性能・機能が大幅に進化した一体型プリメイン
エソテリック「F-03A/F-05」開発者に聞く ー セパレート機の思想を注入した“妥協なき”プリメイン
エソテリックの新プリメインアンプ「F-03A/F-05」が、従来の“Iシリーズ”から性能や機能を大幅に進化させ、そしてドラスティックな変化を遂げて登場した。本記事では鈴木裕氏が“Fシリーズ”で目指した方向性や開発で注力した点などを、開発を担当した加藤徹也氏と、企画を担当した町田裕之氏に話を伺った。
■適正なサイズ感と内部構成の配置がFシリーズ開発のポイント
ーー 開発はいつ頃からはじめましたか。
町田裕之氏(以下、町田氏):およそ1年前です。A級とAB級というラインアップ、どちらもフルバランス回路というのは早い段階の決定でしたが、価格帯としてはもっと下のものを想定していました。
ーー 内部はぎっしりと詰まっている印象ですね。
加藤徹也氏(以下、加藤氏):入力切り替えの回路、プリアンプの回路をいかにきちんとしたもので、サイズ感を適正なものに作り、なおかつどこに配置するかが設計の中では実はハイライトでした。パワーアンプというのはSシリーズからの流れを踏襲できるので、そのあたりの構成の中で、電源トランスの隣にはパワー段というのは必然的に決まってきました。そういったところでの内部レイアウトはすんなりと決まりましたね。
ーー 3つの帯域を調節できるトーンコントロールも印象的ですね。
加藤氏:デュアルモノで、しかもフルバランスで作らなければいけませんでしたからね。やりだしてみたら大変でした。
町田氏:プリ部の充実度はすごいものがあります。プリアウトはもちろん、各セクションの間にもバッファーを入れていて、Cシリーズのプリアンプの設計思想をそのまま持ち込んでいます。あとはアクセサリー機能についても、一切妥協なくやっています。
■エネルギーを逃がさないで伝えるのが、アンプの一番の基本
ーー ノイズ対策については苦労しましたか?
加藤氏:凝縮していくと、物理的にも近づくし、電気的にも近づいて音が混ざっていく要因になります。それに対しては4層基盤を使い電源グランドを強化したプリアンプ回路部や、電源、グランドのパターンの太さ、L、Rチャンネル間の回路間の距離、信号線の間隔などといった基板作成上のルールを、空間的には厳しかったですが、徹底したことにより、ノイズについては大きな苦労とはなりませんでした。
町田氏:また、コントロール系がフロントパネルの内側にありまして、プリアンプの本体自体はバックパネルの近くにありますが、すべてアイソレーターというものを介して接続していますので、マイコンのノイズなども一切伝搬させないような構成です。
加藤氏:オーディオ信号を最短でつなぐと音質的に良いというのは、理解していただきやすいのですが、アンプの場合にはさらに、アンプ回路を駆動する電源の供給でいかにロスらないかが重要なファクターと考えています。
町田氏:無骨な造りなんです(笑)
加藤氏:回路図にすると変わらないんですよ。通常のコネクター接続でもネジ留めでも一緒なんです。でも、実際に音楽を聴いていただくと、その違いがすぐに分かってしまうんです。手を抜くと絶対に分かってしまう。エネルギーを表現する、スピーカーから電気信号を音のエネルギーに変えるところまでのどこかで、どれだけエネルギーを漏らさないこと、逃がさないで伝えてあげるかというのがアンプの一番の基本になるところです。
■オプションのDACボードも開発。これもデュアルモノ構成になっている
ーー 今回、DACボードの「OP-DAC1」をオプションで、ユーザーが自分で抜き差しするタイプに設計しましたね。
町田氏:エソテリックのデジタルプレーヤーにはUSB入力があり、DAC機能を使えるわけですが、プリメインアンプとPCだけで使用する方のことを考えてDACボードを開発しました。
加藤氏:オーディオ用NASからUSB DACに直接USB接続して音楽が聴けるという時代になってきましたので、PCだけでなく、そういうものにも対応しようということです。使用しているDACデバイスはAKMの「AK4490」でデュアルモノ、つまり各チャンネル1個ずつ使っています。もちろんここもフルバランス回路で、バランス出力でアンプ本体にオーディオ信号を渡します。
ーー 徹底していますね。
加藤氏:大変なことをやりだしてしまったと思いました(笑)
ーー 最後に読者の方にメッセージをお願いします。
町田氏:一体型のプリメインアンプで最高のものができたと思います。エソテリックのSACD/CDプレーヤーをお使いのお客様は、同じ設計陣がやっていて音の傾向も揃っていますので、ぜひ体験してみてください。
加藤氏:スピーカーからステレオ再生することの豊かさというか、肌で、お腹で、色んなところで感じる音というのをぜひ、楽しんでください。その中でエソテリックのアンプはステレオフォニックの良さをどれだけ出せるかというのを重要に考えていますので、その点を味わっていただけたらと思います。
(構成:オーディオアクセサリー編集部)
■試聴とインタビューで分かった「F-03A/F-05」の真の魅力
新しい流れをダイレクトに持ち込み徹底した設計。ダイナミックなF-05、よりハイファイで深いF-03A
開発時の話を聞き実際に試聴してみると、本FシリーズはIシリーズの後継機種ではなく、まさしくGrandiosoのセパレートアンプから始まったエソテリックの新しいアンプの流れをダイレクトに持ち込んだプリメインアンプだと感じた。パワーアンプ「S-03」にプリ機能を付けたようなイメージのデザインだが、実際に電源部のEIトランスが同じ容量であるとか、使っているトランジスタが同じ仕様といったこと、あるいはフルバランス回路で、なおかつデュアルモノ構成を徹底している点など、町田氏の言うように「愚直」で、徹底した設計以外の何物でもない。
興味を持った方はぜひともショップやイベント等で聴いていただきたいのだが、大変なプリメインアンプが登場したな、という印象を受けるだろう。ダイナミックなF-05と、よりハイファイで深いF-03Aという方向性だが、AB級とA級動作というよりも、グレードの違いと捉えた方がいいかもしれない。
(鈴木 裕)
本記事はオーディオアクセサリー161号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。
■適正なサイズ感と内部構成の配置がFシリーズ開発のポイント
ーー 開発はいつ頃からはじめましたか。
町田裕之氏(以下、町田氏):およそ1年前です。A級とAB級というラインアップ、どちらもフルバランス回路というのは早い段階の決定でしたが、価格帯としてはもっと下のものを想定していました。
ーー 内部はぎっしりと詰まっている印象ですね。
加藤徹也氏(以下、加藤氏):入力切り替えの回路、プリアンプの回路をいかにきちんとしたもので、サイズ感を適正なものに作り、なおかつどこに配置するかが設計の中では実はハイライトでした。パワーアンプというのはSシリーズからの流れを踏襲できるので、そのあたりの構成の中で、電源トランスの隣にはパワー段というのは必然的に決まってきました。そういったところでの内部レイアウトはすんなりと決まりましたね。
ーー 3つの帯域を調節できるトーンコントロールも印象的ですね。
加藤氏:デュアルモノで、しかもフルバランスで作らなければいけませんでしたからね。やりだしてみたら大変でした。
町田氏:プリ部の充実度はすごいものがあります。プリアウトはもちろん、各セクションの間にもバッファーを入れていて、Cシリーズのプリアンプの設計思想をそのまま持ち込んでいます。あとはアクセサリー機能についても、一切妥協なくやっています。
■エネルギーを逃がさないで伝えるのが、アンプの一番の基本
ーー ノイズ対策については苦労しましたか?
加藤氏:凝縮していくと、物理的にも近づくし、電気的にも近づいて音が混ざっていく要因になります。それに対しては4層基盤を使い電源グランドを強化したプリアンプ回路部や、電源、グランドのパターンの太さ、L、Rチャンネル間の回路間の距離、信号線の間隔などといった基板作成上のルールを、空間的には厳しかったですが、徹底したことにより、ノイズについては大きな苦労とはなりませんでした。
町田氏:また、コントロール系がフロントパネルの内側にありまして、プリアンプの本体自体はバックパネルの近くにありますが、すべてアイソレーターというものを介して接続していますので、マイコンのノイズなども一切伝搬させないような構成です。
加藤氏:オーディオ信号を最短でつなぐと音質的に良いというのは、理解していただきやすいのですが、アンプの場合にはさらに、アンプ回路を駆動する電源の供給でいかにロスらないかが重要なファクターと考えています。
町田氏:無骨な造りなんです(笑)
加藤氏:回路図にすると変わらないんですよ。通常のコネクター接続でもネジ留めでも一緒なんです。でも、実際に音楽を聴いていただくと、その違いがすぐに分かってしまうんです。手を抜くと絶対に分かってしまう。エネルギーを表現する、スピーカーから電気信号を音のエネルギーに変えるところまでのどこかで、どれだけエネルギーを漏らさないこと、逃がさないで伝えてあげるかというのがアンプの一番の基本になるところです。
■オプションのDACボードも開発。これもデュアルモノ構成になっている
ーー 今回、DACボードの「OP-DAC1」をオプションで、ユーザーが自分で抜き差しするタイプに設計しましたね。
町田氏:エソテリックのデジタルプレーヤーにはUSB入力があり、DAC機能を使えるわけですが、プリメインアンプとPCだけで使用する方のことを考えてDACボードを開発しました。
加藤氏:オーディオ用NASからUSB DACに直接USB接続して音楽が聴けるという時代になってきましたので、PCだけでなく、そういうものにも対応しようということです。使用しているDACデバイスはAKMの「AK4490」でデュアルモノ、つまり各チャンネル1個ずつ使っています。もちろんここもフルバランス回路で、バランス出力でアンプ本体にオーディオ信号を渡します。
ーー 徹底していますね。
加藤氏:大変なことをやりだしてしまったと思いました(笑)
ーー 最後に読者の方にメッセージをお願いします。
町田氏:一体型のプリメインアンプで最高のものができたと思います。エソテリックのSACD/CDプレーヤーをお使いのお客様は、同じ設計陣がやっていて音の傾向も揃っていますので、ぜひ体験してみてください。
加藤氏:スピーカーからステレオ再生することの豊かさというか、肌で、お腹で、色んなところで感じる音というのをぜひ、楽しんでください。その中でエソテリックのアンプはステレオフォニックの良さをどれだけ出せるかというのを重要に考えていますので、その点を味わっていただけたらと思います。
(構成:オーディオアクセサリー編集部)
■試聴とインタビューで分かった「F-03A/F-05」の真の魅力
新しい流れをダイレクトに持ち込み徹底した設計。ダイナミックなF-05、よりハイファイで深いF-03A
開発時の話を聞き実際に試聴してみると、本FシリーズはIシリーズの後継機種ではなく、まさしくGrandiosoのセパレートアンプから始まったエソテリックの新しいアンプの流れをダイレクトに持ち込んだプリメインアンプだと感じた。パワーアンプ「S-03」にプリ機能を付けたようなイメージのデザインだが、実際に電源部のEIトランスが同じ容量であるとか、使っているトランジスタが同じ仕様といったこと、あるいはフルバランス回路で、なおかつデュアルモノ構成を徹底している点など、町田氏の言うように「愚直」で、徹底した設計以外の何物でもない。
興味を持った方はぜひともショップやイベント等で聴いていただきたいのだが、大変なプリメインアンプが登場したな、という印象を受けるだろう。ダイナミックなF-05と、よりハイファイで深いF-03Aという方向性だが、AB級とA級動作というよりも、グレードの違いと捉えた方がいいかもしれない。
(鈴木 裕)
本記事はオーディオアクセサリー161号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。