はミキシングバランスが秀逸でボーカル定位とバックとの遠近感に優れ適度なリバーブを纏って、スレンダーな阿川が目の前にすっくと立って歌っている。TR08は低音楽器の量感からリマスタによる帯域の拡張が伺える。全編の掉尾を飾るTR10はペギー・リーのオリジナルよりいい出来。作曲者ポール・マッカートニーには申し訳ないのだが、ペギー・リーの仄暗い声で歌うとこの曲はメランコリックに過ぎる。ポールのギブアウェイソングの中で比較的地味な曲だが、阿川のシュガーボイスがメランコリーを美しいファンタジーに変え曲の真価を教えてくれる。
秋本奈緒美 「Rolling 80’s」VICJ-77012
1981年、ビクタースタジオ、スタジオバードマンで録音。アナログ24CH録音、ミキシングは1/4インチテープ、15ips。
長野県生まれのスポーツ少女を「時空を超越した架空のジャズの歌姫」に変身させたら、というアイデアから生まれたコンセプトアルバム。「サージェント・ペパーズ」を源点とするメタミュージック音楽劇。発売当時「偶然ラジオで聞いたサラ・ヴォーンの『ミスティ』のとりこになった」という秋本のエピソードが紹介されたが、それも宣伝用の話でアルバムコンセプトの一部。全曲ジャズスタンダードで亜蘭知子の日本語詞で歌う。(清水靖晃が編曲担当)ショー仕立てメドレー形式で切れ目なく進行。そのため収録時間33分41秒と短い。こりに凝った構成とコストを掛けた制作はさすが金が唸っていた’80年代日本。アナログ多重録音でここまでやったのは驚異的。
構成上無音部分が多いがリミックスでS/Nが向上、虚構のステージのリアリティを生む「静寂」が表現出来たのは大きい。アナログ多重の音のもやつきが消えクリーンな音場が生まれ、一夜の宴というアルバムコンセプトが鮮明に。TR04の「サージェント…」の「グッドモーニング、グッドモーニング」を模したSEも音のキレが出て効果を上げ、「アビー・ロード」の「サンキング」のイントロに似たSEも広がり感。楽器群はアコースティックが多くジャズステージらしい帯域と量感の向上も目覚ましい。日本のメタミュージックアルバム先駆作の一つとして再評価のきっかけになるリマスタ。
仲村裕美 「グルーブ」VICJ-77013
1982年ビクタースタジオ、サウンドインスタジオ、一口坂スタジオ、フリーダムスタジオで録音。24CHアナログ録音、ミキシング1/4アナログテープ、15ips、ドルビー使用。
仲村裕美の残した3枚のアルバムの最初のもの。テレビ番組「ナイトスクエア」のレギュラーを務めた仲村の立ち位置はジャズというよりポップス歌手。収録曲は欧米新旧ポップスのカバーでジャズスタンダードこそ一曲もないが、バック演奏はフルアコースティックのピアノトリオとホーンセクションで終曲のみセミアコのギターを使用。仲村のボーカルを引き立たせるアレンジのオーソドックスな女声ボーカルアルバムでフュージョンではない。「和フュージョン」中、異色の1枚。
録音は演出を避けリバーブも最小限に止め、仲村の明るく伸びやかで素直なクリアボイスと英語のディクションの美しさにフォーカスした印象。フランクに話しかけるような歌い口を活かした一人二重唱が面白い効果。TR03や05のウッドベースの量感と音の芯、指使いの輪郭描写、TR08のピアノのアタックの鮮鋭感と倍音の伸び、TR09のクラリネットのからりとした質感描写にリマスタの効果が現れている。
<自宅試聴時の使用装置>
CDプレーヤー:ヤマハ「CD-S3000」
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802Diamond」
スピーカーケーブル:スープラ「スオード」
1980年ビクタースタジオで24CHアナログ録音、ミキシングは1/4インチテープ、15ips。ドルビー使用。
関西出身のブルース畑出身ギタリストのリーダー作。レゲエビートのTR02、ボブ・ジェームス風TR03、STUFF調のファンキーなTR06と多彩な音楽性と表現の幅を見せつけるフュージョンアルバムだが、山岸が体の中に持っているのはブルースのフレーズなので、ボーカルも担当するTR04 のようなブルージーな曲調で真価を発揮。現在はニューオリンズ在住だそうだ。TR01のパーカッションの音の鮮度とキレ味に驚愕。TR05のギターの熱いエネルギー感とディストーションの奥の音の芯をキャッチする解像感も舌を巻く。本当にこれが1980年のアナログ録音か!? KORGの新世代シンセから(ホーン)スペクトラムの金管まで使用楽器が幅広くアナログ多重で音が厚いが、デジタルリマスタの威力で混濁感や鈍りがないクリアで奥行き深い音空間に生まれ変わった。
阿川泰子 「スウィートメニュー」VICJ-77011
1979年ビクタースタジオ、サウンドシティ、サウンドインスタジオ他で録音。24CHアナログ。ミキシング1/4インチテープ、15ips。
「ネクタイ族のアイドル」として人気沸騰真っ最中のリリースだけに、阿川の声の甘美な質感の魅力をいかに伝えるか、ビクタースタジオのエンジニアが気を使って録音したことがリマスタから伝わる。ブルーアイドソウルTR05は原曲が男の色気と惑いを滲ませるのに対し、揺れる女心を表現し秀逸な出来。TR06の語りかけるような歌い口も素晴らしい。
TR07はミキシングバランスが秀逸でボーカル定位とバックとの遠近感に優れ適度なリバーブを纏って、スレンダーな阿川が目の前にすっくと立って歌っている。TR08は低音楽器の量感からリマスタによる帯域の拡張が伺える。全編の掉尾を飾るTR10はペギー・リーのオリジナルよりいい出来。作曲者ポール・マッカートニーには申し訳ないのだが、ペギー・リーの仄暗い声で歌うとこの曲はメランコリックに過ぎる。ポールのギブアウェイソングの中で比較的地味な曲だが、阿川のシュガーボイスがメランコリーを美しいファンタジーに変え曲の真価を教えてくれる。
秋本奈緒美 「Rolling 80’s」VICJ-77012
1981年、ビクタースタジオ、スタジオバードマンで録音。アナログ24CH録音、ミキシングは1/4インチテープ、15ips。
長野県生まれのスポーツ少女を「時空を超越した架空のジャズの歌姫」に変身させたら、というアイデアから生まれたコンセプトアルバム。「サージェント・ペパーズ」を源点とするメタミュージック音楽劇。発売当時「偶然ラジオで聞いたサラ・ヴォーンの『ミスティ』のとりこになった」という秋本のエピソードが紹介されたが、それも宣伝用の話でアルバムコンセプトの一部。全曲ジャズスタンダードで亜蘭知子の日本語詞で歌う。(清水靖晃が編曲担当)ショー仕立てメドレー形式で切れ目なく進行。そのため収録時間33分41秒と短い。こりに凝った構成とコストを掛けた制作はさすが金が唸っていた’80年代日本。アナログ多重録音でここまでやったのは驚異的。
構成上無音部分が多いがリミックスでS/Nが向上、虚構のステージのリアリティを生む「静寂」が表現出来たのは大きい。アナログ多重の音のもやつきが消えクリーンな音場が生まれ、一夜の宴というアルバムコンセプトが鮮明に。TR04の「サージェント…」の「グッドモーニング、グッドモーニング」を模したSEも音のキレが出て効果を上げ、「アビー・ロード」の「サンキング」のイントロに似たSEも広がり感。楽器群はアコースティックが多くジャズステージらしい帯域と量感の向上も目覚ましい。日本のメタミュージックアルバム先駆作の一つとして再評価のきっかけになるリマスタ。
仲村裕美 「グルーブ」VICJ-77013
1982年ビクタースタジオ、サウンドインスタジオ、一口坂スタジオ、フリーダムスタジオで録音。24CHアナログ録音、ミキシング1/4アナログテープ、15ips、ドルビー使用。
仲村裕美の残した3枚のアルバムの最初のもの。テレビ番組「ナイトスクエア」のレギュラーを務めた仲村の立ち位置はジャズというよりポップス歌手。収録曲は欧米新旧ポップスのカバーでジャズスタンダードこそ一曲もないが、バック演奏はフルアコースティックのピアノトリオとホーンセクションで終曲のみセミアコのギターを使用。仲村のボーカルを引き立たせるアレンジのオーソドックスな女声ボーカルアルバムでフュージョンではない。「和フュージョン」中、異色の1枚。
録音は演出を避けリバーブも最小限に止め、仲村の明るく伸びやかで素直なクリアボイスと英語のディクションの美しさにフォーカスした印象。フランクに話しかけるような歌い口を活かした一人二重唱が面白い効果。TR03や05のウッドベースの量感と音の芯、指使いの輪郭描写、TR08のピアノのアタックの鮮鋭感と倍音の伸び、TR09のクラリネットのからりとした質感描写にリマスタの効果が現れている。
<自宅試聴時の使用装置>
CDプレーヤー:ヤマハ「CD-S3000」
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802Diamond」
スピーカーケーブル:スープラ「スオード」